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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第16話 ~ 交際を求めていると ~

新作大変だけど、こっちの更新も忘れない。

でも、字数少ないのは許してm(_ _)m


終章第16話です。

「ジーバルド様」


 背後から声を聞こえてきて、ジーバルドは足を止めた。

 誰かはすぐにわかった。

 変声期をまだ迎えていない、かわいらしい少女のものだったからだ。


 ごとり、執務室の扉が閉まる。

 その前に立っていたのは、やはりクリネだった。


 胸に手を置き、不安そうにジーバルドを見つめている。


「どうしました、クリネ陛下?」

「え?」


 ジーバルドに指摘され、クリネは声を詰まらせた。

 何を言うのか決めていなかったらしい。


 それが一層、彼女を愛らしく見せていた。


 やがてクリネは口を開く。


「ど、どうしてですか?」

「はい?」

「どうして、こんな危険な任務を……。姉を助けてくれるのですか?」

「ライカ陛下はマキシアの女帝。一臣下としてお助けするのは当然のことです。むしろ、誉れでしょう」

「でも、私たちはあなたにひどいことを……」

「ひどい? ああ、温泉の時のお話ですか?」


 ジーバルドは微笑む。


「全く恨んでいないというわけではありません。でも、まあ……楽しくやっています。結果的には、ブラーデル閣下の下で働いているような状態ですしね」

「それでも命を伴うかもしれないんですよ」


 宣戦布告した国にいって、その元首と出会う。

 危険であることは明白だった。子供クリネでもわかることだ。


 ジーバルドは少し考えた後。


「帝国のために命をはれるならというなら本望――」

「国のために死ぬなんてあなたらしくありません!!」


 クリネは一喝する。

 初めは驚いていた青年貴族は、やがて道化のように肩を竦めた。


「はは! そんなに怒らないでください。冗談ですよ」

「冗談でも……」

「建前上、そう言っておかないとね。そうですね。まあ、あなたの前だ。本心で話しましょう」


 咳を払い、改まった。

 その一言目は意外な文言からはじまった。


「舞台に立ってみたかったですよ」

「舞台?」


 ジーバルドは側にあった窓の外を見る。

 城の中は重苦しいのに、外は快晴だった。

 太陽(バリアン)の輝きは強く、躍起になって雲を吹き飛ばそうとしているかのようだった。


「これからきっと様々なことが起こるでしょう。いわゆる歴史の転換点。60年以前のオーバリアントが戻ってくる。帝国国民だけではない。世界が、後戻りするか進むかの選択を迫られることになるでしょう」

「はい。私もそう思います」

「その中で英雄と呼ばれるものが現れる。つまり、歴史上の人物というヤツです。後世の歴史書には、きっとあなたのお姉様の名前や勇者の名前が刻まれる。そう。クリネ殿下。あなたの名前も……」

「そんなことは――」

「私は多分……。それと同じ舞台に立ってみたいのですよ。ただ資源開発室の中で執務に精を出すでは満足出来なかったのです」

「たとえ、歴史が覚えていなくても……。私はあなたを覚えています」


 ジーバルドはハッとなった。

 そして、クリネもまた自分の口から出た言葉に気付く。


 それはまるで告白のようであったと……。


 やがてジーバルドは笑った。

 お腹を抱え、くの字になって大笑いした。


 クリネは訳が分からず、頬を膨らませる。

 顔は朱に染まっていた。


「な、なんで笑うのですか? 私は真剣に――」

「交際を求めていると」

「――! 違います! そんな破廉恥な!」


 ジーバルドはまたしても肩をすくめた。


 ――そういううちは、君はまだ可愛い子供なんだよ。


 1度、目をもむ。

 だらしなく緩みきった己の表情を今一度整えた。


「そもそもクリネ殿下が悪いのですよ」

「何を――。私も何もしていません」

「あなただけじゃない。お姉様も、あの勇者も。あなた達は見せてくれた。強い意志を、意識を……」

「ジーバルド様。あなた――」

「意識が高い……。正直、言葉尻には吐き気がします。私はどちらかといえば、のらりくらりしながら、やる方が性に合っている。……でも今回ばかりは、あなたたちの土俵に立とう。そう考え、代理人の件を受けたのですよ」


 クリネは何も言わなかった。

 力の入った小さな肩を下ろす。

 ようやく、殿下は諦めたのだ。


 ジーバルドの意志の硬さ。

 そして意識の高さを……。


「私はまだまだ子供ですね」

「そうでもありませんよ」

「え?」


 ジーバルドはそれ以上何も言わなかった。

 そっとクリネに背を向ける。

 胸に手を置いた。


 拍動が早い。


 そう。

 子供なんて飛んでもない。

 少女はもう十分すぎるほどの魅力を秘めていた。

 大人の男をここまで動揺させているのだから。


 ――まったく……。先が思いやられるね。今のお姉さんぐらいになったら、どれだけ魔性の女になるやら。


 見たい気もするが、正直会いたくない。

 きっと、そんな彼女を見れば、平静でいられる自信がなかったからだ。


「ジーバルド様」

「大丈夫。私は戻ってくるよ」

「はい。それは存じております」

「うん?」


 首だけを後ろに向けた。

 クリネは笑う。

 満面の笑みで。


「帰ったら、またデートをしてくださいませ」

「……お断りする」

「え? な、なな何故ですか?」

「ジンクスだよ。そういう人間は帰ってこないんだ」

「そんな! すいません。私ったら、つい差し出がましいことを」

「何でだと思う?」


 クリネはふるふると首を振った。


「簡単さ。恋人が恋しくなって、現地で恋人を作ってしまうからさ」


 にや、と嫌らしい笑みを浮かべる。

 クリネはまた頬を膨らませ。


「ジーバルド様の、馬鹿!!」


 城中に響く大きな声で叫んだ。




 5日後、ジーバルドは海洋国家アーラジャに到着。

 元首ドクトルと席巻する。


 しかし、彼は帰ってこなかった。


 己の言葉の潔白を示すため、自害したか。

 それとも人質になったのか。


 その理由について、後の歴史書には記されていない。


 ただマキシア帝国ライカ・グランデール・マキシアと、海洋国家アーラジャ元首ドクトル・ケセ・アーラジャの会談は、1ヶ月後、帝都の南に位置する海洋都市バダバで開かれることとなった。


ジーバルド、ナレ死!?


次回は来週月曜日に……。

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