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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第14話 ~ 変化を求めるものには紙を。拳を上げるものには剣を ~

終章第14話です。

よろしくお願いします。

 海洋国家アーラジャが、グアラル王国王都を陥落せしめたという報は、あっという間にマキシア帝国全土に響き渡った。

 それどころではない。

 オーバリアント全域にも広がり、その衝撃は計り知れないものとなった。


 当然だ。


 彼我兵力差は99対1。

 圧倒的にグアラル有利。

 加えて、熱砂で鍛え上げた白兵戦最強のファランクス部隊が存在する。

 オーバリアントに敵なしと言われたほどの精鋭を有し、「グアラルを落とすには、まずファランクスから」という格言が出来た程だ。


 しかし、その王都が落ちた。

 他の都市がどうなっているかは不明だが、間違いなく国としての機能は停滞しているだろう。そう。RPG病にかかったローレスト三国のように。


 しつこく言うならば、それがアーラジャであったというのも皮肉な話だ。

 大が小を倒したことは後々の語り草になるだろうが、両国には深い因縁がある。


 実は、アーラジャは元々グアラルの支配下にあったのだ。


 それを建国の父であるヴィクトル・アーラジャが、マキシアとグアラルが揉めているどさくさに紛れて、勝手に独立を宣言してしまったのである。

 以来、アーラジャはグアラルとマキシアの中継地として栄えた。いわば、ウルリアノとマキシアの緩衝地帯であるライーマードと似たような役割である。


 しかし、ライーマードとは違うのは、国の収支である。

 ドーラ海峡には、マキシア、ローレスト三国、さらにグアラルが隣接し、膨大な量の船が行き交っていた。さらに、海峡を抜ければエジニア王国が存在し、中継地として絶妙なポジションを陣取っていたというわけだ。


 そもそもグアラル王国から独立する以前から、その収支のバランスはおかしかった。グアラル王国全体の収益――その半分以上を、アーラジャが担っていたのだ。


 故に、昔から独立機運が高い地域でもあったが、ヴィクトルは実に巧妙なタイミングで、独立を宣言したというわけだ。


 そしてそれから約70年後。


 そのヴィクトルの再来といわれる男が、アーラジャの元首になった。

 


 ドクトル・ケセ・アーラジャ。


 元首になるや否や、バラバラだった中央諸島をまとめ上げ、エジニア王国とともに、【島国連合】を作り上げた若き指導者である。




 近衛隊隊長兼帝都防衛司令官であるゼネクロ・ベゼル・マリリガは、書類を机に投げた。書類には、諜報部が持ってきたドクトルの経歴を書かれてある。


 1度、目をもんだ。

 年だ。細かい文字を見ると、すぐ目に疲れが出てくる。

 60歳になり、今だ剣を鍛錬は欠かさず、引き締まった肉体を維持し続けていたが、迫る年波を感じずにはいられなかった。


「こいつ。何歳だ?」


 質問を投げかけたのは、隣に座ったブラーデルだ。

 ゼネクロよりもさらに年上の元老院議長は、顔を上げる。

 しかめっ面を友人に隠そうともしなかった。


「28歳だ」

「若いな」


 うらやましい――と続けたかったが、余計老け込みそうなのでやめた。


 しかし若い。

 しかも、彼は今から5年前に元首になったそうだ。


 確かに我らが女帝陛下は10代で最強国家マキシアの元首になった。

 それと比べれば、23という年は霞むかもしれないが、破格の年齢であることは間違いない。


 ゼネクロは毒づく。


「何者だ、こいつ。一応、経歴は商家の子供となっているが、10歳以前の学校などの教育施設に通った経歴が全くないというのはどういうことだ? 養子ともなっているし」

「単に孤児ではないのか?」

「可能性は否定しないが、孤児だったが養子が、わずか13年後には元首だぞ。早すぎる!」


 つい鼻息が荒くなる。

 老人のひがみも多少は入っているだろうが、横で聞いていたブラーデルも頷かないわけにはいかなかった。


「何らかの後ろ盾がある、と――」

「ああ……」

「しかし政務には精力的だそうだ。商家にいた頃にも大きなビジネスを成功させ、巨万の富を得ていたと聞いている」


 報告書にはその金が、マキシアでは議会にあたる商人組合に入り込むきっかけ作ったとあった。


「金で議会の椅子を買うようなヤツが、後ろ盾など欲するだろうか。そもそも傀儡政権という感じがしない。国内政策については、目を瞠るものがある」


 政治にうるさいブラーデルが、珍しく他国の元首を褒め称えた。


「だが、対外政策については強行的なものが多い。えっと、なんだ……」

「『変化を求めるものには紙を。拳を上げるものには剣を』だ」

「そう。それだ」

「飴とムチを使い分けている感はあるが、政策に暖かみがない。即物的過ぎる面は否めないか」


 それでも民には人気があり、支持率は高水準をキープしているという。


 ゼネクロは腕を組む。

 難しい顔を浮かべ、顎をさすった。


「俺は入れ知恵をしているヤツがいると見ている」

「例えば……」

「ダークエルフだ」

「まさか! ヤツらが、国を発展させるようなことをするものか」

「では、オーバリアントを潰すために、そのアーラジャを利用しているとするならどうだ」

「――――!」


 ブラーデルは驚く。

 その考えはなかった。


「調べてみる必要があるな」

「まあ、それは会議が終わってからだな」


 2人の会話が済むと、近衛が扉を開いた。


「ライカ・グランデール・マキシア陛下、登壇いたします」


 ザッと、音を立て、議場にいた全員が立ち上がった。

 左手奥より女帝陛下が入る。拍手が巻き起こった。


 ライカはドレスではなく、男物の礼服を着ていた。

 ドレス姿も美しいが、これもこれで悪くない。

 彼女の中にある騎士としての姿を、体現したかのようだ。


 革靴を鳴らし、ゆっくりと議場の中央へと進み出る。

 長方形の机の前に立った。

 拍手が止む。

 ライカが手を挙げると、議場の議員たちは着席した。


 息を吸うと、大きな胸が膨らんだ。

 高らかに皇帝は奏上する。


「このほど、グアラル王国は海洋国家アーラジャの手に落ちた」


 まだ報告を聞いていなかった一部の議員は「わっ」と声を上げた。

 騒然とする中、ブラーデルとゼネクロは議場の真ん中にいる女帝陛下を見つめ続けていた。


「調査の結果、これが真実だと判明した。さらに、王都スピノヴァは壊滅。もう一度いう。壊滅だ」


 ライカの声は震えていた。

 強調したことの意図がわからず、ブラーデルとゼネクロは身を乗り出す。


「これはどういう意味か。――皆もすでに聞いておろう。ウルリアノで使われた兵器を……。さらに盟友サリストの防衛に当たっていた軍に起こった悲劇を……」

「……まさか」


 ゼネクロはつい言葉を発した。

 横のブラーデルも息を呑む。


「そうだ。王都スピノヴァに悪魔の兵器【太陽の手(バリアル)】が使われたのだ」


 一気に議場は騒がしくなった。

 顔を青ざめる者。激しく喚く者。会話を交わす者。

 それぞれの反応を見せる中、議長であるブラーデルの声が響き渡る。


「静粛に! 陛下の御前であるぞ。静粛に!!」


 威厳がたっぷり塗られた声は、議員たちを落ち着かせた。

 というより、何かの脅しに近かった。


 静かになるのを見計らい、ゼネクロは意見した。


「陛下……。やはり【太陽の手(バリアル)】の運び屋は、島国連合でしょうか?」

「確信するのはまだ早急だと思うが、まず間違いないだろう」


 ライカは答える。

 ウルリアノで量産されたと思われる【太陽の手(バリアル)】は、海上を通ってエジニアに運ばれた。


 ウルリアノ王国は【太陽の手(バリアル)】流出が判明してからというもの血眼になってその流通ルートを調べていると聞いている。だが、これでは出てこないはずだ。その流通ルート自体が、犯行に及んでいたのだから。


「そして彼の国――つまりアーラジャから、今朝方、我が国に宛てに文が届いた」


 ――文?


 ゼネクロは眉を顰める。

 ブラーデルは知っているような顔つきだった。


 ライカは文を広げる。

 議場の天井にまで届く大きな声で奏上した。


 告げる。

 海洋国家アーラジャは、海の自由主権を求め、貴国に対し――。



 宣戦布告するものとする。



 凛とした余韻は、議場を凍てつかせるのだった。


【告知】

2017年4月14日から『“復活の呪文”を唱えたら、レベルマ魔法使いになりました。』という新作をやります。

レベル1の魔法使いが、“復活の呪文”を唱えたらレベルMAXになって、実力を隠しながらスローライフ生活を送るという話です。

こちらもどうぞよろしくお願いします。


次回は来週月曜日の予定です。

よろしくお願いします。

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