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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第2話 ~ 聖戦なのだよ ~

 エジニア軍第1軍団にして、サリスト攻略を任されたワペルド中将は、典型的なエジニア軍人だった。


 父が軍属であった彼は、幼い頃からサリスト人に対しての憎悪を刷り込まされ、その怨念によってのし上がった人物だ。

 故に、ワペルドの基準の中で、サリストはおろかエジニア人ではないものの命は、豚畜生に劣るものであり、搾取されて当然と思っていた。


 故にサリストの子供も、老人も、貴族も分け隔てることなく殺したし、少々見目のいい女を見れば、心が壊れるまで犯した後、四肢裂きにすることも躊躇わなかった。


 そう……。

 典型的な残虐非道の軍人だったのだ。


 そんな彼だからこそ。

 味方がまだマキシアと戦っているにも関わらず、その戦場のど真ん中に、【太陽の手(バリアル)】を落とすことも厭わなかったし、王都ロダルを悪魔すら息を呑む地獄に変えることが出来たと言えるだろう。


 その性格ゆえ、味方からも恐れられ、陰口も耐えなかった。

 だが、憤りよりも圧倒的に恐怖の方が勝り、中将の行いを咎めるものはいなかった。


 ワペルドは本日2度目の起床をした。

 1度目は部下に起こされたのだ。

 何でも賊がこの王都ロダルを目指してやってきているらしい。


 しかも、たった2人。


 そんなことで起こすなと叱りつけたかった。

 しかし、間諜が要注意人物にあげた2人だという。


 確認するのも悪くない。

 1人は絶世の美女だと聞く。

 しかし、眠気の方が勝ってしまった。

 いささか昨日ははしゃぎ過ぎたのだ。


 ワペルドの興味は、1分と持たず、ただ――。


「殺せ」


 部下に一言命じ、眠りについた。


 そして2度目の起床。

 微睡みの中で、慌ただしい城内の物音を聞いていたが、今はすっかり静かになっていた。


 賊を討ち果たしたのだろう。

 存外、諜報部の情報も当てにならんな、と思いながら、上半身を起こした。

 下半身がけだるい。

 まだ昨日の余韻が残っていた。


 横を見る。


 目と口をカッと開いたエルフの女が死んでいた。

 それを枕のように蹴り飛ばし、ベッドの脇に落とす。


 側にあった寝間着を引っ掴み、かつて王が寝ていたという天蓋のベッドの中で簡単に着替えを済ませた。


 薄い御簾を払って、ベッドから降りる。


「おい! 誰かいないのか!!」


 忌々しい女の死体を処理させようと、ワペルドは声を張り上げる。

 しかし、虚しく響き、城内の切石に吸い込まれていった。


 もう1度、声を上げるが、反応はない。

 その段になって、ワペルドはようやくおかしいことに気付く。


 あまりに静かすぎるのだ。


 ワペルドは窓外に顔を向ける。

 ガラスの向こうに広がっていたのは、青い空とボロ雑巾のように絞られた王都の姿だった。


 一見、何の変哲もなかったが、ワペルドの中に流れる軍属の血は、危機を察していた。


 寝室に置いた剣を抜く。

 鍵を外し、鞘から引き抜いた。


 その時だった。


 老婆の笑い声のような音を立てて、扉が開いた。


 突然のことだったが、ワペルドが驚かない。

 幼い頃から父に軍のいろはを叩き込まれてきた。

 少々のことでは動じない。


 やや乱れた寝間着を戻し、入ってきたであろう部下に、訓練不足のぶよぶよとした身体を向けた。


「遅いぞ。何故、私の呼びかけに応じ――」


 言葉が途中で止まる。


 立っていたのは、部下ではない。

 兵士ですらなかった。


 見たことのない服装に、後ろに撫でつけられた髪型。

 年は20代前半か中頃といったところだろう。


 とにもかくにも……。

 男の目は憎悪に溢れかえっていた。


 自分に向けられた怨嗟など珍しくもなかった。

 しかし、男の瞳に宿ったものは、はっきりと死を予感させた。


 逆らってはダメ……。

 刺激してもダメだ……。

 まして抵抗など以ての外だ。


 軍内部に身を置き、その政治闘争の中で磨いた勘がそう言っていた。

 暗殺など、2度3度ではすまないほど、ワペルドは経験している。

 それでも生き延びた。


 今回もそうするだけだ。


「スギイソウイチロウだな」


 現れた男を、ワペルドはフルネームで呼んだ。

 諜報部からは要注意人物といわれていた人間だ。その経歴も特筆に値する化け物。

 名前を覚えることなど容易いことだった。


 ソウイチロウのこめかみあたりがピクリと動くのを、中将は見逃さない。


 悪鬼羅刹の類かと思ったが、どうやら人間らしい感情はあるようだ。

 これは僥倖である。

 金で雇われた暗殺者は、そんな反応はしない。

 つまり、彼は義憤に刈られているだけなのだ。


「なんで知っているという顔だな。考えてもみたまえ。エジニアはマキシアと比べれば、取るに足らない小国だ。そのために、処世術というものを身につけている。他国を知るということだ。その点において、我らは他国を凌駕すると自負している。もちろん、兵の質もだが」


 ワペルドは一度抜いた剣を鞘にしまう。

 あえて戦意がないことを示した。


「スギイソウイチロウ君。君の情報が実に輝かしい。帝国最強と謳われたマトー・エルセクト・ハイリヤを圧倒し、未確認だが不死竜オーガラストですら退けたという。ウルリアノ王国で【太陽の手(バリアル)】が使われた一件にも絡んでいるそうだね。……おっと。忘れるところだった。ライカ陛下の件は実にめでたい」


 手を叩き、まくしたてる。


 そして悠然と部屋を横切っていく。

 ベッドのサイドテーブルにあった酒瓶に手を伸ばした。

 ちょうどグラスが2つ置かれ、ワペルドは両方に酒を注いだ。


「どうだね?」


 差し出す。


「…………」


 反応なし。

 それも折り込み済みだ。


 ワペルドは呷った。

 口内で酒を転がし、乾いた舌の根を潤す。

 かー、と息を吐き、言葉を続けた。


「失礼だが、そのライカ陛下……いや、もっと言えば先代カールズ陛下を君はどこまで信じられるかね」


 反応なし。


「君も聞いただろう。新たな女神の宣告を(ヽヽヽヽヽヽヽヽヽ)……。マキシアは旧代の女神と結託し、野にモンスターを放ち、冒険者という存在をプロデュースし、ギルドから多額の上納金をもらっていた。……信じがたい話だと思う。特に君にとってはね。我々も全面的に新しい女神の言葉を盲目的に信じているわけではない」


 ワペルドはまた酒を注ぎ、呷った。

 ほんのりと白い顔が赤くなっていく。


 やがて舌を回した。


「しかし、モンスターの首領がすむ居城が、マキシアにあるという事実。そして、先代カールズがその状態を放置し続けた事実。それを鑑みれば、あながち噂と断じるのは、早計というものだ」

「…………」

「私が何を言いたいのか……。図りかねているという顔だな。つまりは我が軍の侵攻は、そうした腐敗したマキシアを正すための聖戦なのだよ。今やマキシアは自浄能力を失っている。何故なら、旧女神の寵愛を受けたものが、上級職に居座っているからだ。それを変えることは容易ではないだろう」

「…………」

「だが、今のマキシアに対し疑問を持ちながらも立ち上がれないものが存在する。我々はそう見ている。そういったサイレントマジョリティに手を貸し、マキシアを本来の国へと戻す。それが我々の役目だと考えている」


 その時、ようやく宗一郎は動いた。

 一歩踏み出す。ワペルドに向かってだ。


 しかしエジニア軍中将は慌てなかった。


「そう……。その義憤こそ、これからのマキシアに必要なのだ。怒っているのだろう。外の地獄絵図を。しかし、心配しなくてもいい。あれらはすべて旧女神に類する者たちだ。我々がそれらを浄()したにすぎない。それ以外の人間たちは、本国で手厚い加護を受けているはずだ」


 ワペルドの狙いは至極単純だった。

 宗一郎を懐柔しようとしているのだ。


 暗殺者であれば金を積み、今に不安があるものには名誉を与え、義憤に刈られたものには、真実を突き付けた。


 そうしてワペルドは生き残ってきた。

 人の心を動かすことなど、容易いことなのだ。


「率直に言おう。スギイソウイチロウ君……。我らに手を貸してくれないか?」


 そうしてワペルドは口角を上げた。



中途半端ですが、続きは明日18時に投稿します。

よろしくお願いします。

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