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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝 ~ それぞれの1ヶ月 ~
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外伝 ~ フルフルのゲーマーな1ヶ月 ~ 後編

後編です。

よろしくお願いします。

「フルフル殿! 起きられよ! 起きなさい!!」


 カッとフルフルは目を開くと、そこは見慣れた闇だった。

 棺桶の中だと気付くのに、1秒もいらない。


 フルフルは蓋を吹き飛ばす。

 軽い木の蓋は、教会のステンドグラスを軽く擦って、落ちてきた。


 すぐ側でフルフルを蘇生させた神父が「ひっ」と悲鳴を上げている。

 その横に並んだ十代後半の姫騎士は、ホッと大きな双丘に手を置いた。


 窓から差し込む光は白銀で、陰鬱な霊安所の雰囲気を吹き飛ばしている。


「おはよッス! ライカ!」

「もう昼だぞ、フルフル殿」

「ありゃ……」


 こつんと、薄紫の頭に自ら拳固をくらわせ、おどけた。


 私はこれで、と言って、神父が退散する。

 ライカは軽く礼を述べて見送ると、フルフルに向き直った。


「フルフル殿! あれほど、夜のレベルアップはおやめ下さいと忠告したはずです」

「えへへ……。ばれったッスか!」


 こつん……。


 今度はライカに叩かれた。

 フルフルの目に涙が滲む。むろん、嘘である。


「暴力反対ッスよ、ライカぁ……」

「宗一郎殿には、遠慮なしで厳しくしつけてくれと言付かっている。多少の体罰は覚悟されよ」


 こめかみに青筋を浮かべながら、ごりごりと指の骨を鳴らす。

 うひー、と悲鳴を上げつつも、フルフルは全く懲りていない。


「いやぁ、レベル上げはゲーマーとしての血が騒ぐっていうか」

「ならば昼間にやれば良いであろう」

「昼間だと遭遇確率が低くなるッスよ。夜の方が効率いいッス」

「それだと危険すぎる!」

「大丈夫ッスよ。死んでも生き返るんだし。いやー、便利ッスよ。ゲームじゃ割と当たり前ッスけど、現実世界でもこれほど便利なシステムとは……」


 ガツン!!


 重い音が霊安室の隅々まで響いた。


 フルフルの頭に膨らんだ餅のようなこぶが出来る。


「き、効いたッス」


 お目々をぐるんぐるんしながら、頭を抱えた。


「その蘇生代金、私が――引いては帝国が払っているのをお忘れなく」

「ごめんッスよ。……きっとご主人がのし付けて返してくれるッスから」

「それはフルフル殿が返すのが筋であろう」

「フルフルはご主人のものッスからね。……あ! でも今は、ライカのものッスけど。ところでライカは、いつになったらフルフルを“使う”んスか?」

「――――!」


 ライカは大きく咳き込む。

 少女の姿を見ながら、悪魔はニヤリと笑った。


 こんなやりとりをもう何度と行っている。

 フルフルの「使う」という意味も、最初はわからなかったが、もう覚えてしまった。


「だ、だから私はそんなこと!」

「そんなに驚かなくても、別に家事手伝いとかに使ってくれてもいいんスよ。……それともいやらしい方がいいッスか?」

「そ、それ以上は言うと、高難度ダンジョンに放り出しますよ!」

「うおおお! いいッスね! そういうの燃えるッス! 暇な時に、低レベルでラスダンまで言って、何秒持ちこたえるかとかやったことあるッスから」

「火に油だったか……」


 金髪を掻き上げ、ライカは頭を振った。





 フルフル達は帝都から南に行ったローグという街にいた。


 最初は帝都の周りで、ライカに手伝ってもらいながらレベルをためていた。だが、すぐに上昇効率が悪くなり、少しレベルの高いモンスターを相手にするため、この街にやってきたのだ。


 教会から場所を変えた2人は、遅めの昼食をとっていた。

 大皿に盛られた4品に、フルフルはテーブルマナーも忘れてがっついている。

 小食のライカは、乾燥させた木の実を白湯に入れたお茶を飲んでいた。


「ところで、フルフル殿――」

「ん?」


 顔を上げる。

 口の周りにご飯粒が一杯ついていた。


 ライカはくすりと笑い、懐から手ぬぐいを渡す。

 フルフルが拭き終わるのを待った後、話を続けた。


「今、レベルはいくつだ?」

「えっと……」


 視線を右角に移動させる。


「32になったッスね」

「な!! そんなに!」


 フルフルがライカについてもらいながら、レベルアップをはじめたのは、つい十日前だ。その時はまだレベル1だった。

 1日1レベルでも相当早い方なのに、フルフルの成長速度はまさに破格だ。


「まあ、しかし、朝から深夜まで戦い漬けでいれば当然か」


 昼はライカについてもらいながら、夜はこっそりと町の外に出て、フルフルは自主練ならぬ自主レベルアップに勤しんでいる。

 しかもこの辺りのモンスターは、フルフルのレベルの倍近くある。


 時間、質ともに、最高の環境といえた。

 むろん、フルフルの並外れた体力と、身体能力があってなせる業で、普通の人間には真似できないだろう。


 一応、宗一郎からフルフルが並外れた身体能力の持ち主だとは聞いていたが、予想を遥かに超えていた。


「宗一郎殿の言いつけとはいえ。リスクを冒してまで、レベルアップする必要ないのではないか?」

「?? ……どうしてそこでご主人が出てくるッスか? 別にご主人は関係ないッスよ」

「じゃあ、何なのだ?」

「ゲーマー魂ッス!」


 握り拳を突き上げ、宣言する。

 フルフルが訳のわからないこと言う時は、ろくでもない意味だと宗一郎は聞いていたので、ライカは苦笑を浮かべ軽く流した。


 宗一郎と別れる前、フルフルは2つのことを言いつけられていた。


 1つは裸で歩いても、オーバリアント一周できるぐらいのレベルに到達すること。

 目標としてはレベル50と設定された。

 それを1ヶ月以内というのだから、確かにフルフルが焦るのも無理もない。


 もう1つは一足早く世界を色々と見聞きしてくること。

 つまり旅をしてこい、ということだ。


 宗一郎は全部の街や城を見て回れと言っていたが、さすがに1ヶ月では難しいとライカが判断した。

 なので、レベルアップがてら、場所を移しながらフルフルを鍛えている。


「どうだ? この辺のモンスターは」

「うーん。もう2、3レベル上げたら、旨みがなくなる感じッスかね。もうそろそろ敵の強さを引き上げてもいい頃合いかもしれないッス」

「これ以上、上げるとフォローする私もキツくなるのだがな。まあ、私も宗一郎殿のために強くならなければならぬし……。もう少ししたら、さらに南へ進んでみよう」

「ライカは優しッス」


 猫が甘えるようにライカにすり寄る。


「一発やるッスか!」

「な! フルフル殿はなんでそういつも盛りの付いた猫みたいな発言をするのだ。あなたも乙女なら、もう少し恥じらいを――」

「むふふ……。フルフルは雄でも雌でもいける口ッスよ。その気になれば、両刀遣いこなすッス。見るッスか?」

「ちょ――もう! こんなところで、パンツを下げないでいただきたい!」


 今なら、宗一郎の苦労がわかる。

 右も左もわからぬ、悪童の面倒を見ているかのようだ。


 ――もしかしたら、とんでもないものを押しつけられたのではなかろうか。


 ライカは頭を抱えた。

 宗一郎はこの世界の勉強するため別行動をとると言っていた。


 だが、その勉強の邪魔にならないようにフルフルを遠ざけたのではないか。今頃、になってそう思えてきた。

 姫騎士の苦悩をよそに、主人から解放された悪魔は食事を再開する。


 その食べっぷりを見ながら、ライカはぼそりと呟く。


「なあ。フルフル殿……」

「なんスか?」

「そなたと宗一郎殿とはどんな関係だ?」

「見ての通りッスよ。……主従関係ッスよ。もしくは肉ど」

「ホントにそれだけか?」

「――――!」


 パチクリと瞬きし、フルフルはライカを物珍しそうに見つめた。

 するとニヤリと笑う。


「ライカ……。もしかしてご主人のこと気になってんスか?」

「な――! なななな、なに言ってるのだ! そ、そんなことない。断じてだ! ……た、ただ! 仕方ないとはいえ、あんな無茶なノルマを課せられて、そなたは顔色1つ変えず、一生懸命やっている。だから――その……ただの主従関係にしては、もう1つ踏み込んだ関係なのかと」


 顔を真っ赤にしながら、慌てて繕うライカ。

 対してフルフルのニヤニヤは止まらない。


「べ、別に他意はないのだ。ちょっと気になっただけで」

「そッスか。……じゃあ、フルフルのライバルじゃないッスね」

「え? ええ!? それって……やはり――――宗一郎殿のことを……す…………こ、好意を寄せてるっていうか――その……」

「フルフル、ご主人のこと好きッスよ」

「そ、それって……。こ、恋なのか?」

「もちろん、愛ッスよ」

「ええ!? た、たば……たばかっておられるのでは――」

「真剣ッスよ!」

「…………」

「でも――」

「でも? なんだ?」

「やっぱ難しッスよ」

「主従だから」

「それもあるッスけど、フルフルは――――」


 悪魔ッスから……。


 とは――フルフルは言えなかった。

 それを言うことは主人から禁止されている


「どうした? フルフル殿……?」

「いや、なんでもないッス。そろそろ行くッスよ。ライカ!」


 テーブルに残った食べ物を処理すると、フルフルは立ち上がった。


「どこへ?」

「レベル上げに決まってるじゃないッスか!」

「いや! もう少し休んでからに」

「そんなの死んだらスッキリしたッスよ」


 本気なのか、ジョークなのかわからないことを言って、フルフルは店を出て行く。

 ライカは慌てて食事代をテーブルに置き、後を追う。


 薄紫色の髪をなびかせ、少女は待っていた。


「もし……。ライカがご主人のことを気になっているなら、相応の覚悟をした方がいいッスよ。……すっごい人が、ご主人の心の中に棲み着いてますから」


 振り返り、八重歯を見せた。


 そして前を向く。拳を突き上げ「おーし! やるぞ!」と気合いを入れる。


 ライカは少し手に力を込めて握り込む。

 少し冷めた目で、フルフルの後ろ姿を見つめていた。


というわけで、フルフルとライカの1ヶ月でした。

如何だったでしょうか?


明日からは帝都にいる宗一郎の話がメインになります。

新キャラが続々でてきますので、よろしくお願いします。

(あの謎のタグの真相が明らかにw)


そして!

日頃のご愛顧と月間入りを記念して、明日の土曜は3話投稿させていただきます。

1話目を12時。2話目を18時。3話目を21時に投稿しますので、

楽しんで下さい。

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