表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝 ~ それぞれの1ヶ月 ~
23/330

外伝 ~ フルフルのゲーマーな1ヶ月 ~ 前編

今日から外伝のお話です。

よろしくお願いします。

「おおりゃああああああああ!!」


 裂帛の気合いが闇夜に轟いた。


 フルフルはバスターソードを振り上げる。

 獅子のような鬣を持つ大型のモンスターのステータスがみるみる減っていく。


 「0」と宣告された途端、ガラスのようにはじけ飛んだ。


「まだまだ終わらないッスよ!」


 フルフルは攻撃を緩めない。

 モンスターの本丸へと切り込む。


 武器もそうだが、身につけるものも一新されていた。

 魚鱗のような胸当てに、ヒラヒラと2枚の布が付いた腰蓑。足には大きな1枚羽がついた硬いブーツをつけている。

 心許ないように見えるが、モンスターの攻撃は結局のところ装備+ステータスにおける総合の数値による。


 物理的な防御力は意味はなく、特定の計算方法によって算出される――らしい。


 “らしい”というのも、フルフルのような重度のゲーマーであっても、それを瞬時に把握することは難しい。ダメージソースがかなり複雑化されているからだ。


 つまり、単純に攻撃力-防御力=ダメージではないということ。

 例えば、地形、パーティの陣形、パーティとの相性、またステータスの中にも確認不可能な要素があり、事実上それを突き止めるのは難しい。


 ただ――大体これぐらいのレベルの敵なら、これぐらいのダメージだろう。という予想は付くようになってきた。±10%ぐらいで見積もっておけば、自分の体力と相談しながら、立ち回る事が出来る。


 ここまでは普通のRPGとさほど変わらない。


 だが、オーバリアントの“ゲーム”はそれだけではない。


 あえて“プレイヤー”というが、戦闘において諸にそのプレイヤーの身体能力が重要になってくる。


 特に回避や攻撃の回数だ。


 やり始めた初期、フルフルは2つの項目は『素早さ』によると思っていた。

 しかし、戦闘回数を重ねてみてわかったが、どうやらこの数値は先制の判定に用いられるらしい。

 だから、敵からの攻撃を完封することも、無限に攻撃することも、理論上は可能ということだ。


 但し、たいていのモンスターの能力は、人間の身体能力を軽く凌駕する。低レベルのゴブリンですら、成人男性より高い。敵の攻撃を完封し、なおかつ攻撃する暇を与えない戦闘など、夢のまた夢だろう。


 しかし、それは――人間であったなら――である。


 フルフルはお気に入りのバスターソードを抜く。


 適応力ギリギリで装備を許されたバスターソードに振り回されながらも、魔物の群の中で間断なく攻撃を繰り返す。

 しかも重量武器に身体が泳がされる場面もあるというのに、しっかりと相手の攻撃も回避している。


 まるで舞踏――いや、“武踊”だ。

 もはや人間を超えた身体能力で次々とモンスターたちを蹴散らしていく。


 不意に宵闇に赤い光が灯った。


 フルフルは動きを止め、顔を上げる。


 最後の難敵……ワイバーンが大口を開けて睨んでいた。

 大きな顎門の中が、赤く光っている。


 周りにいたモンスターが引いた。


 たった1人……。草原に取り残される。


 ブレスが来る!

 だが、広範囲攻撃のブレスを回避できるほど、余裕はない。


「防御ッス!!」


 フルフルは盾を装備していない。

 防御力は上がるが、装備重量を増やしたくはなかった。


 バスターソードを柱のように立てて、防御の姿勢を取る。

 防御判定がなされ、オレンジ色のバリアが浮かび上がった


 瞬間、ワイバーンからブレスが吐き出される。


 他のモンスターを巻き込む。

 特定の広範囲攻撃は敵味方関係なく巻き込むことは、学習済みだ。


 ――計算上は、今のフルフルでも1回は耐えられるはず……。


 炎にまみれながら、みるみる減っていく自分のステータスを注視する。

 ちなみにフルフルのレベルは、ようやく30といったところ。

 ワイバーンのレベルは50だ。

 2倍近い差があった。


 ブレスが止む。


「耐えきった!」


 《体力》はわずか13しかないが、死んではいない。

 身体的な体力にも影響しないから、身体は全然動く。

 だが、かすっただけで、教会行きだ。


 フルフルは「にげる」のコマンドを選択しない。

 群の大将ともいうべきワイバーンに向かって駆ける。


 ブレスを連射できないことも学習済み。

 次のブレスまで15秒――。


 ――その間に倒すッスよ!!


 ワイバーンは蝙蝠のような羽を広げた。

 上空に逃げようとしている。

 それはフルフルにとってチャンスだった。


 飛竜はすぐには飛べない。

 それも学習済み!


「うりゃあああああああああああ!!」


 勢いのままバスターソードを振り下ろす。

 竜の脛部分に刃が突き刺さった。


 身をくねらせ、大きく嘶く。


「よっし! ダッシュ攻撃に、さらにボーナス判定がついたッスね」


 ワイバーンのステータスは見れないが、経験上3分の1は減ったはずだ。


 フルフルはさらに斬りつける。

 嬉しいことに、攻撃判定は部位のどこを攻撃してもさほど変わらない。

 地面と接している足もとを集中的に狙う。


 溜まらずワイバーンは闇雲に足踏みをはじめた。


「見え見えッスよ」


 フルフルは攻撃を読んでいた。

 足踏みが始まる前に、バックステップする。


 攻撃目標を変え、突撃する。

 狙うは尻尾!


 ワイバーンの背後に回り込むと、がら空きになった尻尾にバスターソードを振り下ろす。


 再びボーナス判定が出たのか。

 飛竜は大きく顔を上げて、嘶いた。


 身体をその場で素早く回転させる。

 極大の尻尾が、鞭のように飛んできた。


「まっず!」


 なんとか回避する。

 かすりでもしていたら、ダメージ判定されていただろう。


 フルフルは一旦引く。


「うむむ……。尻尾切りはダメだったか」


 再びワイバーンは大きく羽根を広げた。

 今度こそ逃げる気だ。


「行かせないッス!」


 3度目の突撃。


 おそらくこれが最後の攻撃。

 ここで致命をとれなければ――終わる。


 狙うは喉元。


 その時、ワイバーンの口内が赤く光った。

 竜が逃走をやめて、破れかぶれのカウンターにかけたのだ。


 それを見た時、フルフルは不敵に笑った。


「この勝負! フルフルの勝ちッス!」


 大きく跳躍。

 夜空を背にしながら、大上段からバスターソードを振り下ろした。


 シャン!


 鋭い音が夜の草原に響き渡る。


 竜は固まっていた。

 大きく羽を広げ、猛禽類のような足爪を大地に突き立てたまま。


 動力が切れた炉のように、口内から赤い光が消えていく。


 次いで、ゆっくりと巨体が左に傾くと、大きな音を立て、草原に臥した。


 何百枚と皿が割れるような音が響き、竜は霧散した。


 フルフルは拳を突き上げ――。



「捕ったどおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



 やや古い流行語を絶叫した。


 そして草原に寝っ転ぶ……。

 大きな胸を上下させ、大口を開け、息を吸う。

 こうやって激しく息を繰り返さねば、意識を失いそうになる。


「さ、さすがに7連チャンで徹ゲーは、悪魔でも厳しかったスかね?」


 目は落ちくぼみ、周りには隈が出来ていた。

 しかし、その充実ぶりを示すように、白い八重歯がこぼれる。


 悪魔は笑っていた。


「はあ……。ご主人、どうしてるッスかね」


 主人も見ているであろう星空を見ながら、フルフルは呟く。


 今、フルフルは主人を守るた力を得るため、レベルアップに勤しんでいた。

 どうやら主人はレベル1で、このオーバリアントを攻略するらしい。

 従僕としては、主人の道に従うのは道理ではあるが、悪魔であるフルフルにはそんなものはない。

 この巨大な盤上を楽しむため、引いては主人を守る力を得るため、レベルアップに精を出している。


 前者か後者かと問われるなら、むろん前者だ。


 宗一郎からも許しをもらっている以上、全力で遊ぶつもりだった。


 そのためライカとともに主人とは別行動を取っている。


 そして、今はライカもいない。

 フルフルたった1人だ。


 ふと視界にモンスターが見えた。

 それも複数。

 どうやらワイバーンの炎から逃れた魔物たちが、戻ってきたらしい。


「もう……お前たち、結構律儀ッスね」


 表情は崩さず、上半身を起こす。

 ちょっと待っててね、とおどけながら、腰に下げた袋から傷薬を取り出そうとする。


「ありゃ! 買いだめ切れてる」


 袋を逆さに振ってみたが、出てきたのは埃だけだった。


 再びフルフルは寝転がった。

 大の字に、腕と足を広げる。


「しゃーないッスね。デスルーラしますか。……フルフルが寝てる間に頼むッスよ」


 すると、すぐに寝息が聞こえて来た。

 ゴロリと転がり、寝返りまで打つ。

 戦場であるはずの場所を、自分の寝室か何かと勘違いしているようないさぎの良さだった。


「ふにゃあ、ご主人……」


 それがフルフルの最後の寝言だった。


もう1話続きます。


明日も18時投稿です。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ