第14話 ~ とっても太ってて、いつもハアハアと息を切らして、血走った目で私を見てくる熱烈なファンなのですが、とても紳士的な方でしたよ ~
今回のサブタイ……。
クソ長いけど、後悔はしていない。
第14話です。
よろしくお願いします。
イメと呼ばれるオーバリアントでは一般的な4足歩行の動物を借り受けた。
つまりは馬だ。
芦毛のような硬い皮膚に、馬のような鬣が付いている。
モンスターをあまり怖がらないのが特徴らしく、移動手段としてオーバリアントで重宝されている。
そこに荷物を載せ、徒歩で移動する。
RPGや異世界ではお馴染みの馬車は使わない。
モンスターの強襲に、馬車では即応できないからだ。
何せモンスターたちは、突然空や地面から沸いてくる。
ゲームで言うところの、ランダムエンカウント方式。
出現の際に予備動作はあるが、長くても5秒ぐらいしかない。
しかも草木に隠れて、その予備動作に気付かなければ、先制を許してしまう。
ゲーム以上の緊張感が味わえるというわけだ。
ともかく開けた街道沿いを進む。
城を出て、半日のところで陽が落ち、結界を張って野宿となった。
「この辺の敵はまだ楽勝ッスね」
食事を終え、フルフルは満足そうに膨らんだお腹を叩いた。
食糧の残りかすを地面に埋めていたライカが、口を挟む。
「私たちが強すぎるのだ、フルフル殿」
「やっぱ……。魔王城の近くだと強いんスか?」
「東に行けば行くほど、モンスターは強くなっていく。今は大丈夫でも後半はキツいぞ。私たちでしっかり宗一郎殿をお守りせねば」
「オレはお守りされるつもりはないのだがな」
事実、ここまで幾度かモンスターと遭遇しているが、特に危ない場面はない。ライカとフルフルのレベルが高いのもあるが、宗一郎も自身の魔術で対応していた。
「次の街までどれくらいですか? お姉様」
「あと、半日といったところ――――」
???
3人の頭に一斉にクエスチョンマークが閃いた。
振り返る。
見つめたのはイメだ。
木につながれ、もしゃもしゃと飼い葉を食っている。
3人の視線がゆっくりとイメの側に置かれた荷物へと向かう。
するとごそごそと動いた。
「ぷは」
顔を出したのは、濃い金髪の少女。
「クリネ!」
素っ頓狂な声を上げたのは、ライカだった。
姉の声にびくりと身体を震わせつつも、クリネは荷物の中から這い出る。
「ふー。苦しかった……。苦しすぎて、ちょっと気絶してしまったようですわ」
「お、お前……。どうしてこんなところに」
「どうしてって……? それはお姉様についていくためです」
「うひょおおおおお! 幼女だあああああ! 襲ええええええ!!!」
唐突の王女の登場に、色めきだったのはフルフルだった。
涎をぶるんぶるん垂らしながら、文字通りクリネに襲いかかる。
「やめんか!」
大事件になる前に、悪魔を制したのは宗一郎だった。
手刀で首裏を叩き、あっさりと気絶させる。
「どういうことだ? ライカ」
「わ、私にも何がどうなっているのか」
戸惑いながら、ライカは首を振った。
「だって、お姉様と別れるなんて耐えられませんもの」
「仕方ないだろ。これは公務なのだ……」
「そうやっていつもいつも公務公務っと……。帰ってきても、ちっともクリネと遊んでくれない。いえ、遊ぶのはいいとしても、お茶ぐらい付き合ってくれてもいいではありませんか」
「いや……。それはすまなかった……」
「挙げ句、今度は男の方と旅をするなんて。マトー様という方がいらっしゃるのにお姉様は恥ずかしくないのですか?」
「いやー、姫殿下……。フルフルもいるから、大丈夫ッスよ」
気絶から復活した悪魔が顔を上げた。
「変態下女は黙ってて下さい!」
「へん――――」
再び白目を剥いて倒れる。
ショックで昏倒したのかと思いきやお尻をモジモジと動かし、「幼女に罵ってもらえた。デヘヘヘ」と満更でもない様子だった。
「なので、不肖クリネ・グランデール・マキシアも、勇者様の一行に加えていただきます」
「な、ならん! お前はまだ小さい。遊覧ではないのだぞ!」
するとクリネは、懐から杖のようなものを取り出した。
先に花弁をあしらった見事な装飾が付いている。持ち手の部分も、花の茎を思わせるような形をしており、凝ったデザインになっていた。
よく現代世界で売っている玩具にも見える。
その杖を振り上げた。
【三級炎魔法】プローグ・レド!
炎の先から、炎塊が飛び出した。
近くにあった巨木に突き刺さり、爆ぜる。
たちまち1本の炎の柱が出現し、けたたましい音を立てて倒れた。
ライカは思わず凝視した。
かくいう宗一郎も同じ反応だ。
おっほほ……と、喜んだのはフルフルだった。
「スゴい! 魔法少女爆誕ッス! 白い悪魔ッス! これでかつる!!」
謎の言葉を叫んで騒いでる悪魔をよそに、ライカは恐る恐る自分の妹に近づいた。
クリネは「どうだ!」という風に振り返り、腰に手を当てた。
「見ましたか? お姉様」
「いや、見たが……。いつの間に……。プローグ・レドはレベル50以上は必要な魔法だぞ」
「どうぞ……。私のレベルを見て下さいまし」
姫騎士は、神官の神秘を使用することが出来る。
早速、ライカは【分析の神秘】を使用した。
「な!」
開示されたステータスに、ライカはおろか宗一郎も息を飲んだ。
クリネ・グランデール 職業 魔法士
体力 : 548
魔力 : 1022
レベル : 120
ちから : 185
耐久力 : 299
魔性 : 309
素早さ : 416
適応力 : 178
運 : 401
「レベル120!」
「うひょー! スゴいッスね。所々、ライカのステータスより高いじゃないスか」
「く、くくくクリネ……。お前、一体どうやって!」
「これですわ」
花柄のスカートを摘まみ上げる。
小さな足に、子供が履くには少々可愛げのない靴が装着されていた。
ややくすんだ黄金色に、青い宝石がはめ込まれ、靴先が大きくカールしている。
如何にもマジックアイテムという風だが、何度もいうが少女には似合っていなかった。
その靴がなんなのかわからず、宗一郎の頭に再び「?」を浮ぶ。その横で、ライカは貴婦人であることを忘れ、顎をだらりと下げて驚いていた。
「そ、それは、エピアの靴!」
「エピアの靴?」
「歩くだけで経験値がもらえる魔法のアイテムだ」
それって――。
「おお! まんま《しあ●せの靴》じゃないッスか!」
「天界にも似たようなものがあるのか?」
「うんうん。あるッスよ。……でも、はぐれ●タルを狩る方がレベル上げしやすいッスけどねぇ。あくまで補助ッス」
「うん? ということは、天界にレベルアップシステムが――」
ガツン!
宗一郎は思いっきりフルフルの頭を叩いて、再び気絶させた。
ごっふぉん! と大きく咳払いし。
「今のは忘れてくれ。……天界のトップシークレットに当たるからな」
宗一郎は誤魔化した。
「そうか。宗一郎殿がそういうのであれば、忘れよう」
――良かったぁ、ライカが単じゅ……おほん! 素直な人間で……。
「クリネ。しかし、それをどうしたのだ?」
「3年前ぐらいに、ある貴族の方から誕生日のプレゼントとしていただいたのですわ」
「誕生日プレゼントでもらったのか?」
「はい!」
――こ、子供にあげるプレゼントではないと思うのだが……。
「その方と誕生日の前の夜会でお話しまして。……エピアの靴みたいな可愛い靴がほしいなあって言ったら、くれたんです」
――確信犯ではないか!!
「そ、そのお方は大丈夫なお方なのか?」
「はい。とっても太ってて、いつもハアハアと息を切らして、血走った目で私を見てくる熱烈なファンなのですが、とても紳士的な方でしたよ」
――絶対、それは危ないヤツや!!
「ならば、私からお礼も言わねばなるまい。エピアの靴は、城を建てるよりも高価だと聞いている」
「え? そんなに……。そうですか。てっきり夜会で見かけなくなったと思ったら……」
――紳士ぃぃいいいいいいいいいい!!!
ツッコミが追いつかない。
宗一郎は自然と息が切れていた。
というか、この子なんなのだろうか。
人見知りの激しい――フルフル流にいうと小五ロリ――かと思いきや、明らかに大人を手玉に取る才知を持っている。実はとんでもない小悪魔かもしれない。
「ふふ……。ご主人。異世界幼女をなめちゃいけませんぜ」
「起きたのか、変態悪魔」
「ええ! ずっと……」
フルフルはジャック・オー・ランタンのような笑みを浮かべた。
「お願いします。お姉様。クリネも連れてって下さい」
「ダメだ! もしお前に何かあれば、私は父上に顔向け出来ぬ」
「でも――!」
「いいじゃないスか? ライカ」
「フルフル殿」
「この世界は死んだところで復活できるんスよ。……子供が参加しても危険はないッスよ」
「しかし、モンスター以外にも危険はある」
「確かにそッスけど……。クリネ殿下の努力も認めてあげましょうよ。だって、靴だけの力で、お姉様よりレベルアップを果たしたんスよ。並大抵の努力じゃあ、3年でここまでにはならないッスよ」
「はい。クリネはお姉様にいつか追いつきたくて、ずっと努力をして参りました。……時にはお城を抜け出して、外のモンスターと戦ったり――」
「そんな危険な真似を! 教育長が聞いたら、卒倒するぞ!」
「お叱りは覚悟の上です。でも、私はお姉様の力になりたいのです。そのために力を磨いて参りました。決して足手まといにはなりません。どうか! お姉様!!」
目に涙を溜めながら、クリネは懇願する。
妹の真摯な声に、ライカは唇を食み、黙考した。
姉妹のにらみ合いが続く最中、助け船を出したのは宗一郎だった。
「いいのではないか。ライカ」
「宗一郎殿……!」
ライカは驚いた。
宗一郎から言ってくるとは思わなかったのだろう。
実際、本人もらしくない、とは思っていた。
「今から城に帰るのは、少々億劫だ。それにそのレベルなら、問題はないだろ」
「しかし――」
「話は最後まで聞け。たとえ、彼女を城に帰したところで、夜な夜な外に出てモンスターを狩る事になる。もしかしたら、1人でオレ達を追ってくるかもしれないぞ。そちらの方がよっぽど危ないのではないか?」
「た、確かに……」
「そもそもお前が、妹のことをほったらかしていたのが原因だ。きちんと相手をしてやれば、ここまでのことはしなかったはずだ」
「め、面目ない」
ライカの顔から怒りが抜け、急にしゅんと項垂れた。
「ぷぷ……。ご主人、人のこと言えるンですか?」
「黙れ。フルフル……」
「わ、わかった。……同行を認めよう。しかし、危ないと判断すれば、帝都に帰すからな」
「はい! ありがとうございます、お姉様」
クリネは頭を垂れる。
今度は、宗一郎のところに来て、同じように礼を言った。
「勇者様もありがとうございます」
「宗一郎でいい」
「あ、はい。宗一郎様」
「しっかし、珍しいッスね。いつものご主人なら、即座に帰してるはずでしょ?」
ライカも同じ意見らしく、軽く首を縦に振った。
「もしかしてとうとう幼女スキーの道を――あ、痛てッ!」
「違うわ。お前と一緒にするな、ロリコン悪魔」
「じゃあ、何なんスか?」
すると宗一郎はクリネの柔らかな髪に手を置いた。
「姉のためとはいえ、小さな女の子が大人顔負けの努力を果たしたのだ。……オレはレベルアップシステムには懐疑的だが、誰かのために努力することは嫌いではない」
「はあん。……やっぱ意識高い系の理由でしたか」
「別にこれは意識が高くないと思うが……」
宗一郎とフルフルが口論をはじめると、鈴が鳴ったような笑い声がキャンプ地にこだました。
見ると、クリネが笑っている。
「何がおかしい?」
「いいえ。宗一郎様はもっと苛烈な方だと思っていましたから。少し意外に思っただけです。本当はユーモアのある方だったのですね」
「ユーモア?」
「あははは……。ご主人がユーモアなんて」
フルフルは地面を叩きながら、爆笑している。
むかついたので、思いっきり踏んづけてやった。が――「もっと踏んでくれッス」と逆効果だった。
「と、ともかく道中よろしく頼む」
「はい。宗一郎様」
満面の笑みで、クリネは答えるのであった。
――しかしオレはいいが……。あの子煩悩の皇帝が知ったら、卒倒するだろうな。
慌てる皇帝の顔が、目に浮かぶようだった。
というわけでクリネも参戦です。
この後、予定にはなかったのですが、「おまけ」の話を急遽書かせてもらいました。
1000文字程度ですが、お付き合い下さい。
更新は本日21時の予定です。
※ 週間ランキング45位。月間も170位まで上がってました。
マタモヤ オシッコ チビリソウ……。
皆さんのおかげです。ありがとうございますm(_ _)m
感謝を込めまして、また週末に複数話あげられるよう調整してます。
そちらも楽しみにしていて下さい。