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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

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第24話 ~ 随分と理想が高いことを申し上げるな ~

外伝Ⅳ第24話です。

よろしくお願いします。

 銀の扉が開く。


 金属の遠吠えが響く中、ジメルは玉の間をまたいだ。


 また扉が閉まっていく。


「ジメル様」


 見ると、部下たちがぞろぞろ集まっていた。

 皆一様に額に汗を浮かべている。


 怒りに猛るもの。

 目に疑念を宿すもの。

 心配そうに見つめるもの。


 反応は様々だ。


 ジメルは「ふん」と鼻を鳴らす。


「王はなんと……」


 ある家臣が尋ねた。


 ジメルは1度瞼を閉じ、黙考する。


 やがて目と口を開いた。


「栄転だ」

「は?」


 家臣は思わず声を上げた。

 他の者も首を傾げる。

 奇人でも見るかのうように、すでに国務大臣ではなくなった男を見つめる。


 ともかくホッと胸をなで下ろす。


「そ、それはようございました。王は寛大なご処置――」

「これも、日頃のジメル様の忠誠故でしょ」


 安堵の空気が広がる。


 ジメルは口角を上げて、笑った。

 どこか悪戯っぽい……。


「場所は地獄だがな」

「あ、え?」


 ジメルは歩き出す。

 家臣の制止を振り切った。

 廊下を歩き出す。


 戸惑う家臣たちは、その背中を見送るだけ。

 ついていくものは誰1人いなかった。




 執務室に戻る道中。


 ふと足が止まった。

 革靴の先を揃え、俯き加減だった顔を上げる。


 茶色の瞳を前方へと向ける。


 まるで示しを合わせたかのように家臣の姿がない廊下。

 そこに2人の人物が立っていた


 1人は召使いだろう。

 元は冒険者だろうか。

 召使いの服を着ているが、立ち姿は武人なごりが残っている。


 黄緑色の鋭い眼光を飛ばしていた。

 そこに一切の物怖じはない。

 今から、一戦交えようか――そんな気迫すら感じられた。


 その前に立ったのが、白いドレスを着た少女だった。


 大柄な召使いと比べて、背は低く、華奢。

 補装具(コルセット)で固めた腰はキュッとして、軽く抱きしめただけで折れてしまいそうなほど細い。


 前でクロスさせた指先もまた長く、楚々としていた。


 しかし、何よりも目を引くのは、目と髪。


 シーツを広げたような白髪。

 赤ん坊の唇を思わせるようなピンクの瞳。


 その姿は異質であった。

 しかし、ハッとさせるような美しさがあった。

 天使と言うよりは、ジメルには悪魔的に映った。


 ローラン・ミリダラ・ローレス。


 この国の唯一の姫君。


 後ろに控えたのは、最近雇ったというメイドだろう。

 先日会った時も、側に控えていたのを思い出す。


 2人はジメルを待ち構えていたように廊下の真ん中を占拠していた。


 本来なら、家臣(ジメル)が道を譲る場面だ。

 しかし、あえて踏み出す。


 王女に向かって歩き出した。


 目の前に立つ。

 陰険とよく人に称される茶色の瞳を、王女に向けた。


 こうして立ってみると、改めて王女の身体は小さかった。

 こんな少女が自分の人事を決める1つの引き金になったのだ。

 そう思うと、その容姿を含めて、多少なりともジメルの腹に憤りが渦を巻いた。


「私に借りを作ったおつもりかな? 王女」


 ローランは小さな肩をすくめた。


「そう思うなら、ジメル……。ローレスのために働いていただけないですか?」

「言われずともそのつもりです。……しかし」

「何?」

「良いのですか? あなた自身の問題は解決されていませんよ」


 ジメルが言うのは『忌み子』のことだろう。


 2年後、厄災をもたらすとされるローランの存在……。


 それを良く思わない人間がいる。

 いや、王城のほとんどの人間がそうだ。

 故に彼女は、13年間ずっと孤立してきた。


 迫害の目にさらされ続けてきた。

 その急先鋒が人族主義者のジメルだった。


「私なら、その動きを止めることが出来る。そう思って、あなたは私を抱き込もうとしたのですか?」


 ふふふ……。


 ローランは口を押さえて笑った。

 華やかだった。


「それが目的ならもっとあなたに飴を与えていたと思うけど……。それはあなたもわかっているんじゃないの?」


 そうだ。

 王の前でも思ったが、自分を懐柔するならもっと甘い対処があったはずだ。


 国務大臣は続投させ、俸禄の一部を返還する。

 そんな差配も出来たはず。


 彼らは王室だ。

 少数でこの国を動かしうる力を持っている。

 右と言えば、国民全員が右を向くような絶大な権力を。


 王が続投といえば、誰も何も言わなかっただろう。

 王室に近い家臣から、少し不満が出る程度だ。


 しかし、ラザールもローランもそうしなかった。


 国内問題と同等に、王女の立場の回復が急務であるはずなのに……。


 何故だ……。


 玉の間を出ても、ジメルがスッキリしなかったのはそこだった。


「ジメル」

「はっ」

「この度の1件で1つ私が決めたことを聞いてくれる」

「…………。聞きましょう」


 ローランは1度息を整える。

 軽く咳を払った。


「私はね。王室の人間として、この国に生まれた。だから強大な権力を持つ人間として、この国を強くしたいと考えているの」

「この時代に兵を挙げようというのですか?」


 モンスターが跋扈し、外征が難しい世界情勢の中。

 それはマキシアを説得する以上に、困難なことだ。


 王女は静かに首を振った。


「違う。備えるのよ」

「備える? 何に?」

「2年後に起こるといわれる厄災に……」

「……」

「厄災は起こらないという者もいる。一方で、忌み子である者を追放し、あるいは殺し……。回避しようと考える者もいる」


 ジメルの目が光る。

 顎に力を入れて、ぐっと口を閉じ、王女の言葉を聞いていた。


「その運命を私は呪ったことはない。けど、王室の人間としての立場に立った上で、その予言から目をそらしていたのは事実よ」

「それと向き合うと」

「そう――。きっかけはね。私のメイドが与えてくれたんだけどね」


 ローランは振り返る。

 側に控えたメイドは、視線に気づき、頬を染めた。


 軽く目をそらす。

 王女は微笑した。


「だから、この国を万全の体制にする」


 大きく言い放つ。


「危機と言っても、この国が滅びるとは占術師もいっていなかった。だから、私が強い国にする。列強の国が攻めてきても、万のモンスターが現れても、びくともしない国を。それが私の使命。王室の人間としての――人々の上に立つ者として、特別な存在である王の務めよ」


 ジメルの片眉がぴくりと動く。


 王の仕事とは何か……?


 実にシンプルだった。


 自分の国を強くする。


 だが、王女の言葉はこと単純なものではない。


 兵力を強くする意味でも、経済を強く意味でもないのだ。


 危難の前にして、揺るがぬ国作り……。

 それこそがローランの――。


 否――。


 王の仕事だ……。そう言ったのだ。


「なるほど。確かに……」


 ジメルは口端を広げた。

 王女に悟られぬほど、微妙に。


 その通りだ。


 2年後に危機を迎えるなら。

 国を想う人間として、国内で争っている場合ではないのだ。


 改めてジメルはローランを見下ろす。


 ピンク色の瞳が強い輝きを放ち、自分の方へと向けられていた。


 忌々しい光だった。


 しかし――。


「悪くはない、か……」

「え?」

「なんでもありません。ただ――」

「?」

「随分と理想が高いことを申し上げるな、と思っただけです」


 ピンク色の瞳がくるりと丸くなる。


 そして「ぷっ」と吹き出す。

 王女は声を上げて笑った。


 一本道の廊下に軽やかな音色がこだます。


 陽光が窓を透過し、祝福を授けるように光が広がっていく。


「ジメル」

「はい」

「そういうのはね。意識が高いというのよ」

「意識が…………たかい…………」


 ジメルは首をひねる。

 ちょび髭を親指でこするように口を押さえた。


 ローランの後ろで、ユカは肩をすくめた。


 やがてジメルは言った。


「悪くはない言葉ですな」

「気に入っていただきありがとうございます」


 ローランは笑う。

 やはり華やかだった。


 そして道を譲る。


 ジメルは歩き出した。

 それは彼の言うとおり地獄への道。茨の道。


 しかし、ローレスを支え続けてきた男の足取りは、どこか弾んでいるように見えるのだった。


まさかの意識高い発言w

ジメルこそ似合いそう……。


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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