第13話 ~ レベル1のままで、この世界を救うというのか!? ~
第13話です。
よろしくお願いします。
1ヶ月後――。
いよいよ出発という段になり、宗一郎、フルフル、そしてライカの3人は、皇帝に別れを告げるため、謁見の間を訪れていた。
家臣や、領地へと帰った諸侯に代わってライカが指揮する近衛兵が、脇を固める。ロイトロスなどは、すでに泣いていて「ひめぇ、ひめぇ」とまるで羊の鳴き声みたいに繰り返していた。
皇帝が謁見の間に現れると、厳かな空気に包まれる。
3人は膝をついて頭を垂れた。
玉座につくと、肘掛けに腕を預け、いつものように頬杖をついた。
「おもてを上げよ」
3人は同時に顔を上げた。
「良い顔をしておる。目標が定まった若者の顔だ。……長いようで短い1ヶ月であったが、良い準備が出来たようじゃな。――どれ、ステータスを見せてもらおう」
側に控えた魔法士に指示し、魔法によって3人のステータスが開示される。
ライカ・グランデール 職業 姫騎士
体力 : 1123
魔力 : 406
レベル : 089
フルフル 職業 戦士
体力 : 883
魔力 : 00
レベル : 50
「ほう……。1ヶ月の間――。よく仕上げたものだな」
この1ヶ月間、ライカが付きっきりでレベル上げを手伝った。
ジョブも、ギルドへ行き登録したものだ。
さすがにオーバリアントを出歩くのに、すっぴんでレベル1のままにしておくわけにはいかない。
しかし――。
「うん? おかしいな? 何かの間違いではないか?」
皇帝の顔が怪訝に歪んだ。
魔法士に再度確認させたが、その数値は間違いないと断言する。
「勇者殿……。これはどういうことだ? レベルがちっとも――というより、レベル1のままなのだが」
杉井 宗一郎 職業 なし(すっぴん)
体力 : 14
魔力 : 05
レベル : 001
「その通りでございますが、何か?」
「何か――とは……お主。レベル1でどうする気だ? ライカやフルフルに戦闘は任せるということか?」
「……必要であれば、戦うつもりです」
「そなたの強さはわかっておる。しかしオーバリアントにおいて、レベル1で城外を出歩こうというのは、些か無謀がすぎるのではないか?」
やれやれ、と宗一郎はあからさまに息を吐いた。
「陛下……。異な事をおっしゃいますな。考えてもみていただきたい。わたしはレベルシステムを否定する立場の存在です。その存在が、レベルの恩恵に与っては、女神に笑われてしまいます」
「ならば、そなた……。レベル1のままで、この世界を救うというのか!?」
皇帝は身を乗り出して尋ねた。
すると――。
「むろん」
謁見の間に凜と響く。
話を聞いていた家臣や兵たちに動揺が広がった。
そして誰かがこう叫んだ。
「そんなのは不可能だ」
と――――。
それを聞いた瞬間の勇者の顔を、皇帝ははっきりと捉えていた。
その上で、オーバリアントの帝国の長が、ゴクリと唾の飲んだのである。
目の前の男の顔は、人なのかどうかも怪しかった。
凄惨というか、悪魔じみているというか。
ただ1つわかるのは、宗一郎が歓喜に震えているということだ。
皇帝は手を挙げて、聴衆を静める。
そして矛先を愛娘へと向けた。
「ライカはそれでいいのか?」
「私は検分役です。その判断を下す時が来るまで、宗一郎殿の命を守るつもりで陛下に進言いたしました。すでに宗一郎殿の盾になる覚悟は出来ております」
「し、しかしだなあ……」
「てっきりわたしは、そのためにライカ殿を遣わしたのだと理解しておりましたが……。違うのでしょうか?」
宗一郎が追随する。
皇帝がグッと奥歯を噛みしめた。
揺らいだ心を静めるように大きく息を吐く。
「まったく……お主も頑固だな。お前たちは良いコンビになるであろう。……ああ、フルフル殿……。こういう者を、天界ではなんと言ったか?」
「意識が高い――ッスね」
「なるほど。精神は気高いというか何というか……。まあ、良いか……」
とうとう皇帝は降参した。
「あい。わかった。これ以上は追求はせぬ。くれぐれもライカのことを頼むぞ。勇者殿」
「はっ」
宗一郎は頭を垂れる。
皇帝から隠れた顔には、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ところで目的地は定まっておるか?」
「ひとまずは他国の様子を見て回ろうかと……」
「特には決まっていないということか。ならば、ちょうどいい。勇者殿にお願いしたいことがある」
「私が出来ることであれば……」
「我が城から遠く東の地に、モンスターでありながら居城を構えるものがいる。調べたところ、先日のスペルヴィオもそこから現れたのではないかという報告も届いておる」
「おお! もしかして魔王の城ッスか?」
フルフルが目を輝かせた。
「まおう?」
「モンスターの王のことを天界ではそう呼ぶのです」
宗一郎はすぐフォローに回る。
「是非ともそなたたちには、その城の偵察してきてほしい。ただしくれぐれも中に入ったりなどするなよ」
「どうしてでしょうか?」
「き、危険だからに決まっておろう」
「承知しました」
応じたが、宗一郎は行く気満々だった。
それに自分が行かなくても、横で「はあはあ」と意味不明なあえぎ声を漏らす悪魔なら、全力で突っ込んで行くだろう。
それに本当に魔王というものが存在するなら、興味がある。
「では、行け! 若人よ」
号令を出す。
3人は翻り、謁見の間を後にした。
が、途中で宗一郎だけ、皇帝に呼び出される。
人払いをして、別室で2人っきりになった。
皇帝はいささか焦っている様子で、謁見の間の横の控え室を行ったり来たりしている。
「まだ何かあるのですか? 陛下」
「しらばっくれるでない。……大丈夫なのであろうな、お主」
「ライカ殿ことがご心配ですか? ならば、今から彼女を検分役から外されては如何です?」
「それが出来るなら、とっくにやっている。だが、あの子が聞くはずがない。一度決めた事は決して覆さない娘だ。……ああ、折角お主に近づくお膳立てをしたというのに」
があー、がなり立てながら、皇帝は髪を掻き毟った。
「やはりわざとだったのですね」
「はっきり言っておこう。余は別にライカとお主が結ばれても良いと思っている」
本当にはっきり言った。
本来赤面する場面であっただろうが、あまりにはっきり言うものだから、羞恥心を忘れて、呆れてしまった。
「公爵家と円滑な仲を結ぶためには、彼女とマトーとの婚姻は必要不可欠と思われますが」
「勇者殿はお若いようでいて、堅いのう。確かに皇帝としてはその方がよい。しかし父としては、あのマトーなる小僧に大事な愛娘を預けるのは忍びない」
「問題発言ですよ」
「だから2人の時に言っておる」
皇帝は完全に開き直っていた。
「余とて一介の父親だ。娘が望んだ相手と、結婚させてやりたい」
「……?」
――なんだ? オレが勇者だから、手駒として加えたいということではないのか。
宗一郎はぽかんと首を傾げていると、皇帝は眉根を寄せた。
「なんだ? 勇者殿は何も気付いておらんのか?」
「はあ……」
「かああー。これだから出生率の問題が叫ばれるのだ」
「しゅ、出生率?」
――何故、今出生率の問題が出てくるのだ。
「良い。今のは宿題だ。……帰ってくる前に答えを出しておけ」
どうやらこの皇帝……。
宗一郎が思っている以上に――いや、宗一郎が思い描いている皇帝像とはまた違うようだ。
「とにかく……。ライカを頼むぞ。場合によっては、そなたの命よりも大事なのだ」
「一国の皇帝の発言とは思えませんな」
「だから、そなたと2人の時に話しているのだ」
それなりに信頼はされているらしい。
異世界で最大の勢力を誇る皇帝が、信頼している。
悪い気はしなかった。
「わかりました。身命に変えましても」
最敬礼で、皇帝の意志に答えた。
というわけで、レベル1で攻略決定です。
明日も18時更新予定です。