プロローグ ~ 最強を倒す準備は出来ているか? ~ (2)
どんどん参りますよ!
「で――。最後の“核”はどこにあるんだ?」
地下基地を下へ下へと降りていきながら、隣でスキップする契約悪魔フルフルに尋ねた。
「悪魔を便利なスマホ扱いしないほしいッス? ご主人なら、土と風の精霊を使って、エコー計測するなんて造作もないことしょ?」
「便利だから、お前と契約しているのだ!」
「そんな! フルフルを便利な女扱いするなんて! あの燃え上がるようなサバトの夜は何だったんスか!? 一発やったらポイなんスか!? やり逃げダイナミックっスか!?」
「サバトの夜ってなんだ!? 人をヤリチンみたい言うな。オレはお前の主人だぞ」
「じゃあ、セックス●って言えばいいんスか?」
「どこを伏せ字にしとるのだ!!」
――いかんいかん。
宗一郎は首を振る。
このフルフルという悪魔――本人が自称するように72柱の眷属の1匹なわけだが、どうもやりとりが天然すぎて調子が狂う。
火と雷を操る他に、宗一郎にとっては非常に便利な能力を備えていた事から、対価を差し出し契約した。
しかし、主人を主人とも思わない言動。マイペースな性格。今では、この契約が正しいのかどうか本気で悩んでいた。
悪魔の性格は、契約者の深層意識とリンクすると言われている。
自分にこんな奔放で、すぐに「だるい」なんて言う言葉を口にする気持ちがあると思うだけで、身の毛がよだつ。
心の「遊び」も、停滞を示唆するような言動も、宗一郎にとっては以ての外なのだ。
だいたい「テレビゲームする時間を宗一郎が死ぬまで与えてくれ」などという対価からしてふざけている!
子供の時には熱中したものだが――あれほど無駄に時間の浪費するものはない。経済学者の1文字も役に立たない論文を読んでいる方が、よっぽマシだ。
主従のやりとりとは思えぬ会話をしながら、2人は最下層に辿り着いた。
「おおう!」
岩盤を大きく刳りぬいた広いスペースに入ると、フルフルは思わず歓声を上げた。
「すごいすごい。B83に、WE.177。TN81。シクヴァルもある! おお! これなんてRDS-220ですよ。こんなのまだ残ってたんだ? あれ、ご主人どうしました?」
「ああ、ちょっと頭痛がな」
――ちっ! まだこんなに持ってやがったのか……。
宗一郎の目の前にあったのは、白や黒、緑に塗装された核爆弾、核ミサイルだった。もちろん、信管がついていて、今すぐにでも運用可能なものばかりだ。
ざっと1000本はあるだろ。
全部起爆できれば、もしかしたらアフリカ大陸の地形を変えることができるかもしれない。
そんな恐ろしい量。
テロリスト1000人の方がよっぽど可愛げがあるというものだ。
これまで宗一郎は、世界のあちこちに行って核兵器を無力化してきた。
そしてここが最後だったのだが、せいぜい残っているのは、100にも満たない数字だと思っていた。だが、目の前には予想の10倍の量があって愕然とした。
各国が提出した保有量と生産量に、虚偽があったと言わざる得ない。誤差の範囲内を明らかに超えていた。
「しかし、お前……。核に詳しいんだな」
さすが悪魔と言いたいところだったが、得意満面のフルフルが差し出したのは、ゲームのパッケージだった。
「むふふ……。最近、これにはまってるんスよ。『大戦略――第三次世界大戦 決定版』。外交交渉で、如何に核を使うことに正当性を訴えるかがゲームの肝なんスよ」
また頭が痛くなって、宗一郎は眉間を押さえた。
「もういい……。とっとと無力化するぞ」
「ああ、待って下さいッスよ。写メ撮って、ツゲッターに投稿するッスから……。『核兵器となう』っと――。これでよし」
――『よし』じゃない……。
宗一郎は三度頭を抱えようとして、動きを止めた。
満足そうに写真を見ていたフルフルも、ぱちくりと瞬きして、顔を上げる。
影が揺れた。
現れたのは、短髪に刈り上げた東洋人だった。
顔には大きな琥珀色の眼鏡。顎髭を生やし、黒のタンクトップに臙脂のストールを巻くという、一見奇妙なファッションセンスを光らせている。肩幅は小さく、鼠のように出っ歯が出ていた。
「お前、魔術師だな」
「おうおう。あんたがここに来たってことは……。上の連中はミスったってことか……。ま、初めっから期待してなかったけどな」
「質問に答えろ」
「さあて、んじゃ――俺からのクエスチョン!」
どうやら話を聞かない男らしい。
「あんた……。現代最強魔術師を名乗ってるってホント?」
「答えてやってもいいが、その前にオレの質問を――」
「ああ、ダメだよ。それ名乗っちゃ。……最強はこのオレだからさ」
うざい……。
宗一郎は顔をしかめた。
だが、最初に仕掛けたのは向こう側からだった。
手を大きく広げる。
途端、魔術師と思われる男は燃え上がった。
宗一郎はまだ何もしていない。
男自ら、身体を燃やし始めたのだ。
「自滅……?」
「ぎゃああああ! くせぇ!!」
フルフルは鼻を摘まんで、手で空気を払う。
「どうした? フルフル……」
目の前に火柱が立っていても、宗一郎の鼻腔にはかすかなオイルの匂いしかしてこない。若干気温が上がったぐらいだ。
「くせぇッスよ。そいつ。……もう人間じゃないッス」
「見ればわかる」
「ああ。そういうことじゃなくてですね」
そいつ、もう人間超えちゃってるッス。
「何ッ!!」
瞬間だった。
火柱は、人の形をなす。
巨大な火の化身は、咆吼を上げながら一本道をツッコんでくる。
宗一郎は逃げる間もなく、炎の腕に捕まった。
「――――!」
一瞬、身体を支配した激痛に、宗一郎は悲鳴すら上げられなかった。
推定1000度以上の炎。
消し炭になってもおかしくない。
しかしそこは現代最強魔術師……。
再生魔術をフルに使い、火傷した傍から回復していく。
驚くべきは、男が炎の塊になったことではない。
因果をコントロールする力が、この魔術師には効いていないということ。
「宗一郎に触れることは出来ない」という結果が、空間上を支配しているのに、火の化身はやすやすと己の身を掴んできたのだ。
「ご主人……。さすがに因果をコントロールするなんてちょこざいな魔術は、こいつには効きませんよ。なんせ、そいつ――」
熾天使ッスから……。
「な――! そういうことは早く言え!」
「今、言ったじゃないですか。割と最速のレスポンスっスよ」
“ひゃはあああああああ! そこの悪魔ちゃんはよくわかってんじゃん”
炎の中から先ほどの男の顔が露わになる。
「そうよ。俺様は天使よ。天使ちゃんなのよぉ。だから、てめぇをさ。燃やして燃やして燃やし尽くすちゃうんだよ!」
一層、炎が激しくなる。
だが、宗一郎は涼しい顔をしていた。
「なるほど。……お前がただの調子乗りではなく、魔術の秘奥を究めた魔術師であることはよくわかった」
「だろだろ! だったら、とっとと燃えちゃいなよ!!」
薬か何かをキメているのだろう。
“イった”目をギラギラと光らせ、舌なめずりをする。
「ご主人……。代わるッスか?」
「…………」
宗一郎は急に黙り込む。
ぐるり、と首だけを向けた。
「 あ"ぁ"? 」
抑えた怒りの表情は、悪魔であるフルフルの背筋すら凍らせた。
「こんなにもオレの経験値を上げてくれそうな相手を、なぜお前なぞに委ねばならん……?」
「ぶれないッスねー。相変わらず意識高いッス、ご主人」
「当たり前だ。オレが現代最強魔術師だぞ。いや、まだ名乗れないか……」
「ああ??」
首を傾げる熾天使に向き直り……。
「よおし。オレに珍しく逆らってきた魔術師よ。……ここは1つ、オレと“最強”の座をかけて勝負をしよう」
「おお! いいねぇ! でも、ここからどうすんのよ、お兄さん?」
「急かすな、魔術師。本番はここからだ」
「は――?」
宗一郎は炎にまみれながら、目をつぶった。
集中する。
再び瞼を持ち上げた時、茶色の瞳の奥で魔法円が浮かんだ。
最初は冷たい光を放つだけだったが、次第に照度を上げていく。
赤い炎を凌駕し、辺りに青白い光だけが広がる。
炎の熾天使は「おい……」と吠声を上げる。
宗一郎は呟く。
「破れ!」
瞬間、鞭を打ち鳴らすような音が響く。
宗一郎を掴んでいた炎の手が弾けた。
熾天使はのけぞる。
炎にまみれて、表情こそうかがい知ることは出来ないが、驚いているように見えた。
対する宗一郎は、大して灰も塵もついていないスーツを払い、襟を正した。
ちょっと中途半端ですが……。
※ 次は18時に投稿です。
【告知&宣伝】 『カウントダウン投稿』 2016年7月11日
ダッシュエックス文庫様より新作『嫌われ家庭教師のチート魔術講座 魔術師のディプロマ』が
7月22日発売予定です。
それに伴いまして、発売日の1週間前である7月15日より
小説家になろう様にて、
作品の前日譚をカウントダウン投稿していこうと思います。
題して『嫌われ家庭教師のチート魔術講座 前日譚 ~ メゼン・ド・セレマの住人たち ~』です。
世界観と主人公は発売される本作と一緒です。
主人公鍵宮カルマが、本作の舞台となる天応地家にたどり着くまで一体どんな(ニート)暮らしを
していたのか。その実態が明らかになります。
『嫌われ家庭教師のチート魔術講座』を買うのを迷っているそこのあなた!!
よろしければ、本作を読んで決められてはいかがでしょうか!?
本作ともどもよろしくお願いします!!