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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

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第17話 ~ 王なんて無価値とは思わないのか! ~

外伝Ⅳ第17話です。

よろしくお願いします。

「くっそ!」


 大きな声が王女の自室で響く。


 悪態を吐いたのは、大きな女だった。

 黒のワンピースに、ヒラヒラが付いたエプロン。

 格好は可愛いといえるのに、肩をいからせ、さらに地団駄を踏む。


 もはや猛獣を越え、怪獣の域に達しようとしていた。


 ローランは自分で入れたお茶を口にする。


 カップを皿に戻すと、テーブルに置いた。

 悠長にしている主を、ユカは睨めつける


「あれは昨日のあてつけか?」

「もしくは忠告かもね」


 ローランは肘掛けにひじをつく。

 やや膨らんだ頬を置いて、頬杖をつく。


 ユカはガリガリと頭を掻く。

 出会った時よりも、その作法が荒くなってきている。


 これが彼女の地なのかもしれない。


「こう言ってはなんだが、ローランは王女なのに、家臣に舐められ過ぎているんじゃないか?」

「言わなくてもわかっているわ」

「どうする? このまま見ていることしか出来ないのか!?」


 ユカは怒鳴る。

 今にも腰に差した剣を持って、飛び出していきそうだ。


「落ち着きなさい」

「主犯はわかっているんだ。あのジメルっていう国務大臣なんだろ?」

「それはまだ確定じゃない」

「ローランは王女だろ? 王室の人間だろ? この国で偉いんだろ?」

「…………。王家の血は……権力を振りかざすためのものじゃない」


 ローランは首を振る。


 そこに確かな意志が宿っていた。

 しかし、ユカは止まらない。


「なら、いつ使うんだ。それとも飾りか?」

「…………」

「罪のない人間を捕まえられるのを制止も出来ない権力なんて! 王なんて無価値とは思わないのか!」


 ユカは言い放った。


 ビリビリと空気が震える。


 ローランは何も言わなかった。


 わからなかったのだ。


 王という存在が。

 王室という組織が。

 王女という立場が……。


 黒星まなかにとって、王とは小説の中の存在だった。


 むろん、現代世界でも「王国」はあった。


 だがニュースで取り上げられ、教科書の中で教えられる国の政治体系は、すべて民主主義や社会主義の国だった。


 つまり民が国を動かしていた。


 ローランははたと気づく。


 きっと自分がこの国で浮いていると思えるのは……。



 自分に王女だという自覚がないからなのだと。



 小さい時だったか……。


 1度だけマキシアの皇女に出会ったことがある。


 自分にはない美しさ、上品さ、気品があった。

 なにより覚悟があった。


 皇女としての覚悟。

 自分が特別である覚悟。


 さして自分と年は変わらないのに、彼女たちにはそれが存在した。


 憧れた……。

 けれど、羨むことはなかった。


 どこか――。

 自分にはあまりにも遠すぎるものだと思えたからだ。


 今、ユカに言われて気づいた。


 覚悟はともかく……。


 自分は王女なのだ、と……。


「ユカといると。色々な事に気づかされるわね」


 ローランは目を細め、口端を広げた。


 柔らかな微笑みだった。


 ユカはキョトンとなった。

 怒りがすっと消えていく。


 王女の笑顔には不思議な魔力があった。


 次に口を開いたのは、ローランの方だった。


「ユカ……」

「なんだ?」

「今、ジメルを糾弾しても、返り討ちにあうのがオチよ」

「だけど――」


 ローランは手で制した。


 1本指を立てて、唇に当てる。

 シー、と言って、顔を寄せるようにいった。


「最悪。あなたも捕まることになる」

「望むところだ」

「悲しいこと言わないで……。これ以上、私の友達を奪われたくない」


 ローランは上目遣いに願った。

 ピンク色の瞳に潤みが帯びる。


 ユカはぐっと息を呑んだ。


「では、どうするんだ?」

「まずは言質を取りましょう。彼が主犯だという確実な証言を掴むの」

「あいつの部下を締め上げるのか?」


 そういうのは得意だ、と言わんばかりにユカは拳を鳴らす。


 ローランは首を振った。


「そんな乱暴なことはしない。簡単に吐くとは思えないしね」

「でも――」

「私たちがするのは、その1歩手前」

「結局、荒事じゃないか」


 ユカは苦笑する。


「何をすればいい」

「“語るに落ちる”って言葉は聞いたことない?」

「ローラン語だな」

「私の故郷の言葉よ」

「ほう」


 ユカは口角を上げた。




   ※    ※    ※    ※    ※    ※    ※ 




 朝から昼にかけて覆っていた雲は、夜になってようやく晴れた。


 どんよりとしていた空に、満天の星が輝く。


 それでもオーバリアントの夜は暗い。


 特に西地区は、墓地と安アパートが建ち並ぶ。

 地価も安いことから、貧乏人が多く住んでいた。


 皆、油を惜しんで、陽が暮れる頃には寝てしまう。

 1軒の居酒屋もなく、地区それ自体が眠りにつく。


 活動的なのは、夜行性の小動物ぐらいなもの……。

 時々、縄張り争いをして、激しく鳴き喚くぐらいだ。


「薄気味悪い夜だな」


 西地区に点在する1堂の教会。

 裏口前に顔を出した司祭ムルネラは、外を見て思った。


 もう何年も花も葉も開いていない枯れ木が見える。

 やせ細った枝に、1羽の黒い鳥が止まっていた。


「ガアアア!」


 嘴を開き、黒い羽根を舞い散らし、飛び立っていった。

 ムルネラが鳥を目で追う。

 東へと飛んでいった。


「まあ、いつものことか……」  


 肩をすくめる。


 重い鉄靴の音が響く。

 振り返ると、大きな甲冑騎士が立っていた。


 小心者のムルネラはびくりと全身を震わせる。


 フルフェイスの兜の奥から声が聞こえた。


「いけそうか?」

「え、ええ? 大丈夫です」


 商人のように手を揉む。


 すると次々に甲冑姿の騎士が現れる。

 2人1組になり、何やら運んでいた。


 棺桶だ。

 手甲で固めた手が、赤や青、あるいは緑と様々な色の棺を持ち上げていた。


 様子をうかがいつつ、外へと運び出す。

 裏手に止めていた馬車に次々と運んでいった。


「しかし、急ですなあ。今回のご用命は」


 黙れ、というようにフルフェイスをムルネラに向ける。

 司祭は悲鳴をこそ上げなかったが、大きく口を開けた。


「お前は黙って我々に死体を預ければいいのだ」

「承知しております。ところで――」

「報酬はまた後で別の者が持ってくる。証文もいつもの通り。すぐに用意する」

「左様ですか」


 ムルネラは歯を見せて、満面の笑みを浮かべた。


 話しているうちに作業が終わった。

 幌付きの2台の馬車に、計20基の棺が載る。


「そう言えば、最近妙な人間が現れました」

「妙……?」


 甲冑騎士はムルネラに振り返った。

 表情こそわからなかったが、驚いているようだ。


「ここで処置した人間の1人の『復活の証文』を探しておりました」

「聞いている。獣人の女だったのだろう?」

「ええ……。頭にぴょんと耳が生えた。白いか――」

「その女なら拘束した」


 騎士は一蹴する。


「そうですか。……少し気になっておりまして」

「安心しろ。お前に飛び火することはない」

「左様ですか」

「何度も言うが、我々がここに来たことは内密に。痕跡も消しておけ。責任はもたないからな」

「わかっております」

「あと先ほど忠告した件もだ」

「証文の管理のことですね」

「そうだ」

「心得ております。あのお方にもよろしくお伝え下さい。今後もよしなに、と」


 恭しく頭を下げる。


 騎士たちが馬車に乗り、出発した。


 馬車の車輪の音が聞こえるまで、頭を下げ続ける。


 静かになったのを見計らい、ようやく姿勢を正した。


「まったく小間使いの癖に偉そうにしおって」


 唾を吐く。


 地面には騎士が付けた足跡が残っていた。


「一体誰が証拠隠滅をしているという。この前みたいに証文を見せろ、と言ってくる家族を追い払うのも私の役目なんだぞ」


 足跡を踏み消すように、足踏みをする。


 怒りを露わにしたかと思えば、今度はムルネラは動きを止めた。


 いつもカッと開かれた目を細める。

 エラの張った顎に、手を当てた。


「潮時か……。商売の鞍替えの時期に来ているかもしれんな」


 だが、即決するにはまだ時が必要だ。

 教会を作った時の借金も、もう少し残っている。


 それに1度手を染めてしまった以上、1つ2つ罪を重ねようが結果は同じだ。

 なら、今少し続けるべきだろう。


 ムルネラが入り口側に置いた掃除道具を取り出す。


 布に水を塗らし、木の棒に引っかけて掃除をはじめた。

 しばらく教会内に、床拭きする音がこだます。


 不意に――。


 コンコン……。


 ノックが聞こえた。


 愚痴をぶつぶつ呟きながら、ムルネラは顔を上げた。


「誰がこんな時間に」


 しかも正門ではなく、裏門からだ。

 すでに鍵はかけてある。


 外の人間は無理矢理扉を開けようと外から取っ手を引っ張る。

 激しく錠前が軋む音が聞こえた。


 ムルネラはそっとのぞき窓からのぞいた。


 甲冑の騎士が立っていた。


「ひぃ」


 思わず悲鳴を上げる。

 ぺたりと尻餅をついた。


 見慣れてはいるが、夜の甲冑騎士は不気味なものだ。


 ――なんだろう。忘れ物か……


 ムルネラは顎をさすった。

 考えていると、外から声が聞こえた。


「開けろ、ムルネラ。あの人から確認事項を頼まれた」

「か、確認事項でありますか?」


 恐る恐る尋ねる。


「ともかく開けろ」


 ぶっきらぼうに言い放つ。


 疑念は払うことが出来ない。

 だが、あの人――と聞いては、放置してはおけない。


 ムルネラはゆっくりと錠前を開く。


 甲冑姿の騎士が入ってきてこう言った。


「『復活の証文』を改めろと、我が主が仰せだ」


とうとう明日の投稿で200部になります。

ここまでお読みいただいきありがとうございますm(_ _)m


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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