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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

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第12話 ~ あざといけど、それがいい! ~

外伝Ⅳ第12話です。

よろしくお願いします。

 パレアは倉庫へと続く扉の前にたった。


 手をかざす。

 光を帯び始めた。


 正確には、手の平の中に描かれた紋が光っている。


 同時に扉も輝きはじめる。

 パレアの手に浮かんだ紋と同じ紋様が刻まれた。


 鍵が解錠する音が響く。


「それは古代(エルフ)の魔法か?」


 パレアは取っ手を掴んだ状態で、後ろに振り返る。

 ユカが首を傾げて見つめていた。


「ええ……。そのようなものです」

「魔紋という技術なんだって。簡単な魔法を紋様に呪刻(キャスト)しておくの」

「誰でも使えるのか?」

「資格や身分にも寄りますが」

「でも、鍵を開けるとか、あとはせいぜい水を波立たせたり、小さな火を出す程度しか使えないわよ」

「ほう……」


 ユカは感心する。


「ある一定の用途にしか使えないんですよ。魔紋によって閉じられた扉は、お城の中にいくつもありますが、私が開けられるのはここだけです」

「つまり、この扉を開けることができるのは、パレアだけってことよ」

「なるほど」

「だからって、パレアを襲っちゃダメだよ」

「そんなことをするのは、ローランだけだろ」

「ばれたか……」


 ペコッと可愛い音を立てて、ユカは王女をこつく。

 ローランは小さく舌を出した。


 パレアはくすくすと笑う。

 体重をかけ、重い扉をゆっくりと開いていく。


 金属の悲鳴を聞く。

 ややカビ臭いにおいが扉の奥から吹き込んできた。


 半分ぐらい開けたところで、パレアは中に入る。

 ローランとユカも後に従った。


 入るとそこは暗闇だ。


「む……。何も見えんぞ」


 ユカが言う。

 クレームに応えるかのように小さな光が点る。


 ガラスのケースの中に、ローランが外に出るときに使っていた光蟲(ヤルメ)が入っていた。


 次々と光が点っていく。

 現れたのは、壁のようにそびえる高い棚と広い空間だった。


「ど、どうなっているんだ?」


 入室した瞬間、光が付いたことに、ユカは驚く。

 恐る恐る側のケースに近寄った。

 コツコツと叩くと、中の光蟲(ヤルメ)が羽根を広げて羽ばたいた。

 中には、蟲が好む草が入っている。


「入室すると、光蟲(ヤルメ)に草を与える仕掛けになっているんです」

「ほう……」

「姫様が考えたんですよ」

「ふふふ……。驚いた、ユカ?」

「作ったのはお前ではないのだろ?」

「そ、それはそうだけど……」

「この場合、考えたヤツより作った職人の方が偉い」

「……た、確かに」


 胸を張ったローランの身体が、水分を失った草花のように縮んでいく。


「でも、さすがローランだな」

「でしょ!」


 再びガキ大将のように胸を張った。


「姫様。……えっと。それでどなたの『復活の証文』をご希望ですか?」

「キラル・バーガルよ。わかる?」

「ちょっと待って下さい」


 パレアは頭の耳を手で伏せる。

 ローランから身を守る動作に似ていたが、顔は真剣だ。


 ぶつぶつと呪文のように何やら呟きはじめた。


「何をしているんだ?」


 ユカはローランにそっと耳打ちする。


「思い出しているのよ。キラル・バーガルの書類がどこにあるか?」


 え? という顔をローランに向ける。

 ユカは質問を続けた。


「まさか……。ここにある書類の人間と名前と保管場所を覚えているのか?」

「入る前に言ったでしょ? パレアの記憶力は抜群だって」

「ああ……」

「獣人って頭が悪いってイメージがあるけど、パレアは別格よ。私たち人間なんて足下に及ばないほど賢いんだから」


 まるで我が子を自慢する親のようにローランは目を輝かせる。


 そして揃ってパレアの言葉を待った。


 つと顔を上げる。

 耳からも手を離した。


 まるで取り憑かれたように歩き出す。


 残った2人はその後を追う。

 ただならぬ雰囲気に、ユカは喉を鳴らした。


 が――。


「あいた!」


 いきなり悲鳴を上げる。

 角を曲がろうとして、何故か棚におでこをぶつけたのである。


 頭を抱えて、パレアは蹲った。


「あ、眼鏡!」


 さらに眼鏡を落としたらしい。

 めがね、めがね、と言いながら、床を這いつくばり出した。


 なにやら無性に可愛い。

 むしろ――。


「あざといけど、それがいい!」


 何故かローランはガッツポーズを取る。


「だ、大丈夫なのか?」


 ユカは頬を染めながら、薄紫の髪を掻き上げた。


「たぶん」


 王女は苦笑する。


 しばらくしてパレアは1つの棚の前に立ち止まる。

 おもむろに引き出しを引く。

 中の書類をあさった。


 1枚の紙を取り出す。


「これです!」


 ローランに渡す。


 ユカと一緒にのぞき込んだ。

 2人は顔をしかめる。


「パレア、すまないが……。間違っているぞ」


 申し訳なさそうにユカが指摘する。


「え? そうですか? おかしいなあ。じゃあ、これ!」

「いや、これも違う」

「あれ? あれ?」


 パレアはパニックになって、そこいらを走り回る。


 棚という棚を巡り、引き出しという引き出しを引く。


 しかし――。

 目当ての『復活の証文』は出てこなかった。


「おかしいなあ……」


 パレアは首をひねる。


「地区ごととか日付ごととかに整理されていないのか?」

「一応、閲覧に制限をかける意味で、普通の方法では検索できないようになっているんですよ」

「はあ……。効率がいいのか、悪いのか?」


 ユカは頭を抱える。


「つまり、パレアの記憶力が頼りということだな」

「率直に申し上げて……」


 えへへ……と眼鏡を曇らせた。


 横でやりとりを見ていたローランは、懐から何やら取り出す。

 パレアの前に差し出したのは、襤褸切れだった。


「じゃあ、パレア。これでお願い」

「なんだ、それは?」


 パレアが襤褸切れを受け取るのを見ながら、ユカは尋ねる。


「キラルが身につけていた衣服の一部よ。アスイから拝借したの」

「それを一体……」

「くんくん……。くんくん……」


 不意に声が聞こえた。


 ユカは一抹の不安を感じながら、視線を移す。


 パレアが襤褸切れを嗅いでいた。


「覚えた?」

「はい。姫様」


 シュタッと、軍人のように敬礼する。


 そしてまた……。


「くんくん……。くんくん……」


 周囲を嗅ぎ始めた。


 そんな狼娘の後ろ姿を見送る。

 くんくん、という声は、角曲がってしばらくしても聞こえてきた。


 …………。


「一応、聞くが……」

「なに?」

「パレアは何をしているんだ?」

「キラルがサインした証文には彼の臭いがついているはずよ」

「その臭いが追跡していると?」

「そう――」

「……1つ言っていいか?」

「なに?」


 ……。



 結局、獣人の能力だのみではないか!!



 ユカの叫びは、広い書庫に響き渡るのだった。


予告時間の2時間前に投稿。セーフ……。


明日も18時に投稿します。

よろしくお願いします。


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「嫌われ家庭教師のチート魔術講座 魔術師のディプロマ」の電子書籍版が

各電子書籍サイト様から8月25日より配信されます。

文庫よりも若干お安くなっていますので、電子書籍をお楽しみの方はいかがでしょうか?


数カ所訂正を入れさせていただきましたので、

文庫版も買ったよーという方も、是非読み比べされてくださいw


こちらもよろしくお願いします。

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