表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

193/330

第11話 ~ またモフモフしてあげるね ~

外伝Ⅳ第11話です。

よろしくお願いします。

 パレア・グラトリスは公文書館中央管理室の司書をしている。


 如何にも強そうな名前。

 しかし、姿を確認した人間はたいてい肩すかしを食らうことになる。


 まず背が小さい。

 成長期の女児といい勝負どころか負けてしまう。


 さらに眼鏡。

 鼻先についた赤い痣。

 頭の上に飛び上がった耳。


 そして太く長い尻尾。


 見ればわかるが、パレアは獣人。

 それも比較的知能が高いといわれる狼族だ。


 いわゆる狼女。

 現代でも、ここオーバリアントでも、狼族の性能は畏怖の対象の1つだ。


 が――。

 パレアの姿を見て、怖がる人間はいない。


 むしろオートクチュールの人形……。

 飛びつきたくなるような可愛さを秘めていた。


 椅子にちょこんと座り、受付業務をしている姿は、町中でひなたぼっこしている小動物並のリラクゼーション効果があった。

 本人は知らないが、城内では密かにファンクラブが結成されるほどの人気だ。


 中央管理室でいつも通り、業務をこなしていたパレアは、ふと窓を見た。


 空が暮れなずみはじめている。

 太陽(バリアン)が西に没しかけていた。


 もうすぐ業務もおしまいだ。


 軽く鼻歌を歌いながら、受付台の下で今日の利用者の確認をする。


 こんこん……。


 不意にドアが鳴った。

 王城と公文書館をつなぐ唯一のドアである。


 もう1度、窓の外を見る。


「こんな時間に何の用だろ?」


 手続きに時間と手間がかかる重要公文書の閲覧とかならイヤだな、と思った。


「どうぞ」


 パレアは声をかけた瞬間、2人の少女がなだれ込んできた。


 1人は見覚えがある白髪の若い少女。

 もう1人は知らないが、しなやかなプロポーションに女中の服を着た女性。


 両人に共通していること。

 それすなわち「美しい」ということだ。


「姫様!」


 パレアは素っ頓狂は声を上げる。


 当の王女は肩で息をしている。

 隣の女性も同様だ。


「ど、どうしたんです?」


 パレアは受付を回って、急ぎ王女に近づいた。


「こ、こんにちは、パレア。まだ開いてるかしら?」

「え? ……ええ。まだ開館してますけど」

「まったく……。意地を張らず、誰かに聞けばよかったんじゃないのか?」

「なんて説明したらいいかしら。レコードの専門店とかいった時に、店員に聞くんじゃなくて、自分で探し出したいって時ない?」

「だから、ローラン語はわからん!」

「もしかして、姫様……。また道に迷われたのですか?」


 パレアは間に入る。


「王の家系であるこそ、城内の風紀を取り締まる必要が――」

「素直に迷ったといえ」

「そうともいうわね」

「ぬぬぬ……」


 舌を出して戯けるローラン。

 それを見て、怒髪天を衝くメイドの女性。


 パレアはくすくすと笑った。


 それを見ながら、2人は――。



 カワイイ……。



 と声を揃える。


「ところで、もう1度聞きますけど、何をしに来たんですか?」


 しばらく狼娘(おおかみむすめ)に癒やされていた2人は、我に返った。


「パレア、ある人の『復活の証文』がここにあるはずなのよ」

「『復活の証文』ですか?」

「それを探すの手伝ってくれないかしら?」

「もしかして今から……」


 パレアは後ずさりする。

 顔が青ざめていた。


「もちろん!」

「もうすぐ閉館時間なんですよ!」

「そこは私とパレアの仲ということでどうかしら」


 ローランは笑った。

 爽やかとはほど遠い。

 どこか威圧的な笑顔……。


 小さな狼娘の顔が青ざめる。

 尻尾と一緒に首を振った。


「ダメですよ。私が司書長に怒られてしまいます」

「そんなことをいわずに、ほらほら……」


 パレアの背後に回り込むと、頭の上に飛び出た耳に触れる。

 さわさわと優しく撫でた。


 途端、パレアの顔がみるみる赤くなっていく。


「あ……。あ…………。そ、そこは……。ああ…………」


 3人しかいない中央管理室で、狼娘の喘ぎ声が響き渡る。


「ほれほれ……。ここもいいんでしょ」


 さっきからかすかに「やめて」という声が聞こえる。

 だが、ローランは訴えを退け、さらに狼の耳をいじった。

 むしろ嗜虐心をくすぶるらしい。


「す、すいません……。た、たすけてぇええ…………」


 ついにパレアはまだ名前を聞いていない女性に手を伸ばす。

 目には涙が浮かんでいた。


 女性は何故か顎に手をついて、考え込むように視線を送っている。

 小首が少し斜めに向いていた。


「ほう……。王城内にもまともな人間がいたのだな」

「この状況を見て、まともなわけが…………あふん!」


 艶っぽい声を上げながらも、パレアは抗議する。


「すまんすまん。……ローラン、いい加減にしてやれ」


 王女の首根っこを掴み、パレアから引き離した。


 涙に溢れ、ぐすぐすと狼娘は泣いた。

 まるで強〇された後みたいに、ずんと沈み込んでいる。

 ぽろりと「お嫁にいけない」と嘆いた。


「しかし、王城内でローランとまともな会話をするヤツがいるとはな」


 ユカは言う。

 口元が緩んでいた。


「そうね。お父様以外で、分け隔てなく接してくれるのはパレアぐらいね」


 獲物を狙う肉食獣のように目を光らせる。

 視線の先には、パレアの耳があった。

 まだ触り足りないらしい……。


 そんな可愛い耳を隠しながら、パレアは言った。


「わたしも一緒です。獣人であるわたしを姫様は分け隔てなく接してくれました」

「獣人であるお前が、文官みたいな仕事をしているのもそうなのか?」

「はい。姫様に推挙いただいたんです」

「パレアって凄いのよ。記憶力抜群なの。狼族ってとても忠誠心が高いから、不正とかしないしね。こういう場所で働くには、持ってこいなのよ」

「ほう」

「……そ、そんなことないですよ!」


 目を×(ぺけ)の字にして訴える。

 顔は真っ赤だ。


「ローレスはさっきの大臣みたいな人族主義者が多いと聞くが」

「そうね」


 ユカの言葉に、ローランは目を伏せた。

 少し悲しそうだった。


 200年ほどさかのぼれば、人間とエルフ、獣人が相争う歴史に辿り着く。

 今でこそ、融和し、諍いは消えているが、差別は消えることはない。


 ローレス王国も「人間が頂点である」と主張する人族主義者がいる。

 移民政策に真っ向から反対するのも、こうした主義者が中心だ。


「冒険者というシステムが出来るまで、ローレス王国の官吏や兵士におけるまで、すべて人間でまかなわれていたそうよ」

「そうした状況を変えたのが、ラザール王なのです」


 パレアは振り返る。

 中央管理室に置かれたラザールの肖像画を見つめる。


「といっても、獣人の兵は多くなったけど、官吏はまだパレアだけどね」

「でも、これから多くなってほしいです」

「理解した。ところでそろそろ閉館時間じゃないか?」


 窓の外を見ると、空が真っ赤になっていた。


 パレアはピンと尻尾を伸ばす。


「ああッ! そうだった!!」

「お願い、パレア! どうしても今日中に探したいの!」


 手を合わせてお願いする。


 合掌もオーバリアントでは定番のお願いの仕方だった。


「むぅ……。仕方ないですね」

「ありがとう! 今度、またモフモフしてあげるね」

「それは姫様がしたいからでしょ!」


 パレアはパッと耳を隠す。

 半泣きになりながら、王女を睨んだ。


やっとこういう可愛い獣耳キャラを出せたぜ!


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ