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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

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第8話 ~ それも8ゴールドですよ ~

外伝Ⅳ第8話です。

よろしくお願いします。

 案内されたのは、教会の地下だった。


 暗く、かび臭く……。

 まるでダンジョンを歩いているようだ。


 一行の顔は冴えない。

 先ほど、司祭に啖呵を切ったリモルも、アスイにぴったりと張り付いていた。


「教会の地下って、なんだかワクワクしない」


 一方、ローランは言葉通りの態度で辺りを見回している。

 深夜の学校に肝試しにきた女子高生だった。


 しばらくして、手狭な部屋へと通された。


 無数の棚が並んでいる。

 ムルネラがその1つを引く。中には紙の束が入っていた


「確か名前は……」

「キラルです」


 アスイが夫の名前を告げる。


 ムルネラはわずかに顎を動かし、紙束を漁った。


 しばらく紙がこすれる音が部屋に響く。


 暑い。

 空気が澱んでいた。

 立っているだけなのに、汗が噴き出てくる。


「ありました……。キラル・バーガル?」

「はい」


 アスイは飛びかかるように身を乗り出した。


 今一度、ムルネラは自分の眼で確かめる。


「どうぞ」


 ローランに向かって差し出す。


 頭に獣耳を付けた少女を、みなが囲んだ。


 さっと目を通す。

 書式や使われている紙、その感触。

 一見したところでは、何か不正があるようには見えない。


「どう、アスイ? あなたの夫のものかしら?」


 横で食い入るように見つめるアスイに尋ねた。


 彼女はしばらく返事をかえさなかった。

 やがて、落胆したように首を振る。


「間違いありません。夫のサインかと……」

「よくわかるな」


 とユカ。


「私も夫も学校を出ておりません。自分の名前ぐらいしか文字で書けないので」

「覚えるものが少ないぶん、鮮明に覚えているということね」

「はい」


 アスイは俯いた。


 ローランは司祭に向き直る。


「ムルネラ司祭といったかしら……」

「はい。そうです」

「……このサインを書いた時、あなたが応対したのかしら」


 ローランはピンク色の瞳を細める。

 すると、ムルネラは襟元に手をかけ、汗を拭う。


「この通りの貧乏教会でしてね。……ここには私しかおりません。対応したのは間違いなく私でしょう」

「貧乏って? まるで商売しているみたいな言いぐさね」

「それが何か?」

「教会ってもっと迷える人間に手を差し伸べる場だと思うけど」

「収入がなければ、教会もやっていくことは出来ません。公文書館の方がご存じかどうかしりませんが、今同業者はバタバタと倒れております」

「教会が……? 廃業していっているのか?」


 尋ねたのはユカだ。

 ムルネラは薄い眉をピクリと上げた。


「おや。知りませんか?」

「何をだ?」

「冒険者の優遇政策ですよ」


 ユカは隣の獣耳少女を見つめる。

 ローランはキュッと唇を結んで、軽く頷いた。


「前はね。こういってはなんだが、教会も儲かったんですよ。何せここは冒険者の聖地。右を見ても左を見ても冒険者。しかも初期レベルの初心者ばかり。毎日のように死体が運び込まれて、復活させた。手が追いつかないぐらいでしたよ」


 いつしかムルネラの言葉に遠慮というものがなくなっていた。


 司祭というより、商売気質(かたぎ)なのだろう。

 先ほどまでの威厳はない。

 遠い昔を懐古しながら、酒を傾ける中年親父だった。


 冒険者(きゃく)でもなければ、ビジネスパーソンでもない。

 ローランたちの存在は、ムルネラにとって胡麻をる対象ではないのだ。


「当然、復活の代金が高騰していきました。商売敵も増えましたが、それでもあの時代がよかったですよ」

「それと優遇政策がどう関係する?」

「国が高騰する復活の代金に上限をつけたからですよ」


 ユカの眉がわずかに動く。


「それも8ゴールドですよ。倍の16ゴールドでもやっとなのに……」


 よっぽど悔しかったのだろう。


 ムルネラはカッと地面を蹴った。


 ユカのように耕作地を放棄してやってきた移民は、総じて金を持っていない。

 故に8ゴールドでも大金だ。


 教会の気持ちは理解できるが、そういう政策をとらなければ、教会は冒険者の死体で埋まることになるだろう。


 額に筋を浮かべていたムルネラはようやく我に返る。

 ピンク色の瞳がじっと自分を見据えていた。


「むほん……。失礼しました、官吏の方。今のどうか忘れていただきたい」

「不平不満は誰にだってあるでしょ」


 ローランの顔がほころぶ。

 むろん、作り笑いだ。

 それでも、ムルネラはホッと息を吐いた。


「ところで、話の続きをしたいのだけど」

「どうぞどうぞ」

「このサインを書いた冒険者のことは覚えているのかしら」


 書類を見せる。


 ムルネラは今一度、サインを確認した後、首を振った。


「申し訳ありません。私は日に何人もの冒険者と出会います。その中で1人の冒険者の様子を覚えているなど不可能です」

「へぇ……。でも、貧乏教会(ヽヽヽヽ)なんでしょ。見たところ、そんなに冒険者の遺体がないようだけど」


 ムルネラはぐっと唇を閉じる。

 でかかった怒声を無理矢理押し込めた――そんな表情だった。


「知らないものは知らないのです!」


 ピシャリと言って、再び口を噤んだ。


 ローランは軽く頭を下げる。


「失礼。では、最後に確認しておきたいことがあります」


 ムルネラは目だけを向けた。


蝋燭(キパ)の火を貸してもらえませんか?」


 司祭が持っていた燭台を指さす。


「何をされるおつもりですかな?」

「この公文書が本物かどうか確認するのです」

「これは本物ですよ」


 半分笑いながら、ムルネラは言った。


「それを確認するためです。お力をお貸しいただけませんか?」


 ローランの態度はあくまで下手だ。


 一国の姫とは思えない腰の低さ。

 司祭の態度に、ユカは1発殴ってやろうかと思うが、主君がこうではなかなか実行できない。


 むしろそんなことをすれば、ローランの努力が水泡と貸すことになる。


「どうぞ」


 燭台を差し出した。


 ありがとうございます、と丁寧にお礼を言う。

 そして蝋燭の火に、書類を近づけた。


「何を!」


 驚いたのは、ムルネラだけではない。


 ユカは目を剥き、

 アスイは口元を手で覆い、

 リモルは「あ」と口を開けた。


「やめろ! ローラン! 燃えるぞ!」


 ユカが手を伸ばしたが、それはあっさりとローランに払われた。


 不思議な動きだった。


 ローランの手は細い。

 筋力ではユカが圧倒しているはずなのに、あまりも簡単によけられてしまった。


 まるで自分の力を利用されたような感じがした。


「大丈夫よ、ユカ……。私を信じて」

「む、むう」


 ローランは紙が火に触れるか触れないかのところで止めた。

 すると、干物をあぶるように火の上で揺らす。


 その奇行にローラン以外の人間たちは、固唾を呑んで見守った。


 止めることは出来たが、ちょっとした弾みで紙が火に燃え移ってしまう。

 それほどギリギリの作業だった。


 紙を裏返したりしながら、万遍なく火であぶる。

 ローランは何度か紙を見つめ、何かを確認していた。


 ようやく作業が終わる。


 紙を傾けたり、右手で持ったり、左手で持ったりを繰り返す。

 何かのまじないのように、ユカには見えた。


「うん。わかりました」


 ローランはようやく紙をムルネラに返す。


 司祭は肩をあげて、息を吐いた。


「疑いは晴れましたかな?」

「ええ……。問題ありませんでした」

「そうですか」


 司祭の顔がようやく綻ぶ。

 公文書を棚の中にしまった。


「ところで、司祭様……」

「なんでしょうか?」

「亡霊騎士のお噂は聞いたことは?」

「…………。ありますよ。取るに足らない街の噂でしょ」


 くいっと口端を上げる。

 その目は穏やかだった。


「失礼だが、官吏殿は随分とお若い。その手の噂がお好きなのでしょうか?」

「ええ……。とっても」

「良い刺激でしょうな」

「その亡霊騎士が、この教会から出てきたことがある……。という噂があるのですが」

「え……」


 司祭の表情が変わる。

 すぅっと、首筋に汗が垂れていくのが見えた。


 それが冷や汗なのか。

 単に部屋が暑いのか。


 判断を付けるのは難しかった。


「ご冗談を。そんなことを聞けば、厠にいけなくなってしまいますよ」


 ははは、と司祭は声を出して笑った。


本日未明、ようやく目標の100万PVを達成しました(*^_^*)


1つの目標として、自分なりのモチベーションの指標として頑張ってきたので、

大変嬉しいです。


ひとえに長い間、お付き合いいただい読者のみなさまのおかげです。

本当にありがとうございます。


今後も「その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。」をよろしくお願いします!!



明日も18時に更新します。

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