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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第1章  帝国最強編
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第12話 ~ 努力して叶わないからこそ、現実は面白いのです ~

第12話です。

よろしくお願いします。

「時に勇者殿……。少し話がしたい」


 切り出したのは、皇帝からだった。

 宗一郎は恭しく一礼する。


「構いません。私はそのためにここに来ました」

「うむ。……ライカも、そして下女――フルフルといったかな?」

「はいッス」

「そなたもこちらに……」


 皇帝はライカに手を引かれながら、夜会から離れ、2階へと戻る。

 バルコニーに出ると、そこには2脚の椅子と、テーブルが置かれていた。


 皇帝が腰掛けると、宗一郎も掛けるように促す。


 つと暗い夜空を見上げた。


 満天の星空が広がっていた。

 思えば異世界に来て、こうして空を仰ぐのは初めてかもしれない。


 異世界も、現代世界の空も変わらない姿に思えたが、ある違和感に気付いた。


 月がないのだ。


 異世界なら1つや2つあってもおかしくないが、オーバリアントには星が瞬いても、月はないらしい。


「空が恋しいか?」


 一瞬、皇帝の質問の意図が読めなかった。

 しばし考えて、宗一郎は空の向こうにある天界に思いを馳せていると勘違いされたことに気がついた。


「いえ……。地上から見る空をこうしてじっくりと見るのは、初めてだったもので」

「なるほど。……ふふ。機会を設けた甲斐があったというものだ」

「……?」

「余はそなたのような者と喋る事を、唯一の楽しみにしていてな。あらゆる事を見聞きし、贅沢を尽くしてきたが、やはり異境の地の話や仕事の話を聞くことが、何よりも楽しいのだ」

「同感です」


 本心だった。

 知らないことを知ることは、宗一郎にとって重要な快楽の1つだった。


「さて、勇者殿……。本心を聞かせてくれぬか?」


 改まった皇帝の言い方に、緊張が走る。

 まさか天界云々がばれたのではないか、と考えたが、今ここでフルフルに視線を送るのは躊躇われた。


 皇帝の質問は実にシンプルだった。



「この世界をどう思う?」



 …………。

 宗一郎は考えた。


 漠然としすぎていて、質問の裏にある皇帝の意図が読めなかった。


 試されている――ということは、すぐにわかったが、宗一郎はあえて置きにいった。


「素晴らしい世界かと……」

「本心を聞かせてくれといったはずだ」


 強い調子で釘を刺されたことよりも、皇帝の眼光に一瞬鼻白んだ。

 老いたとはいえ、大帝国の頂きに立つ存在だ。現代で最強の称号を持つ宗一郎とて、黙ってしまうのは無理からぬことだった。


 民主的に選ばれた国の長とも、核を平気で放とうと考える狂信者どもとも違う。


 まさしく王者……。

 武によって成り上がった凄みが、全身から集まり、双眸から放たれていた。


 ――思えば、皇帝のレベルはいくつなのだろうか……。


 今は考えても仕方ない疑問が浮かぶ。


 宗一郎は一旦落ち着くことに決めた。

 一度頭の中を整理し、あらかじめ考えていた次の言葉を繰り出した。


「では、本心のままに……」

「うむ」


 一度息を吐き、宗一郎はおもむろに答えた。



「つまらない世界かと……」



 隣に立っていたライカは大きく目を見広げる。

 フルフルはニコニコと聞いている。


 皇帝は微動だにせず、宗一郎を見つめ続けた。


「続けよ」


 ただ一言――。

 話を続けるように促した。


「理由は様々あります。が、1つこの世界を腐らせている元凶を挙げるならば、レベルによって人の優劣が決まるところでしょう」

「…………」

「オーバリアントでは、モンスターを倒し、経験値を得ることによってレベルが上がっていくと聞きました。しかし、果たしてそれは真の強さといえるのでしょうか?」


 確かに……と皇帝は頷く。


「経験値がもらって、レベルアップし、自身の身体能力を高める。……実につまらないシステムです。結果が確約された努力や経験に一体何の意味がありましょう。あえて申し上げます」



 “努力して叶わないからこそ、現実は面白いのです”



 主人の話を聞き、フルフルは辟易しながら首を振り。


「ホント……。ご主人は意識が高いッスねぇ」


 と呟く。

 耳には届きながら、宗一郎は構わず話を続けた。


「その真理を忘れた世界を正しい方向に導く……。それが私を遣わした天界の真意なのでしょう」


 沈黙が訪れる。

 少し肌寒い風がバルコニーを吹き抜けた。


 階下では夜会が滞りなく続けられており、緩やかな音楽に合わせて、男女が踊っている。

 耳を澄ませば、虫の音が聞こえ、かと思えばかなりの遠くの方で犬の遠吠えのような吠声が風に乗って届いてくる。


 ふむ、と皇帝は髭を撫でた。


「それが勇者殿の救世ということなのだな」

「おそらく」

「ま、待っていただきたい」


 テーブルを激しく叩き、身を乗り出したのはライカだった。


「それは矛盾している。レベルは女神プリシラ様によってもたらされた力だ。宗一郎殿の先ほどの言動……。それはプリシラ様に弓を引くことではないのか?」

「結果的にはそうなるな。オレがやりたいことは、レベル世界の否定だ」

「やはり矛盾している。宗一郎殿は天界から――。プリシラ様から遣わされたと聞いた。なのにその主と相争うのか?」

「人間もよく争っていると思うが――」

「やんごとなき方と、人間は違う!」

「ライカ殿……。では、はっきり言おう」

「な、なんだ?」



 “オレはプリシラという女神を知らぬ……”



「プリシラに遣わされたといったのは、お前たちに信じてもらうための方便だ」

「な――――!」


 ライカは絶句し、二の次を喉から絞り出せなかった。


 おそらく真面目な性格以上に、彼女は女神に心酔しているのだろう。

 理解できないわけではない。

 プリシラによって人間は、モンスターに対抗する術を身につけたのだから。


 しかし、そのモンスターとて、プリシラの力によって生み出された可能性すらあると宗一郎は考えていた。現状から鑑みて、当面の敵は女神ということになる。


「ち、父上……」


 助けを求めるようにライカは、声を震わせた。

 その父――皇帝は、ギュッと瞼を閉じ、黙考していた。


 そしてゆっくりと口を開く。


「余とて、わからぬよ」

「そんな……」


 ライカは声を絞り出す。


「女神の恩恵も、勇者殿が話すことも余には理解出来る。事実、レベルシステムが女神にもたらされた時、似たような議題で話し合ったことがある」

「そうなのですか!?」

「しかし現状、不確定要素が多すぎる。……だから、これは博打だ」

「ばく、ち?」

「勇者殿が握る賽の目にこう書かれているのだ。神が用意したユートピアを選択するか。人間の力で世界を再生させるか。今、ここで選べ――そういうことなのであろう?」


 宗一郎は深く頷いた。


「仰る通りかと……」

「今、ここで決めるのですか?」

「少なくともマキシア帝国としての立場を表明するには絶好の機会であろう。何せ片方の張本人がここにいるのだからな。女神を選ぶのなら、今ここで捨て置くことはできぬ」

「宗一郎殿を殺すというのか?」

「場合によっては、だ。……もし宗一郎殿が女神に弓を引くならば、この世界に乱が起こるであろう。マキシア帝国皇帝にとって、民草の安寧は何よりも望むところ。その原因をここで切り捨てるのが必定であり、皇帝として当然の判断だ」

「お待ち下さい!」


 白いドレスが揺れる。


 宗一郎が座る席の後ろに回ると、その肩に手を置いた。


「そのご判断……。しばしお待ちいただけないでしょうか?」


 一瞬、皇帝が笑ったような気がした。


「待つ? 姫よ。ここに勇者殿の首があるのだ。判断を待つわけにはいかない。即時に処理し、必要であればその首級を挙げる。何度も申すが、絶好の機会なのだぞ」

「いいえ。その判断を誤れば、2度と訂正の機会は訪れないように思います」

「ならば、どうする? 姫よ」

「どうか私を検分役としてお使い下さい」


 おいおい……。

 宗一郎は少し嫌な予感がした。


「つまり、勇者殿に同行し、その眼を以て、判断するということか?」

「はっ」


 ライカはドレスのまま、その場に傅いた。


「もし勇者殿が道を誤っているならば、なんとする?」

「それは――」


 言いよどんでから、ライカははっきりと明言した。


「私が責任を持って、勇者殿を倒してご覧にみせましょう」

「あいわかった!」

「ちょちょちょちょ……。ちょっと待て! なんでそうなる?」


 親子のやりとりを聞きながら、宗一郎は思わずツッコんだ。


「聞いていなかったのか、勇者殿……」

「聞こえてはいた。しかし、ライカはあなたの――」

「遠慮は無用……。ライカは余の娘であると同時に、帝国の騎士なのだ」


 身体を起こすと、ライカは自分の胸を叩く。


「故に、そなたの旅の役にも立とう……」


 ――いや、まだ……旅に出るともなんともいってないのだが。


「うおおおお! これぞ勇者の旅立ちッスね。王様に激励され、ヒロインを引き連れて旅をする。これぞ古きRPGの醍醐味ッス」

「お前は黙っていろ、フルフル!」

「よーし。そう言えば、仲間が1人足りないッスよ、ご主人。酒場とかいって、トンヌラって名前の冒険者でも探すッスか?」


 ――色々混ざりすぎだ!!


「出立まで何かと準備が必要であろう。しばらくは我が居城でゆるりとするが良い」


 皇帝は立ち上がる。

 「は――――はっはっはっはっはああああああ……」

 と高笑いを上げながら、バルコニーを後にした。


「宗一郎殿……。不束者だがよろしく頼む」


 そのまま三つ指でもついて嫁入りするぐらいの勢いで、ライカは頭を垂れる。


 そして準備があるといって、後にした。


「良かったッスね。とりあえず、肉奴隷ゲットっスよ。いやー、ライカはポテンシャル高いッスから。調教のしがいがありそッスねぇ」


 ケラケラと笑いながら、フルフルもバルコニーから退散した。


 1人寂しく残った宗一郎の髪を、冷たい風がかき乱していく。

 そして呟いた。



「どうしてこうなった……」




今回のサブタイの台詞が、杉井宗一郎というキャラを作った1つのきっかけです。


明日も18時です。よろしくお願いします。


※ 昨日1日のPV数が50000を越えました。

  読んでいただいた方ありがとうございます。

  そしてとうとう月間ランキング247位に入りました\(^_^)/

  人生初です!!(大袈裟)

  ブクマ、評価いただいた方ありがとうございます。

  よちよち歩きですが、確実に一歩ずつ成長していく作品にしたいと

  思いますので、今後もよろしくお願いします。

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