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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

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第2話 ~ 良いではないか。良いではないか ~

外伝Ⅳ2話目です。

よろしくお願いします。

 お互い自己紹介が終わった。


 そのタイミングで、ローランは部屋にある箪笥をあさった。


 本来、王族は自室に衣類を置くようなことはしない。

 専用の衣装部屋があって、召使いたちが持ってきてくれるからだ。


 この衣装箪笥は、黒星まなか(ローラン)が懇願し、特別に用意してもらったのだ。


「じゃーん!」


 取り出したのは真っ黒なワンピース。

 そしてやたらとヒラヒラとした布が付いたエプロンだった。


「なんだ、それは?」


 ユカは真顔のままだった。

 すでに赤みは消えている。


「知らない? メイド服?」

「召使いの服ならもう着てるぞ」


 支給されたチュニックの端を引っ張る。


「私のメイドには全員着てもらってるのよ」

「そうなのか?」


 うん、とローランは大きく頷いた。


 薄ピンクの瞳がキラキラと輝いている。

 いたずらを思いついた子供みたいだった。


 正直にいう。

 嫌な予感しかしない。


 しかしユカの雇い主はローランであることは間違いない。

 本人が無自覚であることはおいて、だ。


「業務命令というなら仕方ない」


 と応じるが、さすがにユカの顔は渋々だった。


 逆にニコニコ顔で、ローランは衣装を渡した。


 落ち着いた黒のワンピースはいい。

 どうもこのヒラヒラがついたエプロンには、顔をしかめずにいられない。


 何か破廉恥な気分になってくる。


「では、今から着替えてくる」

「ここで着替えたら」

「はっ?」


 素で尋ねた。


 ユカの眉間に皺が寄る。

 対して、ローランの瞳というより顔が、一層輝いていた。


 マジマジと見つめている。

 ワクワクという言葉が、半分開いた口から聞こえてきそうだった。


「仮にもここは王女の居室だろ?」

「その王女がOKしてるんだからいいんじゃない?」

「いいんじゃないって……。ともかく私は――」

「じゃあ、命令よ。ユカ、ここで着替えなさい……」

「ず、ずるいぞ!」


 王女と今日からお付きのメイドとなった元冒険者は睨み合った。


 しかし折れたのはユカだった。


 大きく息を吐く。

 王女が何を考えているかはわからない。

 だが、出勤初日にいざこざを起こしたくない。


「これも給料分だと思えばいいのよ」

「お前がいうな!!」


 ユカの胸中を読み取ったかのような忠告。

 思わずツッコんでしまった。

 しかも王女を「お前」呼ばわりである。


 ローランは気にした風でもなかった。

 ただ手近にあった椅子にちょこんと座る。

 じっとユカを見つめた。


「そんなに見るな」


 一応忠告したものの、王女は目をそらそうとはしない。

 そのユカの反応すら楽しんでいた。


 ユカは衣擦れの音をならして、チュニックを脱いだ。


 ベルト代わりの紐をほどく。

 スカートがストンと落ちた。


 半裸のユカの姿が露わになる。

 下腹部には腰布を巻き、同じく胸にもさらしのように布を巻いていた。


「うわぁ。思った以上に筋肉質なのね」

「ちょ――。ローラン、触るな」

「でも、お尻はぷりっとしていて可愛い」

「ど、どこを触っている!」

「何より、この大きな胸……。もう――けしからん!」


 大きいだけではない。

 弾力もある。


 ローランが指で押し込んでも、プルンと震えて返ってくる。

 それがたまらなく嗜虐心をそそる。


「おま……。も、揉むなよ」

「良いではないか。良いではないか」

「酒場で酔ったオヤジか、お前は!」

「それを言うなら悪代官よ」

「と、ともかく離れろ! 着替えが出来ないだろ!」


 とまあ、こんな会話が部屋の外の廊下まで響き渡っていた。


 侍女たちはひそひそと声をかわし、通りかかった若い兵は頬を染める。

 しかし必死に聞き耳を立てた。


 なんだかんだとあり……。


 ようやくユカは、提供されたメイド服に着替えた。


「この頭のも必要なのか?」


 渡されたカチューシャのヒラヒラと引っ張る。


 ローランは満足そうに「もちろん」と頷いた。


「で――。この後、私はどうすればいい?」

「適当にしてて」

「やたらアバウトな返答だな」

「メイドの仕事なんて、ようは主に不自由させないってことじゃない」

「なるほどな。適当にローランをもてなせということか」

「とりわけ私は、今話し相手がほしいの」

「話といってもな。私は喋るのはあまり――」

「ユカは冒険者だったんでしょ? その話を聞かせてよ」

「対して面白い話は……」

「それを決めるのは主よ。……あ、その前にお茶でも入れてもらおうかしら」

「お茶……」


 不意にユカは固まる。


「どうしたの?」

「すまないが、私はお茶を入れたことがない」

「…………」


 ローランはキョトンとした。


 ユカはまた「すまない」と謝罪した。


「ま、まあ……。仕方ないわね。じゃあ、今日は特別に私が入れてあげる」

「さすがに王女に入れてもらうのは……。誰か呼んでくる」

「いいって。今日は記念日なんだから」

「記念日?」

「そう――。あなたと私が出会った記念日よ」


 ローランの顔に、満開の笑顔が花開いた。




 ユカがローランのお付きのメイドになった記念(その)日の晩。


 ローレス王宮に黒い影があった。


 黒いフードを目深に被り、オーバリアントの夜に同化するように影の中を走る。


 月のないオーバリアントでは、星と城内のあちこちに焚かれたかがり火の明かりがたよりだ。


 特に曇り空のこの日は、かがり火だけが唯一の生命線だった。


 影はあざ笑うかのように城内の警備の側を横切っていく。

 さほどスピードはないものの、かがり火の位置と生じる死角をすべて把握しているかのような動きだった。


 影が止まる。

 やってきたのは、王宮裏手にある勝手口だった。

 あまり使われていないらしい。

 人気がない。


 影はゆっくりと扉を回す。


 わずかに金属が軋む音が聞こえた。

 周囲に変化はない。影の人物以外の耳には入らなかったらしい。


 遠くの方の城壁で、兵が欠伸をかみ殺すのが見えた。


 身体が通るギリギリまで開ける。

 すると滑り込むようにして、外に出て行く。


 そこはもう城下だった。


 時間は現代世界でいうところの丑三つ時。


 ほとんどの建物の明かりが落とされ、静まり返っている。

 数件の酒場らしき店の玄関口から明かりが漏れていた。


 かがり火もなく、星も出ていない夜道はとことん暗い。


 隠密行動を取る人間にとっては、絶好のロケーションだ。


「ふう……」


 息を吐く。


 フードを取った。


 さらりと髪が肩に掛かる。

 白髪がわずかな明かりに反応し、鈍く反射した。


 薄いピンクの瞳が、怪しく光る。


 無垢な少女の顔が露わになる。


「おっと……。これをつけておかなくちゃ」


 懐から取り出したのはカチューシャだった。

 獣の耳が飾り立てられている。


 迷わず頭に装着した。


 見た目は獣人の少女だ。


「これで変装は完璧ね」


 満足そうに頷いた。


 そして歩き出す。


 夜の城下を。


 ローラン・ミリダラ・ローレス――。

 黒星まなかは、闇夜のローレス王国へと飛び出していった。


知ってるか。

サブタイの台詞って13歳の少女のものなんだぜ(白目)


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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