表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
外伝Ⅳ ~ ローラン・ミリダラ・ローレス ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

183/330

第1話 ~ 変わり者よ、私 ~

外伝Ⅳ第1話です。

よろしくお願いします。

「あなたが13人目のメイドよ」


 涼やかな少女の声が豪勢な居室に響いた。


 天蓋付きのベッド。

 机や椅子には、職人が魂を削って作ったと思われる彫り細工が施されている。


 絨毯は明るいピンク色。

 壁には3人親子がモデルとなった絵画が飾ってある。

 精密に技巧的に描かれた絵は、もはや現代世界でいうところの“写真”と相違ないほど、技術的に昇華されていた。


 ただ絵のモデルは架空のものだ。


 向かって右で微笑を浮かべている母親は、真ん中に座った子供を産んですぐ他界している。


 有り体に――。

 ただ一言で説明するなら……。


 高貴な人間が住む部屋だった。


 少女の声音が響き渡る。

 どこか誇らしげですらあった。


 ローラン・ミリダラ・ローレスにして、黒星まなかは、対面に立った女性を見つめる。


 挑戦的な目つきだった。


 なのに、支給されたばかりの給仕服に身を包んだ女性はただ――。


「はあ……」


 間抜けな声を上げた。

 特に激情に駆られることもない。

 ベッドに座ったままの王女を見つめた。


 白い髪。そして薄いピンクの瞳。

 あとは肌が異様に白いことを除けば、典型的な13歳の体躯と言える。


 少々胸の具合も平均よりも遅れているといった(てい)だった。


「それだけ?」


 ローランは小首を傾げた。


 肩甲骨付近まで伸びた白髪が揺れる。


 思わず対面の女も首を傾げてしまった。


 黄緑色の目にかかった薄紫の前髪が流れた。


「それだけ、とは?」

「……不吉とか思わない? もしかしてかっこいいとか思っちゃうほう?」

「その言葉は相反すると思うのだが……」

「だって『13』よ。『13』!」


 また傾げた。


「その数字が何か?」

「13日の金曜日って知らない?」

「そもそも“きんようび”というのがわからない」

「そっか……」


 何やら考え出した。


 やおら顎を上げる。


「ねぇ」

「はい」

「えっと……」


 声をかけたのは向こう。なのに、また考え始めた。


 ベッドに投げ出されたままだった紙を拾い上げる。

 書かれた中身を黙読した。


「あなた、ユカ・ミュールよね」

「はい」


 ユカは素っ気なく自分の名前に反応した。


 対してローランは興味津々だった。


 ユカのプロフィールが書かれた紙と本人を交互に見比べている。

 薄赤い瞳にチラチラと自分の姿が映っていた。


「あなた……。異世界にいた経験は?」

「あ゛あ゛?」


 目の前の人間が王女であることも忘れて、声を荒げてしまった。

 しかし、ローランは特に何するわけでもない。


 ユカの反応ですべてを悟ったらしく、質問を続けた。


「“ニホン”という単語に聞き覚えは?」

「…………ぜんぜん」

「お父さんかお母さん。この際、祖先でもいいわ。“にほんじん”だったという話とか聞いたことない?」

「うちは先祖代々山村の貧しい家だが……」

「じゃあ、その“ユカ”って名前は誰につけてもらったの?」

「母だ」

「…………」


 前のめりになってまで質問攻めにしたかと思えば、今度は黙り込んでしまった。


 ユカはなるほどな、と得心した。


 曰く「ローレスの王女は変わり者」。


 城内に入ってここに来るまで、ある女中に言われた。


 ローランは突然、ベッドに背中を預ける。

 大の字になって寝転んだ。


「はあ……。期待したんだけどなあ」

「何がですが?」

「あなたの名前よ」

「ユカですか?」

「そう。……日本人っぽい名前だから、もしかしてって思ったんだけど」


 はあああ、盛大にため息を漏らす。

 本人を前に、だ。


 ユカは少々いたたまれなくなったが、自分ではどうしようもない。

 ただ立っていることにした。


「ま。いっか……」


 起き上がる。

 がっくりと項垂れたことをもう忘れたかのように、明るく微笑んだ。


「あの……。ローラン王女」

「ローランでいいわよ。私もユカって呼んでいい」

「はい。ではローラン……。私は何を――――って何を笑っているのですか?」


 ローランは口元を手で隠し笑っていた。

 白い頬は赤くなっている。


「だって……。私がローランでいいっていって、本当にローランって呼んだメイドは、あなたが初めてよ」

「そうなのですか?」


 確かに一国の姫君を呼び捨てするのは良くない。

 だが、本人の了解があるならば、それでいいのではないか。


 ユカはそう思った。


「あなたは変わり者っていわれない」

「あなたに――」


 ユカは自ら口を塞いだ。


 ローランを見ると、ニヤリと笑っている。


「あなたに言われたくないって?」

「…………いや、そんなことは――」

「別にいいわよ。なれてるし。変わり者でも異端児でも、妾の子でもなんでもいいわよ」

「ローラン……!」


 ユカの語調は強かった。


 黄緑色の瞳に憤怒の色が混じる。


「あまり自分を卑下する言動は慎んだ方がいい」

「……。どうして?」


 一瞬、間を置いてローランは尋ねた。


「ローランは人を突き放すためにその言葉を使っているようだが、むしろ同情を誘っているように聞こえるからだ。それはお前の本来の狙いとは違うだろ?」


「…………」


 ローランは絶句した後。


「ふふ……」


 微笑した。


「本当にあなたって変わり者ね」

「お前に言われたくない」


 今度ははっきりと言ってやった。


 ローランはまた笑う。

 楽しそうに。13歳の少女の顔だった。


「気に入ったわ、ユカ……。よろしくね」


 手を差し出す。


 ユカは一瞬ぼんやりとした後、使用人の服に手をこすりつけた。


 そして手を握った。


 とても小さな手だった。


 それでも今後、将来――。

 ローレスという小国を担うであろう少女の手は、力強かった。


「ところで、ローラン……」

「なに?」

「私は何をすればいいのだ?」


 自然とローランとユカは手を離す。


 薄いピンクの瞳が、やや肩幅の大きな女性の体躯を捉えた。


 首を傾げる。


「さあ……」

「さあ、とは?」

「そのままの意味よ。あなたは私の世話係というだけで、私がその業務を把握してるはずがないじゃない」

「確かに……」


 うんうん、とユカは2度頷く。


「そう言えば、あなた……」


 プロフィールが書かれた紙をもう1度、拾い上げた。


「前職が【戦士】ってなってるけど、冒険者ってこと?」

「そうだ」

「メイドとかお城で働いた経験は?」

「ない」

「誰があなたを雇ったの?」


 ローランは真顔で聞いた。


 私が聞きたいぐらいだ――。

 肩をすくめるジェスチャーで、ユカは示した。


「ギルドのクエスト依頼の中にあったのだ。レベル50以上の腕の立つ剣士もしくは戦士。内容には『城内業務』としか書かれていなかったからな。てっきり城の警護だと思っていたが……」

「王女付きのメイドだったと……。その割には冷静ね」

「これでも驚いているのだ」


 ユカは澄ました顔を上げた。

 動揺は一片も見当たらない。


 ローランは改めてユカを見つめる。


 確かに戦士らしい身体をしている。


 長身というのもあるが、普通の女性よりも筋肉がついているのが、召使いの服を着ていてもわかった。


「あなたはモンスターを退治したりしないの?」

「少し前に深傷を負ってな。ようやくベッドから起き上がったところだ。ちょうど金も尽きたところだったし、城内業務ぐらいならこなせると思ったのだが」

「なるほどねぇ……」


 ローランは考え込む。


「……気に入らないか?」


 ユカが尋ねると、白髪が横に揺れた。


「いいえ。むしろ、気に入ったわ。あなた、今まで私に付いたメイドとはちょっと違うみたいだし。それに名前の響きも好き」

「そうか……」

「むしろ――」

「なんだ?」

「あなたの方こそいいのかしら? 王女のお付きメイドなんて」

「ローランが迷惑でなければ、かまわんさ」

「変わり者よ、私」

「だから、自分で言うな」

「ふふん……。ユカのそういうとこ好きよ」


 ローランは蠱惑的に微笑む。


 ユカは思わず頬を染めた。


 超然とした少女の容姿……。

 それを気味悪いというものもいる。


 だが、ユカにはただ可愛い少女に見えた。


「なに頬を赤くしてるの?」


 気づけば、ローランはベッドから立ち上がっていた。

 ユカのすぐ前まで近づいてくる。



「いや……。その…………人に“好き”といわれるのは初めてだったのだ」



 薄ピンクの目が大きく見開かれる。


 そして――。


「ふふ――――」


 吹き出した。


 そしてユカの二の腕をバシバシ叩いた。


「ホント……。ユカって面白いわ」


 涙目を拭った。


雑でもいいから百合をやれって、誰かが言ってた!


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ