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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第80話 ~ 私たちが住んでいるとは違う世界で ~

第4章第80話です。

とうとう80話まで来てしまいました。


よろしくお願いします。

 ただいま。宗一郎くん……。


 言った瞬間、ローレスの姫君であり、現代世界で黒星まなかと呼ばれていた少女は、ふっと手を下ろした。


 だらりと、垂れ下がる。


「まなか姉!」


 宗一郎は慌て、声を上げた。


「ご主人、落ち着くッスよ。単に眠っただけッス」


 フルフルがたしなめる。


 スースー、と規則正しい寝息が聞こえてきた。

 宗一郎はほっと胸をなで下ろす。


「宗一郎様。1度ライーマードに戻りましょう」


 クリネが進言する。

 心配そうにまなかを見つめながら、宗一郎は素直に頷いた。


「じゃ。俺様は行くぞ」


 手を挙げたのはミスケスだった。

 背を向けようとする。


「ずっと気になってたんスけど、なんでご主人はこの自称冒険者最強と一緒なんスか?」

「自称じゃねぇ! 本物だつーの!」

「積もる話は後だ。今、まなか姉を――」


 ミスケスは眉間に皺を寄せる。


 そして「おい」と宗一郎に声をかけた。


「プリシラちゃんとの約束……。忘れるなよ」


 宗一郎は眉を動かし、ミスケスに向き直った。


「わかっている」

「…………まあ、いい。ダークエルフについて、何かわかったら、ギルドの定期連絡のポストに入れてくれ」

「……?」

「ギルドには冒険者と連絡をとるためのポストが設置されていて、そこに連絡が行くと、どのギルドでも連絡を受け取ることができるようになっているんです」


 クリネが説明する。


「わかった。これからどうするつもりだ?」

「お前らは西に戻るんだろ? 俺様はウルリアノへ行く」

「そうか。気をつけろよ」

「……お前こそな」


 ミスケスは崖を登り始める。

 街道を通らずに、関所のない山道を進むつもりだろう。


 宗一郎は無言で見送った。


「フルフル……。変身だ」

「ええ! またぁ……。いい加減にしないと、お金取るッスよ」

「主人の命令だ。聞け!」

「お金がなくても、身体で払ってもらえれば、それで……」

「お前の冗談に付き合っている場合ではない」

「むぅ。……今日のご主人は扱いがいつにもまして雑ッス」

「やれ」

「へいへい」


 すると、フルフルは悪魔の姿になった。


 コウモリのような羽根を広げ、ストレスを吐き出すように唸りを上げる。


 宗一郎は早速乗り込み、後にクリネが続く。


 だが――。


「お姉様……」


 クリネは振り返る。


 姉のライカは立ちすくんでいた。

 どこか呆然としている。

 顔も暗い。


「お姉様!」


 クリネはもう1度呼ぶ。


 姉の顎がハッと動いた。


「行きますよ」

「あ、ああ……」


 ゆっくりと近づき、フルフルの背に乗る。

 その動きはどこか気丈に振る舞おうとして無理しているように、クリネには見えた。


 ライカは顔を上げる。


 心配そうにローレスの姫君を見つめる宗一郎の横顔が、視界に映り込む。


 辛そうにライカは、顔を背けた。

 それも妹は見ていた。


「行くッスよ」


 黒翼が大きく羽ばたく。


 ファイゴ渓谷の街道に強い大気の流れを叩きつける。


 一気に上昇した。


 悪魔の姿が、晴れ渡った大空の中で小さな黒点になった。




 翌朝――。


 木枠の窓から陽光が差し込んだ。


 部屋に浮かぶ埃を照らし、一条の道にも壁にも見える。


 寝ていた少女を直接照らしたわけではない。

 だが、わずかな部屋の変化が、覚醒の引き金になった。


「う……。――う、ううん…………」


 やや艶っぽい声を上げ、黒星まなかは瞼を上げる。


 目に飛び込んできたのは名もなき天井。

 自分がかつて生きていた現代のものではないことはすぐにわかった。

 おそらく異世界の宿かどこかだろう。


 視線を傾ける。


 ベッドに俯せになり、寝ている男の子の姿があった。


 いや、男の子というのは語弊がある。


 体つきも、顔つきも立派な成人だ。

 おそらく今の自分の方が、よっぽど幼く見えることだろう。


 どうしても年下扱いしてしまうのは、彼がかつて現代世界において、弟のように親しくしていた男の子(ヽヽヽ)だからだ。


 そっと手を触れる。


 寝顔はちっとも変わっていない。

 かつての弟の顔だ。

 髪を後ろになでつけたのは、おそらく童顔を少しでも大人らしく見せるためだろう。


 そんな思慮がすぐにわかってしまった。


 でも、変わったところもちゃんとある。


 男の子というよりは、やはり男の顔になっていた。

 身体もひょろりとしていても、ちゃんと筋肉が張っている。


「でも、髪の硬さは相変わらずね」


 宗一郎の髪を触りながら、まなかは笑う。


「う……」


 ようやく弟分は顔を上げる。


 目をこすった。


「起きた。寝ぼすけ君」

「うん?」


 いまだ焦点が合わぬ目をこらした。


 白髪(しらがみ)の少女が、こちらを向いて微笑んでいる。


「まなか姉!!」

「おはよう。宗一郎君」

「気がついたんだ。良かった……」


 心底ホッとしたように胸をなで下ろした。


 目には隈がついている。


「もしかしてずっと看病してくれていたの」

「あ、いや……。そのぉ……」


 顔を赤くする。


「照れると、そうやって背筋を伸ばしちゃうところとか、昔のままね」

「え? オレ、そんな癖が……」

「知らなかった?」

「まなか姉にはかなわないな」


 宗一郎は声を出して笑う。

 まなかも笑う。


 異世界の街ライーマードの宿に、2名の現代人の笑声が響いた。


 1人はその身体を異世界の身体へとやつしていたが、腹から出る声はどこか独特な響きがあった。




 2人の声を聞くものがいた。


 名をライカ・グランデール・マキシア。


 彼女も日の出とともに起き、宗一郎に挨拶しようと部屋に出向いた。

 だが、彼の姿はいない。


 昨日運び込まれたローレスの姫君の部屋へと行く

 すると、2人の声が重なるのを聞いた。


 戸は開けない。

 暗い廊下の影で、マキシア帝国の女帝はそっと2人の声に耳を傾ける。


 胸の前でギュッと拳を握る。

 その肩はわずかに震えていた。




「う――」


 まなかは力を込める。


 上半身に持ち上げようとしたが、うまく行かない。


 力が入らないというよりは、筋肉が固まって動けない感じだった。


「あんま無理するなよ、まなか姉……。ずっとここしばらく眠っていたんだから」

「ずっと……ああ――」


 うーん、とまなかは唸る。


「そういえば、なんでこんなところにいるんだろ? それに――――あっ!」


 何かを思い出し、大きな声を上げた。


「なんで宗一郎君がここにいるの?」

「今気づいたのか?」


 目を大きく見広げる姉貴分。

 対して、宗一郎は苦笑した。


「だってだって! ここはオーバリアントといって、異世界なんだよ。私たちが住んでいるとは違う世界で」

「知ってるよ」

「モンスターとか出てくるし」

「それも知ってる」

「剣と魔法の世界で」

「落ち着けって。もう半年以上ここで暮らしているんだ。だいたいのことはわかってるよ」

「そ、そうなの……。でも、どうやって――――はっ!」


 今度は何かに気づく。


「もしや宗一郎君も死んじゃったの?」

「いや。オレの場合は魔術で――」

「魔術?」

「あ……。その……」


 何から説明すればいいか。

 宗一郎はまなかに硬いと称された黒髪をなでつける。


 そんな弟分を、まなかは真剣な目で見つめた。


「宗一郎君」

「なんだ、まなか姉」

「頭……大丈夫?」


 宗一郎は一瞬、きょとんとする。

 そして破顔した。


 新鮮な反応だ。


 現代において、宗一郎は有名人だ。

 翻って魔術という存在も、ある程度認知されていて、「魔術師」といってもそうそう精神を疑われなくなった。


 まなかの反応は、ある意味古いのだが、よくよく考えてみれば、不思議に思って当然の疑問だった。


「清川アカリって覚えてるか?」

「ああ……。裏山の神社に住んでた子」

「そうそう。あの子に教えてもらったんだよ」

「え? でも、あの子は魔法使いでしょ?」


 ――魔法は信じて、魔術は信じないのか……。


 実際、まなかはアカリの魔法を使うところを見たことがあるからだろう。

 そもそもアカリを紹介したのは、まなかなのだ。


「宗一郎君、教えて。君が一体どうしてここにいるのか」

「ゆくゆくは話そうと思っていたけど、まなか姉がいうなら」


 宗一郎は話し始める。


 長い話だった。


 まなかがきっかけで魔術の修行を始めたこと。

 あるみと組んで、現代世界にて一時的な世界平和を実現したこと。

 そして満を持して、異世界へ赴き、まなかを探し始めたこと。


 これまでのオーバリアントでの出来事を洗いざらい、話した。


「実は――」


 一瞬、宗一郎の脳裏にある少女の顔をよぎる。


 金髪碧眼の娘――そして婚約を誓った相手。


 ライカだ。


「どうしたの? 宗一郎君」

「あ? ……いや、なんでもない。また話すよ。それよりもまなか姉は元気で暮らしていたのかな?」

「うん。だって、私――お姫様なんだよ。割と不自由なく暮らしていたわ」

「そ、そうか。それは良かった」

「といいたいとこだけどね」


 自ら話の骨を折る。


「宗一郎君はローレスには行ったことはあるのよね」

「ああ……」

「いい街でしょ」

「ま、まあ……」


 といっても、宗一郎が知るのは、ロールプレイング病に冒された人間が徘徊する街と城しか知らない。


 確かに建物自体の雰囲気は良かったような気がするが、記憶はおぼろげだ。


「ちょっとだけ……。私のことを話していいかな」

「ああ。是非とも聞きたい」


 宗一郎は柔らかく笑う。


 そしてまなかはこんこんと喋り始めた。


まなかの話については、第4章後の外伝で語ります。

引き続き話を進めていくつもりです。


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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