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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第77話 ~ 杉井宗一郎はレベルが上がった ~

第4章第77話です。

よろしくお願いします。

 輝く壁は徐々に照度を落としていく。


 やがて蝋燭を吹き消すようにふっと消えた。


 闇が現れる。


 数メートル先すらわからない暗闇の中。

 男の泣き声だけが聞こえていた。


 ピロリロリン……。


 突如、そんな雰囲気の中で間抜けな効果音が響く。


 暗いボス部屋の中で、再び光が灯る。

 緑の光を帯びたのは、宗一郎だった。


 一瞬何がなんだかわからず、己の身体の変化に戸惑う。


 しかし謎はすぐに溶けた。



 “杉井宗一郎はレベルが上がった”



 続いて機械的な声が頭の中で響く。



 “【レベル】が2になった”


 “【体力】が22上がった”


 “【魔力】が11上がった”


 “【ちから】が6上がった”


 “【耐久力】が8上がった”


 “【魔性】が4上がった”


 “【素早さ】が5上がった”


 “【適応力】が7上がった”


 “【運】が5上がった”



 さらに――。


 ピロリロリン……。


 再び間抜けなSEが響く。


 “杉井宗一郎はレベルが上がった”


 “レベルが3になった”


 と――。


 続いてステータス変化の報告が読み上げられる。


 横でミスケスが涙を拭き、宗一郎を見上げていた。


 ピロリロリン……。


 ピロリロリン……。


 ピロリロリン……。


 ピロリロリン……。


 レベルの上昇と報告が、少し煩わしさを覚えるほど続いてた。


 結局、宗一郎はレベル〈8〉まで上がった。


 体力  :  151

 魔力  :  81

 レベル :  08


 ちから :  36

 耐久力 :  49

 魔性  :  27

 素早さ :  28

 適応力 :  37

 運   :  32


 レベルアップ上昇を示す光が静かに収縮していく。


 再び闇が横たわった。


 【光の剣】ラバーラ!


 そしてまた光が灯る。

 光を帯びた剣が闇に浮かんだ。


 辺りが照らされる。


 【魔法剣】を出したミスケスは、やおら立ち上がった。


 いつもしている眼鏡をかけ直す。宗一郎を見つめた。

 おそらくステータス確認用のアイテムなのだろう。


「それが勇者ステータスか……。なるほどな。そのレベルにしては高い数値だ。万遍なく隙がない」


 そう言った後、アイテムをしまう。


「大事にしろよ。それはプリシラちゃんが与えてくれた経験値なんだからな」

「ああ……」


 ミスケスはマントを翻す。

 宗一郎に背中を向けた。


「ミスケス、どこに行くつもりだ?」

「プリシラちゃんの仇を取る」

「ラフィーシャがどこにいるのか知っているのか?」

「知らねぇよ。そんなもん……。だけど、オーバリアント全土を虱潰しにしてでも探してやる」

「なら、オレたちと来ないか?」

「あ゛あ゛……?」


 ミスケスは再び踵を返す。

 宗一郎を睨んだ。


「目的が同じなら、オレたちは共闘できると思うが」

「断る……」

「何故だ……?」

「俺様はずっとソロでやってきた。何故なら、俺様よりも志が低いヤツばかりだからだ。そして1度は失敗した。第6次討伐の時だ」


 ミスケスは笑う。


「けど、このパーティーは気に入ってた」

「だったら――」

「でも、仲間を失うのはもうごめんだ……」

「お前……」

「もうこんな悲しいのはなしだ。ダークエルフに好き勝手やらせるのもな。だから俺様はもっと強くなる。……お前もだろ? 宗一郎(ヽヽヽ)


 それに――と、ミスケスは胸中で続けた。


 ――プリシラちゃんが最後に頼ったのはお前だった。

 ――俺はあの時……。

 ――プリシラちゃんに頼られる冒険者にならなくちゃいけねぇ……。


 そのために強くなる。


「そうだ。冒険者最強だけじゃねぇ……。オーバリアント最強に俺様はなる」


 ミスケスは拳を捧げる。

 召された女神に向けた。


「てめぇはライバルだ。……だから、馴れ合いはしねぇ」

「その理論と論法がよくわからんのだが……」


 宗一郎も拳を付きだす。

 コツッと音を立て、グータッチする。


「悪くはない……」


 宗一郎も笑う。


 そう。悪くはなかった。

 むしろミスケスの誓いは、宗一郎の心根に心地よく響いた。


 ライカとはまた違う。

 はじめて自分の理解者が現れたような気がした。


 不本意ではあるが……。


「じゃあな」

「待て。ミスケス」


 腰を切ろうとした冒険者最強を、再び押しとどめる。


「なんだよ」

「ここを出る前に、少しやっておくことがある」

「やっておくこと?」

「ああ……」


 宗一郎は視線を明後日の方へと映す。


 何かあるのか、と思い、ミスケスは【光の剣】で照らした。


 広いボス部屋の一角に、ひと1人分が通れるほどの小さな穴が空いていた。




 2人はボス部屋に空いた穴に入っていく。


「なんだ、ここ? もしかしてお宝の部屋か? レアアイテムとかあんのか?」


 先ほどまでわぁんわぁん泣いてた男とは思えない――現金な発言だった。


 宗一郎は天井を気にしながら、穴へと侵入していく。


「忘れたのか? プリシラが言ってたろ、ここにはお姫様がいるらしい」

「あ。そういえば――」


 すっかり忘れてしまっていたらしい。

 あんな後では無理もないかもしれない。


 だが――。


「いない!」


 朧気だが記憶にはある。


 ここにいたのだ。


 姫君が。


 おそらくローレスの姫が。


 穴の中を探し回る。

 たいして広くはない。


 宗一郎は最悪を想定した。


 人間が半年以上、飲まず食わずのままこんなところに閉じこめられていたのだ。

 普通に考えて生きているわけがない。


 口惜しいことだが、死んだ可能性が高い。


 おそらくプリシラの死をもって呪術が完成したことによって、オーバリアントは宗一郎が到着する前の状態に戻ったはずだ。

 故にRPG病の最初で最後の死者ということになるだろう。


 それにしても暗い。


 ミスケスの【光の剣】の明かりだけが頼りだ。


 ――そういえば、オレも魔法が使えるのか。


 ステータス画面を呼び出す。

 オーバリアントにはじめてやってきた以来、久しぶりに右下をタッチした。


 ――お。あった。


 【魔法】の項目に、それらしきものがある。

 その【魔法】をタッチすると、説明が書いてあった。

 どうやら【魔力】もギリギリ足りるようだ。


 宗一郎は唱える。


 【照明魔法】ラーパ


 宗一郎を中心に光が球体状に広がった。

 途端、部屋内の隅々まで光が行き届く。


「おお……」


 思わず唸ってしまう。


 魔術に似たような効果のものもあるが、宗一郎が内包している魔力よりも、ゲーム上の【魔力】を使った方が効率的かもしれない。


「お! 早速、【魔法】を使ったのかよ」


 【光の剣】をしまいながら、ミスケスは声をかけてくる。


 アイテム袋に手を突っ込むと、回復薬を差し出した。


「お前、レベルが上がっても【体力】は初期状態のままだろ。これでも飲んでろ」


 そう言って、宗一郎に渡す。


「【魔力】の回復薬はオーガラストと戦う時に、全部使っちまった」

「いや……。これだけでもありがたく」

「……。よもや勇者様から感謝の言葉をもらうとはな」

「何か勘違いしているようだが、これでも礼節は弁えているつもりだ」

「は! どうだか」


 ミスケスが肩を竦める横で、宗一郎は回復薬を飲み干した。


 捜索を続行する。

 そして結果はすぐに現れた。


 白いドレスを着た少女が胸に手を重ね眠っていた。


 それはまるで死んでいるように静かだった。


「おい。この子……」


 宗一郎の背中越しに、ミスケスが話しかける。


 それを制すると、宗一郎はゆっくりと近づいていく。


 ――思ったより腐敗が少ない?


 まさか……。


 と思い、首筋に手を当てる。

 続いて耳を唇に近づけた。


「おいおい。エッチなことすんな――」

「うるさい。黙ってろ」


 耳をそばだてる。


 すぅすぅ……。


 確かな寝息が聞こえた。

 脈もある。


「生きてる!」

「おい! マジか!」


 宗一郎は肩をゆさぶり、起こそうとする。

 だが、その手はすぐに止まった。


 生きているはずがない。


 半年以上も生存に必要なことが行われていなかったのだ。


 その時、ハッとなって宗一郎は顔を上げた。


 何か気配を感じた。

 周囲に視線を送る。そして気付いた。


 穴の中には、宗一郎の【魔法】によって万遍なく光が行き届いている。

 だが、天井の隅――。


 黒い塊がはりついていた。

 そこだけ光が届いていないのかと思えばそうではない。

 じっと目を凝らすと、何か蠢いているのが見えた。


「貴様か――」


 宗一郎は黒い瞳を光らせた。


おそらく中には、宗一郎はレベル1のままで異世界攻略していただきたかった、という方が

いらっしゃるかもですが、作者としてはこれも宗一郎の1つの成長だと捉えています。

今後も、ニュー宗一郎をよろしくお願いします。


明日も18時に更新します。

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