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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第1章  帝国最強編
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第10話 ~ お前“たち”の敗因を教えてやろう ~

第10話です。

よろしくお願いします。

 その言葉が呼び水になった。


「ほざけぇええええええええええええええええ!!!!」


 恐怖から逃れたい一心で、マトーは構えを取る。

 先ほどの合技魔法を撃とうとしていた。


 必中の神秘を付加した炎に当たれば、宗一郎の敗北は必至!


「くらえ! プローグ・ペド……? あへ? アホグ! うん……」


 しかしいつまで経っても魔法はやってこなかった。


「プローブ・ヘド! 違う! アバグ! 違う違う!」


 何度やっても正しい呪唱が出来ない。


「どうした? マトー殿?」


 今度は宗一郎が尋ねる番だった。


「戦の前に緊張をほぐすため、酒でも飲んだのか? 呂律が回っていないようだが……。案外、小心者なのだな」

「うるさい! このペテン師が! プロード・マヘ! アヨン! くそ! 何故だ!? 何故、唱えることができん!」


 唐突に始まった喜劇に、階上から失笑が漏れはじめる。


「なんだ、あれは?」「あれが帝国最強か?」「呪文の1つも満足に唱えられないなんて」「カッコ悪い」「安酒でも飲んだか、帝国最強!」「がっかりだわ」「おい! しっかりしろ! 俺はお前に全財産かけてんだぞ!!」


 侮蔑と罵声の合唱が始まる。

 マトーにとってホームだった会場が、途端アウェーに変貌した。


 むろん、宗一郎の仕業である。


 いつもなら弾丸や魔法の軌道をそらすことに使う因果操作だが、今はマトー本人に使用している。


 つまり「マトーが呪唱に失敗する」という確率を、因果操作で引き上げているのだ。


「さて……。悪いが、こちらから行かせてもらうぞ!」


 回避一辺倒だった宗一郎が、攻勢に転じる。

 花道を歩くスターのように、マトーに近づいた。

 魔法を唱えられなくなったスペルマスターは、なんとか呪文を絞りだそうとするが、全く言葉にならない。


 唱える魔法を変えてみたところで、結果は一緒だった。


 観客は笑い転げている。

 黄色い声援を送っていた奥方たちも、扇子のような紙を広げ、醜いものを遠ざけるように顔を隠した。


 そうこうしているうちに、宗一郎があっさりとマトーの前に立つ。


「とりあえず、その固そうな鎧は脱いでもらおう」


 再びアガレスの力を呼び出す。

 拳に赤光が宿るのが見えた。


「ひぃ! ひぃいいいい!!!!」


 最初の悪夢を思い出し、マトーは情けない悲鳴を上げる。


 ガンンンンン!!


 鐘楼を鳴らしたような音が辺りに響き渡った。


 黄金の鎧がガラスのように砕け散る。凄まじい衝撃は、鎧の中にまで通り、マトーの口から反吐が飛び出す。


 そのまま砂地に倒れた。

 意識を失っていないのは、やはり鍛え上げられた肉体の恩恵だろう。


「き、貴様……」


 上半身を起こし、手に剣を持つ。

 全く戦意を喪失していない。


「さすがは帝国最強……」


 宗一郎も剣を構えると、パズズの名を呼んだ。


 消える。


 気がついた時には、マトーの背後に回っていた。


 躊躇わずに胴を薙ぐ。

 赤いダメージ判定のラインが浮かび上がる。

 《体力》を「12」ポイント奪った。


 先ほどの倍だ。


「よし!」


 確認した宗一郎は声を上げた。


 だが、マトーからすれば軽微であることに変わりはない。


「お前の攻撃などきかんわ!」


 立ち上がり、再び剣を構えた。

 魔法が使えないのであれば、白兵戦しかない。


 心に決めたマトーだったが、1つだけ誤算があった。


 立ち上がり、剣を構えた一連の動作の間に、宗一郎によって6回斬りつけられていた。

 すべてダメージ判定があり、6つのラインが巨躯に引かれる。


「なっ!」


 「69」ポイント。《体力》が減少する。


 さらに驚いている間に、4連撃。「50」ポイントを消費する。

 合計「131」ポイント。最初のポイントを合わせば、「137」ポイントだ。

 まだ《体力》のうちの10パーセントにも満たないが、わずかな間ということを考えれば、マトーにとってそれは脅威だった。


 いちいち驚いている暇はない。


 マトーは闇雲に剣を振るった。

 型も何もかも忘れて、ただ手数で押し切ろうとする。

 相手の《体力》はわずか「1」。

 かすりもすれば、そのまま勝利になる。


 だが、あまりに宗一郎が早すぎて、目も剣も捉えられない。


「く、くそ!」


 まるで舞い散る羽根でも斬るかのようにかわされてしまう。


 その間にもゲージは減っていく。


 1402、1322、1264、1168、1121、1033……。


 そして1分足らずの間に、1000を切る。

 マトーに為す術はない。


 闇雲に空を斬るしかできなかった。


 再び場内は静まり返る。


 ただヒュンヒュンという風を切る音が聞こえるだけだ。


 そして2分後。


 マトーの体力は「100」を切った。


「くそがああああああ!!」


 大ぶりに横に薙ぐ。

 しかし、宗一郎には当たらない。


 代わりに体力が「48」へと変わり、そしてついに――。


 「1」と……。宗一郎と同じ《体力》になった。


 不意に風を切る音が止む。

 3分以上、高速で動いていた宗一郎が、立ち止まったのだ。

 すでに剣を振り続けていたマトーは疲労困憊で、剣を取り落とし蹲っていた。


 宗一郎は借りた剣を肩に担ぐ。


「マトー殿……。教えてほしい」

「な、なんだ?」

「レベル1の人間に、体力『1』にされた気分はどうだ?」

「く――!」


 無理矢理苦虫を飲まされたような人間の顔が、二枚目の容貌に展開されていた。


「お前……いや――お前“たち”の敗因を教えてやろう」

「なにぃ……」

「レベルでしか人をはかれないからそうなる。故に、お前“たち”はオレにも、モンスターにも敗北するのだ」

「どういうこ――」


 剣先がマトーの喉元にあてがわれ、言葉を失う。


「敗北を認めよ。ハイリヤ卿……。今なら、教会送りは勘弁してやる」

「く……うう……」


 恨みをこもった目で、マトーは睨む。

 終始反抗的なスペルマスターに対して、宗一郎は剣を振りかぶったが。


「わかった。敗北を認める」


 小さく呟いた。


 宗一郎が剣を下ろした。

 振り返り、鞘に収める。


 その瞬間――。


 マトーは落ちていた剣を拾う。

 そして、宗一郎に向かって振りかぶった。


 が――。


「そこまでですじゃ……。マトー殿。宗一郎殿」


 マトーの斬撃を。

 それを予期していた宗一郎の抜刀を。


 2本の剣で抑えたのは、ロイトロスだった。


 ――ほう……。


 素直に感心する。

 剣筋を見せたとはいえ、マトーが捉えられなかった宗一郎の斬撃を、この老兵はあっさりと止めたのだ。

 それも奇襲を……。


 ロイトロスの忠告に、宗一郎は素直に従った。

 やがてマトーも剣を取り落とし、項垂れる。


 最後にロイトロスが鞘に収めた。


「宗一郎殿……」


 先ほど2人の剣線を止めた古強者は穏やかな顔で、手を差し出した。


 釣られて手を差し出す。

 握手かと思いきやロイトロスは、細腕を掴み、高らかに掲げた。


 だが場内は無反応だった。

 誰しもこの結果を予想していなかったからだ。

 レベル1が帝国最強に勝つ。


 観衆はどう反応していいかわからなかった。


 パチ、パチ、パチ、パチ…………。


 誰かが拍手を送っていた。


 皆が驚き、音の方向へと視線を向ける。


 ひときわ豪華な天幕が張られた奥。

 王者の風格を要した男が、椅子から立ち上がり、手を叩いていた。


 マキシア帝国皇帝その人だ。


 陛下――いや、父の行動にきょとんとしながらも、ライカも後を追って手を叩く。


 そして――。


 水打ったように静まっていた場内から、一斉に歓声と拍手が上がった。


「すごい!」「なんだ! あの戦いは!」「レベル1が勝ったぞ」「信じられねぇ」「帝国最強のマトー様に勝つなんて」「最初はどうかなって思ったけど、よく見ればいい男じゃない」「ふはは……。あいつはわしが育てたんじゃ」


 驚嘆の声が噴出し、惜しみない賞賛を送られた。


 皆がスタンディングオベーションで、勝者を讃える。


「主人!! やったッスね!」


 フルフルも手を振っていた。


「フルフルの一人勝ちッスよ。……これだけあれば、家買って、肉奴隷の1人や2人買えるッスよ」


 大声で下品なことを叫ぶ。


「なんだ? あの兄ちゃん、奴隷に興味があるのか?」「肉奴隷って、まあ……。おさかんなのね」「奴隷を買うために、マトー様と戦うなんて無茶な真似を」「よーし、俺のところに来い! 世話してやるぜ」「あいつはわしが育てたんじゃ」


 どんどん誤解が広まっていく。

 てか――さっきから最後に聞こえてくる文言はなんだ!


「おお! 良かったッスね。ご主人。良い子を紹介してくれるそッスよ」


 ムキッ!


 宗一郎はこめかみに青筋を浮かべる。


 この場の戦いでは封印していた炎の熾天使へと姿を変える。



 そして真っ直ぐに、フルフルがいる観客席にツッコんでいった。


明日は18時投稿です。


帝国最強編はあと2、3話で終わる予定です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

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