第71話 ~ ヤンホモ展開は後でしてくれる ~
第4章第71話です。
よろしくお願いします。
「……………………」
いきなりライバル宣言された宗一郎は――。
「おい。てめぇ! なんだよ、その顔は!!」
ミスケスのいう通り、微妙な顔をしていた。
いや、どちらかと言うと、ちょっと馬鹿にしていた。
宗一郎は鼻をならす。
「ふん……。ライバル宣言をするのは勝手だが……。お互い生き延びてからだろう」
「んなことわかってるよ。……けどな、今言っておかないと、2度と言えないような気がするんだ! だから、今言っておく」
「やれやれ」
肩を竦める。
「お前たちはどれだけ死亡フラグを積み重ねればいいのだ」
「ああ? 死亡フラ――――痛ッ!」
「――――ッ!」
いがみ合う両者の脳天にチョップがくらわされる。
振り返るとプリシラが立っていた。
「はいはい。ヤンホモ展開は後でしてくれる」
「ヤン……」
「……ホモ?」
「宗一郎……」
名前を呼んだ当人を睨む。
「お膳立てはしたわよ。ここからどうするの?」
オーガラストは体勢を整えようとしていた。
「ヤツを眠らせる」
「眠らせる? ちょっと! 宗一郎、人の話を聞いていたの?」
「プリシラちゃんの言う通りだぜ、勇者様よ。オーガラストの状態異常耐性は別格だ。【魔法】であいつを眠らせることなんて」
「あんたの魔術だって難しいでしょ? 相手は竜よ。インクブスやリリスみたいな悪霊程度じゃ――」
「ああ。眠らせるのは難しいだろうな」
「だったら――!!」
「だから、あいつ自ら眠ってもらう」
「はあ……」
「竜種と同等の悪魔の力を使ってな」
「おい! やっこさん、起きてきたぜ」
オーガラストは強く羽ばたく。
自らの身体を垂直に立たせると、重苦しい音を立てて降り立った。
鋭い嘶きを発する。
さあ、攻撃してこい!
まるで挑発しているように聞こえた。
「ともかくお前たちは攻撃続行だ」
「勝算はあるのね」
「オレが信じられないか?」
「…………」
「……けっ」
プリシラは黙って宗一郎を見つめる。
その横で、ミスケスは赤い頭を掻いて、舌打ちした。
異論は出なかった。
「なら、作戦開始だ」
「行くわよ、ミスケス。初撃は任せて」
「わかったよ。いつも通りに、な」
「ええ――」
プリシラは杖を振るう。
そしてミスケスと宗一郎が駆けだした。
「出し惜しみはなしよ」
これが全力全開!!
【必殺の神秘】ファナディア!
片手の神秘の光が宿る。
さらに杖を掲げ。
【五級雷精魔法】プラスティア・ブラーチ!
100%の致命ボーナスがつく状態で、五級の魔法を炸裂させる。
今日、何度とオーガラストを苦しめた稲妻が落とされる。
轟音に悲鳴を奪われ、竜は光の中に消えた。
見えるのは、赤いダメージ判定。
一際、大きくまたたくのは、致命が入っている証拠だ。
「な!」
プリシラは声を上げる。
20%の体力ゲージが17%まで減った。
だが、予想以上にダメージが減らない。
「まさか! ステータスまでアップしているの?」
20%を下回ったことによって、オーガラストの防御力がアップしている。
プリシラはそう判断した。
その時、オーガラストの身体に緑の光が宿る。
「――させるかよ」
【閃夜極奏】!!
闇と光が、斬撃という調べを弾く。
先ほど、一気に15%もの体力を奪った技――。
だが、減ったのはわずか5%だ。
「くっそ! こら! トカゲ野郎、ズルいぞ!」
自動回復にステータスアップ。
ミスケスでなくても、ゲームプレイヤーなら誰しもチートを疑っただろう。
だが、実際に起こっている。
そして、これはゲームでもなんでもなく、まさに現実なのだ。
ミスケスの攻撃によって、1度はキャンセルされた自動回復が再開されようとしていた。緑の光が巨躯を包む。
「おい! 勇者!」
「宗一郎!」
2人の叫び声が、ボス部屋内に響いた。
続いて聞こえてきたのは、高らかな呪唱――。
「30の軍団を率いし、しわがれた声をもつものシャックスよ。そなたの虚実を魅せる力を、我が前に顕せ!!」
自動回復がかかる前。
オーガラストに光のカーテンのようなものがかけられる。
すると、あれほど猛々しく暴れ回っていたオーガラストが、途端に大人しくなる。
開かれた顎門は徐々に閉じられ、同じく見開かれた赤い目は半分微睡んでいるようにも見えた。
自然回復の光は消え、代わりに竜は膝をつく。
そのまま首を横たえると、翼を畳んだ。
最後に聞こえてきたのは、穏やかな寝息。
先ほど暴虐の限りを尽くしてきたモンスターとは思えない姿……。
こっちまで眠たくなってくる。
「寝た……」
「ど、どういうこと!」
2人は呆然とする。
「プリシラ! ミスケス!! 攻撃だ!!」」
宗一郎の叱咤が響く。
高レベルの両冒険者は我に返る。
再呪唱と再充填は完了していた。
見つめ合い、頷く。
プリシラは再び【必殺の神秘】と【五級雷精魔法】のコンボ。
極大の雷が落ち、大きく赤いダメージ判定が光る。
オーガラストはまだ眠っている。
だが、【体力】ゲージは明らかに減っていた。
続けて、ミスケスがスイッチ。
最後の【魔力】の回復薬を使い切り、【閃夜極奏】を打ち込む。
闇と光が混ざり、巨躯を穿つ。
同じく無数のダメージ判定が、竜の身体を蹂躙する。
この時になって、ようやくオーガラストが起きる。
産声のように大きく吠声を上げた。
しかし遅い!
すでに【体力】ゲージは、1%を切っていた。
とどめは――。
「宗一郎!」
プリシラは銀髪を揺らし、顔を上げた。
「ミスしたら承知しねぇぞ!!」
二振りの【魔法剣】をかかげ、ミスケスは怒鳴った。
最後のとどめを勇者である宗一郎に託す。
当人は空中にいた。
オーガラストの頭に突っ込む。
顎門が開き、中に赤黒い炎が見えた。
炎息――。
宗一郎は怯まない。
好機を逃すわけにはいかない。
「魔王パズズよ。偉大なる王の風よ。オレの足に刻印をうがて!」
力の名の通り――。
一陣の風と宗一郎がオーガラストに取り付いた。
小さく――しかし無数の攻撃判定が、巨躯に刻まれる。
1%未満の緑のゲージが、徐々に削り取られていく。
その時、緑色の光がオーガラストを包む。
自動回復が再開されたのだ。
「まずい!」
「間に合わねぇ!!」
2人は叫ぶ。
宗一郎は一旦引く。
攻撃を諦めたのか。
プリシラとミスケスの顔から血の気が引いていく。
だが――。
「アガレス……。かつての力天使よ。お前の打ち破る力を、オレに示せ」
宗一郎の拳に赤光が宿る。
竜の腹を蹴って跳び上がると、顔面に到達した。
「まだ寝てろ!!」
思いっきり拳を振る。
竜の顎門の先を捉えた強力なフック――。
オーガラストの身体が再び右へ。
その瞳の色は、赤から白へ。
完全に白目を剥き、意識を失っていった。
白目を剥きそうになったのは、巨竜だけではない。
プリシラも、ミスケスも……。
たった1発で意識を失わせた勇者の拳に絶句した。
当然、自動回復はキャンセルされる。
宗一郎はレベル戦での攻撃を再開。
ピュールの魔法剣を振りかざし、ダメージを追わせる。
そして――。
「とどめだ!!」
切っ先を下に、オーガラストの頭に向かって降下する。
脳天に魔法剣を突き刺した。
致命判定が大きく輝く。
ついに【体力】ゲージは0%になった。
いよいよ決着です!
明日も18時に投稿します。
よろしくお願いします。




