第67話 ~ 男ってバカしかいないのかしら ~
第4章第67話です。
よろしくお願いします。
性に合わん……――。
現代最強魔術師の一言に、オーバリアントの女神はさらに目くじらを立てた。
「ちょっと! 私の話を聞いていたの……!」
「そうだ! プリシラちゃんの話を聞いていたのかよ! 見ろ!!」
ミスケスまで加わり、オーガラストを指さす。
「てめぇの攻撃は確かに手数は多かった。だが、それだけだ。プリシラちゃんの一撃で、5000ポイント。俺様の攻撃で3000ポイントだ。てめぇ、どれだけ与えたかわかっているのか?」
「…………」
「たったの600だ!」
「数えていたのか?」
「経験を積めば、だいたいわかるんだよ、こんなことは――」
「なるほど。ならば、オレも忠告するが、かわした方がいいぞ」
オーガラストに向けて、指をさす。
竜の口内が赤く光った。
炎息だ――!!
「退避よ!」
プリシラが叫んだ。
瞬間、再び宗一郎は走り出す。
また無謀にも突進かと思いきや、直前で横に移動する。
オーガラストの指向が宗一郎に向いた。
――よし!
「ああ。くそ!!」
ミスケスが加勢に行こうとするが……。
「来るな!」
「なんだと!!」
思いも寄らない忠告が返ってくる。
オーガラストの興味を引きながら、宗一郎は少し距離を取る。
「あいつ、何かを狙ってる?」
理由はわからないが、その動きには彼なりの意図があるような気がした。
その時、宗一郎は謎の行動を取る。
渡された【炎帝の盾】を地面に突き刺した。
「な! ちょっと!!」
瞬間、炎息が放たれた。
レーザーのような赤黒い光条が、ボス部屋内で光る。
そして勇者の姿が、光の中に消えていく。
「宗一郎!!」
プリシラは反射的に叫んでいた。
炎息が止む。
巨大なエネルギーは地面を焼き、さらに抉り飛ばしていた。
「おいおい。ちょっと――。あんなの喰らったら、生きていられるのかよ」
ミスケスは異変に気づく。
そして――。
「【炎帝の盾】が消滅してる」
爆心地を指さす。
プリシラの指摘した通り、宗一郎が置いた盾が、影も形もない。
「まさか……」
「あの野郎……」
「オレならここだ」
プリシラとミスケスが同時に振り返る。
宗一郎が立っていた。
その足にはバズズの加護を纏っている。
「てめぇ、生きていたのかよ」
「当たり前だ」
「バカの心配はしていないわ。それよりも、盾――」
「さといな。さすがだ」
「どーも……。じゃあ、説明してちょうだい」
「どういうことだ?」
ミスケスだけが事情を掴み切れていない。
「おそらく今のオーガラストにゴールド製の防具は意味はない」
「つまり、私の加護が効いていないってことね」
「え? え?」
やはり、ミスケスは首を傾げる。
プリシラは仕方なく説明した。
「つまり、女神の加護に関係なく、直接的に攻撃してくるということよ」
「【ステータス】に依存するダメージ判定を無視するってことか」
「そういうことだ」
「じゃあ、あの炎息をまともに喰らったら」
「本当に死ぬ」
「魔法での防御も……」
「期待できないでしょうね」
ミスケスは息を呑む。
これまで戦うということに関して、臆するということをしらなかった冒険者最強は、今ここに来てはじめて――恐怖を感じた。
「幸い。ダメージ判定は有効らしい……。攻撃は続けて問題ないだろ」
「女神の加護なしに、あの巨竜に挑むのかよ!! 裸で突撃するも同じなんだぞ!」
「怖いんだったら、逃げてもいいのよ。ミスケス」
プリシラは冷たく言い放つ。
こうして3人が言い争っている間にも、オーガラストはこちらに身体を向けていた。
口内が再び赤黒く染まる。
「2人は残るのかよ」
「当たり前だ」「当たり前でしょ」
即答が返ってくる。
ミスケスから見れば、その反応こそが狂気の沙汰だった。
「炎息くるぞ!!」
「今度こそ退避よ!!」
宗一郎、プリシラが口々に言い放つ。
そして散っていった。
ミスケスだけが立ち止まっていた。
足がすくんで動けないのだ。
オーガラストの指向が、冒険者最強に向く。
「もう! 本当に男ってバカなんだから!!」
仲間の反応を見て、プリシラは踵を返すが。
「プリシラ! オレが行く!!」
パズズの加護を得た宗一郎が疾走する。
だが――。
ミスケスは走った。
手を水平にかかげ、闇と光の剣を顕現させる。
「あいつ!」
――気でも狂ったのか!
そうとしか思えない無謀な突貫。
「まずい!!」
プリシラが叫ぶ。
オーガラストの炎息が放たれた。
再び赤黒い光条が地面に向かって振り下ろされる。
岩が溶け、さらに爆風が壁を抉る。
「「――――!」」
宗一郎とプリシラが揃って息を呑む。
仲間の生存を半分諦めかけた時、裂帛の気合いがフロアに響き渡る。
【双龍激斬】!!
ソードマスターのスキル――。
2本のダメージ判定が、オーガラストの頭頂から股下まで貫いた。
その足下に、ミスケスが降り立っていた。
炎息が放たれる瞬間、大きく跳躍し、回避していたらしい。
「俺様は冒険者最強だ……」
「……?」
「だから――」
指さす。
その先にいたのは宗一郎だった。
「てめぇには絶対負けねぇからな」
とライバル宣言じみたことを言い放つ。
宗一郎の口角を上げる。
その横でプリシラは、首を振った。
「ホント……。男ってバカしかいないのかしら」
はあ、と深い息を吐いた。
ミスケスの極大の一撃で、オーガラストはひるんだ。
畳みかけることができるが、一旦ミスケスは後ろに引く。
「どう? プリシラちゃん! 俺様の一撃は!」
ぐいっと袖をめくり、力こぶを見せつける。
いつものミスケスに戻っていた
プリシラはまた息を吐く。
何も言わず、宗一郎に向き直った。
「宗一郎、教えて。どうしてあなた、気づいたの?」
「オーガラストのことか?」
「そうよ。最初から知っていたら、それなりの戦い方を考えたのに」
「悪いが、思い出したのは、このフロアに入ってからだ」
「都合のいい記憶力だこと」
ちくりと嫌みを言う。
宗一郎はかまわず話を続ける。
「オレたちが最初にオーガラストを討伐した際、あいつはこちらの魔法や防具の効果を無視していたからな。もしやと思って、試してみたら案の定だった」
「ああ……。そうだったわね」
プリシラも思い出し、銀髪をかき上げる。
「で? どうする?」
尋ねたのはミスケスだった。
「さっきも行ったでしょ。作戦は続行――」
「違うぜ、プリシラちゃん。こいつを作戦に参加させるか否かだ」
プリシラはじっと宗一郎を見つめる。
そして再びめんどくさそうに頭を掻いた。
「しょうがないわね。……こうなったら、私たちの方が危ないんだし」
「だろうな」
「代わりに、あとで1発殴らせてくれる?」
「何故だ!?」
「くはははは……」
「ミスケス、あんたもよ」
「とばっちり!」
「とりあえずよ」
プリシラは気を取り直す。
同時に、ひるんだオーガラストの体勢が立ち直ろうとしていた。
「私とミスケスで攻撃するプランは変わらないわ。宗一郎は、あいつを出来るだけ引きつけて、攻撃を誘って」
「こいつが死んだらまずいだろ」
「誰が死んでもまずいわよ!」
「プリシラちゃん……」
ミスケスは感動し、ほろろと涙を浮かべた。
「ああ! うざったいわね。とりあえず作戦は『いのちをだいじによ』! いいわね」
「「了解」」
3人はそれぞれオーガラストに接敵するのだった。
どちらも固い印象のプリシラと宗一郎の中にあって、
ミスケスはかなり書きやすい馬鹿キャラです。
明日も18時に投稿します。
よろしくお願いします。




