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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第66話 ~ 性に合わん……! ~

第4章第66話です。

よろしくお願いします。

【名前       : オーガラスト】

【モンスターレベル : 188】

【体力       : 12500】

【魔力(技力)   : 940】

【ちから      : 560】

【耐久力      : 754】

【魔性       : 358】

【素早さ      : 124】

【地形補正(空)  : 素早さ +455】

【運        : 622】

【火耐性補正    : A+】

【水耐性補正    : B】

【状態耐性     : S+】

【パーティ攻略推奨総レベル 250以上(1人当たり70以上)】



 これがギルドが公表しているオーガラストのステータスである。


 特筆すべきはずば抜けた体力。


 確認しているモンスターの中でも、単体での体力は3本の指に入る。


 次に【ちから】と【耐久力】。


 同じくモンスターの中でもトップ10を争う高い値を持っている。

 たとえば、レベル190のミスケスが、レベル70相当の冒険者が手に入れれるほどの普通の防具で挑んだとすれば、2撃で倒されてしまう。

 また同じく武器ならば、体力の0.5%を与えるかどうか怪しい。


 それほど、モンスターの中でも傑出したステータスを持ち、対応を見誤れば、たとえ高レベルの冒険者とて油断は出来ない。


 攻撃、防御ともに秀で、加えて弱点らしい耐性も持ち合わせていない。


 しいていえば、たいていフィールド上で出現したとしても、寝ていることが多いということぐらいだ。


 竜狩りという竜専門のパーティでなければ、スルー1択のモンスター。


 希少なゴールドと膨大な経験値を持つが、オーガラストで経験値やゴールドを稼ごうという愚かな冒険者はいないだろう。


 それはプリシラに経験値馬鹿といわしめたミスケスですら、実行しなかったことだった。


 主にソロで活躍していたミスケスも、オーガラストを倒したのは両手で数えるほどしかない。それも頼まれて、パーティー戦で挑んだ時だ。


 今回の人数は3人。

 1人は使い物にならないので、実質2人。

 竜狩りは最低でも4人のパーティーで行うので、経験豊富なミスケスとて、未知の体験になる。


 だが、自然と気負いはない。


 プリシラの目玉が飛び出すようなステータスを見せられてというのもあるが、竜種相手に2人で挑むというのは、なかなか男の心をくすぐるものだった。


 腕と足が武者震いでふるえている。


 今にも飛び出しそうな身体を、ミスケスは必死で押しとどめていた。


 【全能の神秘】ゼデス!!


 全員に向かってプリシラは【神秘】を唱える。


 宗一郎、ミスケス、そして己自身の身体が、グリーンに発光する。


『全ステータスと全耐性が上昇する【神秘】よ』


 プリシラの声が頭に響く。


『こんな【神秘】があるのかよ』

『レベル200で転職なしに神官を続けると覚えることが出来る【神秘】よ』

『げぇ……。なんだよ、その苦行――』


 といってから、ミスケスはあることに気づいた。


『ちょっと待って、プリシラちゃん』

『何よ、うるさいわね』


 ミスケスを汚物のように見つめる。


 若干、その視線に傷つきながらも、冒険者最強はひるむことなく尋ねた。


『さっき見たあんたのステータスは別のジョブだったけど、まさかレベル200になってから転職したのか』

『ああ……。なるほど。腐っても冒険者最強なんていうだけあるわね。ご明察どおりよ』

『どういうことだ?』


 オーバリアントのゲーム性を無視して、これまで突き進んできた宗一郎は、半目で両方を睨んだ。


『転職ってのは、ある程度ステータスは引き継がれるが、レベルそのものは“1”からやり直すんだよ。つまり――』

『なんとなく理解した。一旦レベルが落ち込んだのに、プリシラの現状のレベルはそれ以上あるっと言いたいのだな』

『そういうことだ』

『一体、何レベルなんだ?』

『それを聞くな。やっと気持ちが立て直したところなんだ』


 ――話題を振ったのは、お前だろう……。


『はいはい。ゲーム談義はここでしまいよ。まごまごしてたら、竜が起きちゃうわ。……宗一郎、あとあんたこれ持っておきなさい』


 アイテム袋から取り出したのは、盾だった。

 ちょうど宗一郎の胴ぐらいの大きさで、表面には炎の魔神をかたどったこしらえが貼り付けられている。


『おお。【炎帝の盾】じゃん』

『それでたいていのドラゴンブレスは防げるわ。宗一郎の方に攻撃を向けさせないつもりだけど、流れ弾が来る可能性も考慮しないとね』

『お気遣い痛み入るな』


 やれやれ、と首を振る。


 そのスーツの胸元をプリシラはぐいっと掴み上げた。


『いい!? 宗一郎が死んだら、この作戦は失敗なの。だから、なんとしてでも生き延びなさい。いいわね』


 薄青い――水晶のような瞳が、黒髪、黒目の如何にも日本人の青年という男の顔を捉えていた。


 そこには怒りのような、少し心配するような感情が流れている。


『わかった。……お前たちを信じよう』


 ようやくプリシラは手を離す。


 横で一緒になって、ミスケスが照れていた。


『さ。準備も整ったところで、やるわよ』


 銀髪が翻る。


『先制は?』

『私がやるわ』


 中空に武器を顕現させる。

 如何にもステータスが上昇しそうな複雑な呪字と、形状をした杖だった。


 ミスケスは手を水平にかかげ、用意する。


 宗一郎もまた盾を構えた。


 かつてオーバリアントで最強を誇った女神――プリシラ。

 自称冒険者最強――ミスケス。

 そして現代最強魔術師――杉井宗一郎。


 急造ではあるが、今オーバリアントで考え得る最強のパーティーは、この日はじめて共闘した。




 初撃は、プリシラの叫びから始まった。


 【崩防の神秘】ガリスマ!


 大気の塊が真っ直ぐオーガラストに向かっていく。


 寝ている巨竜を跳ね上げさせた。

 オーガラストはそれで完全に目を覚ましてしまったが、同時に盾のように覆っていた翼が開く。


 おそらく神官の防御崩しだろう。


 不意打ちとはいえ、【運】にも左右される神秘を成功させたのは、ひとえにプリシラのステータスによるところが大きかった。


 オーガラストは寝ている時以上に、無防備な状態に陥る。


 すかさず――。


「五級……」

「な! 五級!!」


 横に立っていたミスケスが素っ頓狂な声を上げた。


 それほど珍しいのだ。



 【五級雷精魔法】プラスティア・ブラーチ!



 光が視界をつぶし……。

 轟音は巨竜のいななきすらかき消した。


 目の前で、あの【太陽の手(バリアル)】が炸裂したかと思えるほどの極大な落雷が黒き竜に突き刺さる。


 まさに一瞬の出来事――。


 目の前にいたのは煙を噴いた竜だった。


 電撃状態になり、赤く小さな光点がさらにオーガラストの体力を奪っていく。


 オーガラストは完全に気絶していた。


「ミスケス!」

「はいよ!!」


 バトンを渡されたソードマスターが、突撃していく。


「召喚!!」


 いつものように叫ぶ。


 【闇の剣】ズフィール!!


 右に漆黒の剣――。


 【光の剣】ラバーラ!!


 左に光の剣――。


 二振りの剣を構え、ミスケスは巨竜に肉薄する。


 何者も邪魔するものはいない。


 冒険者最強は固い岩盤に覆われた花道を渡る。


「さあ! 派手に行くぜ! トカゲ野郎!!」


 飛び上がる。


嵐神絶喰(らんしんぜっくう)】!!


 ソードマスター固有のスキルが発動。


 剣の嵐が、オーガラストに襲いかかる。


 首、胸、前肢、後肢、翼、顎門、膝、腹……。


 縦横無尽の連続剣舞。

 黒い体表に、赤い線を刻んでいく。


 気絶状態になったオーガラストはようやく身体を動かすことが出来るようになったが、なされるままだ。


 悲鳴じみた吠声が岩肌にヒビを入れるほど響き渡る。


「よし! 初撃は十分!!」


 スキルの効果時間が解けたミスケスは一旦距離を置く。


 だが、その横をすり抜ける男がいた。


「魔王パズズよ。偉大なる王の風よ。オレの足に刻印をうがて!」


 足に風がまとわりつく。

 さらにスピードをあげ、杉井宗一郎はオーガラストに肉薄した。


「「あ――」」


 他の2人が止める間もない。


 宗一郎はもらったピュールの剣を空中で構えた。


 さらにまとった風の力が増幅する。

 先ほどのミスケスのように縦横無尽に竜の皮膚の上を駆け回っていく。


 赤いダメージ判定が輝く。

 その数はミスケスよりも多い。


 だが、オーガラストは仰け反る様子はない。


 1発の攻撃力が弱いのだ。


 竜に反撃体勢が整う。


 蠅でも払うように鋭い爪がついた前肢が振るわれた。


 しかしその時には、人間(ハエ)はすでに遙か彼方にまで待避していた。


 宗一郎はプリシラのすぐ横に着地する。


「ちょっと! あんた!!」


 女神は目を三角にして怒っていた。


 当の本人は、ぞんざいに「ふん」と鼻を鳴らす。


 そして――。


「性に合わん……!」


 と切って捨てた。


宗一郎が大人しくしてるわけないじゃん。


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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