第64話 ~ これは『黄金の――――つげぇ!! ~
第4章第64話です。
よろしくお願いします。
またモンスターと遭遇すると、ミスケスが突っ込んでいった。
宗一郎にとっては鬱陶しいことこの上ないが、当のミスケスはというと、歯をむき出しにして嬉々としている。
プリシラは話を続けた。
「異世界召喚にかかわったダークエルフのほとんど、私か他の仲間の手によって倒されたわ。けど、2人だけ消息がわからなかった。1人はこの前の【太陽の手】騒動を起こしたエーリヤっていうエルフ。そしてもう1人が……」
「そのラフィーシャというわけか……」
「実は、オーバリアントをゲーム世界にした呪縛も、半分はラフィーシャを見つけるためよ」
「それでも見つからないのか」
プリシラの銀髪が縦に揺れた。
「とんでもないヤツよ。妹のアフィーシャが子供に見えてしまうほどにね」
女神の呪術を回避するほどの実力者……。
さほど呪術に詳しくない宗一郎も、プリシラがかなりの使い手であることは認めている。
不意打ちとはいえ、現代最強魔術師に対し、異世界に来た瞬間呪いを刻んだのだ。その実力は認めざる得ない。
プリシラが特定の人物を探すために編んだ呪詛。
それから今もなお逃れ続けているダークエルフ。
途方もない相手であることは、会わなくてもわかる。
「私の呪術をすでに解析できていると考えた方がいいわね」
「そんな化け物……。倒すことは可能なのか?」
「あら? 現代最強魔術師ともあろう者が、ビビッてるの?」
「そうではない。現実的に勝算はあるのか、と聞いている」
呪術師は、目の前にいるプリシラも含めて厄介な存在だ。
魔術師が猪武者ならば、呪術師は暗殺者。
対象者にゴリ押す魔術師に対して、呪術師は入念な準備と隠密性を駆使し、確実に事を成す周到さを持っている。
翻っていうなら、魔術師は即応性にすぐれているが、呪術師は時間をかけなければ効果はない。
故に、現代世界においても、用途に応じ、歴史の闇の中で使用されてきた。
そして常に比べられてきたのだ。
いわば、水と油……。犬と猿の関係だ。
宗一郎は若い魔術師のため、さほど気にはしていないが、古い魔術師は呪術師を毛嫌いする傾向にある。
プリシラほどの呪術師の術式を解明し、この世に混迷をもたらした元凶が、オーバリアントで行方不明になっている。
RPG病の蔓延よりも、そっちの方が大問題といえた。
「なんとも言えないわね。ラフィーシャがどこまで私の呪術に対して、理解できているかわからないし。即死呪術も正直にいって、呪術耐性を身につけた相手に、万能とは言い難いしね」
「その割には随分、冷静なのだな」
「宗一郎がいるから――」
「…………!」
「――っていってくれたら、嬉しい」
プリシラは笑みを浮かべる。
少し上目遣いで、隣の男の顔を覗き見る。
宗一郎は珍しく顔を赤くした。
「からかうな」
「むふふ……。ウブよねぇ、あんた。女神の微笑を見ただけで顔を赤くするなんて」
ケラケラ、と笑う。
宗一郎はますます顔を赤くするが、これは怒りによるものだった。
「でも、期待はしてるわよ。私がいなくなったら、おそらくラフィーシャに対抗できるのって、あんたぐらいしかいないんだから」
「期待するしないともかく……。オレは自分に立ちふさがる者を排除するだけだ」
「いちいち主人公臭いわよね。あんたって……」
「これでも勇者でな」
「ああ……。そうそうもう1つ、宗一郎に――」
「おい! 伏せろ!!」
ミスケスの声が響き渡った。
プリシラの背後から闇が広がる。
巨大な蝙蝠が出現した。
メガヨースというモンスターだ。
翼を広げ、海象のような牙をプリシラに向かって突き立てる。
「ちっ!」
宗一郎は舌打ちする。
魔術は間に合わない。
肝心のプリシラも、反応が遅れている。
鞘からピュールの魔法剣を抜き放つ。
そのままプリシラを突き飛ばし、最短で突きを放った。
見事――メガヨースの目玉をさし貫く形で、赤い攻撃判定が光る。
――ひるんだ……!
宗一郎は驚いた。
致命が取れたとはいえ、宗一郎のレベルは「1」。
ノックバックは【ちから】が高くないと起きない。
ピュールの魔法剣による補正が、相当高いということだろう。
しかし――。
メガヨースは後方に退いただけ。
倒れたわけではない。
翼をはためかせ、次撃に備える。
一瞬の間……。
宗一郎には十分だった。
「アガレス……。かつての力――――」
「待って!」
宗一郎のスーツの裾がぐいっと掴まれる。
そのままつんのめると、プリシラに向かって倒れ込んだ。
「きゃああ!!」
と可愛い少女の声が、緊迫した洞穴に鳴り響く。
しかし、次に聞こえてきたのは、メガヨースの小汚い吠声だった。
再び牙を剥きだし、突撃してくる。
対して、宗一郎の体勢はまだ整わない。
――しま……。
瞬間、メガヨースの身体がねじれた。
横から強い力が加わり、まるでヒラヒラと舞い落ちる紙に石をぶつけたように、身体がくの字に曲がる。
そのまま岩壁に激突し、消滅した。
壁には【光の剣】が突き刺さっていた。
「よう。大丈夫か、お2人さん」
暗い洞穴の闇の中から現れたのは、ミスケスだった。
肩に魔法剣のもう一振り、【闇の剣】をかけている。
助けてやったことを自慢するように鼻を鳴らすミスケスだったが、みるみると赤い眼は丸く、そして大きく見開かれていった。
「あああああああああああああああああああああ!!!!」
突然、大声を上げて、指さす。
2人はその方向を見つめる。
プリシラは自分の薄い胸を。
宗一郎はその胸に置いた自らの腕を……。
「「あ……」」
声が重なる。
そして、なんの示しもなく――2人の視線が絡み合った。
………………。
両者ともしばし絶句――。
最初に動いたのは、プリシラだった。
眉間に皺を寄せ、不快感を露わにした。
「ちょっといつまで触ってんのよ」
「す、すまん」
宗一郎は慌てて仰け反る。
ライカに同じ事をしようものなら、平手の1発でも飛んでくるかもしれないが、プリシラは淡々としていた。
胸の当たりを少し気にしながら、宗一郎よりも先に立ち上がる。
「本当にすまない」
遅れて宗一郎も腰を上げた。
「別に……。不慮の事故なんだから仕方ないじゃない。別に意識することではないわ。これでもいい年した女なんだから……」
「そ、それはそうだが……」
「じゃあ、俺も触らせて――――」
ミスケスが言いかけた瞬間、プリシラの右ストレートが顔面を貫いた。
そのままペタリと尻餅を付く。
赤くなった鼻を抑えた。
「痛ってぇぇ……」
「痴女扱いしないでくれる。……ところでさっきかから気になっていたんだけど」
プリシラは悶絶するミスケスを見下ろした。
「やたらとモンスターのエンカウント率が高いようだけど……。あんた、なんか心当たりある?」
「ああ……。そのことなら……」
ミスケスは道具袋を開くと、禍々しい彫り細工が施されたグローブを取り出す。
防具かと思いきやどうやら拳法家専用の武器らしい。
指を覆う部分に、ゴールド製の鋲が打ち込まれていた。
だからというわけではないが、全体的に金色で覆われており、如何にも高そうな装備品に見える。
「これは『黄金の――――つげぇ!!」
再びプリシラのストレートが、ミスケスの顔面を捉えた。
「知ってるわよ! モンスターとのエンカウント率が高くなるアイテムでしょ」
「さすがプリシラちゃん! その理知的な容姿に違わぬ博識ぶり」
さらに顎を打ち上げられる。
ミスケスは車田○美先生のキャラみたいに跳ね上げられた。
「褒められても嬉しくないわよ!」
「俺はプリシラちゃんに殴られて嬉しい」
――めげないなあ、こいつ……。
このしぶとさは某悪魔に匹敵するかもしれない。
「こんなもの!」
あっさりとプリシラは投げ捨てた。
洞穴にポッカリと空いた穴の底へと放り込まれる。
「ぎゃああああああああああああ!! レアアイテムなのにぃぃぃ!!」
穴の縁に手をかけ、ミスケスは「ぐすぐす」と泣き始めた。
――泣くようなことか……。
宗一郎は頭を振る。
「ほら! とっとと行くわよ」
銀髪を掻き上げ、プリシラは歩き出す。
宗一郎は少々気の毒そうにミスケスを見つめながら、後に続いた。
「うわあああああん。俺の『黄金の――――」
洞穴内に、しばらく男の情けない涙声が響き渡った。
――からの一見、意味不明タイトルw
明日の18時に更新します。
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