第9話 ~ 所詮、レベル1が私に勝とうなど、不可能なのだ ~
今回のサブタイも長い上に、いまいち……(自虐)
第9話です。
楽しんで下さい。
「ふ、不意打ちとは卑怯だぞ!」
足をふらつかせながら、マトーは立ち上がった。
よよよ、と足取りはおぼつかないが、宗一郎の方へと近づいてくる。
その言動を聞いて、笑いそうになるのを必死で堪えた。
「打ってこいと言ったのは、そちらの方だったと思うが」
「き、貴様! 魔法を使っただろう。魔法はズルい!」
「ならば、何が良いというのだ。……それにオレが使ったのは、魔術だ」
「魔術……? ええい! そんなことはどうでもよい! 続行だ! 俺はまだ負けたわけではない」
見た目とは裏腹に、なかなか元気だ。
気絶させる程度には打ったつもりだが、さすがに柔な鍛え方はしていないらしい。
「マトー殿。本当によろしいので?」
「くどい!」
ロイトロスの忠告を一蹴する。
決闘は再開された。
水を打ったように静まり返っていた観衆は、勢いを取り戻す。
そのほとんどが、とんでもない一撃から立ち上がったマトーへの賞賛だった。
「宗一郎殿……。剣は苦手か?」
「ん?」
そう言えば、と今さら思い出した。
帝国から支給された剣があったのだ。
鞘から剣を引き抜く。
大きさはショートソード程度だが、刃はよく鍛え抜かれ、何よりも軽い。
普通の鉄ではなく、《ゴールド》を使っているとのことだが、確かに普通の武器ではない。
「殺傷することは不可能なのだな」
「はい。《ゴールド》が使用されている武器で斬りつけても、多少の衝撃はありますが、あくまで《体力》の数値が削られるだけです」
という事前説明を受けていたが、俄に信じがたい。
「論より実戦か……」
宗一郎は剣を天に向かって掲げる
すると、詠唱した。
「魔王パズズよ。偉大なる王の風よ。オレの足に刻印をうがて!」
呪唱を聞いて、マトーは剣を引き抜き構えた。
だが、それでも遅い。
風の魔王といわれたパズズの力は、あっさりとマトーの懐へ召喚者を導いた。
「な、に……」
一瞬にして間合いを侵略され、マトーは驚嘆するしかない。
目の端で、宗一郎の剣線を見届けるしかなかった。
シュン!
左肩から右脇腹にかけて、一気に袈裟に斬る。
本来なら血しぶきを上げ、致命傷を負うはずだ。
しかし現れたのは赤いライン。
いわゆるダメージ判定というヤツだろう。
マトーの《体力》がわずかに減る。
ちなみに実戦ではお互いの《体力》を見る事は出来ない。しかし今回のみ、特別に確認できる仕様になっている。2人だけではなく、観衆も見る事ができる。
興行として盛り上げようという腹づもりらしい。
減ったのは、わずか6ポイント。
マトーのステータスは以下である。
マトー 職業 スペルマスター
体力 : 1533
魔力 : 1043
レベル : 122
つまり、250分の1も削っていない。
「ふふ……。あはははははは…………」
こいつは参ったと言わんばかりに、マトーは手で顔を覆い、大口を開けた。
「ビビって損をしたわ。……所詮はレベル1よ。俺の敵ではなかったわ」
するとマトーは距離を取る。
両手を突き出し、構えた。
「攻撃とはこういうものだ!」
【三級炎魔法】プローグ・レド!
派手な音を立て、マトーの手から炎の塊が射出した。
風の魔王の力によって、宗一郎は地面を滑るように回避する。
だが、さらに追い打ちがかかった。
「チッ!」
舌打ちしながら、さらに回避を繰り返す。
「プローグ・レド! プローグ・レド! プローグ・レド! プローグ・レド!」
間断なく攻撃を繰り返すマトー。
その顔は狂気に満ちている。
無駄打ちともいえるが、さすがの宗一郎もマトーに近づけない。
宗一郎の錆びたゲーム脳から推測するに、魔法を使えば《魔力》を消費する。このまま回避し続ければ、魔法は止むだろうが、それでは少々面白くない。
「ご主人、がんばッスよおおおおおお!!」
不意に自分の悪魔の声が聞こえた。
フルフルが手を振って応援している。何故か、鉢巻きには「宗一郎LOVE」と書かれ、大きな横断幕を振っている。
アウェイの中、1人でも応援してくれるのは嬉しいことだ。
宗一郎はわずかに口端を広げる。
「ご主人に全財産をつぎ込んでるんスからね。絶対勝って下さいよ」
前言撤回――。
「死ね」と思った。
しかしこのままでは埒が明かない。
対処法は色々とあるが、このマトーという男……もう少しいたぶらねば、気が収まらない。
膠着する戦況の最中、先に痺れを切らしたのはマトーの方だった。
「ええい! ちょこまかと! ならば!」
【三級炎魔法】プローグ・レド!
手を掲げ、いつも通り炎を生み出す。
すると、もう片方の手も掲げ。
【必中の神秘】アログ!
「合技魔法!!」
天幕の中で椅子を蹴って立ち上がったのは、ライカだった。
それはスペルマスターだけが使用できるスキル。
神官の神秘と魔法士の魔法を掛け合わせることが出来る技術だ。
むろん、ライカの驚嘆の声は宗一郎には届かない。
――何かあるな……。
とは予想できたが、襲い来る炎の塊をかわすだけで精一杯だ。
マトーは合技魔法を放つ。
1発の炎塊は真っ直ぐ最短コースを駆け抜けた。
警戒した宗一郎は、いつもよりも大きくステップを踏む。
完全に回避した――と思いきや、炎は突如進路を変え、襲いかかった。
「――――!」
バアアアアアアアアアアアン!
炎が炸裂した。
軽い衝撃が全身を襲う。目の前が赤く覆われた。
ダメージ判定されたのだ。
右隅のステータスに目玉を向ける。
一気に数値が下降し、体力はあっという間に「1」になってしまった。
ステータスを囲む枠が、瀕死を示すように赤字で警告する。
「チッ。必中の魔法か……」
実は先ほどから、回避と同時に因果の操作も試みていた。
空間内に漂う因果律を操作するには、膨大な情報を分析し、処理しなければならない。だから、初めはパズズの力を使い、回避していたのだが、次第に処理が追いつき、因果操作でかわしはじめていた。
合技魔法は、その矢先に放たれた。
むろん、そういう意図があってマトーも放ったわけではないだろう。しかし、宗一郎からすれば、最悪のタイミングでの被弾だった。
しかも《体力》はわずか「1」。
むしろ「1」残っただけでもよしとしなければならない。必中とはいえ、かすっただけなのが幸いした。
だが、今度はかすっただけでも、勝負は決まってしまうかもしれない。
まずいな――。
それが宗一郎の本音だった。
「こらああ!! ご主人! 何やってるんスか! 負けたら、フルフルの全財産がなくなっちゃうんスよ。そしたら、裸で路頭に迷うことになるんス! 乙女の柔肌を、衆人環視の元に放り込むつもりッスか。……それはそれでいいかもッスけど」
――ああ……。誰か、あの悪魔を呪い殺してくれ。
なるべく怨念を込めて、宗一郎は祈る。
そして改めて、マトーに向き直った。
「どうした、勇者君? 万策尽きたかな?」
「万策が尽きたのではない。お前を倒すのに、万策があったのだが、残念ながら1つだけに絞られてしまって、少々辟易しているところだ」
「強がりを……。所詮、レベル1が私に勝とうなど、不可能なのだ」
ぴくりと宗一郎が反応した。
「今、なんと言った?」
「恐怖で耳までおかしくなったか? 不可能と――」
マトーは最後まで言えなかった。
宗一郎の顔を見た瞬間、全身の毛穴という毛穴が開き、寒気に襲われた。
まるで死に神に魅入られたかのように、一瞬だけ意識が飛ぶ。
その対戦相手は笑っていた。戦場であるにもかかわらず……。
いや――それはいい。
何というかそれは、笑顔と相対してあまりある恐怖のようなものが貼り付いていた。
宗一郎は呟く。
「良い言葉だ……」
次の話は、本日18時に投稿します。
ここから逆襲ですよ!
※ と、とうとうPV30000件突破してしまいました。
そして何より、週間ランキングで81位……。
週間に残るだけでビビってるのに、2桁ってどういうこと!?
ねぇ、いつか落ちるんでしょ? そうなんでしょ?
いつか頭打ちになるのよ。ボロ雑巾みたいに捨てられるの、私……。
なんて言う精神不安定状態の作者です。
いや、ホントにホントに読者の方に感謝です。
もうどっちに足を向けて寝ていいのかわかりません。だから立ちます。
あ、でもブラジルから読んでいる方がいらっしゃるかも……。
逆さで寝ればいいのか。重力かかってこいや!(謎)
帝国最強編はもうすぐ終わりですが、まだまだ続きますので、
応援よろしくお願いします!!




