第57話 ~ あら、そう!? だったら、死ねば……!! ~
第4章第57話です。
サブタイの元ネタがわかる人は握手しましょう。
高度を取りながら、宗一郎は【太陽の手】を掲げた。
「【フェルフェールの瞳】!」
一唱とともに、かっと瞳を見開く。
両目に青白い光が強く輝いた。
宗一郎は小箱を見つめる。
――やはり……。
フェルフェールの瞳は、対象の秘密を暴く魔法。
そして小箱の中には多くの【秘密】が仕込まれていた。
だが、いくら宗一郎とて、内容が理解できなければ対処のしようがない。
核兵器を無力化した時、核融合反応という現象を理解できていた。
だからこそ、因果律を操作し、それを封じ込めることが出来た。
しかし、今回はその方法を使えない。
「ふう……」
息を吐き、やれやれと首を振る。
その間にも、木箱の温度は上がっていった。
すぐにでも起動するかもしれない。
「スマートではないが、力押しに頼るしかないか……」
手を水平に掲げる。
アンドレアルフスの力を解除した。
背中に生えた黒い翼が消え、自由落下を始める。
そして呪唱した。
「72の悪霊を従えし、強大にして偉大なる王アスモダイよ!!」
それはオーガラストと戦った時に使った呪文。
そして願ったのは。
「お前の力を! すべてくれ!!」
身体が膨れあがる。
黒色の体毛が伸び、その顔は獣じみたものへと変化する。
――と同時だった。
【太陽の手】が強く光る。
橙色に染まり始めた空に、まさに太陽が炸裂したかのような激しい光が広がった。
王都の墓地――。
その一角にある森林に、光が駆け抜ける。
続いて激流のような突風――。そして轟音だった。
墓木が生い茂る林の中で、1人立っていたエルフは顔を上げる。
乱れた赤髪を押さえ、つまらなさそうに呟いた。
「あらら……。あちらは失敗シたデスか」
上空に大きなキノコ雲が浮かんでいる。
だが、その真下にあるチヌマ山脈は、ほぼ無傷。
結局というか……。やはりというか……。
スギイソウイチロウという勇者に阻まれてしまったらしい。
「残念デス……」
というが、エーリヤの口元は笑っていた。
楽しそうですらあった。
すでに彼女の頭の中で、失敗という文字が消えていた。
向き直る。
自分の足元に這い蹲り、砂を被ってボロボロになったエルフに……。
「命をかけるんじゃなかったデスか。マフイラ……」
にぃい、と歪んだ笑みを浮かべる。
エーリヤの言うとおりだ。
命をかけるといっておきながら、この様だった。
完敗だ。
「く……。うう…………」
呻きながら、力を入れる。
どこでもいいから動いてほしかった。
指一本でも、足の小指でも……。
だが、すでに余力はない。
すべてを出し切っても、このダークエルフの上にはいけなかった。
問題はやはりあの黒い影の魔法――。
神出鬼没にして、変幻自在。
殺傷力も高く、回避も難しい。
悔しいが、無敵といっていい能力だ。
宗一郎ですら、苦戦するかもしれない。
――ちょっとカッコつけすぎたかしら……。
でも、抗わなければ。
諦めるには早すぎる。
「まだ反抗的デスね、マフイラ……。その綺麗な青い瞳を潰シてあげるデスよ」
マフイラのトレードマークでもある眼鏡を取る。
途端、視界が薄くぼやけた。
その目の前に差し出されたのは、2本の細い指だ。
「でも、そうなると王国が破壊されるのを見ることができないかもシれないデスね――――痛ッ!」
渾身の力を込めて、マフイラは指に噛み付いていた。
慌てて振り払う。
指の先から赤い血溜まりが浮き上がると、ようやくエーリヤは振りほどいた。
瞳を燃え上がらせ、マフイラを睨む。
「こいつ!!」
マフイラの頭を思いっきり蹴り上げた。
容赦のない一撃。
血反吐と、2、3本歯が飛んだ。
脳を揺らされ、さらに視界がぼやけていった。
それでも――。
「へへ……。ざまあみろ」
笑った。
エーリヤの顔が真っ赤に染まる。
「どうやらシにたいようデスね」
怒りに震える手を制しながら、差し出したのは小箱だった。
マフイラの意識がみるみる覚醒へと向かう。
「やめなさい!」
「やめないデスよ」
そして例の5カウントが始まった。
「1」
なんとか身体を動かす。
「2」
しかし、無情に時は進んでいく。
「3」
小箱が急激に光を帯びはじめた。
「シ」
森が真っ白に染まった。
「あなた、わかってるの! そんなことをしたら、あなたまで!!」
「そう――。死ぬデス。でも、寂しくないデス。ウルリアノ王国の人間の屍の中が、私のお墓になるのデスから。それって素敵なことデスよ?」
さあ――。
「ご」
“あら、そう!?”
どこからか声が聞こえた。
“だったら、死ねば……!!”
エーリヤは気付いた。
咄嗟に握っていた小箱を離す。
【太陽の手】に灰色の光線が貫いた。
強烈な光を帯びていた小箱が、みるみる石化していく。
大地を広範囲に渡ってめくり上げるほどの威力を持つ光が閉じられ、中にある宝石もただの石塊に変わってしまった。
こと……。
冗談みたいな軽い音を立てて、【太陽の手】は地面に転がった。
――――――――――――――――!!
マフイラも。
エーリヤも。
お互いのちょうど中間地点に転がった石塊を凝視した。
先ほどまで相争っていた2人の顔は、奇しくも似たような感情を露わにしている。
““ウソでしょ……””
信じがたい光景に、ただ絶句するしかない。
ただ……。
「全く……。あんたたちダークエルフは、相変わらずオーバリアントの癌ね」
石になった小箱を持ち上げる。
白く美しい――うっとりするような指先だった。
マフイラは徐々にその指先から上の方を見上げた。
しなやかな細い腕。剥きだし肩は、鎖骨が浮き上がっているところまで確認できる。
薄くぴったりとした露出度の高い衣服は、特徴的――と表するには、あまりに表現が乏しい。しかし決してエロティックではなく、どこか未来人を思わせるような先鋭的なデザインだった。
何よりも顔だ。
南海の孤島の浜辺を思わせるような薄青い瞳。
砂地のようなきめ細かい白肌。
唇は薄く、まだ少女の魅力を秘めている。
夜露を編み上げたような銀の髪は、2つに結われ、腰付近まで垂れていた。
まるで作り物にも見える造型の極致。
1つ難癖をつけるなら、寒国の人間が付けるような耳当てがアンバランスに見えるほど大きいことだけだ。
しかし、問題なのは彼女が誰かということだった。
ただ者ではないことは確かだ。
あの【太陽の手】を一瞬にして、石化させてしまったのだから。
ふとマフイラは、エーリヤを覗き見た。
「――――!」
震えていた。
歯をかちかちと鳴らし、手も足の先も微妙に震えている。
白い化粧が落とされ、褐色の肌が見え隠れする顔は、当然のように青かった。
そして呟いた。
プリシラ…………。
と――――。
自分で書いてて、
「キタアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
って叫んじゃったよ。
すいません。チョーいいところでお開きです。
続きます。
明日も18時に更新します。
よろしくお願いします。
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