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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第48話 ~ 我が双頭の馬に誓って ~

第4章第48話です。

よろしくお願いします。

 崖の上に居並ぶ数十騎の騎兵。


 逆光に目を細めながら、ライカは確認する。


 みな、揃いのライトメイルを着用し、臙脂のマントを翻している。

 鎧の胸部分の紋章を見て、ライカはわずかに目を見開いた。


 ――まさか……。


 ある予感が心の中で渦巻く。


 すると、リーダーらしき男が高らかに剣をかざした。


「かかれぇ!!」


 声を張り上げる。


 命令とともに行われたのは、騎兵による崖下りだ。

 むろん、(イメ)と一緒にである。


 ほぼ垂直に近い角度の崖を、窪みに足を下ろして、ステップするように降りてくる。


 尋常ではない手綱さばき。

 いや、その前に普通の馬なら、足を痛めていただろう。


 だが、すべての騎兵が降り立つと、何事もなかったかのように冒険者に襲いかかった。


 突然の奇襲。それも騎兵の……。

 冒険者たちは、ただ呆然と見ていた。現実とは思えない光景を――。


 たちまち十数名の冒険者たちは馬群に飲み込まれた。


 武器が、あるいは人が吹き飛ばされ、悲鳴が上がる。


 それは一瞬の出来事だった。


 ライカたちを追いつめていた手練れの冒険者たちは、倒されてしまった。


 それを皇族の姉妹は見ていることしか出来ない。

 気付いた時には、数騎の騎兵に取り囲まれていた。結局、冒険者が騎兵に変わっただけのことだ。


 ライカはようやく冷静になりつつあった。

 落ち着いて、騎兵の鎧に刻まれた紋章を確認する。


 そこには双頭を持つ怪馬の絵が描かれていた。


 ――やはり……。


 目を細める一方、騎兵は弓をつがえ、あるいは剣の切っ先を向けて、姫騎士を威嚇した。


「我らはアラドラ・ガーフィールドという男を捜しているものだ。お前たち、見たところ冒険者だな。アラドラは今、どこにいる!」


 やたらと高圧的な物言い。だが、声は女のものだった。

 フルフェイスの兜から、わずかに薄紅色の唇が覗いている。


 副長といったところだろうか。

 肩当ての部分に、若干装飾が施され、他の者とは少しデザインが異なっていた。


「アラドラを見つけてどうするつもりだ?」

「聞いているのはこちらの方だ! はけ!! アラドラ、どこだ!?」


 威圧感を増してくる。


 だが、ライカも負けてはいなかった。

 逆に強い視線を返す。

 反抗的と受け取ったのか、副長の身体からほとばしる殺気が膨れあがった。


「お前たち、ウルリアノ王国の人間だな」

「――――!」


 雄弁に語っていた副長の口が塞がる。

 息を飲むのがわかった。


「驚くことはあるまい。鎧の紋章を見れば、すぐにわかる。それに見事な手綱さばきだった。馬も強い。さすがはウルリアノの騎兵だ」


 褒め称える。


 戦場でいきなり賛美されるのを聞いて、逆に騎兵たちは戸惑った様子だった。


 副長の警戒心が少し揺るむの感じる。


「しかし、ここはまだ帝国領のはずだ。にも関わらず、ウルリアノの兵がいるということはどういうことか説明するのが筋だ。それとも貴国は不戦条約を破り、我が帝国に宣戦布告しにきたというのか」


 正確にいうなら、ファイゴ渓谷はいわばマキシアとウルリアノの緩衝地帯だ。


 そのため、帝国も王国もいかなる理由があったとしても、軍を入れてはいけないという決まり事がある。たとえ、それが数十騎だとしても許されることではない。


 ちなみにライカが帝国領といったのは、地図上に引かれた境界線の話であって、領内という主張はこの場合通らない。


「緊急の案件なのだ。仕方ないであろう!!」

「しかし、規則は規則だ。……さあ、どう弁解するつもりか!」


 形勢は逆転した。

 ライカの鋭い舌鋒が副長の喉元を抉る。


 薄紅色の唇をくっと噛んで、バイザー越しにライカを睨んだ。


「お前の負けだ、ヤーノ」


 落ち着いた声がヤーノと呼ばれた副長の後ろから聞こえた。

 囲みに穴が開き、1騎の騎兵が近づいているくる。


 白馬に乗った王子様――というわけではないが、薄い金髪と空色の瞳を持つ優男だった。おそらくエルフだろう。色白で、特徴的な形の耳が横に張り出していた。


 崖の上から張り上げた声と似ている。

 隊長格であることはすぐにわかった。


「パルオ隊長、しかし――!」

「口答えを許した覚えはないよ、副長。それにこのお方の言うことはもっともだ」


 ぴしゃりと言い放ち、空色の瞳を向ける。

 馬上でヤーノは一瞬身震いすると、しゅんと項垂れた。


 パルオと呼ばれたエルフの隊長は、剣を収めると、馬から下りた。

 無造作にライカに近づいてくる。


 そして傅いた。


「部下が失礼しました。ライカ・グランデール・マキシア陛下。そしてクリネ殿下」


 ライカはじっとパルオを睨んでいたが、不意に構えを解いた。

 次いで剣を収める。


「お、お姉様!」


 拘束魔法が解かれ、横に立っていたクリネが驚き、声を上げた。


「クリネも構えを解け。こやつらに戦う意志はない」

「はい。仰るとおりです」


 パルオは言った。


「よく私だとわかったな」

「伝え聞いている容姿とそっくりだったので」

「それでも、一国の皇帝がこんなところにいるとは思わないだろう」

「まあ、そこは色々と……」


 パルオが誤魔化すと、ライカはふんと鼻で笑った。


 マキシア帝国の女帝と聞いて、パルオ以外の騎兵たちは絶句し、あるいは口笛を鳴らしたが、ヤーノは顎を開いて一際ショックを受けていた。


 やがて、驚きという魔法が解けた副長は、目が覚めたように口撃を再開する。


「ちょっと待ってください! パルオ隊長! 本当にこの女がマキシア帝国の女帝ならば、私たちと同罪ということになりますよ!」


 ヤーノがいう同罪とは、ファイゴ渓谷に両国いずれかの軍が入ったという指摘のことだろう。確かに、ライカたちは皇族。少数とはいえ武力を持っていることから、軍といえるかもしれない。


「ならないよ。ヤーノ副長」

「何故ですか?」

「彼女は冒険者としてここにいるのだ。そうですね、陛下」

「ま、まあな」

「だから、これ以上――美人に絡むのはみっともないよ、副長」

「な! いつ私が――」

「これ以上、時間をとらせないでくれ。私は陛下に話がある」

「…………」


 ヤーノは黙ったが、兜から見える口元は膨らんでいるように見えた。

 意外と若い副長なのかもしれない。


「どうしてウルリアノの騎兵たちがこんなところにいて、アラドラを探している」

「は――。その前に陛下……。情報を提供する代わりに――」


 ライカは1つ息を吐いた。


「わかった。国境を侵したことは目をつぶっておいてやろう」

「ご理解いただきありがとうございます」


 パルオは深々と頭を下げる。


「断って糾弾しようものなら、どうせ斬って捨てたのであろう」

「ヒッ!」


 クリネが小さく悲鳴を上げた。


 パルオは顔を上げる。笑顔だった。


「まさか……。そんな野蛮なことはいたしませんよ。これでも美人には少々甘い方でして」

「どうかな……」


 マキシアの女帝が口角を上げると、パルオをも倣った。


「といっても、お前たちの証言次第だがな。アラドラとウルリアノ、どう関係している」

「我々とアラドラが――ですか? …………ああ。なるほど。陛下はこの度の魔法兵器はウルリアノが提供した物だとお考えなのですね」

「違うのか?」

「女神プリシラと、我が双頭の馬に誓って――それは違います」


 パルオは鎧に刻まれた紋章に手を当てる。


「確かに、アラドラは我が王都にあるギルドの所長を務めていました。そして王国関係者との癒着によって、ライーマードに異動ということになったのはお聞きでしょう。しかし、あれはアラドラ側からのリークでした」

「アラドラが自分の罪を告発したのか?」

「どうしてそのようなことを?」


 パルオはクリネを一瞥した後、答えた。


「おそらく我々から逃げるためでしょう」

「逃げる?」

「ウルリアノ王国は、他国への移動を商人以外、原則禁止しております。しかし、ギルド職員の異動はその限りではありません」

「あなた方から逃げなければいけないほど、アラドラとウルリアノの癒着はひどいものだった、と?」

「いえ。軽微な違反でした。我が国とギルドは、確かにそうした関係性を持つことにとかく厳しく罰する方針ではおりますが、アラドラが犯したことはほんの経理上のミスともいえるものでした」

「では、どうしてアラドラは逃げたのだ」


 パルオの顔が一段と引き締まる。

 空色の瞳が、ライカの碧眼を射抜いた。


「おそらく、アラドラの背後にいるダークエルフについて、聞かれるのを恐れたのでしょう」

「ダークエルフ……」


 ライカは忌々しげに、その名を口にするのであった。


明日も18時に更新しますので、

よろしくお願いします。


近々、新作を投稿いたします。

後書きや活動報告にてご連絡させていただきますので、

よろしくお願いします。

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