第42話 ~ お、おっぱい!! ~
第4章第42話です。
サブタイがど直球ですが、よろしくお願いします。
部屋に入ると、ベッドに人が座っているのが見えた。
ポラスを確認すると、おもむろに立ち上がる。
蠱惑的な金色の瞳。
エキゾチックな褐色の肌、紫色の髪。
何より白い肌着からのぞく大きな胸が、否が応でも目が引く。
ポラスは思わず喉を鳴らしてしまった。
「ポラス君ッスね。フルフルっス。よろしくッス」
小さな八重歯を見せながら、フルフルと名乗った女性は近づいてくる。
息がかかりそうなほど接近すると、上目遣いでポラスを見つめた。
そっと誘うように、エルフの薄い胸板を撫でる。
ポラスの顔が首下から頭頂部分まで赤くなっていく。その様子は赤く着色された水銀体温計を思わせた。
「緊張してるッスか。ポラスくん」
「ひ……。いい、ひえ!」
ぶんぶんと頭を振った。
今一度、フルフルを見る。胸の谷間に目がいき、鼻血が出そうになって思わず鼻を塞いだ。
――こ、これはもしや……美人局というヤツでは!!
最近、マフイラが左遷されたと聞いていたが、まさかこんな危ない商売をしていたなんて……!
――ここは後輩エルフとして、先輩を更生しなくては!
妙な義務感が沸いて出てきた。
誘惑を振り切り、マフイラに向き直った。
「せ、先輩!!」
「なによ。改まって……」
「……こ、こういうのは良くないと思います!!」
「こういうのって……。どういうの?」
「その……。だから…………。ぎぎぎ、ギルドの内部情報を教える代わりに、おおお女の人をあてがうなんて」
「へ?」
「ぼ、ぼぼぼ僕は、そんなことをしなくても。先輩のためなら、……いやマフイラ先輩だからこそ――きょ、協力するんです。そんな見返りなんて求めてませんから」
「そうなの?」
「そ、それに……。もし他にもこんなことをしているなら、2度としないでください。正直、サイテーだと思います。今のマフイラ先輩はかっこ悪いです!!」
――ああ、言ってしまった。
でも、自分が言わなくて誰が言うのだろうか。
いや、今言わなくてならないのだ。
これ以上、先輩に悪事を働かせないため。
罪を重ねさせないため。
たとえ、軽蔑されても……。
もう会わないと言われても……。
大好きな先輩が、悪人になるよりはマシだ。
マフイラとフルフルは顔を見合わせた。
示しを合わせたかのように肩をすくめる。
マフイラはポラスに向き直り、口を開いた。
「何を勘違いしているか知らないけど、こんな危ない橋を2度と渡らないし、あなた以外に頼まないわよ」
「そ、そうですか。良かったぁ……」
「本当に見返りいいのね?」
「も、もちろんです!」
「そう――。申し訳ないわね……。1杯ぐらいおごってあげようと思ったのに」
「お、おっぱい!!」
「そんなこと言ってないわよ!」
「ははん」
どうにもかみ合わない2人のやりとりを見ながら、フルフルはニヤニヤと笑みを浮かべた。
するとフルフルはおもむろにポラスの肩に手を回した。
そっと撫でられた手は細く、ひんやりとして気持ちいい。
ポラスの顔に、横顔を近づけると同時に、腕の辺りに柔らかい感触が当たった。
身体が反応する。
60年、ポラスは生きているが、これほど魅力的なボディの持ち主の女性に迫られたことはない。というか、女性に関してお付き合いらしいお付き合いもしたこともない。
気さくに話しかけられる異性といえば、すぐ側にいるマフイラぐらいだった。
原因はこの童顔と、気の小さい性格……。
そして一向に報われない片想いのせいだった。
「フルフルは別に……。見返りとかそんなのはなしで、ポラスくんとしてもいいんスよ」
「そ、そそそそそ……それってどういう……」
「ポラスくんの頭の中に渦巻いている妄想と同じことをしようって意味ッスよ」
「妄想……」
ポラスの目が回る。
もはや限界。爆発寸前だった。
「こら。フルフルさん、うちのポラスをからかわないでください」
マフイラは後輩の首根っこを掴むと、フルフルから引き離した。
「ぶー。……折角落ちる寸前だったのに」
「本気だったんですね」
「当たり前ッス」
やる気満々といった感じで、フルフルは胸の前で両拳を握った。
あきれ果てて、マフイラは首を振った。
「ごめんね、ポラス。この人なりのジョークだから」
「……え? あ、はい……」
「それともしたかった?」
「ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる」
激しく髪を振って否定する。
「そう良かった……」
――え? それはどういうこと?
ポラスは先輩を見つめた。
しかし、その質問を挟む間もなく、マフイラは次の話題に入っていった。
「で――。資料は持ち出せた?」
小さな部屋の一室にある机に、マフイラとポラスは向かい合う。
フルフルは窓の外に目を配ると、シャッとカーテンを引いた。
シングルベッドに寝そべると、両手で顔を支えて、2人に視線を送る。扇情的な太ももをパタパタと定期的に動かした。
「すいません。資料はさすがに……。ただメモに書かれていた人物の資料は覚えてきたので、今から書き下します」
すると、ポラスは紙と羽ペンを取り出し、書き始めた。
「ほえー。もしかして資料の内容を全部覚えてるんスか?」
「はい」
「それも一度見ただけでね。ポラスの記憶力は凄いんです。昔から助かってる」
「瞬間記憶ッスか。凄いッス」
「そんなことはないですよ」
少し照れながら、鼻の頭を掻く。
「ほら。ペンを持った手で掻くから、インクが付いたわよ」
「――と、すいません」
マフイラは布を取り出し、ポラスの頬についたインクを拭った。
「恋人同士というよりは、兄妹みたいッスね」
「「何か言いました?」」
「なんでもないッスよ。……お邪魔なら、フルフルは外に出てるッスけど」
「な、なんでそうなるんですか! 私とポラスは元同僚ってだけですよ」
真っ向から否定する。
横でポラスが青い顔をしながら俯いていた。
――前途多難ッスね。ポラスくん(笑)
しばらくして、すべてを書き下すことができたポラスは、紙をマフイラに渡した。
その1行目には『氏名 アラドラ・ガーフィールド』と書かれていた。
一通り目をとおすと、フルフルに渡す。
「思っていたよりも、パッとしない職歴ね。地道に働いて、その評価を受けて出世していったって感じだし」
「この10年前以前の資料は消失ってどういうことスか?」
マフイラとポラスは顔を合わせる。
事情を話したのは、ポラスの方だ。
「10年前、ギルドが冒険者によって焼き討ちされた事件があって。その時に、資料も燃えてしまって」
「ああ。そういえば、そんなことを言ってたッスね」
「焼き討ち事件の後、王都から遠く離れた街のギルドで働いて、5年前に所長として戻ってきてるわね。しかも、どうやらそのギルドで実績を上げたことによる栄転みたいだったし」
「なんというか、絵に描いたようなくそ真面目な出世街道ッスね。逆に怪しさプンプンっス」
「いえ。実際、アラドラ所長は真面目な人ですよ」
「そっか。ポラスは一緒に働いたことがあるのね」
「はい。顔は怖いですけど、真面目な人でした。クライアントの評判も良くて、職場の同僚のウケも決して悪くなかったです。基本的に部下想いでしたから」
「意外ッスね」
「だから、驚きましたよ。ウルリアノ王国との癒着が問題になって、左遷された時は……」
「そうなの?」
「癒着といっても、割と細かいことで……。王国の家臣のお子さんに、プレゼントを贈ったんです。ただそれがギルドのお金から出ていたということで、服務規程違反に」
「確かにそれはちょっと細かいわね」
ギルドのお金を使ったことは確かに感心できないことだが、子供のプレゼントぐらいなら額もしれているし、交際費として落とすことも出来たかもしれない。
そもそも左遷させられるほどの問題ではなく、訓告や減俸ぐらいに収まる問題だろう。
「それも後で調べたら、ギルドからではなく、所長の私費だとわかったんです。でも、もうその時には配置が完了していて」
「なるほど」
「誰かが所長をはめたんじゃないかって」
「内部告発ってなってるけど、誰が漏らしたかは知ってる?」
ポラスは頭を振る。
「アラドラ所長はとてもいい人でした。……だから、部下に恨みを買うような人じゃないですし」
おかげで、しばらくギルド内ではギスギスした雰囲気だったという。
マフイラは腕を組み、考えた。
アラドラに関して調べに来たのに、ますます得体の知れない人物に思えてきたのだった。
ポラスって書きやすいキャラだなって思ってるのですが、
決して作者と似ているからではないです。
明日も18時に更新します。
よろしくお願いします。
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