第37話 ~ ああ見えて、肉食系なんスよ ~
第4章第37話です。
よろしくお願いします。
「助かりました、マフイラ殿。少々不明のお客様がかなりの数いらっしゃったので。あまり失礼はあってはならないと――」
「あの……」
「なんでしょうか?」
「私がここに来たのは仕事の話をしにきたのではありません」
三白眼が大きく見開かれた。
「仕事の引き継ぎにやってきていただいたのではないのですか?」
「とぼけないでください」
出された茶を一気に飲み干し、カップをテーブルに叩きつけた。
思わずアラドラの腰が浮く。
「私と勇者――杉井宗一郎との関係はもうお耳のことを思いますが」
驚きに溢れていた顔が、宗一郎の名前を出した途端、一変した。
まるで何か汚物でも見るような眼で、睥睨した。
「なるほど。あなたもそっち側の人間ですか」
「そっち側?」
「いえ。失礼……。少々口が過ぎました。つまり、あなたもまた彼の無実を訴えにきたというわけですね」
「そうです」
「残念ながら告発があった以上、仕方ない処置です。それに私に掛け合っても意味がないことです。異端審問官にでもお聞きすればいい」
「しかし、書類状ではあなたの告発になっています」
書類をテーブルに置く。
告発状のところに、アラドラの名前が書かれていた。
告発状は街にある裁判所に行けば、誰でも写しをもらうことが出来る。
ギルドに来る前に、マフイラは写しを作成してもらっていた。
アラドラは1度確認した後、書類をテーブルに戻す。
「発端となる告発者ではないあなたの名前があるのはおかしいのでありませんか?それとも、あなたは……。あの方が悪魔になったところを見たのですか?」
「いえ」
アラドラは首を振る。
その顔に追いつめられているような焦りはなく、むしろ余裕すら伺えた。
「しかし、私は名前をお貸ししただけでして」
「名前を……。貸した…………」
「告発者である冒険者の方は、非常に精神的に不安定です」
一応、ギルドでの一件についてはライカから伝え聞いてはいた。
「くわえて、告発したことによる報復が怖いと仰られて、致し方なく私の名前を――」
「それは越権行為では?」
「そうでしょうか」
「……?」
「ギルドは冒険者という弱者を守る組織です。その冒険者が困っている時こそ、ギルドが介入すべきと思いますが」
「でも、それはやりすぎだと――」
「あなたもオーガラスト討伐をはじめ、数々のクエストの手助けをされてきた。それと何が違いますか……?」
「――――!」
言葉に詰まる。
言われてみれば、確かにそうだ。
「さて、こちらの用はすみました。業務がありますので、これで」
「あ、ちょっと待って」
アラドラは軽く会釈し、応接室を出ていった。
その顔は、少し笑っているようにも見えた。
「他にも同僚がいらっしゃいますよね」
マフイラの話を聞き終え、クリネは尋ねた。
質問を受けたエルフの少女は首を縦に振る。
だが、申し訳なさそうに茶色に近いブロンドの髪を掻いた。
「正直、有力な情報は得られなかったわ。……アラドラが真面目に働いていること以外はね」
「真面目に?」
「職員の受けはいいみたい。所長よりも有能だって……」
「…………」
沈黙が降りる。
確かに有力な情報ではない。
だが、総合的に見てアラドラの行為はおかしいところばかりに思えた。
そんな中、わざとらしい咳払いが宿の食堂に響き渡る。
「なんスか、皆さん。しょっぱいッスねぇ。情報というのは、時に金より重要なんスよ。質問したら、教えてくれる情報なんて、井戸端会議の奥様情報より劣るものなのッス」
「そういうフルフル殿はどうだったのだ?」
フルフルはふんと鼻息を荒くした。
「フルフルが悪魔だってことを皆さん、お忘れようッスねぇ。何を隠そうフルフルは、人の秘密を暴く能力を持った悪魔なんス。どんなに人が秘密にしようと、フルフルにはマルッとお見通しッスよ」
………………。おお……!
自然とパチパチと拍手が沸く。
「で――? どうだったんですか? フルフルさん」
「ふふん。では――秘密の一端をお教えしよう」
懐から眼鏡を取りだし、かける。
理知的な感じで前髪を掻き上げ、メモを開いた。
「まず……。ギルドの会計担当のアノー君の秘密から」
「なんだか、それっぽいですわ」
「どうやら、同じギルドのカウンター係のミーヤちゃんと付き合っているらしいッスね」
「ほうほう」
「付き合って、まだ一週間みたいで、手も繋いでいないらしいッス。……うぶッスねぇ」
「それでそれで」
「ミーヤちゃんはああ見えて、肉食系なんスよ。アノー君の奥ゆかしさがたまらなくイヤみたいッス。今度、ホテルに連れ込んで○してやろうか、とか思ってるようッスねぇ」
「――で?」
「以上ッス!」
「「「終わりなの!?」」」
3人はそれぞれの場所から地面にズッコケた。
フルフルは「チッチッチッ」と指を振り、得意満面の笑みを浮かべる。
「それだけじゃないッスよ。フルフルはその病気療養中のギルド所長にも突撃してきたッス」
「ほう……。それは!」
「すごい! 私でも会えなかったのに! どうやって……」
「それは企業秘密ッス」
「それでどんな情報があったのですか、フルフル様」
「焦るなッスよ。……えーと、所長が休んでいる理由ッス」
「「「ふむふむ」」」
「どうやら……」
「「「ほうほう」」」
「腰痛みたいッスね」
「「「だあああああああああああああああああああ!!!!」」」
またズッコケた。
「しかも、奥さんと年甲斐もなく(P――――――)して、(B――――――)したみたいって理由ッス」
「どこが秘密なんだ!」
「いや、秘密といえば秘密ですけど……」
「お姉様、(P――――――)ってなんですか?」
「聞くな! 私に聞くな!」
金髪を振り乱して、叫んだ。顔は真っ赤だった。
しかし、フルフルの表情は変わらない。
いまだに鼻先を天井へと向けて、胸を反らしている
「まあ、今の序の口ッスよ」
「まだあるんですか……」
「嫌な予感しかしないですけど……」
「今度は期待していいッス」
改めてメモ帳を開いた。
ずれた眼鏡を元の位置に戻す。
「実はッスね」
「「「…………」」」
「ここの宿屋の女将」
3人の女性の身体が、フロントに向く。
視線を感じとったのか。ややうつらうつらしていた女将の顔が上がる。
え? 何? と周囲を窺うと、姫騎士、皇女、エルフが自分を見つめている事に気付いた。
「な、なにか……」
40代過ぎのぽっちゃり系女将は首を傾げた。
「ここの宿屋の女将――」
「まさか……」
「そんな……」
「嫌な予感が……」
三者三様の反応を見せる。
ライカなどは、鞘に手をかけた。
「ここの宿屋の女将の…………」
主人が最近、帰りが遅いのは居酒屋の店員にいれあげてるからッスよ
………………。
三度沈黙。
そして3人の女たちは、肩を竦めた。
“だと思った”
「「「あは……。あははははははははははははははははは…………」」」
女たちの笑声がこだます。
そんな中――。
ドスッと重い音が、フロントの方から聞こえた。
そこに立っていたのは、中華包丁を持った1匹の貪鬼――もとい、宿屋の女将がいた。
鼻穴と口から白い息をゆっくり吐き出す。
その目は悪魔に取り憑かれたかのように真っ赤になっていた。
「ちょっと宿をお願い」
ただそれだけを言うと、地響きを起こしながら、宿屋を出ていったのであった。
温泉宿編と今後の展開を考えて、ここら辺でフルフルを暴走させています。
ご了承くださいm(_ _)m
明日も18時に更新します。
よろしくお願いします。




