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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第36話 ~ 絵に描いたような汚職事件ッスね ~

第4章第36話です。

よろしくお願いします。

「ところで……」


 ひとしきりフルフルを串刺しにした後、ライカは振り返った。


 その顔に、全く罪悪感はなく、当の被害者も「くせになりそうッス」と恍惚とした表情で笑みを浮かべている。


「マフイラ殿、アラドラとはどんな人物だ」

「マフイラさんの後任ということですよね」


 マキシアの皇族姉妹は、元ライーマード副所長を見つめる。


 マフイラは一瞬、言葉に詰まった後、少し気まずそうに顔を逸らした。


「申し訳ないのですが、私もあまり……。引き継ぎの時も所長に任せていて、会ったことがないんですよ」

「そうか……」

「ただ――」

「――――?」

「元々ウルリアノ王国の王都のギルドで所長をしていたことは知っています」

「あれ? それっておかしくないッスか?」


 ようやく意識を取り戻したフルフルは回復薬を喉に流し込みながら、会話に混ざった。


「それって、マフイラと同じ左遷じゃないんスか? 確かにライーマードは重要な拠点ですけど、王都のギルドっていったら、かなり大きな組織だと思うんスけど」

「フルフルさんの言うとおりです。私もプロフィールを聞いて驚いたぐらいで」

「だいたいウルリアノから来たって、なんか胡散臭くないッスか? このタイミングっスよ」

「確かにな」


 ライカは顎を手に当て、頷いた。


 炸裂したモンスターを倒すほどの強力な武器。

 それを調べにきた騎馬隊。

 左遷されてやってきたギルドの所長。

 すべてはウルリアノ王国という点で繋がる。


 再び口を開いたのは、マフイラだった。


「ドーラに着いてからアラドラについて調べたのですが、あまり良い噂を聞きません」

「――というと?」

「ウルリアノ王国とその王都にあるギルドというのは、昔から癒着が取り沙汰されることで有名でした」

「癒着?」

「はい。ウルリアノ王国は地形上、非常にダンジョンクエストの少ない土地柄です。皆さんもオーガラストの時に経験したように、大きなダンジョンクエストは冒険者にとって稼ぎどころです。ダンジョンがないにこしたことはないのですが……」

「なるほど。冒険者として生活費を稼いでる連中にとっては、あまりおいしくない土地柄だというのだな?」


 マフイラは首肯する。


「ですが、交易において冒険者はなくてはならない存在です」

「商人の護衛としての役目は必要だしな」

「しかし、それだけでは手一杯になってしまいます。そこでギルドが出した答えが、王国の仕事の一部をギルドが仲介して、冒険者にやってもらうということです」

「具体的には何をやるんスか?」

「たとえば、国境の警備ですね」

「軍の仕事の一部を請け負うということか」

「はい。王国は正規兵よりも安い賃金で兵を雇うことが出来る。ギルドは仕事を請け負い、手数料を受け取ることができる。冒険者は安いが安定的な稼ぎを得ることができる」

「いいことずくめにみえるが、如何にも不正の温床になりそうな構図だな」


 ライカは少し怪訝な表情を浮かべて、マフイラの話を聞く。


「実際、10年ほど前ですが、王国のギルド担当者とギルドの所長が、王国から支払われた報酬の一部を懐に入れていたことが発覚して、死者がでるほどの騒動になったそうです」

「うひゃー……。絵に描いたような汚職事件ッスね」

「ギルド本部も、かなり監視を強めているのですが、あとを絶たないらしく……」

「アラドラも汚職がばれて、左遷された可能性があるということか」

「まあ、アラドラのことはわかったッスけど……。解せないッスよね」

「何がですか?」


 クリネが尋ねる。


「ご主人ッスよ。……話を聞く限り、そのアラドラっていう人が率先して告発したんスよね」

「一概にもそう言い切れないのだ、フルフル殿」

「冒険者からの告発を、ギルドが代表してアラドラが――という感じでしたからね」

「ギルドが絡んでるなら、もっとおかしいじゃないスか? ……ギルドは基本的に中立な立場なんスよねぇ。膨大なネットワークを持ってるッス。なら、なんで今さらなんスか?」

「見つけられなかったから、とか?」

「ご主人はしばらくの間、帝都にいたんスよ」

「あ…………」

「衆人環視のもと、あれほど大胆な行動していて、ギルドが居場所を知らなかったなんておかしいッスよ」

「確かに、そうですね」


 マフイラが同意した。


「本当にご主人は“魔女”として告発されたんスかね。フルフルには、作為があるようにしか思えないッス」

「例えば、どのようなものですか、フルフルさん?」

「フルフルたちをここに足止めしておきたい、何かがあるとかッスかね」

「推論になってしまいますね」

「情報が少なすぎます」

「クリネの言うとおりだ。とりあえず、今日1日ライーマードで情報収集しよう。情報通の商人たちなら、何か知っているかもしれない」


 ライカの言葉に、3人の女性たちは大きく頷いた。




 しかし――。


 その日の夕方、一行は宿屋に戻ってきた。


「全然、ダメだ……」


 ライカは金色の髪を食堂のテーブルに広げて、突っ伏した。


「ウルリアノ王国の内情こそ口を開くが、アラドラのことになると皆、口が重くなる。何か口止めされているようにしか思えない」

「同じくですぅ」


 クリネは壁に持たれながら、水が入った木のジョッキを一気に飲み干した。


「私なんて、相手にすらしてくれませんでした。……危うく迷子として屯所に連れて行かれるところでしたわ」


 ピンクのスカートを摘みながら息を吐く。


「マフイラはどうだったのだ?」

「ギルドの所長(ヽヽ)にあって来たのですよね?」


 カウンターの方に腰掛け、同じく水を飲んでいたマフイラは、頭を下げた。


「ごめんなさい。結局、会えなかったです」

「え?」

「なんでも病気療養中らしくって」

「じゃあ、今はアラドラが実質最高責任者ということか?」

「アラドラにも会ってきたのか?」

「はい。――ですが……」


 マフイラはアラドラと会った時のことを思い出した。




 所長を訪ねてやってきたマフイラは、意外にも応接室に通された。


 自分がここで副所長をやっていた時に、何度も商人たちと謁見し、相談を受けた場所である。


 特に変わったところはない。歴代の所長の絵が並べられた――少々不気味な――人物画もそのまままだ。息を吸い込むと、懐かしい匂いがした。


 しばらくして入口のドアが開く。

 マフイラは反射的に立ち上がった。


 ずんぐりとした背丈の男が現れる。

 聞いていたとおり、頭から頬にかけて、ひどい火傷を負っていて、痛々しすぎて顔をしかめずにはいられなかった。


「初めまして。アラドラ・ガーフィールドです」


 ゆっくりと腰を折る。

 慌ててマフイラも頭を下げた。


「マフイラ・インベルターゼです。お忙しいところ申し訳ありません」

「いえいえ。……どうぞおかけ下さい」


 着席を促す。

 アラドラと同じタイミングで、柔らかい動物の皮で出来た椅子に座った。


「遠路はるばるよくお越しくださいました。インベルターゼ……“元”副所長殿」

「気を遣わなくていいですよ。マフイラで結構です」

「そうですか。では、遠慮なく……。では、早速なのですがマフイラ殿」

「はい?」


 アラドラは目の前のテーブルに書類を広げる。

 ギルドの顧客リストで、以前マフイラが部下に命じて作らせたものだった。


 すると、アラドラはさも当然と言った様子で、仕事の話を始めた。


 1人1人の顧客の名前を指さしながら、顧客の職業や、商人であるならどんな業種なのかを洗いざらい聞いてきたのである。


 ――顧客の弱みを握ろうとしているのかしら……。


 とても不気味だった。

 だが、つい仕事の話なので、あわせてしまう。

 気が付けば、太陽(バリアン)が天高く昇っていた。


ちょっと中途半端ですが、今日はここまで。


明日も18時に更新します。

よろしくお願いします。

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