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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第1章  帝国最強編
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第6話 ~ この世界を救うというのは誠か? ~

第6話です。

よろしくお願いします。

「ライカ・グランデール! ただ今、帝国に凱旋しました」


 やや緊張が張り詰めた声が、広い謁見の間にこだました。

 マキシアと言わなかったのは、一介の騎士として見て欲しいというライカの願いなのかもしれない。


 皇帝はその意を汲んだのかどうかはわからないが、無事に帰ってきた娘をよしよしと撫でることもせず、玉座に鎮座した。


「うむ。……この度の働き、ご苦労であった。ゆっくりと休むが良い」


 落ち着いたバリトン声。

 抑圧するわけでも、卑下するわけでもない。

 素直に、人間の琴線を抉るような声だった。


「申し訳ございません」


 突然、ライカが謝罪を口にする。諸侯がざわついた。

 それを留めたのは、皇帝自身だ。


「どうした? ライカ・グランデール?」

「私の采配によって、多くの兵を死なせてしまいました」

「あまり自身を愚弄するものではないぞ、ライカ・グランデール。特にこのように、人が集まるめでたい場ではな」


 皇帝は金獅子のような顎髭を撫でる。


「我が伝え聞いているところによると、兵士全員……無事復活したのであろう? ならば、戦死者は〇だ。それを死なせたとしれば、肝の小さきものは卒倒しよう」


 諸侯から笑いが漏れる。

 失笑というわけではなく、皇帝の冗談を受けてのことだ。


「しかし、そのために国庫が保管しているゴールドの一部を」

「帝国の全予算から見れば、微々たるものだ。それにお前がまたモンスターを狩れば、すぐに潤うだろう」

「もちろんでございます。身命に代えましても」

「このオーバリアントで代えられる命があるならな」


 皇帝のジョークに、今度は多くのものが笑った。

 思ったよりも気さくな人物なのかもしれない。


「ライカよ。……そう固くなるな。お主は、よく働いておる」

「もったいなきお言葉です」


 深々とライカは頭を垂れる。心なしか涙声になっていた。


「――して。後ろのものは?」

「は! そのことについて、あわせてご報告したく、馳せ参じました」


 ライカは司祭やロイトロスの時とは違い、事細かに報告した。


 皇帝は時折、相づちを打って黙って聞いていたが、宗一郎が単独でスペルヴィオを倒してしまったと聞いた時は、驚声を上げた。


 そして宗一郎が、天界から遣わされた勇者であると説明を締めくくった。


 皇帝は言葉を失うというよりは、事の重大さをどう吟味するか迷っているように見えた。

 諸侯や家臣たちも同じらしく、一様に声をひそめて意見を交わしている。


「あのスペルヴィオを……!」「すごい!」「勇者様だ!」「いや、どうなのだ? 危険ではないのか」「他国の間者の可能性もある」「そもそも何故今になって、女神はこの地に勇者様を遣わしたのか?」「確かに……。もっと早くてもよかったはずだ」


 勇者の降臨を歓迎する者と、それを良しとしない者と真っ二つに分かれる。

 大方、皇帝の悩みもそんなところだろう。


 天から遣わされた勇者と聞いて、すんなり信じる人間など、宗一郎の前にいる姫騎士ぐらいなものだ。


 今さらながら、天界の勇者設定にしたことを悔やまれる。

 だいたい宗一郎としては、異世界に来て早々に皇帝に謁見するような大事には発展させたくなかった。国の代表に会うのは、もっと後だと思っていたのだ。


 宗一郎はすぐ後ろに控えるフルフルを盗み見る。

 主人の視線に気付いた悪魔は、舌を出して「てへぺろ」とおどけた。

 後でキツく殴ってやろうと心に決める。


「にわかに信じられん」


 ライカの説明が終わって、皇帝の一言目がそれだった。

 ざわついていた家臣達は、一斉に口を閉じる。


「勇者殿……。今一度、名前をお聞かせ願えるか?」

「はっ」


 宗一郎は呼ばれ、立ち上がった。


「杉井宗一郎と申します。どうぞ陛下……。宗一郎とお呼び下さい」

「ふむ。ならば、宗一郎殿。……この世界を救うというのは誠か?」


 宗一郎の眉尻がわずかに動いた。


 1番訊いて欲しくない質問だった。

 スペルヴィオを倒したのも、他国の間者ではないことも揺るぎない真実だ。

 が、世界を救うというのは、真っ赤な嘘である。


 取り繕うことは可能だが、果たして大帝国の皇帝を騙し仰せるかといえば、少々骨が折れるかもしれない。

 事の発端となった自分の従僕に、代わってもらいたいぐらいだ。


「どうした? 宗一郎殿」

「あ、いえ……。ただ――世界を救うと改めて聞き、思わず事の大きさを噛みしめて、呆然としてしまいました」

「ほほう……。天界に御座す方でも、世界を救うのは些か緊張するということかな」

「その通りでございます、陛下」


 ――今は、少し侮れるぐらいの方がいいだろう。


「ところで、陛下……。私の力に疑問はございますでしょうか?」

「ふむ。そういうわけではないがな」


 と言いながら、目を細めた。本当は興味があるのだ。

 話題を変えることに成功した宗一郎は、話を続ける。


「レベル1の人間が、高レベルのスペルヴィオを葬った。その事実を、信じておられないご様子……」

「これでもライカ・グランデールは私の娘でな……。まだ未熟者だが、嘘を吐くような者ではない。その報告に、疑念の余地はない」

「そのライカ殿が、私に脅迫されている、もしくは魔法で操られているかもしれませんよ」


 謁見の間が、一際はざわついた。


 皇帝は慌てることなく、宗一郎の思考を読むようにしばし目をつむる。


「宗一郎殿は余程自分の力を見せつけたいのであろうか?」

「有り体にいえば、そういうことになります」

「力を以て、己の証を立てるか……」

「お嫌いですか?」

「この通り……。衰えはしたが、これでも武に生きた方でな。……悪くはない――といったところであろうか」


 初めて皇帝の顔が綻ぶ。


「お、お待ち下さい」


 慌てたのは、ライカだった。


「此の方は間違いなくて勇者殿です。あのスペルヴィオを倒し、私が死の寸前にあるところ助けていただいたのは紛れもない事実。そのような身の証を立てるまでもありません。……それに陛下も言ったでありませんか。私の報告に疑念の余地はないと!」

「ライカのように素直な人間が、この世のすべてではないということだ。折角の勇者殿の申し出だ。こらえよ、ライカ」

「しかし――」


「ならば、その検分役。私にお申しつけください、陛下!」


 人の群から現れたのは、重たそうな甲冑を帯びた男だった。


 宗一郎と同じく後ろになでつけた茶色い髪。

 顔は二枚目で、浅黒い肌が如何にも遊んでいる感じがある。

 しかし、その筋骨はたくましく、上背もあり、勇猛な戦士の臭いが感じられた。


「マトー……殿」


 白い歯を見せ、軽薄な笑顔を見せると、マトーはライカのすぐ後ろで膝を付いた。


「是非とも私に――」


 再度懇願する。


「カリアナ卿か……」


 皇帝は髭を撫で、しばし思考の海の中で戯れる。

 やがて首肯した。


「いいだろう……。やり方はお主達に任せる」


 皇帝は玉座を立ち上がる。

 召使いたちに厚手のガウンを羽織らせてもらうと、何名かのお供を伴い退室する。


「お、お待ち下さい。父上」


 皇帝の足が止まる。

 あ、と声を上げたのはライカだ。


「ライカよ。……そなたも一国の姫君であるなら、覚悟を決めよ」


 そう言い放つと、垂れ下がった幕の中に消えてしまった。


明日も18時投稿です。


※ もう落ち着くだろうと思っていたら、

  昨日17000PVいただきました。

  ありがとうござます!


  日間も昼の部107位と2桁まであと一歩のところまで来ています。

  多くのブクマ、評価をいただきありがとうございました。

  そもそも日間にこんなに長く残れたのは初めてのことなので、

  驚いております!


  お礼も兼ねて、土日のいづれかで2話投稿できるよう調整中です。

  追って連絡させていただきます!!

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