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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第15話 ~ 4人でベッドインすか!? ~

第4章第15話です。

よろしくお願いします。

「そもそも宗一郎がはっきりしないからだ!」


 ライーマードから少し離れた場所に着地しても、ライカはぷりぷりと怒っていた。


 事情ははっきり伝えたつもりなのだが、気を静める気配すらない。

 クリネはクリネで相変わらず宗一郎の腕を離さず、悪魔の姿から戻ったフルフルも、先ほどの鬱憤を晴らすように前から抱きついて、股間部に頭をすりつけていた。


 ――動けんのだが……。


「やめんか! フルフル」

「へぶあ!」


 宗一郎は従者を蹴り飛ばすと、北○の拳の敵モブみたいな声を上げて、倒れる。


 懲りたかと思ったが「げへへ。ご主人の蹴り、久しぶりッス」とビクンビクンしながら、地面に突っ伏していた。


 宗一郎は一度咳を払うと、ライカに向き直った。


「じゃ、じゃあ……ライカ。あ、あああ後でキスをするか……」

「いやだ」

「何故?!」

「な、なんか仕方なくされてるみたいではないか……」

「……ち、違うぞ。オレ、その…………お前とキスをしたいから」

「本当だろうな?」

「本当だ。神に誓えというなら誓う」

「むむむ……。じゃあ、あとで――」


 白いシルクのような肌を、そっと朱に染めて、ライカは応じる。

 宣誓した宗一郎も、同様の反応を見せていた。


「じゃあ、私もしますわ」

「フルフルは、下の唇にキスするッス!」


 はいはい、と他の2人は小学生みたいに勢いよく手を挙げる。


「控えろ! クリネ!」

「お前もだ!」


 反論するが、クリネたちの反抗の意志は全く衰えることはない。


「甘いですわ、お姉様。誰がお2人をふたりっきりなんかにさせるものですか」

「どこまでも付いてくるつもりか、クリネ」

「当然です! そして隙あらば、あの甘美な瞬間を――」

「最近のお前は本当におかしいぞ! 性格が変わりすぎだ!!」

「女の子は1秒後にだって変わっているものですわ」

「フルフルは別に、ライカがいても、クリネがいても大丈夫ッスよ。むしろ3Pとか4Pとか全然ウェルカムっス!」


「いい加減にしろ!! お前たち!!」


 とうとう宗一郎がキレた。


「オーバリアント存亡の危機なのだぞ! もう少し緊張感を持て!」

「いや、わかっているぞ。宗一郎」

「ですが、はっきりしない宗一郎様も悪いのです」

「それは謝るが、もう少し仲良くだな……」

「そうッスよ。ハーレム展開というのは、如何に女の子が仲良くなるかが肝なんスから。みんな、仲良くするッス」

「お前が、一番かき回してるのだ」

「てへぺろ」

「ああ! もう! オレは行くぞ!」


 宗一郎は大股で歩きはじめた。


「待て! 宗一郎」

「待って下さい、宗一郎様」

「やれやれ。了見の狭い主には困ったもんスね」


 ライカとクリネが背中を追い、フルフルは肩を竦めた。




 城門での審査もクリアし、一行はライーマードに入った。


 表門まで聞こえていた人の喧騒が一気に大きくなる。

 街には人が溢れていた。


 RPG病に冒されていない自然なひと波。

 ただし、その多さは半端なものではない。


 帝国の中心地よりも人口密度が濃いのでは、と思うほど、人あるいは馬によって埋め尽くされていた。


 背の低い白い壁の家々。売り子たちの威勢の良いかけ声。そこかしらで行われている商人たちの交渉、駆け引き。

 大通りはおろか、城壁沿いまで露店が建ち並ぶ光景は、ライーマードの風物詩とも言えるだろう。


「戻ってきたな」


 一瞬、自分で言って、ぶるりと震えそうになった。


 それほど懐かしい光景だ。

 そして4人にとって因縁の地でもある。


「とりあえず、フルフル……。温泉があった場所に案内しろ」

「ええ?! ちょっと休みましょうよ。さすがにフルフル疲れたッスよ」

「そういうわけには――」


 つとスーツの裾が引っ張られた。


 振り返ると、クリネが上目遣いで見つめていた。深い緑色の瞳が、心配そうに揺らいでいる。


 宗一郎は大きく息を吸う。一度、はやる気持ちを落ち着けた。

 ポンと、クリネの頭に手を置く。優しく撫でた。


「すまんな。クリネ」

「いえ」


「「じ――――」」


 宗一郎とクリネのやりとりを、ライカとフルフルはジト目で睨んでいた。


「な、なんだ?」

「あやしい……」


 喉の奥から炎でも吐き出さんばかりに、ライカはくぐもった声を上げた。


「これは略奪愛あるッスね。大丈夫ッスよ。ライカの立派な御胸(おむね)はフルフルが守るッス!」

「宗一郎……。本当にそなた――ロリコンというものになったのではあるまいな」

「な! それ断じてない!」

「宗一郎様、我々の仲をお姉様に見せつけてあげましょう。ほら、もっと撫でてください」


 クリネは宗一郎の手を取る。


「こら! クリネ! 必要以上にボディタッチするな」

「何を言っているのですか! 宗一郎様の右手は私の領土ですよ」

「そなたの領土は左手だといったろ」

「略奪しただけですわ」

「ぬわ!」


 ライカは目を三角にし、宗一郎の方にやってくる。


 残った左手に捕まろうとするも、宗一郎はひらりとかわした。


「待て! これではさっきの二の舞だ」

「何故、逃げる!? 宗一郎!!」

「話が進まん! とりあえず、宿を探して、それからだ」

「ベッドっスか? 4人でベッドインすか!?」

「お前、簀巻きに決まっているだろう」


 突然、冷徹な声が宗一郎の口からもたらされた。


「うー、イヤっス! 某凄腕掃除屋みたいな就寝方法はもうこりごりッス!」


 結局、この後ライカとクリネはお互いを見張るため、同室の部屋に。

 宗一郎とフルフルはいつも通りの展開で、悪魔を吊す事となった。




 翌日――。


「うう……。眠いッス」

「同じくですぅ」


 宿を出立したフルフルとクリネは声を揃えた。

 身体をふらふらさせ、げっそりとした顔を前に突き出すように歩いてる。


「情けないぞ、2人とも」


 ライカは振り返り、拳を振るって鼓舞する。


 クリネはマキシア帝国の女帝である姉を見つめた。


「目元に隈を付けてる人にいわれたくありませんわ」

「な! そもそもクリネが悪いのだろ。お前が宗一郎の部屋に忍び込もうとするから。私が見張っていたのだ」

「お姉様こそ昨日、足を忍ばせてどこへ行こうとしていたのですか?」

「あれは……。その…………花を摘みにだな……」

「まあ、なんて白々しい。――それでよくマキシア帝国の女帝が務まりますわね」

「ライカもクリネも、もうやめろ。いい加減にしないと、2人ともマキシアに帰ってもらうぞ」


 さすがに宗一郎の忠告は効いたのか。

 皇族の姉妹は黙り込んだ。


 お互い目線をあわせ、無言のバトルに突入していく。


 宗一郎は「はあ」と大きく息を吐くと、フルフルに向き直った。


「で? 温泉はどこにあるんだ?」

「たぶん、もうそろそろのはずッスけどね」


 先導するフルフルが辺りを見回す。

 やってきたのは、ライーマードの北西だ。この辺りは、あのオーガラストがいたファイゴ渓谷に近い位置にあり、城壁ではなく切り立った崖に覆われている。


 食草などの自然が豊富で、商業自治区ライーマードの中とは思えないほど、自然味溢れた場所だった。


「確かこの辺――――痛ッ!」


 下を向いて、温泉を探していたフルフルが、突然何かにぶつかった。


 頭を抑えながら、顔を上げる。

 目の前にあったのは白い壁……。


 いや――。


 白い壁に覆われた大きな屋敷だった。


 それを一言で現すなら、派手。


 赤や紫に塗られた壁。柱はゴールドというよりは、金で出来ている。

 ところどころに宝石がちりばめられ、投光器のような魔法の道具を使い、ライトアップまでされている。


 派手というよりは、もはや悪趣味に近い。

 マトーの部屋の金ぴかが、まだ可愛くみえるほど――()美な屋敷だった。


「な、なんなんスか。ここは?」

「どういうことだ? この屋敷の中に温泉があるのか?」

「いや、知らないッス! 前に来た時は、こんな屋敷なかったッスよ」


 驚くフルフルの横で、ライカは門の前に掛けられた看板を見つめた。


「ジーバルド・プロシュ・ヘステラ子爵『温泉宿』……」

「温泉――」

「――宿!」


 フルフルと宗一郎は素っ頓狂な声を上げた。


 ライカと共に大騒ぎする横で、クリネだけが薄い胸に手を置き、兎のように震えていた。


 皇女の変化にいち早く気付いたのは宗一郎だった。


「クリネ?」


 声をかけるが、反応はない。

 大きな眼をさらに広げて、派手な屋敷に視線を投げている。


「ジーバルド……」


 ようやく絞り出した言葉は、譫言のようだった。


とっくに過ぎているのですが、連載3ヶ月が過ぎました。

これからも毎日投稿がんばりますので、よろしくお願いします。


明日も18時に更新します。


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