第14話 ~ どっちがさわりたいですか? ~
第4章第14話です。
よろしくお願いします。
「さて、ここでちょっと情報をまとめておくッスよ」
フルフルは突如説明を始めた。
悪魔の背後には、ご主人である宗一郎、姫騎士ライカ、魔法皇女クリネが言い争いを続けている。
「ちょっとクリネ! 近づきすぎではないか?」
「お姉様こそ! なんでここにいるのです! 公務はどうしたのですか?」
「いいのだ! 私は今、マキシア帝国の女帝ではない。一介の姫騎士なのだ。お前こそ、宗一郎の左手を離せ!」
「い~や~で~す! 離しません!! 宗一郎様の左手は私のものですから」
「ほほう……。宗一郎の左手だけでいいのだな」
「いいえ。いつか領土を拡大し、反抗の機会を待って、宗一郎様のすべてをいただいてみせます」
「な――――! お前はいつからそんな野蛮な物言いを! 以前のクリネは――」
「乙女は好いた方がいれば、いくらでも変わることができますの。そうでしょう。ひ・め・き・し・様!」
「むぅううう」
とまあ、こんな感じだった。
間に入った宗一郎も、都度仲裁に入っているのだが、いつの間にか姉妹喧嘩が始まってしまう。
取っ組み合いの喧嘩ならまだしも、女性同士の口論なので、男性である宗一郎が全く入る余地もない。この世に『最強』という確かなものがあるとすれば、女同士の喧嘩の始末ほど、その言葉に相応しいものはないだろう。
フルフルは咳を払う。
付き合ってらんないッス、という感じで肩を竦めた。
「ご主人が今、やることはオーバリアントにかかった呪いを正常化することッス」
プリシラによって、ゲームのような世界になるよう呪われた世界オーバリアント。その状況をややこしくしてしまったのが、宗一郎――正確には、フルフルが持ち込んだロールプレイングゲームだった。
それによって、呪いが上書きされたことにより、より顕著にオーバリアントがゲーム化してしまった。
その最たるものが、宗一郎が戦ったオーガラストのようなイベントモンスター。そして今なおローレスト三国に蔓延するロールプレイング病と呼称された――いわば人間がゲームキャラになる病気である。
それらに対する有効な手だてはない。
ただし1つの手段として、女神プリシラから提案されたのが、ゲーム化したオーバリアントを攻略することだった。
プリシラによって、勇者としての役割を与えられた宗一郎が、数々のクエストをこなし、やがては魔王と呼ばれるものを討伐する。
それが唯一、今打てる最良の一手だった。
「で――。攻略っていっても、ご主人はゲームに関してはずぶの素人。そこでフルフルの出番というわけッスよ」
フルフルは胸を叩いた。
「……このゲームの肝は、まず魔王の本拠地――魔王城に入れないことッス」
実際、マキシア帝国が調査した結果、現状では魔王城に入ることは出来ないと結論づけられていた。
以前、先代カールズが調査だけに留めよ、と宗一郎に言ったのは、そういう意味も含めてだったのだろう。
ぎゃあぎゃあと背中で女同士が争う中、フルフルの独り言のような解説は続く。
「プレイヤーは魔王城に入るためのアイテムを探す必要があるッス。すなわち――」
火神の魂。
闇興しの杖。
そして勇者の首飾り。
「それを揃えて、聖なる祠に行くと、代わりに魔王城へ入るためのアイテム『虹色の珠』をもらうことが出来るんス。聞いてるッスか、ご主人?」
「聞こえるように見えるか?」
むすっとした顔で、宗一郎は胡座を組んでいた。
両サイドでは、女同士の鍔迫り合いが続いている。
「あ。ご主人、聞いてるみたいなんで説明続けるッスよ」
「…………。お前も従者なら、この状況をどうにかしないか?」
「フルフルは今、忙しいんス」
「暇だから、突然解説を始めたんじゃないのか?」
「否定はしないッスよ」
フルフルはケラケラと笑った。
「で? どうしてまずライーマードに向かう?」
「フルフルが持ち込んだゲームソフトには、これといった攻略方法がなくて、割とどこからでも攻略は可能なんスけど、まずライーマードにあると思われる【妖精の竪琴】が必要なんスよ」
「何故、ライーマードにあるとわかる?」
「ぶっちゃけ勘ッス」
「おい……」
宗一郎はジト目で睨んだ。
「話は最後まで聞くッス。あの時、ご主人やライカたちはそれどころじゃなかったんで気が付かなかったと思うッスけど、ライーマードには温泉があるんスよ」
「温泉? ……待て。オレが調べた時には、温泉という概念はオーバリアントには――」
「はいッス。だから、温泉が湧き出てるだけで、普通に生活用水として使ってました」
「なるほどな」
「そのアイテムは温泉がある場所から、10歩進んだ地面の中に隠されてるッス。もしこの世界が、ゲーム化しているなら、そこに妖精の竪琴があるはずッス」
「まあ、お前に任せる。……そういう方面はお前の方がよくわかっているからな」
――しかしふざけた世界だ。
楽器を地面に隠すどころか、水気が多い温泉の近くに隠したのだ。
どんな竪琴かは知らないが、もう原型も留めていないのではないだろうか。
「ところで、フルフル……」
「なんスか?」
「この状況をなんとかしろ」
「断るッス。てか、さっきも言ったスけど、フルフルは忙しいんスよ」
フルフルは禍々しい蝙蝠のような羽根を1つ羽ばたかせた。
太陽の下。雲を眼下に見ながら、1匹の獣が東に向かって進んでいた。
そう――。
フルフルは本来の姿になり、主とライカ、クリネを乗せてマキシア帝国の東の果てライーマードを目指していた。
ローレスト三国とライーマードは真反対だ。
旅人の祠を使ったとしても、2ヶ月以上かかることになる。
一刻の猶予もない宗一郎にとっては、背に腹を変えられなかった。
幸いフルフルが悪魔であることはライカにもクリネにも明かしている。
さすがに真の姿を見た時には驚いていたが、すっかり慣れて、背中でラブコメ展開をするまでになっていた。
フルフルは鹿のような頭をぐるりと動かす。
その金色の瞳は恨みがましく、主に向けられた。
「本当なら、フルフルも混ざりたいんス! ひどいッスよ! この絵に描いたようなハーレム展開に、フルフルが混ざれないなんて……。犬用の餌入れにたっぷり入ったご主人のチ○ポミルクを前にして、お預け喰らっているようなものッス」
「例えが卑猥すぎるわ!!」
「ご主人、もう我慢出来ないッス! フルフルにご主人の前の手をくわえさせてほしいッス!」
ふんふん、と鼻息を鳴らしながら、血走った眼で睨んでくる。
「前を向け! 前を!」
「ん?」
フルフルが前を見た瞬間、分厚い雲の塊に入っていた。
すぐに脱出したが、小さな雨雲だったらしく皆がびしょ濡れになる。
「フルフル! お前がしっかりしないと世界を救うどころじゃないんだぞ」
「フルフル殿。苦労はわかるが、身体がびしょびしょだ」
「でも、水浴びをしたみたいで気持ちいいです」
ライカが髪についた水気を払えば、クリネはスカートの裾を丸めて絞り上げていた。
「う……」
宗一郎は2人の姉妹を見ながら息を飲む。
ライカとクリネの服が水を吸い、中の下着がうっすらと透けていた。
オーバリアントの女性下着は、現代世界と比べると洗練されている方ではないが、それでも女性の秘部に密着している最後の砦であることに変わりはない。
何よりライカの下腹部に吸い付いた腰布が、クリネの未成熟な胸に張り付いた衣装が、服の中に隠れた少女たちの身体のラインを如実に見せつけていた。
「「――――!!」」
宗一郎の反応を見て、女帝と皇女は慌てて肢体を隠す。
が――声をかけてきたのは、クリネの方からだった。
「あの~、宗一郎様」
「な、なんだ?」
「お姉様とクリネの身体……。どっちがさわりたいですか?」
「「な、何を言うのだ、クリネ!!」」
宗一郎とライカの声が重なった。
「お姉様の身体の方が女性としては魅力的なのはわかっていますわ。……でも、殿方というのは、その…………私のような女の子にもはつ――きゃあ、もう私なにをはしたないことを言おうとしているのだろう」
悲鳴を上げたいのは、宗一郎も同じだった。
「ふん。今さら何をいうのだ、クリネ! だいたい、宗一郎は私にプロポーズしたのだぞ。私の身体に触りたいと思うのが普通だろう。なあ――」
「ど、同意を求めてないでくれ!」
「……い、今さら何を言う。我々は、き…………そ、その……キスをした仲ではないか」
恥ずかしいのか、声のトーンがどんどん落ちていった。
「キスなら私もしましたよ」
「なに!?」
「お姉様よりも情熱的にしてもらいました。ね、宗一郎様」
「今、それを引き合いに出すな、クリネ!」
「どういうことだ、宗一郎!?」
「あ、あれは、クリネが無理矢理……」
「まあ、宗一郎様……。男らしくありませんわ。私の小さな頭を引き寄せ、あんなに私の唇を求めたというのに」
「なんだ! それは!! どういうことか説明しろ、宗一郎!!」
「だあああ! わかった。落ち着け。とりあえず、剣の柄を握るのはやめろ。……お、おい! フルフル、なんとかしてくれ!」
「ふんだ! いい気味ッス!」
完全に拗ねた悪魔はそっぽを向いて上昇を始める。
「そぉぉぉおおおいちろぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」
ライカの怒りが、大空にこだました。
問題です。
「どっちがさわりたいですか?」
あなたの心の中で答えてください(特に意味はない)
明日も18時になります。
よろしくお願いします。




