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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第1章  帝国最強編
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第4話 ~ 勝手に人の家に入って、タンスの中身とか見ても怒られないレベルっスよ ~

サブタイ長い!


第4話でよろしくお願いします。

 カーナラスト大陸の約6割を占めるマキシア帝国は、面積ではオーバリアント最大の国だと言われている。


 国土面積は2200万平方キロメートル。

 あのモンゴル帝国と肩を並べるほどの広さがあるのだから、相当だろう。

 ちなみに単位は、宗一郎が現地の単位を置き換えて、再計算したものだ。


 マキシア帝国はその広大な領土を4つの直轄地と12の属州に分けて統治していた。

 その帝都ハーシェは、オーバリアントでも1、2を争う大都市だという。


 生活様式は現代世界と比べるまでもなく原始的だが、人の多さと活況の良さに、宗一郎は言葉を失った。


「うおおおお!!!」


 主人が唖然とする一方、フルフルはパワー全開という感じで興奮していた。


「ご主人、見て下さい! 猫耳ッスよ!」


 指さすと、通りすがりの猫族は「にゃ!」と声を上げ、キョトンとする。


「すっげぇ! あれ、よく見ると馬じゃないッスよ! 馬車じゃないッスよ!」


 一見芦毛の馬だが、肌は岩のようにゴツゴツとしていた。


「うおおお! ちょーカッコいい! 男のロマン! バスターソードッスよぉ!」


 戦士が背負った大剣を見て、目を輝かせる。


「スゴいッスよ! ご主人! なんかもう何から何やらまで。こりゃあもう! 勝手に人の家に入って、タンスの中身とか見ても怒られないレベルっスよ!」

「やーめろ! どんなレベルだ。少しは落ち着け」

「ぶー! ご主人は楽しくないんッスか?」

「否定はせんが……。――お前! そもそも悠久の時に存在する悪魔だろ! 中世ヨーロッパ的な光景なんて見飽きてるんじゃないか?」


 チッチッチッと舌を鳴らし、フルフルは指を振った。


「甘いッス、ご主人。激甘ッス! 現実とゲーム世界のロマンは別物ッスよ」

「おい……。ここも異世界(げんじつ)だぞ」


 ――悪魔が現実と虚構の区別が付かないなんて、洒落にならん。


 やや頭痛がして、こめかみを押さえる。

 しかし、宗一郎とて興奮していないわけではない。


 漆喰で塗られたような白壁の建物。

 露店には果実や野菜が並べられ、肉屋に丸焼きにされた豚がつり下がっている。

 店主の声は威勢がよく、人目をひく一方、人通りのど真ん中に山盛りになった馬かロバのう〇こが鎮座し、顔をしかめたくなるような臭いを漂わせていた。


 遠くの方には白亜のお城とはいかないが、石造りの堅牢な宮殿が見える。


 現代世界の中にも似たような風景を持つ国はあったが、ここに来てやっとその実感が湧いてきた。


「帝都はどれぐらい広いんスか?」

「そうだな。全部歩き回ったら、1週間はかかるかもしれないな」

「そんなにッスか?」


 さっき俯瞰で見たが、ざっと650平方キロはあるような感じだった。

 これは東京23区に匹敵する。


 それにしたって人が多い。

 人口密度からいえば、東京都より多いかもしれない。


「教会はあっちだ」


 ライカは先導し歩き出す。


 フルフルは歩きながら「ほへー」と声を上げたり、指さしながら、都会に初めて来たおのぼりさんみたいに歓声を上げている。


 宗一郎も街の様子をつぶさに観察した。


 幾度かの休憩を挟み、教会に辿り着いた時には、太陽が東に沈もうという夕暮れ時だった。

 補足だが、オーバリアントでは太陽のことを『バリアン』と呼ぶらしく、現代とは真逆で西から昇って東に沈む。


 バリアンとは、元々は火の悪魔だったそうだが、天界で悪さをして、罰として空に磔にされたそうだ。

 ここら辺も、何か異世界っぽい。


 オーバリアントというのも「火の悪魔に照らされた土地」という語源から来ているという。


 教会の形は、どことなくヨーロッパにある聖堂と似た形をしていた。


 礼拝堂があり、その奥には霊安所のような棺桶がずらりと並ぶ場所があった。


 3人がそこに顔を出すと、巡回していた司祭らしき男がこちらを見つけた。

 どたばたと走りながら駆け寄ってくると、意外な一言をかけた。


「おお! ライカ姫!」

「「姫!」」

「ん? そちらのお方は……。また変わった格好を――」


 じろじろと司祭が宗一郎とフルフルを値踏みすると、ライカはわざとらしく咳払いをして注意を向けた。


「こちらは宗一郎殿と、その下女――でよろしいのか? フルフル殿」

「そッスよ。むしろ肉奴隷っていってくれてもいいッス」

「ニク、ドレイ?」

「下女の戯言だ。……無視しろ」


 宗一郎の声音には、はっきりと怒気が混じっており、ライカは改めて2人を紹介した。


「仔細はおって、父うえ――あ、いや……陛下から説明があるだろうが、この方たちは、天より遣わされた勇者殿たちなのだ」

「まさか!」


 司祭は大きく目を見開く。


「嘘ではない。……信じられないかも知れないが、レベル1の身でありながら、あのスペルヴィオをあっさりと倒してしまった」

「そんな! 帝国の屈強な近衛兵でも歯が立たなかったのにですか」


 ライカは奥歯を噛みしめ、目をつぶった。


「恥ずかしい話だがな……。その通りだ」

「こ、これは失礼しました、姫! ……近衛兵が世界最強の兵である事に変わりはありますまい」

「気休めはよい、司祭。……それに姫はやめてくれ。今は職務中の身。一介の騎士なのだ」

「なんとおいたわしや……」


 涙が浮かんだ瞳を、そっと司祭服の袖で拭う。


「すごいッスね。……マジで“姫”騎士ッスよ」


 フルフルはそっと宗一郎に耳打ちして同意を求めるが、返ってきたのは「黙ってろ」という冷淡な忠告だった。


 悪魔の囁きが聞こえたのだろう。

 ライカは2人に向き直り、言った。


「私の素性については、城で話そう。出来ればその間、外で口外するのは遠慮していただきたい」


 宗一郎とフルフルは一度顔を見合わせると、ライカの方を向いて頷いた。


「司祭……。準備は出来ているか?」

「問題ございません。いつでも」


 恭しく頭を垂れる。


「今から、何をするんスか?」


 無遠慮にフルフルが質問する。宗一郎にとっては有り難いことだ。

 天界から遣わされた勇者という設定をしている限り、宗一郎から何か質問をするのは、やや憚られた。


「何を――と申しますれば、今から近衛兵たちを復活させるのでございます」


 ………………………………………………………………。


「「はああ?」」


 2人はごくりと唾を鳴らした後、声を揃えた。


 逆に反応は、ライカや司祭には珍しく映ったらしい。声を揃えた2人よりも、さらに驚いていた。


 宗一郎は言葉を選びながら、慎重に尋ねた。


「復活というのは、人間を生き返らせる……ということで相違ないか?」

「お、仰る通りかと」


 答えたのは、司祭の方だ。

 さらに助け船を出したのは、ライカだった。


「勇者殿……。オーバリアントでは、人が復活するのは日常的なものです」

「な、何?」

「これもプリシラ様の力なのです。プリシラ様は、オーバリアントに住まう司祭に復活の力を与えました。これによって、モンスターの攻撃で命を散らせたものが生き返ることが出来るようになりました」

「確認だが、それはタダなのか?」


 宗一郎の質問に、やや躊躇いながら司祭が口を開く。


「タダと言いますか……。お心付けといいますか。多少の“ゴールド”を寄付していただくようになっております。それもプリシラ様の教えでして」

「ゴールドとは、金のことか?」


 司祭は首を振った。


「モンスターから捕れる生体鉱石のことにございます。我々はそれを道具屋、武器防具屋に売って、教会の資金にしているのです」

「その売ってもらった生体鉱石を、今度は道具屋などが、アイテムや対モンスター用の武器、防具に変えて、経済が回っているのです。勇者殿」

「…………」


 宗一郎は絶句するより他なかった。

 隣では、フルフルが目を輝かせている。


 皆まで言わなくても、何に感動しているのかわかる。


 つまり、ゲームの復活システムと同じだ。

 しかもどうやらモンスターは“ゴールド”と称する生体鉱石――つまり真珠ような鉱石を落とし、それを材料に、ステータスに干渉する武器防具を作る。


 上手いからくりだと思うが、ますます異世界がゲーム化していく。

 それも最近のゲームではなく、80年から90年代に人気を博したRPGのシステムとそっくりだ。


 宗一郎の推測が、徐々に真実味を帯び始めていた。


「わかった。職務の邪魔をしたな。……ここでその復活の儀を見ていてもいいだろうか?」

「構いませんとも……。それでは」


 司祭は準備にかかる。


 本当に人間を復活させるならば、現代魔術や科学より遥かに優れたものであることは間違いない。

 密かに《フェルフェールの瞳》を起動させ、儀式を見守った。


 司祭は棺桶がある場所の中央に立つ。

 微動だにせず精神を集中させた。


 両手を組み、祝詞のようなものを唱えはじめる。


 澄み切った声は、広い空間内で賛美歌のように響き渡った。


 そして――。


「光あれ――」


 遊環のようなものがついた小さな錫杖を取り出し、大きく鳴らした。


 するとどこからともなく、パイプオルガンのような音が聞こえてきた。

 低音から高音へと伸び上がるような曲は、一種の郷愁を誘う。


 短い音楽はかすかな余韻を残して止まった。


 しん、と霊安所は静まり返る。


 かたり、と1基の蓋が動いた。


 すると、呼応するように蓋が動いたり、棺全体が震えはじめる。


 蓋が次々と開かれると、屈強な肉体を持つ男たちが姿を現した。

 伸びをするもの、欠伸をするもの、目をこするもの、軽くシャドーをするもの。

 さらに……。


「なあ、今日どこ飲みにいく」「この前、エビがうまい店を見つけてよお」「なんか酒でも飲みてぇなあ……。あと女……」「剣、折れたあ! くそ! 給料日までまだ日があるってのに」「使い方が悪いんじゃないのか?」「今日、うちで賭札やるんだけど、のるヤツいるかぁ?」


 さも生き返る事が当然と言った様子で、日常会話をはじめた。


「馬鹿な……」


 さしもの現代最強魔術師も、奇妙奇天烈な光景に一歩後ずさりする。


 因果律を操作するほど馬鹿げた力をもつ宗一郎である。

 『死者の蘇生』という人間の原始的ともいえる願いに、挑戦したのは2、3度ではない。しかし、結局叶わぬ夢と挫折した。


 不可能という文字をもっとも嫌う男が、諦めるほどの難題……。

 それほど『復活』の達成は難しいのだ。


 それがどうだ。

 挫折した宗一郎の目の前で、五百人以上の兵士が一斉に生き返ったのだ。

 これほど衝撃を受けたことはない。


 トリックを疑うことは容易いが、《フェルフェールの瞳》で見つめていた宗一郎には、死者が生き返ったという事実しか映らなかった。


 つまり、この技術に《秘密》はない。

 公然とした事実なのだ。


 目眩がして倒れそうになるのを必死に堪える。


 自分のアイデンティティーがすべて吹き飛ばされたような気分だった。


「おお! 姫! 無事でしたか!」


 声をかけたのは、すぐ近くの棺桶にいた老兵だった。それなりに身分が高いのだろう。白髪に、白髭を携えた老兵の装備は、普通の兵士とは違っていた。


「ロイトロス! ……無事であったか!」

「ふははは……。どうやら、まだまだ女神の尻を触るのは、先のことのようですじゃ」


 大口を開けて、好々爺は笑う。


「む? そちらの御仁は?」


 2人を見つめる。

 先ほどの司祭と同じく詳細を省いて、ライカは説明した。


「なんと! 姫を助けていただいのか。勇者殿、かたじけない。我々がふがいないばっかりに……」


 ロイトロスは、深々と頭を垂れた。


 その老兵の肩に寄り添うようにライカは手を置く。


「そんなに己を卑下するものではない。そなたの働きには満足している」

「もったいなきお言葉――」


 くぅ、と泣き声を上げて、ロイトロスは涙を流した。


「というわけで、私はちち――ごほん! 陛下にこのことを報告してくる。後のことは頼めるな。ロイトロス」

「は! 身命に代えましても」


 ロイトロスは最敬礼すると、ライカは2回背中を叩いた。


 こうして宗一郎は、死者の復活という空前絶後の現象を目の当たりにした後、皇帝が住まうという城へと足を向けた。


西から昇ったお日様が~♪ 東へ~しず~む~♪ ――世界オーバリアント。

(お若い方はわからないかな……)


明日も18時に投稿です。


※ 日間130位(2016年2月29日18:00現在)でした。

  ブックマーク、評価を入れていただいた方ありがとうございます。

  そして昨日のPVが10000PVを超えました\(^_^)/

  初めてのことで震えております。

  皆様、本当にありがとうございましたm(_ _)m


  今後も『その現代魔術師は、レベル1でも異世界最強だった。』を

  よろしくお願いします。


2月29日 20:51  自主改訂しました。

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