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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第6話 ~ 少女のグラフィックもないのか? ~

第4章第6話です。

よろしくお願いします。

 とうとう食堂には宗一郎とベルゼバブの2人っきりになった。


 このまま余計な話をしていると、宗一郎まで出て行きかねない。


 早速、悪魔の主は切り出した。


「まず、ローレスト三国の現状について教えろ」

「かしこまりました」


 ベルゼバブは胸に手を当て、一礼した。


「件のRPG病ですが、患者の数がいまだ増えていっています。おそらく国内にいる人間の70%以上が感染しているかと思われます」

「3分の2以上か。厄介だな。お前の力でどうにかならんか?」

「残念ながら……。プリシラ様の呪術と、フルフルが持ち込んだゲームによる上書きによって、ローレスト三国は微妙な均衡状態にあるといってもいいでしょう。その影響力を切ることはできますが、人間に侵食してしまった呪いを解くことは難しいかと」


 つまり呪い(システム)自体をシャットダウンすることは出来るが、人間に残った呪いの影響まで除去するのは難しいということだろう。


「ところで、ご主人様」

「なんだ?」

「プリシラ様の胸はいかほどですか?」


 やたら真剣な顔で、赤い目を光らせた。

 宗一郎は喉にでかかった罵倒を飲み込む。


「続けろ」


 ベルゼバブはそっと目を閉じ。


「かしこまりました」


 と話を続けた。


「ご確認いただけたと思いますが、RPG病にかかった人間は食事を摂らないということを除けば、至って健康です。適度な運動、夜になればきちんと寝ていますからね」

「その栄養状態はどうなんだ?」

「私が診断した時に、すでに餓死寸前の人間がいました。ですが、ほとんどの人間が解放に向かっています。さすがに骨が折れました。一国――いや、三国の人間の栄養状態を支えるのは」

「それはご苦労だったな」

「いいえ。……主様の胸板の程よい堅さを味わった後だったので、何の苦労も感じませんでした」

「いちいち引き合いにだすな! ところで、気になっていたが、お前に会った時にいた少女たちはRPG病を発症していないように見えた。……あとは冒険者だな。つまり、RPG病には発症する条件があるんじゃないのか?」

「素晴らしいご慧眼……。ベルゼバブ、感服いたしました」


 ベルゼバブは思わず立ち上がり、腰を折った。

 悪魔の王に褒められるのはなかなか良い気分だが、従者の本質を知っているだけに素直に喜べない。


「仰るとおりでございます。年端もいかない少女、冒険者他にも種類はございますが、職業や年齢、性別によって発症しないものがいるようです」

「何か共通点はないのか?」


 それがわかれば、RPG病の発症を止める手がかりになるかもしれない。


「残念ながら。ほとんどバラバラといってもいいので」

「グラフィックじゃないッスかね」


 食堂に入ってきたのは、フルフルだった。


「言いつけ通り、胸の大きな女たちは解放してきたッスよ。ある意味、眼福だったッス。鎖に縛られた女たち……。しかも意識がない! ああ、薄い本が厚くなるッス!」

「何もしていないだろうな?」


 宗一郎はギロリと睨んだ。


「や、やだなあ。ご主人……。ベルゼバブ様ならともかく、フルフルがそんなことするわけないじゃないスか」

「そもそも比較対象が間違っている気がするが、まあいい」

「ご主人様、それはどういうことでしょうか?」


 ベルゼバブがおろおろしながら尋ねてくる。

 正直、表情が嘘っぽい。からかっているようにも見える。


「ああ、もう! ややこしい! この話はなしだ! ……それよりもフルフル、グラフィックとはなんだ?」


 フルフルは元々座っていた椅子に座り直し、宗一郎の方を向いた。


「そのままの意味ッス。……つまり、ゲームに少女や冒険者のドット絵がないからじゃないスかね?」

「冒険者はともかく、少女のグラフィックもないのか?」

「少年ならあったはずスけど、フルフルの記憶に間違いがなければ、少女はなかったはずッス。昔のRPGではよくあるんスよ。容量ケチるために」

「なるほど……。ベルゼバブ、どうだ?」

「ゲームのことはあまり……。ですが、確かにいわれてみれば、ゲームの中にはない珍しい職業の人間は感染していなかったように思います」

「マフイラなんかはギルドの人間だから、感染してそうなものだがな」

「初代にルイ○ダの酒場ないッスよ」


 フルフルは補足する。


「ふむ。ゲームにないキャラか。ならば、ベルゼバブ……」

「はっ」

「感染した人間を何人か試しに冒険者にしてみてはどうだ?」

「それは名案ッスね」

「役割を変えるということですか……。なるほど。試す価値はありそうです」

「マフイラと相談して、当たってみてくれ」

「かしこまりました」

「マフイラに手を出すなよ」

「おや? ご主人様、嫉妬ですか?」

「だ、誰が!」


 一応釘を刺したつもりが、まさかの反撃にあって宗一郎は顔を赤くする。


「……他に変わったことはあるか?」

「はい。病気とは別に少し困ったことが起こっておりまして……」

「困ったこと?」

「ご主人様はエジニアという国をご存じですか?」


 ローレスト三国は東にローレス、西にサリスト、南にムーレスという小国が連なってできた国だ。北には“凍土地(カテナプト)”という土地が広がっており、西には強い南風が特徴の“西極海(トランヴィア)”という海になっている。


 西極海沿いにあるサリストから海を挟んだ向こうに、イギリスほどの大きさの島国がある。


 それがエジニアだった。


「そのエジニアがどうしたんだ?」

「元々ローレスト三国――特にサリストとエジニアは、歴史的に見てもライバル関係でした。エジニアは領土拡大を狙ってサリストに上陸したり、海の利権関係で小競り合いを起こしたりと争いが絶えないのです」

「まさか……」

「はい。その関係はモンスターが跋扈しはじめても、変わりません。むしろエジニアは攻勢を強め、ここ5年の間で散発的ではありますが小競り合いが起こしています。本格的な戦争にはなっていないようですが……」

「ここら辺のモンスターは弱いッスからね。……軍の侵攻の妨げにならないってことッスか」

「海にもモンスターが現れませんから、余計に……」


 ベルゼバブの言うとおり、モンスターは海にまで現れない。


 何故かは宗一郎も分析できていない。ゲーム上の設定よりも、おそらく生態的に水や塩水に弱いのではないかと考えていた。


 おかげで、例の人買いたちが船を使っていたように、オーバリアントではかなりの海上交通が発達している。


 どうやらローレスト三国とエジニアに関しては、モンスターで出来た国境が通用しないことによって、悪循環を生み出してしまったらしい。


「つまり、エジニアはこの機会に本格的な領土侵攻を考えている――もしくはその動きがあるということだな」

「おっしゃる通りかと」

「厄介だな」


 宗一郎は忌々しげに吐き捨てた。


「先にエジニアを牽制してから……」


『それはダメ!』


 声はいきなり宗一郎の耳に飛び込んできた。

 懐かしい――子供とは言わないが高い声だ。


 宗一郎は自身の耳を押さえながら。


「プリシラか……」


 と確認した。


 主の変化に、ベルゼバブとフルフルは首を傾げる。

 どうやら聞こえているのは、宗一郎だけらしい。


「お前、一体今まで――」

『こっちだって色々あるのよ。……そんなことよりも、エジニアを叩くのはなし』

「何故だ?」

『決まってるじゃない。あんたがそこに出っ張ったら、ますますこの世界の呪いは解けないのよ。本来の役割を忘れたわけじゃないでしょうね!?』


 声には怒気をはらんでいた。頬を膨らませた銀髪ツインテールの少女の顔が、目に浮かぶようだった。


「覚えている。この世界を勇者としてクリアし、呪いを解放しろというのだろう。だが、オレのミスで国が襲われようとしている。それをみすみす見過ごすわけにはいかない」

『ロールプレイング病はローレスト三国だけじゃないのよ。世界中に蔓延しようとしている。それだけの人数の人間を、あんたの悪魔1匹で養うことが出来るっていうの?』

「…………!」

『あの時は、情けをかけたわ』


 あの時――というのは、宗一郎がプリシラに進言した時のことを言っているのだろう。ベルゼバブを置くことで、ひとまず感染者の栄養失調をなんとかするという条件で、宗一郎はマキシア帝国に行き、マトーの野望を防ぐことが出来た。


『正直、あんたのあんな情けない顔なんて見てらんないし。変な精神状態でとちられても困るから、行かせたのよ』

「…………」

『だけど、もう限界! ここからゲームクリアまであんたどれだけ時間がかかると思う? その間に感染者が増えて、マキシアもただでは済まないかもしれない。今は大丈夫でも、あんたのお姫様だって、無事だという保証はないのよ』


 プリシラの言うとおりだ。

 彼女は姫騎士という冒険者であるとともに、一国の主……。いつそれが感染の対象になっておかしくはない。


「わかった。プリシラ。……だが、エジニアはどうする?」

『そんなのあんたが考えなさいよ。不可能を可能にするのが、魔術師の専売特許で、あんたの十八番でしょうが。それともこう言ってほしいの?』


 “ローレストと世界を同時に救うなんて、()()()だって……”


「…………」


 宗一郎は何も言わない。

 そして例の笑みも浮かべなかった。


 ただ――――。


「相変わらず、お前とは馬が合わんな」

『一生あわなくて結構よ』


 ふふ……。


 ようやく笑う。

 いつもの悪魔じみたものとは違い、ただ冗談か何かに反応したような軽い笑みだった。


「わかった。こっちでなんとかしよう」

『しっかりしなさいよ。……あんたは勇者なんだから』

「まがいもの――だろ?」

『…………。ええ、そうよ』


 わずかな沈黙の後、宗一郎の言葉を肯定すると、プリシラの反応はなくなった。


「どうしたッスか? ご主人」

「概ね主の頭の中の声を拾って聞いていましたが、今のがプリシラ様ですか?」

「ああ……。クリアを優先しろと言われた」

「でも、それだとエジニアが侵攻してきちゃうッスよ。ローレストにはまともな戦力なんてないんスよ」


 そうだ。

 ローレスも、サリストも、ムーレスも軍が感染してしまい、まともな戦力などいない。

 冒険者がいるが、彼らはモンスター退治が専門だ。対人戦において、戦力として数えられない。よしんば集められたとしても、組織的に動かすには無理がある。それはオーガラストとの戦いを見れば、一目瞭然だ。


 宗一郎なら、万の大軍がやって来ても、追い返す自身はある。だが、プリシラに言われたようにクリアを優先しなければならない。


 フルフルやベルゼバブに任せる方法はあるが、正直宗一郎の見ていないところで、戦闘させるには少々不安がある。アフィーシャの時みたいに、悪魔の力を解放し、最悪殲滅してしまう可能性がある。


 宗一郎にとって、エジニア軍もオーバリアントに住む人間だ。


 軽々しく傷つけるわけにはいかない。


 軍隊のような圧力をかけられて、さらに信頼がおける手駒が必要だ。


 現代世界では、そういう仕事はあるみに任せていた。

 今更ながら、彼女の支援のありがたさを思い知る。


 ――何か……。何かないか……。


 自然と宗一郎は親指の爪を唇に向けていた。


「話は聞かせてもらった」


 食堂のドアが開かれると同時に、凜々しい声が飛び込んできた。


 ゴールド製の胸当てから谷間をのぞかせ、姫騎士ライカがそこに立っていた。


リメイク版には少女のグラフィックがあるかもですが、

初代はないはず……。一応確認したけど、間違ってたらごめんなさい。


明日も18時に更新します。

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