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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第5話 ~ ただ平たい胸が好きなのだ、と!! ~

第4章第5話です。

よろしくお願いします。

「けほけほ……。なかなか情熱的なベーゼですねぇ、クリネ様」


 黒のコートからぷすぷすと煙を上げ、白い顔は煤だらけ。濡れ羽のような黒髪は、一昔前のコントみたいに膨れあがっていた。


 名指しされたクリネは、バン! と机を叩いた。ちなみにその机や教会の壁は、一番被害を受けた男によって修復された。


「な、なんですか、宗一郎様! この不逞の輩は!」

「すまん。それについては弁解の余地がない」


 主が責められる中、ベルゼバブはニコニコしながら、猛る皇女を見つめていた。


 今にもその口先から「かわいい(胸だ)」という言葉が飛び出しそうなほど、恍惚としている。


「そもそも宗一郎様も宗一郎様です。あまりこういうことを言いたくはありませんが……。フルフル様といい! この無礼者といい! 従僕の教育がなっていないのではありませんか?」

「いや……。仰るとおりです、はい」


 現代最強魔術師といわれ、今なお異世界で猛威を振るう男が、10歳の少女の責めを一心に受け、身体を縮ませていた。


「それぐらいにしておけ、クリネ。あまり宗一郎を困らせるものではない」

「そうは言いますが、あまりに――――」

「そうですよ。せっかくクリネ様が猛り狂い、必死になって小さな胸を反らして、主を責めているのに……。黙っていていただけませんか、牛乳女……」

「うし、ちち……?」

「ホルスタイン娘とでもいいましょうか? ああ、オーバリアントでは“ガベル”といったりするのでしたか?」


 “ぶちっ”


 ライカはおもむろに鞘から細剣を抜いた。


「貴様……。そこに直れ。風穴を開けてやる」

「ままま待て! ライカ、落ち着け! 後でオレからきつくしかっておくから。もう教会を壊すのはやめてくれ」

「な、なんなんですか。そ、その……。つまり、この方は少女嗜好といういいますか。あ、そうそう。前にフルフル様から聞いたことがあります。宗一郎様の世界では“ロリコン”というのでしょう?」


 ――何を少女に教えているんだ、うちの悪魔は!!


 今度はフルフルを睨み付ける。

 当人は得意げな顔で「ちっちっちっ」と指を振った。


「甘いッスよ、クリネ皇女。……ベルゼバブ様はそんな普通の変態さんではないッス。仮にもこの方は、フルフルの上司ッスよ」

「フルフルの言うとおりです。ロリコンなどという輩と一緒にしないでいただきたい。私は少女だけでなく、宗一郎様のような男の方も好きですよ」


「「………………」」


 はぁ!?


 先ほどまで炎が上がっていた部屋が、一瞬で凍り付いた。


「そ、それは男色の気というヤツか?」

「そういうわけではないんスよ。……どっちかというと、もっと変態チックというか。もっと根本的なところにフューチャーされる方という――」

「フルフル……。言葉はもっと的確に伝えるものですよ」

「いや、的確にいったら、この2人……。教会どころや街全体を焼け野原にしちゃうッスよ、ベルゼバブ様」

「何を言うのですか。堂々といえばいい。私は幼女趣味でも、男色家でない!」


 “ただ平たい胸が好きなのだ、と!!”


 テーブルに足をのせ、ライブでヒートアップしたビジュアル系バンドみたいに、ベルゼバブは拳を振り上げて、カミングアウトした。


 ライカは顔を真っ赤にし、その妹は、もはや理解が追いつかないという感じで、頭をクラクラさせている。


 この中で、主が一番青い顔をしながら頭を抱えていた。

 異世界に来て、最悪の状況かもしれない。


「まあ、正確にいうと……。フルフルやライカみたいな胸のある女子が嫌いということッス」


 …………………………………………………………………………!



 「「    やっぱり単なる変態じゃないか!!!!!?    」」



 マキシア帝国の皇帝と皇女は、仲良く声を揃えて叫ぶのであった。




 結局、食堂での会議は宗一郎、フルフル、ベルゼバブだけになった。


 ライカとクリネは、後で宗一郎から事情を聞くといって、部屋どころか教会の外まで出て、今は街に生存者が残っていないか確認しに行っている。


 3人ともすでにぐったりと疲れていて、とりわけベルゼバブは「クリネ様がいない世界なんて滅べばいいんです」と机に空いた穴をいじくり回していた。


 まあ、誰がどう見ても、ベルゼバブが悪いのだが、こいつの悪いところは自分の言動が人を傷つけることだと理解していないことだろう。


 それでも、宗一郎が召喚できる悪魔の中でも最高の一手であることは間違いない。

 彼なくして、ローレスト三国の維持は出来なかっただろう。


「いい加減立ち直れ、ベルゼバブ。……それよりも報告しろ。今のローレストの現状と、何故ドーラにいて、ベッドで伏せっていたのかもな」

「そッスよ。ベルゼバブ様なら、モンスターの大群なんてワンパンで倒せるじゃないスか?」

「決まってるじゃありませんか、フルフル。そこにそそり立つ平らなものがあった。ただそれだけです。それに囲まれる――うほん! 守るためなら、道化も演じましょう」

「さっきの少女たちか……?」

「はい」


 天使みたい笑みを浮かべて、優男は肯定した。

 頭が痛すぎて、気絶したい……。


「ドーラにいたのは?」

「たまたまです。主人の言いつけ通り、RPG病の患者の介抱をしておりました」

「仕事は完璧なんだろうな?」

「どういうことなんですか?」

「男女平等。胸のあるなしに介護したかということだ」

「主よ。さすがにそこまで私情を持ち出しませんよ、私は」


 ルビーアイが光る。


「そ、そうか……。それはすまんな」

「胸のない方にはお菓子とケーキを。胸のある女は無理矢理牢獄にいれて、鎖につないでおきましたので」

「フルフル! 今すぐ、女たちを解放してこい!」

「あいあい」


 やれやれ、と首を振って、フルフルは出て行った。


 とうとう、宗一郎とベルゼバブだけになる。


「2人っきりになってしまいましたね。宗一郎……」

「気色悪いことをいうな。そして顔が近い! 離れろ」

「なんといけずな方だ。……その胸板を枕に眠ったあの夜のことは忘れてしまったのですか?」


 宗一郎の背筋に怖気が走る。

 そして忌まわしき記憶がよみがえると、頭を抱えた。


「言うな! それ以上いうな!」

「むふふ……。恥ずかしがり屋さんですねぇ、宗一郎は」


 ベルゼバブは慈愛に満ちた笑みを浮かべて、主を見つめた。


 フルフルを召喚するに当たって、テレビゲームをさせるという代償があったように、ベルゼバブにも代償というものが必要になる。


 それが先ほど悪魔が言ったことなのだが、宗一郎の中でベストワンに掲げられるほど、最悪な経験だった。


 それが2月ほど前の出来事なのだから、今でも鮮明に思い出してしまう。


「いやー、女狐(ライカ)が知ったらどう思いますかね。私に身体を売って、助けにいったとあれば……」

「言い方に注意しろ。オレはお前に胸板を貸しただけだ。それ以外何もしていないからな。それとライカに言ったら、オーバリアントを破壊してでもお前の息の根を止めるぞ」

「わかりました。そうですね。あまり人にひけらかすような思い出でもありませんからね。私の平たい胸にそっとしまっておくことにしましょう」

「出来れば、お前の記憶からも消し去ってくれ」

「それは無理な相談ですね」


 はー、と宗一郎はため息を絞り出した。


「そろそろ本題いいか」

「もちろんでございますよ、宗一郎様」


 先ほどまで男の胸板で寝ていたという話をしていたとは思えないほど、爽やかな笑みだった。


たぶん、延野史上最悪の変態キャラかも……。


明日も18時に更新します。

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