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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
第4章 異世界冒険編

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第3話 ~ 有給全部つぎ込んでもでもお供します! ~

第4章第3話です。

よろしくお願いします。

「粗方片付いたか……」


 魔術を解き、宗一郎は1つ息を吐く。

 額の汗をぬぐった。


 彼の前には無数の影が地面にこびり付いていた。

 羽を広げたものから、四足の形をしたもの、ただ丸いものがべたりと張り付いているものがある。


 みな、宗一郎が燃やし尽くしたものだ。


 一度【殺した】モンスターは、2度と現れない。これがオーバリアントでのルールだ。人間が不慮の事故でなくなって復活できないのと同じ原理だと、宗一郎は考えていた。


「ご主人!」


 元気の良い声が、背後から聞こえた。


 瓦礫の山を登って、フルフルが現れる。


「こっちは終わったッスよ」

「ご苦労。こっちも終わった」

「しかし、どうしちゃったスかねぇ……。モンスターって確か街や村まで襲わなかったはずッスよね」

「これもイベントかもしれんな」

「あ」

「どうした?」


 口を大きく開けて、呆然とする悪魔を見つめる。


「フルフル、今度は気づいたッス」

「だから、何に?」

「そう。たぶん、これはイベントなんスよ」

「お前がやっていたゲームでモンスターが街を襲撃するイベントなんてあったか?」

「街を襲撃されているイベントはないッスけど、街がすでに襲(ヽヽヽヽヽヽ)撃されてる(ヽヽヽヽヽ)ってイベントはあったッス」

「……なるほど。そういうことか」


 フルフルの言うとおりだ。

 確か――魔王軍の襲撃により、すでにダンジョン化してしまった街が1つだけあったはずだ。


「そのイベントがこのドーラに起きたということか」

「起きたというよりは、おそらく現在進行形で起きてるって思った方がいいッスよ。このイベントの目的は、街を襲撃するだけではないんスから」


 街を破壊し、住民を根絶やしにすること。

 おそらく、それがイベント終了の条件――。


「ゲームだと悲壮感の欠片もないが、現実だとここまで胸くそ悪いイベントとはな」

「あのイベント自体は結構、評価高いッスけどね。街が襲われて廃墟になってるなんて、その頃のRPGでは割と画期的だったスから」

「ご託はいい。対応策を考えないとな。場合によって、条件が満たされない限り、この街が襲われ続けることになるぞ」


 珍しく神妙な顔で、宗一郎は教会がある街の中心へと戻っていった。




「戻っていらしたわ、お姉様」


 教会の前に立って、周囲を監視していたクリネは、戻ってきた2つの影に向かって指をさした。


 宗一郎とフルフルともに怪我はなく、ライカはひとまず安堵する。

 さほど心配していなかったが、婚約者が見えない場所にいて、戦っているのに、胸を痛めないわけにはいかなかった。


 しかし、ライカの心配をよそに、帰ってきた宗一郎の顔は険しい。


「どうしたのだ、宗一郎?」

「ああ……。ちょっと気になることに気づいてな。実は――」

「宗一郎様、お久しぶりです」


 いきなり横合いから飛び出してきたのは、マフイラだった。


 宗一郎の首に身体ごとダイブするように抱きつく。

 長い手足を絡め、スリスリと勇者の感触を味わった。


「ま、マフイラ! ちょ、やめろ!!」

「いいじゃないですか、これぐらいのスキンシップ……。すりすりすり……」

「だあ! お前はこんなキャラじゃなかっただろ!!」

「うほん!!」


 わざとらしい咳払いが、先ほどまで戦場の最前線だった場所に響き渡る。

 主犯はライカだ。


 顔を少し赤くしながら、宗一郎に巻き付いたマフイラを睨んだ。


「マフイラ殿……。気持ちはわかるが、宗一郎から離れてくれないか?」

「ああ、これは失礼を、女帝陛下。あまりに喜ばしいので、つい――」


 てへぺろ、と舌を出して反省――というよりはおどけて見せる。

 ライカの横で、クリネも頬を膨らませて睨んでいる。


「はいはい、わかりましたよ。女帝陛下。皇女殿下」


 ようやく離れる。

 宗一郎は首筋を気にしながら、切り出した。


「久しぶりだな。マフイラ」

「はい。宗一郎様もお元気そうで何よりです」


 マフイラとは以前、ライーマードでのオーガラストとの戦いで共闘した仲だ。

 そこではギルド職員として参戦したが、その彼女が何故、こんなところにいるのか気になった。


「お前。確かライーマードの副所長を務めていたんじゃないのか?」

「いやー、まー、その……。有り体にいうと…………。左遷されたんですよね」


 次第にトーンを落とし、エルフの女性は告白した。

 宗一郎は何ともいえない気分になる。

 彼女が左遷されたのは、オーガラスト絡みで間違いない。


「すまない。オレが力を出し惜しみしたばっかりに……」

「いえいえ。そ、そんなことはありませんよ! むしろ宗一郎様には感謝の念しかありません。確かに死傷者は出しましたが、あの状況下でほとんどの冒険者が生還することができました。宗一郎様がいなければ、全滅だってあり得たんですから」

「だがしかし……」

「もう、相変わらず――なんていうんでしたっけ? 意識が高いっていうんでしたっけ? ――そこまで気に病むことじゃないです。参加した冒険者も、今度会ったらお礼がいいたいと言っていました」

「マフイラさんが言ってることは本当ですよ、宗一郎様」


 割り込んだのはクリネだった。


「バロムさんも、カーンさんも、パーラーンさんも、もし見つかったらお礼がいいたいって言ってました」

「そうだ、宗一郎……。胸を張れとはいわんが、責任を引きずりすぎるのもどうかと思うぞ」

「それに私が左遷になったのも、オーガラスト討伐にギルド職員が参加したということを問題視されたためです。……他にも、時々クエストに介入していたこともあって、ギルド本部が『中立性に欠ける』として処分を下した次第でして……。だから、オーガラスト討伐で失敗したことで左遷されたわけじゃないですよ」


 とは言うが、おそらくギルドの考えはまた別だろう。


 オーガラストとの戦いで多大な被害を与え、それを主催した職員をとどめて置きたくはなかったのだろう。

 討伐説明会でも宗一郎が言ったが、ギルドのような中間業者にとって、信用は金よりも重要だ。それを脅かす輩を、出来れば遠ざけておきたかったのだろう。


 推測だが、彼女いなくなったライーマードでは、マフイラという名前は悪名で通っているはず。すべての責任を彼女に押しつけている可能性すらある。


 東から西へ、さらに国外の辺鄙な街にいることからもわかる。


「宗一郎様、まだ怖い顔してますよ。……ご心配なく。ライーマードとは違って、ドーラは穏やかな場所ですから、ゆっくり骨休めさせてもらってます。まあ、今はこんな状況ですけどね」

「逆にお前のような職員がいて、助かったかもな」

「個人的にはアンラッキーな感じですけど」

「それよりも、マフイラ。先ほど、『失敗』といったな。オーガラストは生きているのか?」


 マフイラは俯く。


「はい……。実は――」

「…………」

「ギルドはすでにオーガラストに対するすべてのクエストを取り下げました。この件については、見て見ぬふりをするそうです」

「そうか。……なら、いずれまた相まみえなければな」

「宗一郎様! 出来れば、その折りには私も加えていただけませんか?」

「お前は、ここの職員としての業務が……」

「有給全部つぎ込んでもでもお供します! お邪魔になるようなこともいたしません。この目でしかと見たいのです! ……あの竜が敗れる様を」


 眼鏡の奥のヘーゼルの瞳は、強い光を放っていた。


 その時だった……。


 マフイラの瞳を見つめるうち、宗一郎の頭の中に何か映像のようなものが浮かび上がった。


 場所は薄暗い洞窟の中。

 そこにいたのは、白いか――――。


 不意に脳裏から映像が途切れる。


 ――プリシラにかけられた洗脳が解けきっていないのか……。


 それとも何か忘れてしまった記憶の残滓か、もしくは誰かに植え付けられた。


 ともかく……。何か忘れているような気がした。


「宗一郎様?」


 マフイラが、宗一郎の顔をのぞき込んでいた。


「……すまない。わかった。その時には声をかける。それよりも、今はこの街の状況を回復させる方が重要だ」

「はい。なので、宗一郎様に会っていただきたい方がいるのです」

「オレに?」

「今は重傷を負われて伏せっておられますが、我々が5日間持ちこたえることが出来たのも、彼のおかげでして。今、ローレストに蔓延しつつある『夢見病』を調べているとか」

「夢見病?」

「はい。意識はあるのですが、何故か同じ台詞しかしゃべらない人間が、今ローレスト三国で流行ってまして。そう――――。その方は変わった名前で呼んでましたね。なんだったかなあ……」


 “ああ、そうそう……。ロールプレイング病とおっしゃっていました”


 名前を聞いた瞬間、宗一郎とフルフルは顔を合わせた。


有給全部つぎ込むとか、1度言ってみたいですよね(遠い目)


この話をもって100部分(総計100話)達成しました。

ここまでお付き合いいただいた方ありがとうございます。

第4章はじまったばかりですが、これからも頑張っていきますので、

よろしくお願いします。


明日も18時に更新します。

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