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ソラガミ  作者: 大塩
4 不思議な二人
41/52

4-8

 傘を差して歩く。

 冷たい雨が降り始めた夕方。

 神社に向かう途中、中高生の集団と遭遇した。


「お、いましたよ、赤い着物」

「右目が光っている……! 見つけたぜ! 『鼬』、『短剣符閃光の雷短剣符』、『シュールストレミング』、『目玉お化け』、『ソラガミ』にも引けを取らないという噂の男!」

「『赤鬼』だ」

「つまり倒せば俺達が一躍有名人ってわけだ!」


 と、彼らは襲い掛かってきた。


 二度目のUFO襲来以降、新たに力を得た人々の一部が暴走するようになった。

 雷とかいう男子高生を中心とした、力を誇示して回る若者グループとか。社会を混乱させようとする、未来を捨てた浮浪者とか。超能力を神から与えられし力とか言って、信者を増やそうとする危険な集団とか。……轟さん達とか。僕とか。

 九年前もこうだったかな。当時は子供だったし、早々にフィアがほとんどの超能力を奪ってしまったから、ここまでの混乱は、あったとしてもよく知らない。


 神社の神様は、いつの間にか『赤鬼』へと形を変えていった。

 奪う力の醍醐味の一つが、好きに力を集めることで、自分自身をカスタマイズできることだ。僕と強い超能力者を出会わせるために、轟さん達は赤鬼の物騒で胡散臭いストーリーを作り上げ、噂として流した。


 ――真実味は必要ない。血染めの着物に身を包んだ男に遭遇すれば、どんなフィクションも真実になる。『1+1=3』で構わん。そのほうが、返って興味を引くだろ……?


 狙いは当たり、自信のある強者が神社に挑戦しにくるようになった。

 四対一。だが負ける気はしない。

「鬼退治だ! 俺の超能力を受けて驚くなよ!」

 早速、リーダー格らしき男が超能力を使う。

 驚きたくても驚けない。僕の目には、既に見えてしまっている。


 彼の仕掛けた超能力……精神攻撃を、僕は跳ね返した。リーダーは一瞬目を丸くした後、すぐに何が起こったのか理解したようで、慌てて仲間に命じる。


「退却だぁああ!」


 だが、僕は彼らを追い払いたいわけではない。むしろ、それでは赤鬼の噂に乗っかった意味がない。ので、逃げようとする彼らの足元を凍らせ、動きを封じる。

「何でもありかあああああ!」

「漏れる漏れる! 赤鬼め、何て狡いんだ! お前らは大丈夫か!」

「漏れそうなのは先輩だけです! でもまともに戦える力って先輩のだけですし負けです」

「あああ、赤鬼の右目が不気味に光っている! 食われる!」

 超能力を奪われることの比喩なのか、それとも誤解されているのか何なんだか。

 逃げられない彼らの光を、より注意深く観察する。


 リーダーの力は、視線を合わせた相手の尿意を強める能力。強烈な個性と奇抜さだが、あまり使いたくないので無視する。

 二人目、髪の強度を上げる能力。要らない。

 三人目、絵や写真の人物の視線を動かす能力。あらゆる能力の中でもずば抜けて奇怪ではあるが、要らない。

 四人目、超能力者ではない。


 超能力は道具だ。仮に僕がプロと同じ包丁、食材を手に入れたとしても、同じ料理が作れるわけではない。

 フィアは、ほとんど無差別に力を奪った。スリのようにすれ違いざまに力を奪うことも、遠距離から吸い取るように奪うことも可能だった。

 だが、同じ力を譲り受けたからといって、僕に同じ芸当はできない。奪うこと自体に多少の手間は掛かるし、何でもかんでも奪えるほどの容量もない。


「赤鬼よ、何故、俺の必殺『尿意スパーク』を奪わないんだ……!」

「……盗人だって、欲しくもないものを奪ったりしない」

「俺にはこれしかないんだよ! 奪わないなんて酷いぞ! あ、やべぇ限界が近い」

 超能力で与えられた尿意なんて結局は気のせいでしかないはずなのだが、使い手が力の本質を理解していないらしい。

 氷を溶かし、自由の身にしてやると、彼らはさっさと逃げ出した。


 弁慶に出くわして、刀を奪われなかったとなれば、それはそれで恥だろう。

 負かしたのなら、奪うのが礼儀かもしれない。

 超能力を厳選し、使えそうな力だけを集める。自分が下位互換であることを認めて、如何にフィアと差別化していくか。考えながら奪わないと、僕に勝機はない。


 逃げる彼らの背中を最後まで見送った後、石段を登って本殿に向かう。

 賽銭箱の前に、ぼんやりこちらを眺める姿があった。轟さんだ。スーツ姿の金髪ポニーテールは、神社のわびさびを見事にぶち壊している。

「格闘ゲームの隠しボスみたいだな。その格好、この空間にめちゃくちゃ似合う」

「轟さんの格好は、全く似合わない。……何でここにいるんだよ」

「私が神社にいちゃダメなのかよー」

「近所ってわけでもないのにわざわざ……別に悪くはないけど」

 僕は本殿に入り込み、轟さんと距離を開けて、賽銭箱の隣に座る。

 体から、濡れが木に染みていく。

「さっき、市営公園の使用許可を貰いに行ってきた」

「大学の催しか何か?」

「二週間後に開催する、超能力バトルトーナメントのためだ」

「あー……」

 轟さん達が主催するというイベントで、メイドラーメンを中心にひっそりと暮らしてきた超能力者達にとっては、最大の催事となる。

 片仮名多めのイベント名は、中高生を意識したものだという。街の超能力者達をリードしてきた大人達を遠ざける、という意図もあったようだが、正直、鼬川さん達の精神年齢の低さを甘く見過ぎだ。

「流石にそのままじゃ申請出せないから、書面では映画撮影ってことにした。参加者は大学生、メイド、高校生、謎の宗教団体と幅広い。おそらく、このトーナメントの優勝者が、名実共に今後の超能力者の社会を引っ張っていくことになるだろう」

 今まで、こんなことは一度もなかった。

 長期にわたって安定していた街の勢力は、今、唐突に揺らいでいる。

 率先して街をまとめていた鼬川さん、得体の知れない存在だった仙人、そしてソラガミとして畏怖されてきたフィア。三強を中心として成り立っていた超能力者の社会は、徐々にだが、過去の話となりつつある。

「チャンスができたのは、お前のおかげだ」

「……そうかな」

「才能を視る神様が大学生側に味方してりゃ、部外者にとっちゃ『大学生の才覚がメイドに勝った』という風に見えるだろ?」

「マーケティングとしては有効だと思う。……しかも僕は、砂谷の力によって子供になっていて。砂谷とは交流があったから、大人に戻すタイミングもある程度は操作できて……轟さんにとっては、千載一遇のチャンスだったわけか」

「おまけに、最大の敵であるソラガミまでもが子供になっていた。私達にとっては、二度とないチャンスだった」


 だが轟さんは、僕の行動をコントロールしきれなかった。おまけに砂谷は、轟さんの意向を無視して、あっさり僕達を大人に戻してしまった。

 大人に戻った僕を見て、轟さんは失望したはずだ。


「大人に戻ったお前が、まさか味方してくれるとは思わなかったよ」

 轟さんは笑う。

 どこか、嘲るような調子だ。

「しかもお前は私達の飾りではなく、一人の優勝候補になった。……期待してるぜ? お前が優勝したら、私はお前についていく」

「嘘でも自分が天下取るつもりでいたらどうなんだ?」

「てっぺん取りたいさ。だが仲間として接して分かった。非常に悔しいことだが……」

 轟さんは、少し困ったように頭を掻き毟り、


「私は、お前には到底敵わん」


 どこか、清々しい微笑みを見せた。

「……知ってたよ」

 こちらも笑って本音を伝える。

「そんなはっきり言うか? 『そんなことないですぅ』って謙遜しろよ」

「すいません。でも、視えてしまうんです」


 別に、全てにおいて僕が勝っているなんて思わない。

 僕にないものを、彼女は幾つも持っている。閃きを即座に実行する行動力は、轟さんの大きな持ち味だ。敢えて金髪にして大胆な行動で周囲を動かす、セルフプロデュース能力や巻き込む力も彼女の武器だ。

 褒めるところなら、沢山ある。

 ――それでも、視えてしまうのだ。



 ピンポンと呼び鈴が鳴って、起床。

 弟がやってきて、私から掛け布団を奪う。

「姉ちゃん、お客さんだよ」

「……カイ?」

「いやそれが、何だっけ、ネズミじゃなくてヤモリでもなくて」

「……いたっちー?」

「それだ」


 多分、普通の人より、私にはお客さんは多い。

 人付き合いは蔑ろにしているけれど、超能力なんてここでしか手に入らない。もう渡す力は失ったけれども、みんながみんな、それを知っているわけじゃない。

 未だに、力を求めて私に会いに来る人はいる。

 ……でも、まさか鼬川さんが力を求めてここにやってくるとは思えない。彼女には既に強い力があるし、それに、


 彼女は私に対して、大人げないほど警戒心を持っている。

 私が奪う力を失ったことを聞き付けて、早速攻め入りに来たのでは。……流石に、唐突に刃物を振り上げてきたりはしないだろうけど、念には念を。

 パジャマのまま、私は左手に護身用のフライパン、右手に弟という名の盾を持って玄関に向かう。

「姉ちゃん、そんな警戒しなくても」

「不意打ちで何かされたら、私でもどうにもできない。怖い」

「……弱気なのは、必殺技をカイさんに渡しちゃったから?」

「……まあね」

 力の喪失。

「あの力は、超能力者としての私のアイデンティティそのものだったから」

 渡すのも奪うのも、いつも私が決めていた。全ての超能力を自分の所有物にする力、と言っても過言ではなかったと思う。それが、今は私にない。

 依然として、私は幾つもの力を持っている。

 でも、他人の持つ力は、もう私のものではない。

 いつでも奪えたはずの、鼬川さんの力が、今は鼬川さんの……もしくはカイの、所有物なのだ。


 玄関の前。鼬川さんは、コートのポケットに手を突っ込み、溜息……とも違う、煙草の吸い真似みたいな呼吸をしていた。

「鼬川さん」

 不意打ちはなさそうだったから、私は手に持ったフライパンを弟に渡して、一人で彼女に近付く。

「誰がいたっちーよ」

「地獄耳」

「悪かったわね」

 小気味よい会話。

 コンコン、と金属を叩く音がして、

「充分和やかじゃん。何で俺はこんなところでフライパン持って突っ立ってんの?」

 後ろで弟が言った。私は弟を指で追い払う。何で君はフライパンなどという物騒なものを持って突っ立ってんのかね。

「ごめんなさいね、いきなり訪ねちゃって。連絡先を知らなかったから」

「アポを取って私に会いに来る人なんていないから、いいよ。でもごめん、生憎、今の私には、力を貸してあげることができない」

「知ってる。雨野くんに渡したんでしょう。でもそうじゃなくて……少し話せる? ひつまず鴉って喫茶店にでも」

「着替えるの面倒臭いから、家の中で。鼬川さん、格闘ゲームはできる?」

 あまり、この人と深い接点はない。趣味もよく知らない。

 げえむなどという野蛮なお遊戯はいたしませんことよオホホ……とでも言いそうな顔と服装ではあるけど、仕事が仕事なだけに読めないなぁ。

「……愚問ね、全く……」

 溜息交じりに言うと、彼女は指をポキポキと鳴らした。

「私だって伊達にメイドの研究やってないのよ! アニメ、漫画、ライトノベル、ネット、カードゲーム、鉄道、ミリタリー、何でもござれ! 当然ゲームも例外ではないわ!」

「あれ? ラーメンは?」

「勝負よソラガミ! 神童だの何だの言われていようと、人間の反射神経には限度があるわ! 読みや戦略は経験によるところが大きい! さらに私は容赦なく強キャラを使い、ハメ技を使い、煽り、時にバグすら利用」

「プレイヤーとしてどうかと」

「うるさい! 勝てりゃいいのよ!」



 和室にブラウン管と古いゲーム機を持ち込んで対戦。

 技の散らし方は上手。時々無闇に飛び込んでくる傾向はあるけど、返ってそれが牽制になっていて、そう簡単にこちらからの攻撃を許してもくれない。

 でも、何となく動きが読める。自分でも不思議。

 ……ゲームセンターだったらまた違ったかも、なんて思ってみる。

 本人は気付いていないみたいだったけど、彼女は攻撃を仕掛ける直前、息を止める癖がある。もはや私は画面ではなく、耳を澄ませて鼬川さんの呼吸に意識を集中させていた。

「おかしい! 何で? 何でタイミングが分かるの?」

 私は五戦五勝してしまった。

「ちょっとぉ! ゲーセンじゃそこそこ勝ててるのに!」

 他にも癖はあった。息遣い、言葉、何かするとき、一瞬、前のめりになること。

 ……ああ、私、今純粋にゲームで勝負してないや。

「鼬川さん相手なら目を瞑っていても勝てちゃうかも」

 聴覚頼りで操作していることを暗に示すも、

「酷い! もう一回!」

 そんな青汁みたいに。



 息を読む。

「もう一回!」

 私の勝ち。何だか、

「もうあと一回!」

 私の勝ち。もしかして、

「まだまだぁ!」

 勝った。これがいわゆる、

「負けないわよ!」

 私の勝ち。メンタリズムとかいう……?

「うーん……もう一回!」

「ゲームしに来たの?」

 十連勝。

「まさか! 定休日とはいえ、こんなところでこんなことしている暇はないわ……」

 こんなところでこんなことしながら言われても、困っちゃうな。

 鼬川さんは自身の戦略に問題があると考えているようで、時々、別人のような操作を試してくるときがある。意表を突かれると、私も何回かは引っかかってしまう。

 でも、癖は変わらない。

 指摘はしてあげない。ネット対戦の環境も整って、隣り合ってゲームする機会なんて滅多にない時代。体の癖を修正しなくても、相手が隣にいない限り、彼女はここまで酷い戦いはしない。

「コマンド入力の精度はすごいよね」

「割と自信があるわよ? まあ、あなたと違って……」

 つかみ技を仕掛けられ、ガードが破られる。

「後天的だけど!」

 そこから、難易度の高いコンビネーションが始まる。こちらの身動きが取れない状態で、流れるように、あらゆる攻撃が私の操るキャラクターを襲う。

 初級者からすれば神業で、上級者からすれば、できて当たり前。どちらにしろ強力なコンボであることに変わりはないけど。

「十念前に一人で練習していた技が、まさかこんなところで活きるとはね……!」

 それが勝負の中盤以降なら、私が負けていたと思う。

 でも体力のあるうちで助かった。連撃の締めの一発を喰らっても、決着とはいかず。

「惜しかったね、鼬川さん」

 結局、堅実に流れを取り戻した私の勝利。

 これで十一連勝。さあ次、と私は試合の準備を進めたけれど。

「最大のチャンスをものにできなかった。……これ以上は無理。私の完敗だわ」

 鼬川さんはコントローラーを畳の上に置いた。

「けれど満足。それにごめん、疲れたわ」

「歳? 四捨五入して三十路だっけ?」

「あんたねぇ、私に対して容赦なさ過ぎない? ……大体、別にゲームしに来たんじゃないの」

 鼬川さんはテレビから私へと体の向きを変え、

「まだ決定ではないけど、私ね、もう少ししたら、遠くの街に引っ越そうと思うのよ」

 彼女の視線は私を見ているようで、微妙に外れている。台詞のようになめらかな音は、返ってぎこちなさを感じさせた。

「……実験台に私を選ぶのは、どうかと思う」

「実験台?」

「それとも、言葉にして吐き出して、気持ちを固めたいのかな……?」

 本当に伝えなきゃいけない相手――従業員とか――には、多分、まだ何も言っていないんだと思う。わざわざ訪ねてきて、真っ先に私にそれを言えるのは、これが本番じゃないから。

 なんていうのは、私の想像に依る部分も大いに含まれるんだけども。 

「気持ちを固めたい。……そういう側面も、ないとは言い切れないかもしれない。嫌になるわ。一緒に働く仲間に言えないからって、こんなところで悩みを吐露する自分が」

 そこそこいい線だったのか、私の言葉に彼女が惑わされたか。

「……上がり込んどいてこんなところ呼ばわり?」

「あれだけ敵として振る舞って、仙人にまで協力してしまって、都合のいいときだけあなたを頼って……何て心情を語るのも馬鹿馬鹿しいわね。どうしよう。何をどう発言しても格好悪いのだけれどどうすればいいのかしら? あー、酔ってない? 私、酔ってない?」

「自分に?」

「失礼な」

「……街の外に出て、どうするの?」

 鼬川さんほど、街の超能力者事情に気を遣っていた人はいない。

 場所を提供し、情報を集めて、行き場のなくなった女の子を拾ってはメイドにし、助けを必要としない超能力者には敢えて敵として立ち塞がり、力のバランスを取る。誰に頼まれたわけでもなく、彼女が好きでやっていたことだから、特に何か思ったりはしない。

 でも、培ったものは少なくはないはず。だったら。

「ここを離れるメリットって、何?」

「超能力者とかメイドとか、そういう自分から抜け出したくてね。半人前の『只の女』として、最初からやり直す。自分の店を持つには、まだ早かった」

「……じゃ、頑張って」

「軽過ぎない?」

「深刻な返事は他の人に任す。どっちにしろ、私には関係ない話だし」

「……そうね。あなたには関係ない」

 神なんて言われるせいか、私やカイに相談事が集まることは多かった。

 でも、地蔵が口を開いたりしないのと同じ。本当は私が力を貸す必要なんてなくて、黙っていることこそが、神様の仕事だったりもするから。


 鼬川さんは、再びテレビのほうに向いて、コントローラーを握った。

 これで、十二戦目。

「もう一つ、話があるのよ。超能力バトルトーナメントってのを、大学生が開くらしいのね」

 徐に、鼬川さんが口を開く。

「知ってる」

「みんなは革命だのクーデターだの言うんだけど、私からしたら、後任を決めるのにちょうどいいかなとも思うのよね」

「……意外かも。絶対反対すると思ってた」

「何故か、みんなそう言うのよ。私って馬鹿にされすぎじゃない?」

 そう言って、困ったように微笑んだ。

 一呼吸置いて、鋭い目が私に向く。

「……本題はここから。お願いがあるんだけど……」

「何?」

「あなたには、出場しないでもらいたいのよ。出たら優勝間違いなし。そのくせ、街のことなんて放置するでしょう?」

 了承を確信しているような口調。アルバイトに仕事を教えているみたいな喋り方だった。私はバイトしたことないから、あくまで想像だけど。

 私は、首を横に振る。

「悪いけど、エントリー済み」

「……そう。まあ、無理にとは言わないわよ。にしても意外ね? 積極的に祭に参加するタイプでもないでしょうに」

 話を受け入れながらも、彼女は不思議そうに尋ねてくる。


 私は間違いなく、みんなと同じ土俵にいる。

 君は、私と同じ土俵にいる。


「私は、地上にいるの」

「知ってたわよ」


 つかみ技を仕掛けられ、ガードが破られる。デジャヴ。

 連勝は、十一で止まった。

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