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1<紅眼の少女>

こんにちは、AlexAx(アレックスアックス)と申します。

初投稿で拙い文章ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。



 俺が住んでいる町――春日坂(かすがざか)市はどちらかと言えば田舎染みた町で、人口もそう多くない。田舎ならではの特長なのか、空気が澄んでいて静かで住み心地の良い町だ。

 そしてその澄んだ空気を堪能するために、朝早く起きて散歩するのが最近の俺のトレンド。


 俺は十六夜(いざよい) 桐生(きりゅう)


 この町に住み始めて1年。

 それと同時に大学入学から1年が経った。

 つまり大学に通うために地元を離れ、アパートの一室を借りて一人暮らしをしているのだった。


 現在大学は春期休業、これという予定もなく暇を持て余していた。

 A.M.6:00。

 暇潰しも兼ねて散歩に出掛けた。




***




 季節はもうすぐ春とはいえ、朝はまだ寒い。

 息を吸えば冷たく、飛び込んでくる新鮮な空気が肺を満たす感覚が好きだ。


 のんびり歩いているうちに、近くにある小さな公園に着いた。

 公園の横には精肉店があり、いつも肉や惣菜を買うときに利用させてもらっているほか、こうして小腹が空いたときにも立ち寄らせてもらっている。


「おじさーん! コロッケくださーい!」


 店の外から声を掛けると、店主であるおじさんが中からのっそりと現れた。


「ああ、十六夜君か。毎度ありがとう」

「いえいえ、こちらこそ」


 コロッケを受け取り、隣接する公園の中へ入る。

 この場所は公園とは名ばかりの空き地で、いくつかの雑木とベンチがある以外は遊具も広場もなく、人もいない。もしいるとしたら前日に酔い潰れた飲んだくれか、路頭に迷った根無し草ぐらいのものだ。


 だからどうせ誰もいないだろうとたかを括っていたのだが、ベンチには先客がいた。なんとその先客は豪快にもベンチの上に寝転がり、座れるスペースをすべて占拠していた。

 しかも驚いたことに、どう見ても若い女の子だった。


 所々(ところどころ)が跳ねた明るい黒のミディアムヘア。長袖のブラウスに長めの丈のスカート。

 髪は乱雑に伸びて顔を隠してしまいそうだったし、服は砂まみれで裾がボロボロだった。ちょっとひと眠り、という風には見えない。


(ホームレス……?)


 なんて、想像したくもない考えが頭をよぎった。

 見た目は俺より年下、高校生ぐらいだろうか。

 なんでこんな女の子がこんな時間にこんな場所で寝てるのか、危うさと怪しさを感じながらも心配になり、顔を覗いてみる。


 すると気配に気が付いたのか、目が覚めたらしい、閉じていたまぶたがゆっくりと開かれた。女の子と目が合う。


 その時の彼女の眼は、普通の眼ではなかった。


 紅眼(こうがん)


 (あか)く燃えているような(ひとみ)だった。


 一瞬、なぜか俺は身震いした。

 怖かったわけではない。ただなんというか、気圧された。彼女の瞳に。


「……私になにか用ですか?」


 はっ、と我に返る。


――あれ? 確かに紅く見えたと思ったのだが、改めて見ると彼女の瞳は黒かった。見間違い……だったのだろうか。


「え、ああ、えっと、このベンチに座りたいんだけど……」

「ああ」彼女は頷くと小さく咳をしてからむくりと起き上がり、できたスペースに手を差し伸べた。


「すみません、どうぞ」

「あ……うん、ありがとう」


 横に座ってコロッケをかじる。

 どことなく漂う居心地の悪さから視線を宙に泳がせてみるものの、どうしても横目で彼女を捉えてしまう。彼女は何を言うでもなく、ただじっとして黙っている。


(この子は何者なんだ……?)


 気にはなったが話し掛ける勇気も出ず、食べ終えたら公園を出てそのまま帰ることにした。




***




 最近は特にやることもなく時間があるので、ラーメン屋でのバイトを始めていた。別にお金を貯めたところで使い道があるわけじゃないけど。


 今日のシフトは昼からなので、それまではゲームをしてみたりケータイをいじってみたりして時間を潰す。

 そのうち時間が近付いてきたら家を出て店へ。


 のんびりとした性格を持つ俺にとって、飲食のバイトはやや大変な部分もある。ただ内容はそう難しくない。客が来れば席へ案内し、注文を取り、できたラーメンを席に運ぶ、これの繰り返し。

 そうして作業を続け、いつしか日が暮れ、その日の分のバイトが終わる。


 働き終えてからは再び時間が空く。

 そうだ、そういえば俺の好きな本の新刊が出てたはず。このまま歩いて本屋を目指そう。




 到着し、欲しかった新刊を確保したら店内をうろうろして他の本も見てまわる。結局、目的のもの以外にも何冊か買うはめになるのだが、これも本屋ならではだ、多少の出費は気にならない。


 店の前に設置してある自販機で缶ジュースを買い、それを飲みながら帰路を辿る。




 家に着く頃にはもう街灯が()き始めるような時間帯だった。夕食はまだ後でもいいだろう、リビングを陣取るベッドの(へり)に腰掛け、今買ってきた本を読むことにした。


 小説が数冊、漫画も数冊、加えて生物の伝説についての真面目そうな本が1冊。最後のは買わなくていい気もしたが、店頭の宣伝に推されて手に取ってしまった。でも新しい分野が開拓できるのは悪いことじゃない、よしとしよう。



――これが俺の一日だ。バイトして、本読んで、ダラダラして。あとはメシでも食べて寝るだけだ。もれなく今日もそうだと思っていた。






 はっと本から顔を上げる。……しまった。今何時だ?


 生物の伝説が思ったより面白くて読みふけってしまった。麒麟や河童、龍や(ぬえ)など、伝説上の生き物について詳しく記されていてなかなか興味深かった。


 P.M.10:00。

 肉屋はまだ開いているだろうか。

 急いで向かうと店の明かりは点いていた。おそらくセーフだ。朝早くから夜遅くまで利用できて非常に助かる。


「すみませんおじさん、豚の安いやつ200グラム貰えますか」

「おお、毎度どうも。今日はもう来ないのかと思ったよ。あいよ、豚200ね」


 もう夜も遅いが、夕食は肉でも焼いて適当に済ませてしまおう。



――もう夜も遅い。


 ふと、今朝の公園にいた女の子の姿が頭の片隅に浮かんでくる。


 あの子、あの後どうしたんだろう。家に帰ったのかな。そもそも家は近くなんだろうか。


 もしかしたらまだ公園にいるのかもしれない。

 まさかという気持ちが拭えない俺は確認だけするつもりで公園に行った。




「…………」


 絶句。


 目の前にあるのは今朝と同じ光景。

 どうしてここに寝ているんだろうか。

 人を待っているだけだと思っていた。疲れて休んでいるだけだと思っていた。だがもうこの時間だ、その線は薄い。


 何か事件的な可能性も疑って、関わることに少し躊躇(ためら)いもしたが、意を決して話し掛けてみた。


「えっと……大丈夫?」


 声を掛けると、女の子は目を覚ましてこちらを見た。


「こんなとこで寝てたら風邪引いちゃうよ」

「……ああ、今朝の人ですか」


 彼女は体を起こし、今朝と同じようにスペースを空けて手を差し伸べた。

 そうじゃない。だけどせっかく空けてくれたのでとりあえず座る。


「ありがとう。だけど違うんだ、俺はここに座りたいわけじゃなくてさ。……その、なんていうか、君が心配でここに来たんだ」


 なんて言ってから恥ずかしくなる。初対面も初対面、お互い無関係もいいところなのに。


「……?」当然だが浮かぶ疑問符。


「あー、いや、こんな時間に女の子ひとり、こんな所で寝てるからさ、どうしたのかなって」

「ああ……私を気に掛けてくださってるんですか。それはどうも」

「家に帰らないの? 親はきっと心配してるよ?」


 彼女の表情が曇る。


「……ありません」

「えっ?」

「家は、ありません。親もどこにいるのか……わかりません」


 一瞬耳を疑った。なんてこった、まさかこんな若い身空で本当にホームレスなのか……?


「そしたら君は……」

「あまり他人に話したいことではありません」俺の言葉を遮るように言う。


「気持ちは嬉しいですが、私に関わらないでほしいです」


 そのとおりだ。もとより俺は無関係、これ以上首を突っ込む義理はない。

 でもたとえそうだとしても、目の前の彼女は明らかに悲しそうな顔をしていた。悲しそうでもあり、寂しそうにも見えた。

 そしてなにより、そんな状況の女の子がこの寒空の下で眠るという事実を放ってはおけなかった。


「……君がそう言うなら無理にとは言わないけど、俺はこのまま素直には帰れない。一晩でもいい、俺の家に泊まっていってよ。怪しいかもしれないけど、余計なお世話かもしれないけど。別に変なことはしないって約束するからさ」


「…………」


 返事はない。彼女は俯き黙ったままだ。


 それもそうだ。知らない男がいきなり話し掛けてきて急に自分の家に泊まれだなんて、そう簡単に付いていけるはずがない。俺が逆の立場でもそう思う。


 もちろん俺の心の奥底には、退屈だから誰かと関わりたいとか、この子がちょっと可愛かったからとか、そういう下心がなかったと言えば嘘になると思う。


 だけどそれよりも、ただ純粋に心配だった。


「……お名前を」


 彼女からぽつりと言葉が吐き出された。


貴方(あなた)のお名前を、教えてください」

「え、名前か、俺は十六夜。十六夜 桐生」

「いざよい……きりゅう……」


 彼女と目が合う。


 そして俺はこの時確信した。


 彼女は眼が紅い。

 いや正確には紅くなる(・・・・)


 さっきまで黒かった瞳は、今は明らかに紅い色を帯びていた。


 しばらくして、すうっ、と黒い瞳に戻る。


「……では、お言葉に甘えて今晩は泊めさせていただきます」


 そして初めて、口元だけではあるが(かす)かに笑った。


「よろしくお願いしますね、十六夜さん」



ボーイ・ミーツ・ガール作品です。

誰でも読めるけどあまりポップでないストーリー、を目標にしています。軽いテーマで軽くないお話が書ければな、と思います。


ご意見、ご感想をお寄せいただければ幸いです。

なにか改善点などがあればぜひ教えてください。ボコボコに殴られるのを心よりお待ちしております。


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