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~小さな街の物語~

お見苦しいですが、これからコツコツと書いていきますm(_ _)m

今の時代、近所付き合いなんて、インターネットを通してすべきだ。


画面越しなら、私でも、「カワイイコ」になれる。


媚びた文章や、動く絵文字、スイーツ画像でも貼っとけば、「カワイイ」私の完成。



こんなに素晴らしい道具を考えた人は、まさしく神様だと言える。

新しい、自由な世界を創造したのだから。


すっかりその世界に、移住した人も多いみたいだけれど、私は納得する。


誰だって、自由な世界で、自分の望むキャラクターで、生きて行きたい。


私だってそう。


「隣りは誰がすむ人ぞ」


なんて良い言葉なんだろう


私も、近所付き合いの無い、自由な世界で生きてみたいと、「時々」

思う。


【第一章 左隣りに住む人ぞ】



「マコ!いつまで寝ているつもり?早く起きないと、でっかくなれないよ!」


「もう、十分でっかいよ!」


母のいつもの怒声に、私は言い返す。私は、身長が170センチを超えていて、「十分でっかい」に、間違いは無いと思う。

しかし、心の器の事かしら? などと、要らぬ思考を巡らせるのが、私の最近のブームなのだ。


どんな事も、一つに絞らず、色々な可能性、そして、その結果を考える。

ニーチェと話が出来るなら、多分、こうなるだろう。


「君、なかなかやるね」

「おまえもな」


と、日々妄想する。


そのくせ、哲学の事はあまり知らない。

本も全く読まない。


ニーチェだって、教科書に載っていただけ。

つまり、思春期によくある、自分を勘違いして、特別視してしまう現象だ。

そんな事は分かっていて、敢えて、その現象に浸っているのよ。それこそ、哲学。

などと言うと、友達が離れて行きそうなので、敢えて言わないでいる、今日この頃。


「ねぇ、マコ!ウチは天国じゃあないんだよ!早く起きなさい!」


では、我が家は地獄なのか?と思いながら、ベットから起き上がった。


階段を降りて、キッチンに入ると、テーブルの上に、ラップをかけた朝食があった。


「ちゃんと、朝ご飯たべるんだよ!」


庭の方から声が聞こえる。母は洗濯物を干しているのだろう。

もう、朝ご飯じゃないよ、ブランチだ。

という言葉と牛乳を一気に飲み込んだ。


「おはようございますー」


聞き慣れた挨拶が、聞き慣れた声で響いてくる。

右隣りに住む、樫本の奥さんだ。


「うちのマコちゃん、今日、部活の全国大会で、早くから出掛けたのよ。応援に行ってあげたかったんだけど、私も忙しくて、夫に頼んで、付いて行って貰ったの」


うちのマコちゃんとは、私ではなく、息子の、樫本誠の事だ。

隣りどうし、同じ学校、同級生。

さすがに、誕生日は違うけれども、生まれた月も一緒、そのくせ、名前までもが似ている。

「全国大会なんて、さすがマコちゃんですね!それに比べて、うちのマコときたら…」


他愛ない、いつもの会話が始まる。

母は、樫本の奥さんの機嫌をとる為に、いつも私が、いかに怠けているか、力説する。


機嫌をとると言っても、母は、私の心配事には事欠かないらしく、自分の中に止めているよりは、誰かに話した方が、気が楽になるらしい。

つまり、お互い様、需要と供給がバッチリなのだ。

しかし、私にしてみれば、話のネタにされたあげく、内容も酷い。確かに、怠けているけど、やる事はやっている!と、言ってやりたいのを、いつも我慢している私は偉い!と、常に言い聞かせている。

30分ほど、軒先で、私と誠の話をして、樫本の奥さんは、帰って行った。

心なしか、母も満足し、スッキリした様に見える。


食事をすまし、樫本の奥さんは、本当に忙しいのだろうか…と、リビンクのソファーに、寝転がりながら考えたのも束の間、チャイムの音が聞こえた。


「はーい」


食器を洗っていた母が、忙しなく、玄関のドアを開けた。


「こんにちは、奥さん。今日は良い天気ですね。」


在り来たりなセリフと共に現れたのは、左隣りに住む、鈴木氏だ。

左隣りの家は、古い木造の平屋で、長年人が住んでいなかったのだけれど、半年ほど前に、どこからか越して来たのが彼だ。


まだ若く、20代半ばほどらしいが、働いている様子もなく、いつも家にいる。時々、古い、国産の自動車に乗って出かけるが、そうすると、二、三日は帰ってこない。

噂では、芸術家や、資産家、ましてや、泥棒家業など言われているらしいが、私には、どれもピンとこないし、私も何をしているのかは知らない。


けれども、誰もが驚くのは、その美しい容姿だ。


背が高く、中性的な顔立ちで、線がほそく、長い髪を、後ろで束ねている。

美しい女は、女に妬まれるが、美しい男は別らしく、近所の奥様方には人気があるらしい。

私は何より、つかみ所がなく、なんだかよく分からない、独特な雰囲気が好きで、心の中では、敬意を示し「鈴木氏」と呼んでいる。

ウチの一家とは、すでに家族の様な仲で、食卓に招いたり、私も気兼ねなく、遊びに連れて行ってもらったりしている。


「マコーっ、鈴木くんが、迎えにきたわよ。」


そうだった!

今日は、鈴木氏の車で、郊外にあるアウトレットモールに、連れていってもらう日だった。


「今、着替えて来るから、ちょっと待ってて!」


私は、玄関に立っている鈴木氏にそう言って、階段を駈け登り、急いでカジュアルな服に着替える。

肩まで伸びた髪はボサボサで、まだ、顔も洗ってないし、歯も磨いてないが、私は全く気にならない。

けれども、人として、歯ミガキと洗顔だけはしようと思った。


「あと、五分だけ待ってて!」


急いで階段を降りながら、そう言った時、最後の一段で足がもつれ、倒れそうになる。


「危ない!」

目の前にいた鈴木氏が、体を支えようと、土足のまま飛び込んできた。


「痛ったーい!」


私は叫んだ。


鈴木氏は私より、頭一つ背が高いのだけれど、階段の段差で、同じ高さになり、頭どうしがぶつかったのだ。


「大丈夫?でも転ばなくてよかったね。」


確かに、支えてもらい、転びはしなかったけど、果たしてどっちが良かったのか…。


「フフッ、あなた達、なにやってるの?付き合っていられないわ」


横で見ていた母は、笑いながら、キッチンに戻って行った。


「マコちゃん、おでこ冷やした方がいいよ。少し待ってて。」


鈴木氏はそう言って、母のいるキッチンに向った。


私は、この、女の様に美しく、ヘンテコな男を見ていると、何故だか、色々と思考を巡らせ、あれこれと考えている自分が、馬鹿らしく思えて来た。


鈴木氏が、濡れたタオルを持って、向こうから歩いてくる。


我が家の中を、靴を履いたまま歩く、予測不可能なこの男には、敵わないと思った。

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