大惨事紅茶大戦〜後編〜
ダージリン……というのは、インドのダージリン地方で取れるからダージリンと言います。春にファーストフラッシュ、夏にセカンドフラッシュ、秋にオータムナルと、1年に三回のシーズンがあって、それぞれに個性が違うもの。
一人暮らしの頃は、3シーズンで一つづつ買って飲み比べていたのですが、相方と同居する様になって「ダージリンは高い」と五月蝿いので、ここ数年セカンド1袋しか買ってなかったのです。ええ……我慢してたんです。
ところが今年、ダージリンで大事件が起こりました。6月の中旬、茶園で働く大多数のネパール人がストライキを始め、茶の生産が全面的にストップしたのです。6月中旬というと、セカンドの生産のど真ん中。しかもストライキはかなり長引き、最近ようやく収束に向かい始めた……という状況。
今年のオータムナルは生産不可能。早くても生産可能になるのは来年の春から……という噂も聞こえてまいります。
ダージリンというのは世界的にかなり人気の高いお茶で、各メーカーともある程度の在庫を抱えていたので、今すぐに足りなくなる……という事にはならなくても、来年在庫切れを起せば、高い金をだしてでも買いあさろうとするかもしれません。来年の春が、例年通りの生産量確保できるかもわかりませんので。
だから……。
「絶対来年のダージリンは値上がりする。(いつも行ってる店)のセカンドは、スト前に買い付けてるから、例年通りの値段だし、今買いだめしておいた方が来年得なの」
と、私がごね通して、今年はなんとかファーストとセカンド両方買えました。久しぶりのファーストだ! と、ウキウキ気分でまずは水だし……と、淹れてみた所、相方も飲んで……。
「ダージリンのファーストは水だしが最高だな」
「でしょ、でしょ。解ってるじゃない。だったら毎年買っても……」
「美味いが高い!」
美味い事は認めるくせに、高いと文句をつける。相方も昔はダージリンを0.01g単位で計ってこだわり抜いて淹れてみた頃もあったらしいのですが……。
「もう昔の俺じゃない。ダージリンにこだわるのは卒業したんだ」
とかわけの解らない事を言い出します。アンタも結局なんだかんだ言ってダージリンが結構好きなのよね。
「ダージリンを買いだめするのはいいが……アレも飲めよ」
と、相方が指差す先には……スリランカ旅行で持ち帰った大量のサンプル茶葉。
二人とも茶馬鹿ですので「海外旅行ならまずスリランカ」と一致して、今年初めて訪れたスリランカ。とても楽しかったです。紅茶のバイヤーさんがガイドしてくださって、そのバイヤーさんのサービスで頂いた紅茶の茶葉サンプル。
紅茶の茶葉は、オークションにかかる前に、サンプル茶葉がバイヤーに送られ、予めサンプルでテイスティングをして、どれを買うか決めてオークションで競り落とす。その大量のサンプル茶葉2週間分と農園リストをプレゼントされたんです。
飲み比べて美味しい、上質な物を競り落として日本に輸出してるので、逆に言うと……サンプルにはあまり美味しくない物も多々混じっております。
「これ美味しいな……と思ったらグレートウェスタン(農園名)じゃん。やっぱ日本でも有名な茶園は美味いな」
「でも……こっちの知らない茶園のも、結構美味しくない?」
「美味しい……と、思ってたけど、冷めてきたらとたんに味落ちたな」
「温度差でこんなに変わるのね。こっちのお茶。口にいれた瞬間は美味しいのに、後味にえぐみを感じるのよね」
などと、素人テイスティング気分で悦に入る為のおもちゃですよ。ええ、おもちゃです。
遊びに飽きてもまだまだ残る美味しくないサンプル茶葉。しかし好意で頂いたもの。捨てずになんとか消費せねばならないのです。
そろそろチャイが美味しい寒い季節。仕方が無いので、チャイでサンプル茶葉を大量消費してやる。牛乳と砂糖をいれるので、元の茶葉の味がそれ程でもなくても問題ないですし、濃く淹れる為に大量に使うし。
ただし……相方はストレート派なので、チャイ飲まないんですよね。
私一人で飲み続けるのも飽きるので、今年の冬限定で誰かチャイ飲んでくれないかな……と溜息をつく日々。
ええ……水筒に詰めて熱々をお持ちしますよ。出張チャイ淹れも大歓迎ですよ。良質なスパイスを売ってる店をご紹介して、茶葉をわけてご家庭で飲める様に淹れ方教えますよ……。誰か! 誰か! チャイ飲んでサンプル茶葉消費してくれ! と、妖怪「チャイノンデケー」となる私。
不思議な物ですが、お茶馬鹿というのは、自分が淹れたお茶を「美味しい」と言われると「ドヤァ」とドヤ顔決めたくなる程嬉しいですし、「○○さんのおかげで紅茶好きになって、紅茶買って家で淹れて飲む様になりました」と言われると、紅茶布教という名の洗脳達成の幸福感半端ないです。
相方は先日転職致しまして、前の職場ではお茶を淹れてると「仕事さぼって茶を淹れてる。けしからん」と、お小言をくらうので、淹れるのを我慢してたらしいのですが。
新しい職場では、喜んで皆飲んでくれて、一人月500円のカンパを募り、茶葉を買って、毎日お茶淹れてるのだとか。1.5Lを、朝・昼・午後と3回も。毎日4・5L淹れ続ける相方。お茶を淹れるだけでなく、当然茶道具を洗うのもやってるので、面倒くさいはずなのに……。
「俺はお茶を淹れる合間に仕事をしてるんだ(どや顔)」
凄い嬉しそう。馬鹿だ、コイツ本当に馬鹿だ。職場で「紅茶王子」なんて持ち上げられて調子に乗ってる。悔しい……ぎりぃ。
「同僚が結構近所に住んでるらしいんだ。今度家に招待してもいい?」
よし、よし、チャンスだ。ここで相方は淹れないチャイとか淹れて「相方さんのお茶より、斉さんのお茶の方が美味しい」とか言わせてみせる(ドヤァ)などと企む私。
一方相方は「いつも紅茶だし、家では中国茶でも淹れようかな」……などという始末。
……まだいつ来るのかどころか、招待もしてないし、断られるかもしれないのに、既に仁義無きお茶戦争の火蓋は切って落とされている。ファイト!
●追記
「あのさ……中国茶って、今うちにある在庫、プーアル茶だけなんだけど。プーアル茶って香りに癖あるし、初心者向けじゃないでしょう」
「バーベキューに持って行って淹れた時は好評だったよ」
それは、バーベキューでプーアル茶淹れて出す様な、茶馬鹿はアンタくらいで、物珍しくて受けただけでしょう! と、ツッコミをいれておきました。茶葉だけ持ち込んで、バーベキュー用のコンロとやかんで煮出す相方。かなりの変わり者なのは間違いない。




