味噌汁は無限大
味噌汁は基本にして奧が深い
実家にいた頃、味噌汁はいつも変わらぬ味で、日常だった。
中に入る具で多少味は違えど、出汁とか味噌はいつも同じ感じで、味にぶれがない。いつでも美味しい味噌汁だった。
一人暮らしの頃は、一人分の味噌汁をつくるのは難しいので、インスタントで済ませる事が多かったと思う。
茗荷の味噌汁が好きだったので、たまに茗荷をきざんで散らす事はあれど、いわゆるインスタント。そんなにびっくりするほど美味しいわけではない。
そして最近二人暮らしを始めた。相方が『食事の時には汁物が欲しい派』だったので、味噌汁を作る事が多くなった。
しかしずぼらな私は手抜きする。水に本だし、具をいれて煮たら、火を止めて味噌を溶く。味噌は関東で定番の赤味噌。
実家の味噌汁もこんな味だったなと思いながら、具を何にするか?が悩みどころ。
春は貝が旬であさり。夏は爽やかな香りの茗荷。秋には出汁もでるキノコ類。冬なら甘みがいい蕪。
なんて具には季節を感じながら、でも出汁も味噌もいつも同じな単調だった。
そんなずぼら味噌汁を作り始めて、半年をすぎた頃だった。スーパーの味噌売場でふと『白味噌』を見た事が転機。
ずぼらだけど食いしん坊で好奇心の強い私は、白味噌の味噌汁ってどんな味だろう?と思ってしまった。
思わず買って帰ってさっそく味噌汁を作る。白味噌って甘いって聞くけどどうかな?
味噌を溶いて、味見をする。甘い、そして思ったより塩気が薄い?まろやかで濃くがある。私好みの味だ。
でも白味噌だけだとやっぱり物足りなくて、赤味噌も溶いて見る。合わせ味噌のコンボだ。
美味しい!相方も気に入ってくれたので、すっかり合わせ味噌が定番となった。
そうなると今度は出汁にもこだわりたいところ。相方が実家から送られてきたまま、使ってなかった乾物の煮干しや昆布があった。煮干しの味噌汁はスタンダードだろう。
しかし煮干しは手間がかかる。頭と腹を丁寧にとって、一晩水につけて置いて、それから煮る。
面倒だ。『めんどくさい』が口癖のようなズボラな私には、日常的にこんな手間のかかる作業無理だ。
「グーグル先生!」とネット検索してみたら、ミキサーで砕いて粉にして、直接入れる荒技を発見。頭と腹がついたままだとえぐみが残るが、気にならない人はそのままでいいと。
気にならない事にして、丸ごとミキサーで。
ちなみにこのミキサーも、相方がもらったものの一度も使用してない物だ。相方は料理を全くしない割に、なぜか料理器具や食材が揃ってるのが不思議。
さて見事粉になった煮干しを大量に煮てみる。出汁だけで味見。魚が濃い!まるで魚介系ラーメンのような、がつんと濃い魚の香り。ちょっと入れすぎたかもしれない。
この強い出汁には白味噌は合うまい。赤味噌のみで、具もシンプルなもやし。
「ちょっと煮干し減らせば美味しいね」
相方の言う通り、粉が大量に沈殿する味噌汁は、飲みづらかった。
それではと煮干しを減らし、昆布も一緒にミキサーで砕いてみる。昆布は小さくなるが粉にはならなかった。まあいいか。
具はブナシメジ。味噌は合わせ味噌。これが美味しかった。
「きのこと煮干しと昆布のカルテットだね」と私が言うと、
「カルテットは四重奏。それをいうならトリオだよ」と相方。
言い間違えた。突っ込まれたけど、言いたい事は伝わったので、よしとする。
次の日。あさりを煮た。
繊細なあさりはすまし汁にするのが、私は好きだ。でも相方が味噌汁が飲みたいと言ったので、味噌汁にした。あさりから出汁が出るから、他に出汁は入れない。
あさりの繊細な味には白味噌オンリーで、薄味で仕立てる。これがあさりの香りと出汁が良く利いて美味い。
「美味い。白味噌だけにして正解だよ」
相方が大喜びして飲んでいた。
「汁物系の味付けが、以前に比べて抜群に上達したよね」
そんなに褒められると照れる。あなたが喜ぶから、私はより美味しいものを作ろうと、『脱ズボラ』して一手間かける。
すると美味しいものが食べられて、食いしん坊な私も嬉しい。二人で食べるとより美味しい。
出汁×味噌×具の組み合わせは無限大。味噌汁一つ奥が深い。