第二話 主、召喚する。
さくさんえ ここは広い城の庭の一角、普段はこの城の第二王女が怪しい実験を行っているために危険区域とみなされ他の者は誰も近づかない。さらに今は高く黒い幕に囲われより人を拒んでいる。それは危険だからではない。世界を震撼させる魔獣、それに対抗するための聖獣を呼び出す儀式。それがここで行われるからだ。人払いはその儀式の重要さ、荘厳さのためだ。ゆえにここに入れる者も限られてくる。この幕の中には王族の者及び儀式の関係者のみである。今回の儀式は第二王女主導で行うため、国王とその三人娘のみである。
「それではどうしてわたしはここにいるのでしょうか。」
そう呟くのはマルグリット、王家の娘の世話役の少女だ。
たとえ王家直下の仕え人であっても身分ずっと下な彼女には此処に立ち入る資格はない。
そう考えていると今回の儀式の主導者のローナさまが近づいてきた。国王の前の儀式なので正式な淡い橙のドレス姿だ、普段からはとても想像のつかない姿だ。
「まぁ、かまわないじゃないか。国王様直々の許可をもらってるんだからね。」
そうローナ様は言ってるもののその国王様に頼み込んだのは彼女だ、国王様も返事一つで許可したらしい。そもそもこの国の国王様タデウス・ホルディアンは昔から世界中を冒険したりして城にほとんど居らず、兄弟が亡くならなければ今もこの城に居ることはないと言っている。要するに王家の身分に関心は薄い。対面を気にしないわけではないが身分の差には隔たりを持たない。そのような性格に加え娘からの申し出だ、断るはずがない。だからと言ってこんな重大な儀式に立ち会ってよいのだろうか、と考えていると急に石を渡された。無色透明で丸い宝石だ。
「これは、水晶真珠じゃないですか。」
一般的に魔力を帯びている、もしくは帯びやすい宝石類を魔石と呼んでおりこの水晶真珠もその一つだ。魔力の多いところの貝の中によく発生するもので魔力を安定させ一時的に固定させられ、また加工も容易で他の魔石よりも安価だ。だが固定強度が強くなく魔力の増大も属性強化も乏しく他の魔石の性能を出すために数十倍の量を要したりと汎用性に富む反面選択的な用途では使われることはまずない、ましてや今回のような特殊で限定的な儀式ならなおさらだ。なお見た目が丸い水晶そっくりだが重さの違いですぐに判る。
「これを使うのですか。」
「とうぜんね、結構重要なのよねそれ。今回呼び寄せる聖獣の制御つまりは命令を送るために取り付けるものよ。あと聖獣の力自体の制御もおこなえるのよね。うわ~、その顔、絶対信じてないでしょ、ねぇ、そもそも聖獣はこの水晶真珠と密接な関係があるんだよ。聖獣は実のところ存在が不安定でね自らの魔力とともに安定させるために水晶真珠を使っていたんだよね。今までの儀式もそれ以前の自然発生もね。え、他の魔石でもいいんじゃないかって、ところがそうはいかないんだよねぇ。聖獣のすごいところは魔力の量じゃないその魔力の異質さだよぉ、下手に特殊な魔石持ってくるとまずいんだよね、魔力に対応するものじゃなきゃ意味をなさない。だからここに余計な改変しちゃうのはまずいのよね。」
「ではどこに余計な改悪をしたのだ。」
そこにやって来たのは第一王女のケリー様。彼女も重大な儀式であると考え豪奢とまではいかずとも王家に恥じない青いドレスを纏っている。しかし腰に帯剣をしているのはあまりに不釣り合いだ。
「嫌だねぇ、そんなに余計ってわけでもないのにね。改良したのは聖獣との契約関係だよ、今回の儀式は四人で聖獣を四体召喚して契約するの。」
「それって何か違うのか。」
「当然よ、普通は儀式を行う人が何人いようと契約を行う人はたった一人なのよね。もし複数いるとね、命令が互いに反発すれば命令系統の術に不備が生じるの。最悪、契約そのものが破棄されちゃうのよね。んでもって今回の儀式では聖獣を四体呼び出し一人一体づつ契約する、そして主の資格を四人の間で交換、譲渡が可能にしたの。いやいや、かなり重要なことだからね。聖獣の中にだって魔獣に敵わない奴もいるのよねぇ、確率で言えば五分の一、無視していいものじゃないのよね。まぁ、そんな不安定要素を交換して避けるのよ、誰かは城で暇を持て余すだろうからね。」
「う~ん、そんな事になるかな。」
そう疑問を投げかけるのは第三王女のフェリシア様。身に纏った豪奢な淡い桃色のドレスが彼女の美しさを引き立てている。他の二人には悪いが彼女のドレス姿が一番似合っている。
彼女の意見には概ね同意だ、だがそんな事よりも不可解な問題がある。
「それよりもどうして水晶真珠をわたしに持たせるのですか。」
そう尋ねるとローナ様が笑みを浮かべ答えた。
「そりゃぁ、あんたがやるからに決まってるからよ。」
「「ええっ。」」
「わたしがやるのですか。」
「わしがやるのではないのか。」
国王様は魔術の技量がないので論外だと思いますがそれでも世話役の身分が聖獣を従えてよいものではないはずだ。一体どうしてそんな考えが出たのだろうか。
「そんな顔をしないでよねぇ。いや、ただ予備戦力、と言うよりさっき言ったように呼び出した奴に問題があったらね、交換してほしいのよ。王族の体面を保つためだと思ってくれたらいいよ。」
「わかりました。」
なるほど納得がゆく。王家三人娘の世話役のわたしが手伝いとして儀式の場に立ち会っても無理があるわけでもない。そしてローナ様が一人で儀式の準備をしている以上このことは外部に漏れない。直前に話すのも情報の秘匿のためだろう。そうやって他の者には王家三人娘が聖獣を三体呼び出したと公にすればよい。そして戦力に不適な聖獣をわたしが管理する。そうするつもりなのだろう。
「まぁ、一番失敗しそうなのはケリーだけどね。」
「なんだと、馬鹿にしているのか。」
でも確かにケリー様は魔術が不得意ではないがさすがにこのような儀式魔術には知識もないはずだ口答えはしつつもローナ様の言いなりとなっている。フェリシア様はあらかじめ知っていたのか手早く準備をしていた。わたしも言われたとうり動き満月を待つ。
「わしは・・・。」
国王様は手出し無用です。
そしてわたしは魔法陣の一角に立ち満月を待つ。王家三人娘とともに四方から囲むような立ち位置である。
そして、満月は訪れる。
「闇を照らす月の光よ、この世に蔓延る魔獣を鎮める、天界の力をここに導け。」
「我がケリー・ホルディアンの名のもとに。」
「我がローナ・ホルディアンの名のもとに。」
「我がフェリシア・ホルディアンの名のもとに。」
「我がマルグリッドの名のもとに。」
「「「「出でよ聖獣。」」」」
そして天と魔法陣が光で繋がり風が起こる。思ったよりも穏やかでそよ風のようだ。だが、それを引き裂くかのように咆哮が鳴り響いた。輝きの消えた目の前には巨大なドラゴンが姿を現していた。
まだまだ文章を作るのには慣れませんね。ずいぶん時間がかかりました。