開幕〜追憶1〜ナーガ・アストラル
ユーカレア森林。花や木々が生い茂げ、動物達が颯爽と駆け回るその森の奥底の洞窟に彼はいた。身なりはとても冒険家とは思えないほどにボロボロ。背中に長剣、左右の腰に中剣を携えているがどちらも使えるとは思えない程ボロボロだった。洞窟の近くで狩りをし捕らえたイノシシをそのまま食う姿はもはや人間ではなかった。
「んぁ?」
遠くで数人の歩く音がこちらに向かってくる。重い腰を上げふらつきながら洞窟をでた。太陽がまるで自分を焼き付くそうに照らしてくる。外には紅焔の眼の騎士団長 ガーゴル・ラインハルトと騎士団員が六人いた。「見つけました。アストラル様」先に言葉を発したのはガーゴル・ラインハルトであった。真紅の装甲、まるで触れたら焼き尽くされてしまうような装甲に左腰に聖剣を携えていた。
「あぁ...ガーゴルか...」
「アストラル様...。あなたを、国家転覆罪で確保致します。」
「……」
その言葉に驚くような素振りを見せず、アストラルはその場に座った。彼が放つ威圧にガーゴル含め騎士団員は冷や汗をかいた。少しでも彼の気に触る事を言えば殺されてしまうと……。
「お前らが、俺らに委ねた。委ねた結果俺たちsheephillは負けたんだ。委ねたくせに、負けたから国家転覆で捕まえるって?」
ナーガ・アストラル。彼は無法者ギルド sheephill。七英雄の一人である。
「なにも...言い返すことが..」
「出来るわけ..ねぇよなぁあああああ!」
「っ!!!!」
「貴様!罪人が団長にそのような口を聞くなぁ!」
「よせ……」
アストラルから放たれる威圧は周りの木々を揺らし、地面に少しヒビが入った。ガーゴルは理解していた。彼がまだ本気の威圧ではないと。自らに死をもたらしてくれと言わんばかりの絶望した目。その中でも復讐心に駆られる目にガーゴルは以前の七英雄であった姿がないのだと相対して痛感した。
「やれるものならやってみろよ...。お前ら程度の力でこの元sheephillのナーガ・アストラルを捕まえれるのか?」
低いドスの聞いた声で挑発をする。騎士団員の一人が「舐めるなぁああ!」と声を上げ迫った。ガーゴルの静止を無視し、アストラルに向かっていった。だが、風の音も、胴体が切られる音すらもしなかった。周りにいた者は何が起きたのか理解出来なかった。首を切られ目の前で血を吹き出し倒れた。
「はぁ....。エレメンタル・ONCE・風切りの太刀。それすら避けれない。話にならない。」
「アストラル様...」
「諦めろ。お前らは俺を捕まえられない。」
その言葉を吐いた刹那だった。ガーゴルの後ろにいた残りの騎士団員五人も風の音も地面のチリも舞うことなく首が吹き飛び、仲間の返り血を浴びてもガーゴルは表情を変えなかった。
「立派になったな?ガーゴル。仲間が死んだってのに」
「なぜ、私だけ殺さない。縋ってるんですか?」
ガーゴルからの問にさすがのアストラルも虚をつかれた。
「あなたは、何に縋っている。あなたの瞳からは絶望と復讐心。そして、何かに縋っているそのような物を感じます。」
ふらつきながら立ち上がり、「何に縋ってんだろうな。俺にも分からねぇ」と答え、背中を向け洞窟に戻って行った。
『アストラル様...。僕はあなたに憧れた。あなたの強さに、あなたの背中に...。あなたに出会えたから、救って貰ったから...望まれてなくても今度は僕があなたを助ける番だ。』
うちに秘め、心の中で言葉を発する。届かぬと分かっていても....。
「アストラル様。次お会いした時、縋ってないのなら私を殺してください。」
その一言に、アストラルは何も答えなかった。
「次会った時は...か。」
『俺は何をしたいんだろーな。過去か...捨てれるわけない...』
アストラルは心の中で呟きた。
「俺には...あいつらしかいないんだよ....」
少しだけ、彼の過去を明かしましょう。
*――――――――――*
sheephill...。俺がいたギルド。シュウ、セイ、ツバサ、ヨウ、レヴィ、テラ。俺を含めた七人だった。みんな、いい奴らだった。それぞれの事を語る必要ないくらいにいい奴らだった。無法者ギルド。なぜそう言われた。好き勝手やったのさ。俺たちのギルドは非公式。要は正式なギルドじゃなかった。それでなぜ、七英雄って言われるようになったって?超重要討伐の敵共、アジ・ダハーカ、ディヴィジョン、ディアブロ。この三体を倒したからだ。そこから俺達は七英雄と言われるようになった。『七英雄』なんて飾りだし、気にしてもいなかった。本来なら認められるはずのない俺たちはアジ・ダハーカ、ディヴィジョン、ディアブロを倒したことによって正式なギルドになった。けど、それからの日々は国からの依頼を受けてただ討伐するつまらない毎日だった。そんな時、『世界の巨悪 アカシャ・アルカマル』を倒して欲しいと当時の名前は...確かユーミリア共和国だっけか。現ユーカレア帝国と世界各国から頼まれた。それが全ての終わりだと気づくことすら出来ずに.....。アカシャは世界の巨悪。俺たちは余裕だと思ってた。それが浅はかな感情だったんだ……。
*――――――――*
アストラルは地面に四つん這いになり倒れた。過去の事を少し思い出し嗚咽した。
「はぁはぁ……。頭が割れる....」
その場に横になり、冷たい地面を背中に感じながら何も無い洞窟の天井を見つめた。
「縋ってる...ものなんて....ない...」
言葉ではそう言いつつも腕で目を隠し、涙を流した。「ああああ!!」と声を上げ泣き叫んだ。冷たい牢獄のように何かに縋っているのかも分からない自分の感情。そして、包み込むように冷たい洞窟が、彼の心を更に奥に閉じ込めるような風が吹く。
「誰か……俺を...殺してくれ...この苦しみからぁ!!解放させてくれよぉおおおお!!ああああああああああ!!」
叫びは誰に届くこともない。分かっていても拳を何度も何度も地面に叩きつけた。血が出ても振り下ろす拳は止まらない。ただひたすらに「しねよ!」「殺してくれよ!!」「生きるな!今すぐしね!」と自分に対して言い続けた。
《おい、なに泣きわめいてんだ。らしくねぇな。》と死んだはずの仲間であるツバサの声が頭の中に響いた。その声を聞いた途端、どこかにツバサがいるんじゃないかと思い血だらけでボロボロ身体。何度も転びながら走り出した。『ツバサ!ツバサ!ツバサ!ごめん..!!』と心の中で叫んだ。
「っ!!」
足を滑らせ、崖から滑り落ちた。岩盤に身体を打ち付けながら転げ落ちた。常人なら死ぬはずの高さ。彼はその高さから落ちても死なないのだ。腕や骨、内蔵も損傷してもおかしくない。だが、彼は自己再生能力が圧倒的なのだ。
「…………!!」
さすがのアストラルも気を失っていた。どれほど気を失っていたのか彼自身も分からなかった。
「死ねなかった.....。」
その絶望が彼を更に心を闇に染めていく。死にたくても死ねない。自分を殺せるのはアカシャとレヴィだけなのだから。
「自分の再生力を...恨む....」
そんな時、崖の上から少女の悲痛な叫び声が聞こえた。アストラルは身体が勝手に動いた。地面を蹴った音が遅れてやってくる。少女と少女を追っていたであろう男は風のように静かにしかし、圧倒的な存在を放つアストラルに言葉を失った。
「なっ、なんだお前っ!!」
「なんで....身体が...もう人を助けるなんて……しねぇって決めてたのに……」
「何言ってやがる!どけ!俺はその女に用があんだっ!どけや!」
アストラルは少女の方に顔を向けた。表情は人を助けるような顔ではなかった。「ひっ!!」と声をあげた少女は腰を抜かしてしまった。
「おい!どけって言ってんだろがあああ!」
「あ?どけ?俺に...邪魔って言いたいのか?てめぇは」
「うっ...」
自分の目の前に猫背で手をぶら下げふらふらと近づいてくる。まるで幽霊のように...。
「おい!くんな!来たら殺すぞ!話きけやっ!おい!」
「…………話なら聞いてるよ。なぁ、お前は俺を殺してくれるのか?」
「は?」
男はアストラルの言っていることが分からなかった。「俺を殺してくれるのか?」その一言に戸惑った……。
「お望みなら殺してや……」
「あぁ...ごめん...この程度の重力は耐えれないのか...」
少女は本来なら驚くはずなのにアストラルの圧倒的な強さとその中にある触れてはいけない悲しみのような痼を感じ自分と似たようなところがあると思い惚れてしまった。ただ、ふらつきながら歩いていただけだと思っていた。だが、アストラルは歩きながら男の周りの重力を操り重力操作で圧死させたのだ。男が立っていたところには血溜まり、飛び出た内蔵そして、アストラルの足元には男の目玉が転がっていた。
「………………。」
「あの...!」
少女の方を振り向いた。少女はまだ腰を抜かし、アストラルを恐れていた。だが、少女の感情は自分を助けてくれた恩人だった。
「なに?」
「助けて……くださり……ありがとうございました...」
「助けた?俺が人を?」
『この人...助けた自覚ないの?しかも、何をしたのか分からない...ただ...歩いてただけ..のはずなのに...でも...重力は耐えれないって...言ってた...。』
少女は怯えながらも、思考は冷静だった。目の前にいる男が一体何者か見定めようとしていた。
「なんだ...お前は...」
「私は、レイン・ノスタルジアと申します。」
レイン・ノスタルジアと名乗った少女。服装は明らかにどこかに雇われていたのであろう服装。白いエプロンを前にかけ、黒いスカート丈の服、紛れもないメイド服だった。吸い込まれてしまいそうな長い白髪の髪に、リボン結びをした髪飾りをつけていた。
「貴方様のお名前は……」
アストラルは答えず、レインと逆方向に歩き出した。「待って!」と声をかけたが彼の足が止まることはなく、後ろをついて行くように歩き出した。何度も何度も「貴方様のお名前は」と聞いてもアストラルは答えなかった。
「どこまで着いてくるつもりだ。お前...」
「レインでございます。相手の名前もお呼びになれないのですか?」
「どうでもいい」
「!!」
アストラルから放たれた「どうでもいい」と言う一言。レインは少し怒りを覚えた。
「あの!お名前を!」
「教えてなんになる。」
「えっ……」
その一言にレインは戸惑った。彼は自分のエリアに他者を入れたくないそう感じ取った。それでも、レインは目の前の男の事が知りたかった。
「それなら....力づくでも教えていただっきゃっ!!」
アストラルは右腕でレインの胸ぐらを掴み洞窟の壁に押付けた。メキメキとめり込み、少し口を切ったレインの口から血が流れた。
『見えなかった...。私との距離は成人男性でも十五歩はかかる距離ですわ...。その距離をこの男は...目にも止まらない速さで……』
「関わるな。」
レインはアストラルを睨みつけた。「気に食わないのか?」と言葉を投げた。右腕でを強く掴み返した。だが、女性と男性の力の差は圧倒的だ。掴む腕はプルプルとふるえていた。それは、怖さからなのか力を込めて震えているのかは、レインにしか分からなかった。
「きゃっ……!」
強くレインを投げた飛ばした。いきなりの行動に驚きつつも、立ち上がろうとした。だが、アストラルは彼女の首根っこを掴み持ち上げた。
「なんで俺に付きまとう。」
「貴方様に、私と同じ様な寂しさを感じたのです...。」
「今...なんつった?おい...」
殺気じみたアストラルの声色にレインは彼の顔を見ることができなかった。
「答えろ!!!」
「…………。」
「黙るな……。答えろぉおお!!」
レインを振り上げ洞窟の天井に叩きつけた。「がっ!」と声を上げ地面に落ちる。呼吸するのがやっとだった。肺が悲鳴を上げている。そして、細胞という細胞が『この男は危険』と叫んでいた。
「はぁはぁ...お前と...俺が?同じ?笑わせるなっ!!」
「では……な...ぜ……涙を……」
「!!!」
その一言を聞いたアストラルは何かを諦めたように、レインを治癒した。
「えっ...」
「アストラル……。ナーガ・アストラル。お前がいようがいまいが俺には関係ない。勝手にしろ……。」
諦めたように、アストラルは地面に寝転がった。レインは立ち上がり、アストラルの横に何も言わず静かに座った。
「アストラル様……。安心してください。」
「………………。」
静かに眠りに着くアストラルの顔を見たレインは「まるで子供のよう……」と言葉をこぼした。そんな言葉をこぼしているのも知らずにアストラルは夢の中にいた。
*――――――――*
アストラルの夢の中。そこにはsheephillとの思い出である野宿の様子があった。
「おいおい!ナーガ!飲みすぎだって!」
「んなぁぁ!こたぁあああ!ねぇって!そう言うシュウだって飲み足りねぇんじゃねぇのかぁ!!」
二人のやり取りをコップを持ってきながら微笑ましくテラは見守りながら茶々を入れた。
「二人とも飲みすぎたら、だめだよ。僕達は明日大事な仕事があるでしょ?」
とテラはいった。だが、シュウとテラの顔はモヤがかかったように顔は分からなかった。
「まぁまぁ、いいだろう。テラ。明日はいよいよアカシャを倒すんだろ?その前の前祝いだよ!!なぁ!レヴィ!」
「セイ?調子乗るのもいい加減にしなさいよ。私たちは七英雄。負けることは許されないんだから。」
レヴィの一言に、アストラル、シュウ、ヨウ、ツバサ、セイ、テラは「そうだな。」と言わんばかりに苦笑いした。だが、アストラル以外の顔は靄がかかっていた。そして、アストラルの遠くから呼ぶ声が聞こえた。
*――――――――*
「…………様!…………トラル様!!アストラル様!!」
「待ってっ!!! な...」
「大丈夫ですか?いきなり、私の腕を掴み、苦しみ始めたので……」
アストラルは混乱していた。「自分が腕を?掴んだ?」と困惑していた。そんな姿を見たレインはアストラルを優しく抱きしめた。
「……!!」
「大丈夫ですわ。」
「ん……」
アストラルから初めて聞く弱々しい「ん……」という返事。レインは彼も人間なんだと改めて理解をした。約十分程の時間が経った。レインに優しく抱きしめられたアストラルは子供のようにすぅすぅ寝ていた。
そして...レイン・ノスタルジアとの出会いがナーガ・アストラルが少しずつ前に進むきっかけとなるのです。
次回更新 3月5日




