傲慢な姉に見下されてきた地味な妹は、皇太子殿下に見初められて幸せになりました。
姉は蝶と称えられ、妹は蛾のようだと人々は噂した。
姉ファリアはそれはもう、金髪碧眼の美しい令嬢だ。
彼女が深紅のドレスを着て、夜会に現れればその場がぱっと華やいだように、男性達が群がって来る。
それに比べて、リリアは同じ金髪碧眼でも、くすんだ金髪。ドレスも青のドレスを着ていて地味な令嬢だ。
二人は双子ながら、まるで雰囲気が違っていた。
華やかなファリアは蝶のようだと言われ、妹リリアは、蛾のように目立たない存在だと人々は認識した。
共に名門エルク公爵家の令嬢。
エルク公爵は野心家だ。アルディス皇太子殿下18歳。いまだにしっかりと婚約者を決めていない。
候補として、勿論、エルク公爵家の双子は上がっていた。
双子の歳は17歳。
エルク公爵は双子のどちらかをアルディス皇太子と婚約を結ばせたいと思っている。
姉のファリアはいつも妹のリリアを見下していた。
「今年中に、アルディス皇太子殿下の婚約者が決まるわ。わたくしに決定ね。ライバルのキャスル公爵家のマリリアは、わたくしより美しくないわ。勿論、貴方もわたくしと比べたら月とスッポン。わたくしこそ、このデイド帝国の未来の皇妃にふさわしい。そう思わなくて?」
「そうですわね。お姉様は美しいですわ」
「当然よ。可哀そうなリリア。わたくしという美しい姉がいるから比べられてしまって。
わたくしは蝶。夜会に行けば色々な殿方からダンスを申し込まれるわ。それに比べて貴方ときたら」
悔しかった。姉の言う通りだ。
リリアはいつも壁の花。
リリアだって深紅のドレスを着たいし、派手に髪を結いたい。
でも、地味な自分には似合わない。
暗い色のこの金髪も嫌い。
いつも双子の姉と比べられて。
「ああ、蛾のような、地味な令嬢の方か」
だなんて言われた。
悔しかったが仕方ない。
だから、懸命に勉強した。
姉に負けない知識をつけたい。
姉は勉学も優秀なのだ。
ファリアは勉強するリリアに、
「いくら勉強したって、貴方じゃ、ろくなところに嫁げないわね。可哀そうに。わたくしがきっと皇太子殿下に選ばれるわ。ああ、とても楽しみだわ」
だなんて言われて‥‥‥
そんなとある日、貴族なら誰でも行く皇立学園。
リリアは中庭のベンチで本を読んでいた。
アルディス皇太子殿下が声をかけてきた。
「君は確かリリア・エルク公爵令嬢」
取り巻きの令息達と共に声をかけてきたアルディス皇太子殿下。
銀髪に青い瞳の彼はとても美しくて、思わず見とれてしまった。
「リリアです。ベンチに腰掛けたいのですか?すぐにここを立ち去りますので」
「いや、少し、話をしたいんだ」
隣に腰かけるアルディス皇太子殿下。
リリアは緊張した。
なんの用かしら?わたくしに興味を。まさか?夜会でもたまにお見掛けするけれども声をかけられた事もないわ。姉は踊った事があるって言っていたけれども。
アルディス皇太子は、
「ファリアについて知りたい。何度かダンスを踊った事がある。勿論、色々とこちらでも調べているよ。とても華やかな令嬢だね。頭もいいし、見目も素晴らしい。今、一番、婚約したいと思っている令嬢だ。君から見てファリアはどういう姉なのだ?それを聞きたくて」
がっかりした。
リリアだって婚約者候補にあがっているのだ。
リリアに興味がある訳ではない。ファリアに興味があってリリアに姉の事を聞いてきたのだ。
悲しかった。
見目がいいというだけでファリアは美しいアルディス皇太子に見初められて、自分はちっとも興味を持って貰えない。
でも‥‥‥
デイド帝国の為に、正直に言う事にした。
「姉ファリアは見目も美しくて、勉学も優秀ですわ。妹のわたくしから見て何一つ欠点はありません。姉を婚約者として考えていらっしゃるのなら、妹としてとても有難いと思っております。どうか、姉をよろしくお願い致します」
そう答えた。
胸が痛い。どうしてわたくしは姉みたいに美しく生まれなかったの?
美しく生まれたら少しは興味を持って貰えた?
アルディス皇太子は笑って、
「同じ質問を君の姉にしてみたよ。妹のリリアはとても優秀だそうだね。私は彼女を婚約者として考えているよと。そうしたら何て言ったと思う。
妹は優秀だけれども、あんな地味な妹は皇太子殿下の隣に立つにはふさわしくありませんわ。わたくしのような美しい女性こそ皇太子殿下の隣に立つのにふさわしいのです。ですから、わたくしと婚約して下さいませ。そう言ったんだ」
アルディス皇太子は、一言。
「傲慢な女は嫌いだ。いかに美しかろうと、優秀であろうと。私の母である皇妃は、側妃達が傲慢で、纏めるのに苦労をしていた。そういうのを見ているから、傲慢な女にうんざりしているんだ。リリア。私はリリアと婚約をしたい。ああ、キャスル公爵家の令嬢は、性格がやはり傲慢だから、私は嫌で嫌で。リリアとなら、共に歩んでいけそうだ」
そう言ってくれた。
「わ、わたくしでよろしいのですか」
「君の性格を気に入ったんだ。ダンスの時に誘わなくて申し訳なかった。どこにいるのか解らなかったから」
「ずっと目立たない壁際に立っていたのですわ」
「正式に婚約をしたら、共に踊ろう。約束だ」
生まれて初めて幸せを感じた。
数日後、正式に皇室から呼び出された。
両親であるエルク公爵夫妻と姉ファリアと共にリリアは皇城に出かけた。
皇帝陛下と皇妃、そしてアルディス皇太子殿下が揃っていて。
皇帝陛下が、
「リリア・エルク公爵令嬢を我がアルディス皇太子の婚約者にしたい」
エルク公爵夫妻とファリアは驚いた様子で、
エルク公爵は、
「ファリアの間違いでは?」
公爵夫人も、
「そうよ。ファリアの間違いではありませんか?」
ファリアも進み出て、
「何故?妹が?わたくしの方が美しくて優秀だわ」
アルディス皇太子は一言。
「私は傲慢な女は嫌いだ。我が婚約者はリリアとする」
リリアはカーテシーをし、
「喜んでこのお話、お受けします」
姉ファリアがきぃきぃと、
「貴方が未来の皇妃?わたくしより上?信じられないわ。貴方はわたくしより下でなくてはならないの。貴方なんてっ」
エリーゼ皇妃が、
「リリア。こちらの城でこれからは暮らしなさい。わたくしが責任を持ってリリアを預かります。いいですね。エルク公爵」
優しそうなエリーゼ皇妃がそう言ってくれた。
「有難うございます。皇妃様」
申し出を受け入れる事にした。
家にいたら姉になにをされるか解らなかったからだ。
エリーゼ皇妃はとてもリリアを可愛がってくれた。
アルディス皇太子も、リリアに親切にしてくれる。
「母上に任せておけば、色々と教えて貰える」
「そうね。わたくしに任せて頂戴。色々と教えてあげるわ。実はね。わたくしも妹がいて。
その妹がとても美しかったのよ。でも、皇帝陛下がわたくしを是非にって」
そう言うエリーゼ皇妃はとても美しい。銀の髪を上品に結って、穏やかな笑みを浮かべている。
エリーゼ皇妃は、
「外見は努力すればいくらでも美しく変われるわ。でも、内面の傲慢さは駄目ね。貴方は美しく変われる。そしてとても素晴らしい令嬢だわ」
アルディス皇太子も頷いて、
「私は傲慢な女は嫌いだ。その点、リリアはとても慎ましくて私の好みだ。さあ、君の輝きを、あの傲慢な女に見せ付けてやろう」
姉を見返せる?
あの姉を?
姉の事は大嫌いだったけれども、見返したいとは思わなかった。
たった一人の姉である。
姉は姉で幸せになって欲しい。
今まで散々、見下されてきた。
地味だからって、蛾のようだって。
でも仕方ないと思っていた。
少しでも姉のように美しくなりたい。
そう思った。
リリアはこれまで以上に勉学に励み、美しさにも磨きをかけたい。
それだけではない。マナーも仕草もダンスも全て、頑張りたい。そう思った。
姉ファリアに再会した。
アルディス皇太子にエスコートされて、リリアは夜会の会場に入場した。
今日はエリーゼ皇妃が選んでくれた紫紺のドレス。生地はキラキラと輝き、胸にはアルディス皇太子殿下から贈られた首飾りがキラキラと輝いている。細かい宝石が沢山ついた首飾り。皇太子の婚約者が着ける事が出来る王家の秘宝の一つだ。
ファリアが深紅のドレスを着て現れた。
リリアの顔を見ると悔し気に顔を歪めて、近寄ると首飾りに手をかけた。
「この首飾りはわたくしこそふさわしいのよ。寄越しなさいよ」
アルディス皇太子がファリアの手を捻りあげた。
「近衛兵。この女を連れていけ」
ファリアは泣きわめきながら、
「わたくしがふさわしいのよ。わたくしこそ、未来の皇妃にふさわしいのっ」
リリアはきっぱりと、
「お姉様。わたくしが皇妃になります。アルディス皇太子殿下の隣に立ちます。これだけは譲れません」
リリアはファリアの前に行くと、続けて言ってやった。
「確かにわたくしは美しくないかもしれません。お姉様に劣るかもしれません。でも、アルディス皇太子殿下はわたくしを選んでくださいました。わたくしは帝国が良くなるために努力をしたいと思っております。どうかお姉様。お姉様にも幸せが訪れますように。わたくしは願っておりますわ」
そう言って、近衛兵に拘束されているファリアの傍に行き、抱き締めた。
ファリアは力が抜けたように、
「わたくしが、一番なの‥‥‥わたくしがわたくしがわたくしが」
近衛兵に連れて行かれた。
アルディス皇太子が傍に来て、
「大変だったな。無事でよかった」
リリアはぽつりと、
「酷い姉‥‥‥でも、憎めませんわ。たった一人の姉ですもの。姉は姉で幸せになって欲しい。わたくしはそう願っております」
アルディス皇太子が抱き締めてくれた。
その温かさが嬉しかった。
知れば知る程、アルディス皇太子の事が好きになる。
彼は優しくてとてもリリアの事を大事にしてくれる。
牢に入れられた姉に会いに行った。
その時もアルディス皇太子は付き添ってくれた。
ファリアは貴族牢に入れられていた。
鉄格子はついているが、ソファや家具が着いていて、生活には困らないようになっている。
ファリアはリリアを見て、
「悪かったと思っているわ。わたくしは修道院へ行くことになったの。遠くから貴方がデイド帝国で皇妃として輝くのを見ているわ」
そう言ってくれた。
「お姉様もどうかお元気で。わたくしにとってたった一人のお姉様ですもの。心配しているわ」
「本当に貴方は。わたくしは貴方にきつく当たったというのにね」
そう言ってファリアは涙を流した。
心から姉の幸せをリリアは願った。
それから一月過ぎた。もうすぐアルディス皇太子との結婚式が控えている。
ドレスを試着しながら、リリアは思う。
愛しいアルディス皇太子殿下と共に、デイド帝国の為に働こう。
アルディス皇太子殿下はわたくしを選んでくれた。
それに一生かけて応えていきたい。
わたくしはアルディス皇太子殿下を愛しているのだから。
愛しいアルディス皇太子が試着室に入って来た。
「綺麗だ。リリア。式が楽しみだよ」
リリアは愛しい人の腕に飛び込んだ。
アルディス皇太子が抱き締めてくれた。
空は青空。輝かしい日の光が窓から二人を照らしていた。




