009
そうだ、思い出した。
私の彼氏は、野球部のエースだ。
乾 祥万、私の彼氏の名前だ。
同時に顔も、はっきりと思い出した。
顔が長く、イケメンの男性。
小麦色の肌に、切れ目の男性。
アイドルグループに居そうな顔立ちだけど、背がとても高い。
そして私の彼氏。
女子人気も高く、祥万はとても人気があるのは知っていた。
(でも、どうして祥万と水主が?まさか!)
私は祥万を思い出して、背中を向けた。
全てを理解した瞬間、私は走り出した。
走ったが、置いてあったクリームのキューブに足を取られて、そのまま倒れた。
「あら、なんか物音?」
私の倒れた音に、水主とその友人が反応していた。
嘘だ、嘘だ、嘘だ。
聞きたくない言葉を、彼女から聞かされた。
水主は、私の彼氏祥万のファンだ。
それはつまり、私の彼氏を取ったということ。
昨日の野球部にも、私に内緒で行っていたということ。
祥万は、とても女子からの人気が高い。
ほかに付き合っている女子がいることは、心のどこかで覚悟はしていた。
(でも、よりにもよって水主となんて)
水主に顔を合わせたら私は、どういう顔をしていいかわからない。
だけど、今の赤い顔の私は見られたくなかった。
聞かれたと、知られたくなかった。
だからこそ私は素早く、この場から離れたかった。
水主と祥万は、私にとって最も大事な二人。
幼なじみで、ずっと一緒にいた水主。
それとたくさんの女子から、私を鰓編んでくれた祥万。
二人とも大事で、私には選べない。
(水主が、祥万と付き合っているの?)
水主は私が、祥万と付き合っているのを知っていた。
私と祥万が付き合うのを、後押ししたのは水主だ。
六月の練習試合のあと、私は彼に告白をするつもりだった。
でも勇気が出ない中、水主が私の背中を押してくれた。
あの日、水主の言葉を私は忘れることがない。
『静の初めての恋、見守ってあげるよ』
あの言葉は、嘘だったのか。
それとも、水主は私を利用して祥万と付き合うことにしたのか。
(わからない、理解できない)
ただ、離れるように走っていた。
テーブルをジャンプで飛び越えて、水主から離れていく。
どんどん離れていき、気が付いたら窓際に来ていた。
そこには白い棚が置かれていて、そこには本棚が見えた。
本棚の上を、私は歩いていた。
歩く中、私の近くに光の小さな球が向かっていくのが見えた。
「ちょっと、止めてぇ!」
かわいらしい女の子の声とともに、空いている窓の外から光が近づいてきた。