053
着地のバランスが崩れ、私は落下した。
それでも、手を伸ばして私はつり橋の縄を何とかつかんだ。
一命をとりとめたけど、私の体力は限界だ。
ジャンプだけで、ブレスから逃げ回っていただけだ。
肉体も精神も、すでに限界だ。
右手が、つり橋の縄を掴んでいた。
当然キラプトルは私の掴んだ手の、すぐそばに来ていた。
(腕が、痛い)
はっきりと感じた、腕の痛み。
このゲームのキャラになったことで、身体能力が向上していた。
そういうステータス上昇があるとはいえ、やっているのは生身の人間。
右腕一本で体を支えるのは、かなりきつい。
おまけに相当疲労した状態で、相手は普通に倒せないキラプトル。
(このままじゃあ、腕がとれちゃう)
でも、下には溶岩。手は絶対に放せない。
つり橋の下は、溶岩の熱さをはっきりと感じられた。
さらに全身から汗が、額からだらだらと流れていく。
だけど、キラプトルはつり橋の上。
キラプトルの太く黄色い足には、太い爪が見えた。
「つらいか、静」
「はあっ、はあっ」キラプトルの声に、返事を返すこともできない。
呼吸が荒く、耐えるだけ精一杯だ。
「ならば、すぐに楽に強いてやるよ。僕の彼女だった君のために」
手でつかんだ私に対し、恐竜が足を振り上げた。
でも、私の目は死んでいない。
キラプトルの上げた足を見た瞬間に、私は左手を伸ばす。
伸ばした左手は、つり橋の一つ前の縄を掴む。
つかんだ瞬間に、つり橋の前に進んでいく。
(腕が痛くてもいい、前に進む)
僅かに手が滑れば、落下して溶岩で焼かれて死ぬだろう。
キラプトルの力も、おそらく私よりはるかに上。
だとすれば、キラプトルの足元から抜けるしかない。
これは、私に見えた唯一無二の勝ち筋。
これが、間に合わなければ、間違いなく私は死ぬ。
腕を前に出して推進力だけで、私は前を目指していた。
橋の上の状況は、キラプトルが追いかけてきた。
ドスンドスンと巨体を動かして。私を追いかけた。
踏んだつり橋が、大きく揺れた。
ぐらぐらと揺れた私は、それでも左手でしっかり縄を握っていた。
(絶対に、先にたどり着く)
叫びながらも私は、次の右手を伸ばしていた。
キラプトルも、それをさせまいと大きな足を振り下ろして私を落とそうとした。
つり橋が大きく揺れた。だけど、私は怖くなかった。
汗まみれの顔で、それでも目の前には大きなハサミがはっきりと見えてきた。
見える大きなハサミを目標に、私はさらに腕を伸ばす。
(絶対に逃げる)
手を伸ばして、再び縄をつかんでいく。
そのまま、私はつり橋の下から縄をつかんで前に進んでいった。
唯一の勝利条件、つり橋を落とすそのためだけに。




