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小さな私の物語  作者: 葉月 優奈
一話:小さな女子高生の初恋
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005

小さくなった私が、初めて大きな人間を見つけた。

いや、もともと私も同じ人間だった。

なぜ小さくなって、なぜ三年生の教室にいるのかわからない。


「でかいなぁ」

思わず上を見て、声を漏らした。

少し離れているけど、私は大きな体で身構えてしまう。


大きい学生は、私には気づかなかった。

それでも一歩歩くだけで、ずしんと地震のような音がした。


(大きい、人間)

少し先から出てきた人間の大きさに、私は圧倒されていた。

歩いていた人間を見て、私は手を振った。


「おーいおーい!」

歩くのもおぼつかない男性生徒に、手を振った。

だが、小さな私の声は、背中を向けた男子生徒に届かなかった。

どんどん、離れていく


それでも、巨人のような人間を見て声をかけずにはいられなかった。

だけど、何回も声をかけて理解した。


(小さくなったので、声も届かない?)

普通の人間の動く音が、普段のよりとても大きく聞こえた。


その反面に、私の発する音や声は小さくなったのだろうか。

理由はわからないけど、男子高校生は私に気づくことはなかった。


そのまま大きな足音を立てて、私から離れていった。

向かった先は、階段のある奥の廊下。


(私は見えていないのか、声も届かないのか)

私は、さらに不安になった。

僅かな希望として、小さくても話せばわかると思ったからだ。

何より、私のことを助けてくれるのではないかと期待もしていた。


再び見える、絶望の距離。

長く長く続く廊下に、大きな男子学生の姿がどんどん小さくなっていく。


(追いつけない)

走っても無駄だと、すぐに悟った。

あの男子生徒は、授業中抜けだしたということは体調不良か、あるいはトイレ。

いずれにしても、声が届かないのはかなり難しい。


(私に、誰も気づいてくれないの?)

小さくなって、見えなくなった。

誰も気づかなかったら、どうなるんだろう。

やっぱり、私はこのまま小さいままなのだろうか。


(戻りたい)

なんだか、涙が流れてきた。

口惜しさと、悲しさがこみあげてきた。

だけど、泣いている場合はない。

ここで立ち止まっていても、私はどうしようもない。


私は疲れても、前に進むしかなかった。

絶望的な距離と、今まで出会った友達の顔。


(やっぱり怖い)

小さくなった私は、恐怖感もあった。

大きな巨人につぶされては、私のすべてが終わりだから。


私は、あまりにも小さい。

つまりは、授業が終わった休み時間に多くに人間がやってくる筈だ。

しかも、それは私に気づかない。


(これ、休み時間までに移動しきらないと危険なヤツ)

今は授業中だ。

だけど、時間がわかる術がない。

急に生徒が出てきて、廊下に現れたら危険だ。


(とにかく、急いでを手に入れて情報を得ないと)

そんな私が廊下を歩いていると、上のほうから音が聞こえた。

それはとても嫌な、甲高い音だ。

私は思わず、嫌な音に耳を塞いでしまう。


(なんかすごい音、これって)

右目をつぶって上を見上げると、そこにはハエが見えていた。



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