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水主の言葉は、あの時を思い出す。
砂利道、部室はもう目前だ。
だが、私たちを乗せて走ってくれたシュトラオスはもういない。
その一方で、勝と香流はシュトラオスで一気に部室を狙って激走していた。
(現状は、どうしても不利)
今の置かれた状況は、かなり厳しい。
プレハブは遠くに見えるけど、同じぐらいの距離赤のシュトラオスがいた。
その速さは走る私よりも、ずっと早い。
「ねえ、静。今まで、ありがとうね」
「なによ、今更」
「あなたは、ずっとあたしの好きな人のことを調べてくれたんでしょ。
あたしがいろんなダメな人を好きになって……でも静が支えてくれた。
私は失恋しても、静がいたから人を好きになれたんだよ」
水主の言葉に、私は不意に照れてしまう。
「いいのよ、私たち幼なじみでしょ。
それより、私こそごめん。
あなたのことを、ずっと疑ってしまって。
祥万のことを、好きだと勝手に勘違いして、嫉妬して私は超ダサイ……よね」
「彼のゲームは好きだけど、彼のことは何とも思わない。
なんというか、退屈な人だなって静と付き合っているのを見てそう思えたから」
水主の言葉を聞いた瞬間、私は思わず腹を抱えて笑った。
「そ、そうだね。あははっ」
「何がおかしいの?」
「いや、おかしかったから。
やっぱり私とあなたは、本物の幼なじみよね。
私には、やっぱりあなたしかいない。水主、大好きよ」
「あたりまでしょ。
だから、静はちゃんと話してきなさいよ。
あなたの彼氏でしょうが」
「うん、わかった」
「あーあ、ラスダンの『キラプトル城』を攻略したかったな」
水主は、少しだけ残念な顔を見せた。
私は背中を向けて、部室のあるプレハブを見ていた。
「大丈夫よ。私がクリアしたら、みやげ話をたくさん聞かせるから」
「それはいい。静がゲームを作って」
「えー、そんなのは無理よ」
私が拒否する中、赤のシュトラオスが迫ってきた。
かなり近づいて、はっきりと見えていた。
「行って!」
最後に水主が告げて、私は頷いてそのままプレハブの方に走り出した。
それから、背中を向けたまま振り返らずにプレハブの方に走っていった。




