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赤のシュトラオスと、紫のシュトラオス。
野球場の外周の砂利道は、校舎から少し離れていた。
人間で歩くと7,8分程度。
だけど、ここに来るまで長い時間をかけてシュトラオスは走っていた。
小さな人間で歩くと、途方もない距離を進んでいるように思えてきた。
「追いついたわよ」
私は手綱を持って、赤のシュトラオスに近づく。
私たちの乗る紫のシュトラオスは、赤のシュトラオスより足が長かった。
そのおかげか、一気に真横に私は赤のシュトラオスをつけようとした。
だけど、香流はすでに火の玉を右手上に発生させていた。
ブレザーのリボンも赤く、体を反らせて私のほうを向いてきた。
「絶対に行かせない」
香流が、火の玉を投げつけてきた。
動くシュトラオスの上で、容赦なく放つ火の玉。
私は慌ててシュトラオスを、動かした。
横に遠回りさせて、火の玉が私たちの横を通り抜けていく。
「なにするのよ!」
「どうやら手を組んだよね、あなたたち」
「そっちこそ、二人で手を組んだんでしょ!」
「成り行きだ」勝先輩は、前を向いたまあ冷静に手綱を握っていた。
赤のシュトラオスを操り、砂利道の石ころも難なく避けていく。
だが、僅かに蛇行したことで私の紫シュトラオスは離された距離を一気に詰めた。
「だから、近づくんじゃないわよ!」
再び、香流は私たちに向けて火の玉を用意して放つ。
それでも動いているシュトラオスの上から、狙いを定めにくい。
「もう、やめなさいよ!」
「いや、やめない」
「静、あの子は知り合いなの?」
私と香流の言いあう中、私の後ろで聞いていた水主が声をかけてきた。
「途中まで一緒に旅をしていた、祥万の野球部のマネージャー」
「で、プレイヤーなの?」
「プレイヤーよ、でもこんな馬鹿げたゲームをやめさせないといけないの。
あんたたちも、わかるでしょ!」
香流は、訴えるように水主に叫んだ。
香流の言葉を聞いて、水主は背中のリュックサックに手を伸ばす。
そして、不敵な笑みを浮かべつつハンマーを握った。
「馬鹿げていない。ベルトランドは、馬鹿げていない」
そのまま、水主は容赦なく香流の乗っている赤のシュトラオスに向けて投げつけた。
放物線を描いたハンマーの軌道は、まっすぐに赤のシュトラオスの頭上からそのまま落ちてきた。




