033
私は、無我夢中で逃げていた。
香流は、逃げる私をしばらく追いかけてきた。
私に対して、強い悪意…いや殺意のようなものも漂わせていた。
(どうして、どうして)
必死に走った。
背中を振り返らず、ただ前だけを走った。
いろんなことが起こって、まだ整理ができない。
だから、私は走りたかった。
何も考えずに、何も思わずに。
無我夢中で、逃げたかった。
逃げた私は、体力の続く限り走っていた。
(小さくなったことで、身体能力が高くなっている)
疲れないし、足も速くなっていた。
だからこそ、小さくても長く走り続けて私はある場所に来ていた。
既に、香流の姿かたちは私から見えなくなっていた。
(ここは、どこだろうか?)
周囲を見回すと、大きな部屋が見えた。
引き戸の上には、『職員室』と書かれた表札が見えた。
職員室の壁は、大きな窓も見えていて廊下から職員室の中が見えた。
まあ、私は小さいから窓まではジャンプしないといけないのだけど、
(職員室ってことは、この先を進むと職員玄関よね)
確か、職員玄関は二階だ。
一階は生徒用玄関で、生徒用玄関の上に職員玄関があった。
坂の上から、そのまま教師用の玄関で外に出る学校の構造。
(少し落ち着いたかな)
走って、考えるのをやめた。
走り回ったことで、頭の中が整理できるようになった。
(香流も、祥万が好き…だったんだよね)
祥万は、野球部の中でもイケメンだ。
爽やかな彼ならば、女子はみんな好きなのも納得だ。
それは、惚れやすい水主も同じだろう。
(二人とも祥万が好きで…でも水主の趣味はかなり変わったのね)
水主の男性の趣味は、よく心得ていた。
水主の好きなタイプは、さわやかイケメンというよりもワイルドな男性。
正直な話、祥万よりも勝先輩タイプのほうが好きなイメージだ。
(まあ、私が祥万と付き合って彼女の好きなタイプが変わったのかもしれない。
それとも、私の祥万を奪うことが目的…だろうか)
だとしたら、私のショックは計り知れない。
一番の親友と思っていた水主が、私の彼氏を奪ったのだから。
(それには、祥万に会わないといけない)
本人の口から、やはりはっきりと聞きたい。
ラスボス『キラプトル』になった祥万に、聞かないといけない。
そして、私の今の気持ちもはっきりと言わないといけない。
(でも、水主はすでに外にいる。
部室に一番近い場所を走っていて、祥万に会うことができることは一人だけ)
水主は、すでに祥万に会っているのだろうか。
だとしたら、私はもう祥万に会うことはできないのだろうか。
祥万に、私は捨てられてしまったのだろうか。
(これだけ早く走れても、彼女に追いつけるのだろうか)
とにかく水主に追いつき、追い抜かないといけない。
そんな中で、私は自分の体を見回した。
(でも、私は何も持っていない)
水主のように、火の玉を操れるわけでもない。
おそらく、勝先輩も何かアイテムを持っているようだ。
でも、私は何もないし…どうすることもできない。
「私は、ベルトランドの主人公じゃないの?」
思わず、廊下で叫んでしまった私。
そんな中、私に向けて光の球が近づいてきた。
まっすぐに近づく光の球を見て、私はすぐに確信した。
(あれって、ヘルフ)
それは、光の球のように近づく羽の生えた女の子だった。




